その忌子、ただ歩むばかり
いや~、仕事が入ると全く余裕がなくなりますね!
と言う訳でお待たせしました!
辺境伯一行と分かれて三日後、レイスは国境を目指して道沿いに歩いていた。
これまでの三日間、一週間分の食糧の調達、必要な情報を収集、ハンター資格の取得を行っていた。
「暇だ、何も襲って来ない」
『レイス、それはもう六回も言ってるぞ』
「早く強くなりたいんだ。その為にも、早く町へ着きたいが、業も稼ぎたい」
現在は午前、未だ昼には遠い時間だ。
昼間になれば魔物が積極的に活動するが、朝方ではそうでもない。なので、次の目的地に着く前に歩きながら時間を潰しつつ、充分と感じたりそろそろ早く着かなければばならないと思った時、全速力で到着するためだ。
「それに、他の武器も使いたい」
現在レイスが所有する呪われた武器は血贄の刃の他に、スローイングナイフが八本、短剣が五本、弓が一本、ロッドが二本、戦斧の長短で二本、戦鎚が一本ある。大まかに分類して七種はある。
この内、大罪シリーズには及ばないものの、強力なものは戦斧、戦鎚と弓の三種だ。
呪われる人間は稀だが、生まれながらに呪われる人間は更に稀だ。前述で紹介した三種の武器は、後者にしか扱えないと言ってもいいだろう。
『言っとくが、善人でも悪人でもない奴を殺し過ぎるなよ? 業は加算されるが、ペナルティーが発生する』
「ペナルティー?」
『そうだ、ペナルティーだ。これが発生すると、ボーナス分の業が減る。一人や二人殺した程度じゃ、悪人狩りをすれば消えるが、一定数貯めるとボーナス分の業が加算されなくなる。更にそれを超えると、幾ら殺しても業が加算されなくなる』
「う、それは非常に困るし嫌だ……」
『善人を殺しちゃった場合、ペナルティーが一発で一定数いくし、その上、業も引かれちゃうよ』
「もっと嫌だ……」
つまり、戦闘や犯罪に無関係な人間を殺した場合、ペナルティーが発生し、高位の聖職者や神の加護を受けた者を殺害してしまった場合、ボーナス分の業が貰えなくなり業も没収される。
ただし、無意味に敵対したり、正当な理由や私利私欲の為にレイスを殺害しようとした場合や、汚職などの罪を犯した者は含まれない。
「そこまで人間を憎んでいる訳じゃないから、別に良いか。俺が最も殺り合いたい奴は悪人だからな」
『もしもお前が猟奇的な殺人鬼だったらどうしようかと思ったぜ。杞憂に終わって安心したが』
『私達じゃ止められないからね』
「わからないよ? もしかしたら、殺ってしまったというのも有り得そうだ。意図してないにも関わらず。その場合、ペナルティーはどうやったら解消できる?」
『あー……』
『確かに……』
もしもの場合、そういうこともあり得る。
濡れ衣を着せられた人間や、事故で巻き込んだ場合、どうしようもないとしか言えない。
『その場合は、人の役に立つ事をしたり、助けたりしたり』
『後は苦しむ事だな……。回復魔法を自分にかけたり、何回も死ぬ事だ』
「回復魔法を? 何で」
本来、人を癒やすはずの回復魔法が、何故苦しめる事になるのかレイスにはまだ分からなかった。
『お前は生きながらに死んでいる。アンデットに似たような存在なんだ』
『呪われた人は効果が激減するけど、君の場合特殊だからダメージを負うよ』
レイスは何となく納得した。
七つの大罪シリーズの呪われた道具なんて、そう簡単に御せる物ではない。
生まれながらに呪われ、更に強力な呪いを持つ者とは、人より『死』に近い存在かもしれない。
それならば、回復魔法が仇になるのが納得だ。
「さて、次はどの武器を使おうか」
匂いがする。レイスには、今から死んでしまう運命の魔物が近づいているのが分かる。レイスの手によって、収穫される命。
群れと呼ぶには足りず、小さな群れだ。ゴブリン、オーク、コボルトので混成されている。
「数が多いな……」
まずは遠距離から先制攻撃を仕掛けることにした。
黒く鋭い弓を取り出し、僅かに見える魔物に矢も番えずに弦を引き絞る。
最大まで引き絞り、狙いを定めると黒い矢が現れる。
『執念の魔弓』
怨敵を射貫くために造られた弓。
材料は死んだエルフの骨に、禍々しい怨念を封じ込めた物。
使用者の生命力を削って矢を生み出し、認識した敵を射貫くまで追尾する。
「貫けよ!」
「グギャ……」
「ギィイ!」
「ガ……」
放たれた矢は魔物を貫いた後に、次の魔物の頭部に軌道修正、直線上のゴブリン五体を貫いて消えた。
「何かどっと抜けた気がした……」
『ちょい消費が大きいな。普通に射るだけで十分だ』
弓をしまい、短剣五本取り出し地面に突き刺す。
「スロウスを使うぞ」
包帯が解れ、だらりと端が垂れる。スローイングナイフを四本に分け二回取り出し上に放り投げる。その全てのナイフは地面に落ちる事なく包帯に巻き取られ、レイスの周りに浮かぶ。
片手に二本づつ短剣を持ち、最後の一本は籠に柄が出るように挿す。
そして、レイスは走り出す。
「行け!」
包帯を何度も振り、スローイングナイフを飛ばす。
ナイフは全てゴブリンやオーク、コボルトに刺さる。しかし、痛がる素振りも見せず迷わずレイスへ突き進む。
『怨目の標』
このナイフ自体に殺傷力は無く、対象に傷を付けることはできない。
ナイフに当たった者は一時的に呪われ、魔法や攻撃が必ず命中する。
ただし、このナイフを使用中に、敵の攻撃全てが所有者に集中する。
いよいよ距離がなくなり、レイスは魔物の群れに飲み込まれる。
レイスは魔物に囲まれ、逃げ場を無くした。魔物達は卑しい顔で見ている。
「俺が強い……」
一体のオークに襲いかかり、短剣を首へ突き刺す。続けざまにコボルトに突き刺し、他の二本の短剣を投げつける。
最後に残った短剣を構え、コボルトを斬りつける。
数で上回っている筈なのに、たった一人に劣勢を強いられ逃げ出す魔物、どうすればいいかわからない魔物、全てがレイスによって狩られた。
「まあ、ザコ相手だがアッサリ終わったな」
『ザコ相手に期待するな、無駄だ』
「業にはなるがな」
レイス Lv.Ⅱ【呪Ⅵ】【業肆拾玖】《Mia 4B0》
スキル:《瘴気抑制》《怠惰》《憤怒》《夜目》《鑑定》
加護:【死ノ呪イ】【罪業ヲ引キ受ケル者】
呪われた武器はレイスの元に戻り、足元へ落ちる。それを回収し、目的地へ歩き出す。
道のりはまだ長い。