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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第四章:DWO:第四エリア
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■095 コロッセオ

■遅くなりました。二話更新してます。ご注意を。前ページはキャラクター紹介ですので、不要ならばそのままお読み下さい。







「おおー……。思ったよりデカいなあ……」


 第三エリアの都、湾岸都市フレデリカ。そこから少し離れた小島に現れたという『コロッセオ』を眺めて、僕は一人つぶやいた。

 見た目的には、まさにローマのコロッセオに似ている。しかしマップで見る限り、ローマのコロッセオのように楕円形ではなく真円に近い。

 外観は白い大理石のように輝き、すでに多くの人々が群がっている。プレイヤーも多いが、NPCも多いなあ。


「ミウラのやつ迷子にならなきゃいいけど……」

「大丈夫ですよ。マップがありますし、ミウラちゃん、そういうの得意ですから」


 僕のつぶやきにレンが微笑みながらそう返してくる。

 トーナメント参加者は別の入場口から入るらしく、ミウラだけは僕らと別行動だった。チャットはできるので、何かあったら連絡が来るとは思うが。


「よう、【月見兎】のみんな。久しぶりだな」

「あ、ギムレットさん。お久しぶりです。【カクテル】のみなさんも来てたんですね」


 立ち止まっていた僕らに声をかけてきたのは、以前お世話になったギルド【カクテル】の面々だった。【地精族ドヴェルグ】のギムレットさんがギルマスを務めるギルドである。

 ギムレットさんの後ろには【妖精族アールヴ】のカシスさん、【魔人族デモンズ】のキールさん、【夢魔族サキュバス】のマティーニさん、【夜魔族ヴァンパイア】のダイキリさんがいた。


「あの元気な嬢ちゃんがいねえな。試合に出場するのか?」


 キールさんが僕に尋ねてくる。この人、黒ローブにとんがり帽子といういかにもな魔法使いルックなんだけど、どっちかというと生産職なんだよな。【錬金術】とか持ってるし。


「ミウラが、というか、ミウラしか出場希望者がいなかったんですけどね。そちらは……」

「ああ、うちはミモザが……って、そっちは会ったことねえか。【拳闘士グラップラー】のミモザってやつが出場するんだ」


 【拳闘士グラップラー】か。【スターライト】のメイリンさんみたいなスタイルで戦うのかな。ミモザってのもたぶんお酒の名前なんだろう。


「ま、メインは『スターコイン』の交換だったんだけどね」

「あ、もう交換したんですか? なんかいいのありました?」


 僕の質問に【カクテル】の面々はうーん……と渋面を作った。え、どういうこと? 戸惑っていると、苦笑しながらダイキリさんが答えてくれた。相変わらず渋いオジサマキャラだなあ。


「いえ、いいアイテムや珍しい武器や防具、その他、使えるスキルオーブなどはありました。けれど『スターコイン』が足りなくて。さらに言うなら、今『スターコイン』ってかなり高く売れるんですよ。手持ちのコインを売って、そのお金で強い武器とか作れるんじゃないかって……」

「これからプレイヤーが増えるって考えるとコインの数は増えて価値は下がっていくだろ? 売るなら今か……ってな」


 そんなに高騰しているのか。町での初回NPCイベントならほとんど貰えたりしたけど。まだ序盤のプレイヤーならお金が必要だろうし、クエストで手に入れても売っちゃう人も多いかなあ。


「ま、結局俺たちはもう少し様子見ってことにした。交換する物のラインナップも定期的に変わるらしいし、それならガクンとコインの値が下がることもないかってな」


 キールさんの言う通り、交換する品物が定期的に変わって、欲しい人がそのたびに現れるなら、コインの需要はずっとあるか。

 みんなが欲しいものがポンと出れば、いきなり跳ね上がることもありうるけど。

 とりあえず物を見てみないことには話にならない。【カクテル】のみんなと別れ、僕らはマップにある交換所へと向かった。

 交換所はコロッセオの外壁に埋まるようにいくつかのカウンターが設置されており、中にはNPCのお姉さんたちがいる。まるで宝くじ売り場だな。すでに何人ものプレイヤーがカウンターに並び……並んでない、な、あんまり。あれ? カウンター近くであちこちたむろしているけど。


「どうやらコインの売買をしているようですね」

「ああ、そういうことか」

 

 ウェンディさんの言葉がストンと腑に落ちる。ここなら高く買ってくれるもんな。あと一枚足りない! とかなら少々高くても買うかもしれんし。


「シロさん、こっちに交換してもらえるリストがありますわ」

「お、どれどれ」


 シズカの指差す方の壁には、まるで受験合格者の掲示板ではのごとく、数多くの交換リストが書かれていた。多いな!

 SSスクリーンショットを撮れば自分のウィンドウにデータとして落とせるので、そちらで見ることにする。えーっと、武器防具は装備できるものに分けて、と。スキルは一応全部目を通すか。何に使うかわからんスキルも多いなあ。


「……【バカ舌】ってなに?」

「不味いものでも平気で食べられるスキル……でしょうか?」


 なるほど、【バカ舌】か。レンの言う通りかもしれない。でも使い道あるかぁ? あ、不味いポーションを飲むのに便利か。ううむ、人によっては嬉しいスキルかもしれない。どうしてもあの味がダメって人もいるらしいからなあ。

 運営への希望が多かったのかもしれん。だったら美味くて効果の高いポーションレシピを出せとも思うが、そういったレシピを苦労して見つけたプレイヤーからすれば、不公平に感じるかもしれない。


「しかしどれもこれもけっこうスターコインが必要だなあ。手持ちで交換できそうなのっていうと……」


 ううむ。武器や防具は珍しいのがあるけど、使えるかというと微妙なのが多いかなあ。このレベルだったらリンカさんに作ってもらった方が強いし。ネタ装備としては面白いのが多いけどな。


「『グレートハリセン』とかミウラちゃんが好きそう」

「ですわねえ。完全なネタ装備ですけども」


 ハリセンねぇ。お嬢様もお笑い番組とか観るんだな。……番組だよな? パーティーとかで直に呼んでたりしないよね?

 この武器はなぜかヒットすると、叩いた音が大きく打撃音が響く効果があるらしい。確かに面白武器だな。


「私は『ライトストーン』と交換する。自由に光る武器を作ってみたい」


 リンカさんはやはり素材か。光る『だけ』の特性が加わる鉱石……。使い方によってはカッコいい装備ができるか? かなり派手な気がするけど、目立ちたい人にはうってつけかもしれない。

 ああ、【楽器演奏】ってスキルはいいかもな。【楽器演奏(金管)】とか【楽器演奏(弦)】とか分かれているけども。

 あれ、でもこれって楽器を手に入れてないと意味ないのか? 楽器が売っているのって見たことなかっ……こっちもスターコインでも買えるのかよ。

 ウェンディさんは楽器に興味があるようだ。


「ギルドハウスにピアノとかいいかもしれませんね」「あ、家具類とかインテリアもあるよ」


 リゼルの言う通り、アイテムのところには家具類やインテリア、小物類がたくさんあった。むむっ、炬燵こたつか……! ちょっと惹かれるが、僕らの拠点である『星降る島』には必要ないかも……。

 こうして見ると、『スターコイン』で交換できるものは、あまり強力ではないが持っていると楽しめるものが多い気がする。

 ここにあるのはスタートプレイヤーでもコインさえあれば手に入る物だから、あまり強すぎるのはダメなのかもな。


「アクセサリーもいろいろとあるんだな……」

「くくっ、『ウサミミ』とかお前にピッタリじゃねぇのか?」

「それは前にレンが作ったのがあるし、僕には必要な……」


 い、と言いかけて、いつの間にか隣に立っていた黒い鎧を装備したの男に僕は目を見開く。


「よお。久しぶりだな、ウサギマフラー」

「お前っ……!」


 思わず身構える。

 そこに立っていたのは頰に刀傷を負った、赤髪の大男。顔には相変わらずの無精髭とニヤニヤとした人を食ったような表情が張り付いていた。

 黒い重鎧にはギルドマークの単眼。PKギルド『バロール』のギルマス、ドウメキであった。その後ろには奴のギルドメンバーである黒ローブの【夢魔族インキュバス】、グラスと、褐色の【妖精族アールヴ】、アイラもいる。

 ウェンディさんが、レンを守るように前に出る。僕も腰を低くして、すぐに動けるような体勢に移行した。


「おいおい待てよ、ここじゃ戦闘はできねえのは知ってるだろ? 何もしねえよ」

「……なんか用か?」

「知り合いの顔が見えたから挨拶しようと思っただけだろ? そんな態度だと社会に出た時に苦労するぜ?」


 PKをやっている奴にそんなことを言われたくはないが、このゲームではPKも認められている以上、それも一つの楽しみ方だ。迷惑ではあるし、他人の恨みを買うだろうが、そのリスクを背負ってまで決めたプレイスタイルを貫くならば、他人がどうこう言うのは筋違いである。

 だが、それと好き嫌いは別だ。少なくとも僕は仲良くしたくない相手である。


「……なんか用か?」

「くくっ、まあいいさ。それはそうとお前さん、試合には出んのか?」

「……いや、出ない。あんまり見世物にされるのは好きじゃないんでね」

「ちっ。リベンジできるかと思ったんだが、アテが外れたか」


 ドウメキがおどけたように肩をすくめる。ってことはこいつは出場するのか。ミウラの奴大丈夫かな……。


「まあいい。いずれ借りは返すからよ。それまで他のPKに狩られるんじゃねえぞ。俺様まで弱いとか思われるのはムカつくからな」

「勝手なこと言うな。そっちこそせいぜいここを出てすぐにPKKされないようにしなよ。周りのプレイヤーもあんたが誰かわかっているみたいだからな」


 僕らの周りにいる何人かのプレイヤーが、さっきからこちらをじっと監視している。おそらくこいつにかけられた賞金狙いのプレイヤーだろう。

 コロッセオでは闘技場以外の戦闘が許されていない。もしドウメキたちに対して、攻撃や捕縛に類する行動をとった場合、逆にペナルティが発生することもありえる。最悪、仕掛けた方が犯罪者としてオレンジネームに落ちる可能性だってあるのだ。

 だから彼らはドウメキたちがコロッセオを出る瞬間を狙っているんじゃないかと推測する。もちろん、ドウメキたちもなにか対策はしていると思うけど……。


「おい、ドウメキ。急がないと参加者の入場に間に合わなくなるぞ」

「アンタ負けた相手に絡むのやめなさいよね。ちっさく見えるわよ?」

「うるせえなあ。わかったっての」


 後ろから飛んできたグラスとアイラの声にドウメキが苦々しく答えた。


「んじゃな。首を洗って待ってろや、ウサギマフラー」


 呵々と笑いながら『バロール』の面々が僕らの前から去っていく。それに伴い、周りにいたプレイヤーたちもぞろぞろと遠巻きにドウメキたちを囲みながら消えていった。


「変なのに目を付けられたねえ、シロ君」

「まったくだ」


 リゼルの言葉にため息混じりで返す。不幸中の幸いなのは、ただPKをするのではなく、正面から戦って僕を倒したいと思っているところか。少なくとも不意打ちや暗殺的なことはしてこないだろう。PK相手にそれがどれだけ信用できるかと言われると難しいが。


「あっ、【月見兎】のみんなだ。おーい!」


 聞き覚えのある声に振り向くと、遠くで【スターライト】のメイリンさんが手を振っていた。後ろにはアレンさんら【スターライト】のギルドメンバーも勢揃いしている。こういうイベントの会場でだと、知り合いによく会うなあ。

 僕らを見ていたジェシカさんが小さく首をかしげる。


「あら? ミウラちゃんがいないわね。ああ、そっか、出場者だっけ」

「僕らはてっきりシロ君が出るもんだと思っていたんだけどなあ」


 いや、それはこっちも同じですが。てっきりアレンさんが出るものかと。っていうか、ガルガドさんとドウメキが当たったらどっちが勝つかな?

 【重量軽減】のスキルを持ち、重装備でありながら素早いドウメキの方が有利か? でもガルガドさん、【カウンター】の上位スキル【フルカウンター】とかも持ってるからなあ。タイミングさえ合わせることができれば、吹っ飛ぶのはドウメキの方だ。


「そういえばアレンさんは何のジョブに?」

「僕は普通に『従騎士スクワイア』になって、そこからすぐに条件を満たしていたから『騎士ナイト』になったよ」


 早っ。もう上のジョブになったのか。

 ジョブによっては条件により、さらに上のジョブになれる場合がある。しかしこの条件が簡単なものもあれば難しいものもあるわけで。

 『従騎士スクワイア』……つまり見習い騎士から『騎士ナイト』へのジョブチェンジ条件は、単に一定値以上のパラメータと規定のレベルを超えていて、あるイベントをこなせばなれるらしい。

 ちなみにジョブはネームプレートなどに表示はされないため、他のプレイヤーに知られることはない。だけどそれを見抜くスキルもあるとか。ま、あくまで噂だけど。

 教えてもらった他の【スターライト】メンバーのジョブは、メイリンさんが『拳闘士グラップラー』、ジェシカさんが『魔術師ソーサレス』、ベルクレアさんが『射手アーチャー』、ガルガドさんが『大剣使い(ブレイダー)』、んでセイルロットさんが『神官戦士バトルプリースト』だ。

 セイルロットさん以外は言ってみれば珍しくないジョブである。


「言ってみればこれらは一次職だからね。普通のジョブの方がおそらく次の選択肢が多いと思うんだ。下手な方向にいくとすごく無駄な育て方をしてしまう可能性もあるからね」


 と、発言した人が、ちょい変化球の『神官戦士バトルプリースト』を選んだセイルロットさんだ。どういうつもりなん?


「いやあ、私の場合は『神官戦士バトルプリースト』の次ってなんだろうって興味からね。うまくいけば『聖騎士パラディン』になれるかなあ、って希望もあるけど」

「うーん……。どっちかというと、それはアレンさんのルートっぽいけどなあ」

「いや、僕は『聖職者クレリック』系の魔法スキルを取ってないからね。『聖騎士パラディン』は難しいんじゃないかなあ」


 まあ、『聖』騎士ってぐらいだから聖属性の魔法とかを使えないとなれないのかもしれないけど。

 僕らの会話に興味を持ったのか、リゼルが口を挟んできた。


「特殊な転職には何か特別なアイテムが必要かもしれないよ? 『聖騎士』だと『聖剣』とか」

「『聖剣』か。どこかにありそうだけど……」

「シロお兄ちゃんです!」

「シロお兄ちゃんなの!」

「わあっ!?」


 突然後ろから大きな声をかけられ、驚いてビクッとなってしまった。この声は……!

 振り向くと、可愛らしい狐耳と尻尾を生やしたノドカとマドカの子狐姉妹が立っていた。相変わらず巫女さんのような姿である。え? なんで君たちこんなとこにいるの!?


「こんにちはです!」

「こんにちはなの!」

「ああ、こんにちは……じゃなくて! なんで二人がここに?」


 僕がそう問いかけたとき、二人の後ろに別の人物が立っているのに気がついた。

 ウェンディさんと同じくらいの、僕より歳上と見える女性プレイヤー。短めのポニーテールにした黒髪の頭からは動物の耳がピョコンと飛び出している。

 【セリアンスロープ】か。ノドカやマドカと同じ狐かな?

 半袖和服の上に胸鎧、腕には手甲、脛当てに草鞋。腰には大小の刀を差している。紺地の袴から飛び出した尻尾で、狐ではなく猫の【セリアンスロープ】だということがわかった。黒猫さんだ。

 おそらくジョブは『サムライ』。この格好で『サムライ』じゃなかったら『なんで!?』とツッコミたい。

 ネームプレートはONになってないらしく、視線を向けてもポップしない。

 目があったが、相手は無表情。ちょっと冷たい雰囲気を醸し出しているが、美人である。でもどこかで見たような……?


「ミヤコちゃんを案内してます!」

「ミヤコちゃんを案内してるの!」


 ミヤコちゃん? ってこの【サムライ】のお姉さんか?


「ミヤコちゃんはミヤビ様の妹さんです」

「あたしと同じ。妹さんなの」


 あ、ミヤビさんの妹さんなのか。……猫ですけど?

 あれ、このゲームってNPCの種族ってどうなってんの? 狐と猫が姉妹? 狐ってイヌ科だったよーな……。お父さんが猫でお母さんが狐の【セリアンスロープ】とか? というか、マドカが妹だったんだな……。

 とりあえず挨拶しとこう。お姉さんにはお世話になっているしな。


「初めまして、シロです。ミヤビさんとこの子たちにはいろいろとお世話になりまして……」

「……ャ……。ょ……ぉ……」

「えっ?」


 ミヤコさんがなんと言ったのか聞き取れなくて思わず聞き返してしまった。その瞬間、ビクッとなったミヤコさんが、石のようにカチンと固まる。


「ミヤコちゃんは『ミヤコです。よろしくお願いします……』って言ったです!」

「言ったの!」

「あ、そうなんですか……?」


 ちら、とミヤコさんを見ると、こくこくと無表情で頷いている。なんだろう、お姉さんとタイプが違いすぎて反応できない。ズケズケとものを言うミヤビさんに対し、ミヤコさんの方は思いっきり人見知りなタイプに見える。あれだ、ピスケさんと同じタイプだ。


「ミヤコちゃんは知らない人と話すのがちょと苦手なのです。だからあたしたちが付いてきたです」

「参加申し込みするの。ミヤコちゃん強いの」


 え、参加申し込みって、ミヤコさんが出場するのか? NPC枠もあったのか。ははあ、それでこんなにNPCが多いんだな。


「あら、なら急いだ方がいいわよ。そろそろ受付終了時間だから」


 ジェシカさんがウィンドウの時計を見ながら教えてくれた。

 それを聞いたミヤコさんの尻尾がピーン! と立ち、オロオロと挙動不審になる。表情の変化はあまりないが焦っているのだろうか。っと、そんな場合じゃないな。


「受付ならここを真っ直ぐに行った先です。早く行って下さい」

「ぁ……!」

「『ありがとうございます!』って言ってるです!」

「言ってるの!」


 ミヤコさんは両脇にノドカマドカ姉妹をガシッと掴むと、その場から一瞬で消えた。え!?


「は、速っ!?」


 ベルクレアさんの声に目を向けると、受付の方向の遥か先にミヤコさんが走り去る後姿があった。嘘だろ、一瞬であんなところまで……!


「シロ君と同じ【加速】スキル持ちか……?」

「いえ、たぶんあれって【加速】よりも速いわよ。私の【鷹の目】でも初動しか見えなかったもの」

「私も見えませんでした……」


 ベルクレアさんとレンは【鷹の目】を持っている。これは遠視スキルであると同時に、動体視力を跳ね上げて、動いているものを確実に捉えるようにできるスキルなのだ。

 その【鷹の目】でも捉えられないって……。どんな速さだよ。


「むむ……! どんなスキルかはわからないけど、単発的なスキルっぽいね。シロ君の【加速】のような能力なら受付までずっと走っていくはすだ。だけどあの人はあそこまで高速移動してそのあとは普通に走っている。連発はできないんじゃないかな」


 ……確かに。セイルロットさんの言う通り、決められた距離だけを一瞬で移動するスキルなのかもしれない。それでもとんでもないスキルだが。


「こりゃあ、ミウラに勝ち目はないかなあ」


 ミウラの戦闘スタイルは僕のような高速で手数を打ち込むタイプに弱い。相手の動きを読めなければカウンターを叩き込むこともできないからな。

 ちなみにガルガドさんと僕が【PvP】をした時は、ガイアベアのように地面の石を爆砕されて、移動を阻害され、ぶっ飛ばされた。どんなパワーだよ。


「僕らもそろそろ観覧席に行こうか」


 アレンさんの言葉に僕らはぞろぞろと連れ立って歩き出す。ふと、リゼルがいないことに気付いた僕が振り返ると、彼女はその場でボーッと立ちつくしていた。


「……なんで『星斬り』が? 嘘でしょ……! 『帝国』はいったいなにを……?」

「リゼル?」

「え!? あ、ああ! ミウラちゃんの応援だね! 早く行かないと!」

「あ、や、うん?」


 リゼルが慌てて走り出し、僕を追い抜いてレンたちに追いつく。

 『星斬り』? 『帝国』? なんのことだろ……リゼルが掛け持ちしている新しいゲームかな?

 ゲームは【DWOデモンズ】以外よくわからないからなあ。ま、いいや。僕は【DWOデモンズ】だけで充分だ。

 僕もミウラ(とついでにガルガドさん)を応援するためにみんなの後を追った。











DWOデモンズ ちょこっと解説】


■『ライトストーン』について

『ライトストーン』はスターコインの交換所でしか手に入らない。効果は『光る』特性を追加できるだけ。明るさは初期設定で決定、ON・OFFもその時に決定する。部分的に光らせることもできるので、光剣セイバーや、サイリウムも作れる。もちろん普通に懐中電灯的な使い方もできる。


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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[一言] 帝国?
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