その忌子、未だ目覚めぬ
肌寒い闇が空を覆い、薄気味悪い獣の鳴き声が遠く響く。慣れた天に星は在り、月は無い。今宵は新月だから。
村を追われ、七年が過ぎた。温かい言葉を投げかけた両親は、もう居ない。行く宛もないし、引き取ってくれる人も居ない。ここはそういう世界だから。
何故俺が村を追われたか、理屈では分かっても心では理解し難い。分かった事は、俺が忌子だから。
悍ましく白く長い髪、白と黒の色の異なる瞳、極めつけはステータスに載っている【死ノ呪イ】。
レイス Lv.【呪】
スキル:
加護:【死ノ呪イ】
何処をどう見ても、自分が呪われた存在である事は明らかだ。
加護は転じて呪いの意味を持つ。
だが、この呪いの効果は理解出来ないどころか、調べようが無い。
分かる事は、一度呪われた者は解呪されない限り呪われない事と、人の死期が分かる。そして、生まれ付いた呪いは、決して解呪できない。それ以外は分からない。
故に、恐れられた、避けられた、村人に殺されかけ、家を焼かれ村を追われた。
それでも幸せだった。両親は優秀なハンターで狩りもできたし、隠れ家も用意して置いたし、それなりに蓄えもあった。
両親は決して裏切らず、俺の味方で有り続けた。それは三年続いた。とても幸せだった。
だが、それは長く続かず、呆気なく終わった。
盗賊団が、全てを奪った。
俺は遠く離れた洞窟に隠され、何が起こったのかはわからない。ただ、『待っていて』と言われた。それが母の最期の言葉だった。
一日経っても戻らない。不安になった俺は隠れ家に向かった。
そこには、普通の木の家……ではなく、焼け跡と、二人の憐れな|躯だった。
悟った。この日、初めて全てを失った。帰る場所はもう無い。温もりを与える存在は、焼き尽くされた。
そこから先はどうしたのか覚えてない。ボンヤリと覚えているのは、両親の亡骸を葬り、僅かな路銀を持ち出して、宛もなく彷徨った。
行き倒れたのか、物好きの奴隷商が俺を拾い、薄暗い牢屋に打ち込まれたようだ。
俺は今、ただの街の門番をやっている。ギリギリ街の外なので、魔物が跋扈し、夜なので大変危険である。別にどうでもいいと思うのは、感覚が死んでいるからだろうか。