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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■085 寒さ対策と氷剣使い


■ちょいとイセスマの方がアニメ関連や書籍関連で色々と書かなくてはならないものが増えてきたので、ウサギマフラーの方が不定期になりつつあります。なるべく更新するように努力しますので、これからもよろしくお願い致します。






「第四エリアは極寒のエリアか……」

「【スターライト】の皆さんは一旦引き返したそうですよ。門の近くに村も町もなかったそうで」


 レンの話を聞きながら、そりゃ仕方ないよな、と思う。フィールド全部が『雪原』であるならば、そこにいるだけでどんどんHPとスタミナが奪われていくのだ。装備を整えて出直した方がいいに決まっている。


「僕らはどうしようか」

「私たちのマフラーは耐寒装備ですが、ダメージを40%軽減させるだけです。あと60%、なにか耐寒能力のある装備をしなければなりません。いくつかは作ってありますけど……」


 そういって、レンはテーブルの上に様々なものをインベントリから広げてみせた。

 ニットキャップや手袋といった小物に加え、ロングコートやセーター、レッグウォーマーなどがある。これ全部耐寒装備か。


「ずいぶんあるね」

「【高速生産】スキルのおかげで作れる数も増えましたから」


 【高速生産】は生産スキルのスピードを高めるスキルだ。僕が装備すれば【調合】のスピードが上がり、リンカさんが装備すれば【鍛冶】のスピードが上がる。生産職からしたら垂涎もののスキルである。


「うわ、この帽子かわいい!」

「手袋もかわいいですわ。さすがレンさん」

「えへへ……」


 ミウラやシズカに褒められて照れるレン。そしてその背後で満足そうにドヤ顔をしているウェンディさん。いや、まあ気持ちはわかるけど。


「トーラスのところに耐寒付きのアクセサリーも売ってるはず。それらと合わせれば、基本装備と邪魔にならないコーデができると思う」

「そっか、耐寒装備ってアクセサリーもあるんだっけ」

 

 リンカさんの言葉にリゼルが反応する。

 耐寒能力のある装備は何も衣類系だけではない。アクセサリーや鎧、兜や籠手などにも耐寒能力が付与されたものもある。

 それらも含めて耐寒値がトータルで100%になれば極寒の地でもダメージを受けることはない。

 レンの作ったマフラーの40%という耐寒値はかなり高い。レンの持つソロモンスキル、【ヴァプラの加護】は高い付与効果が出やすくなる。そこまで高いものはトーラスさんの店にもないだろう。

 僕の場合、装備しているコートもレンが作ったものであるから30%の耐寒能力がある。足して70%。あと30%だな。気にいるアクセサリーがあればいいが。


「じゃあ『パラダイス』へ行ってみようか」


 どうせなら合わせた方がいいもんな。僕らは第三エリアにあるトーラスさんの道具店『パラダイス』へと向かった。





「おう、皆さんお揃いで。どないしたん?」


 ドアベルをカラコロと鳴らして僕らが店内へと入ると、アロハシャツを着たトーラスさんが軽く手を挙げた。店内にお客さんは二人。戦士風に魔法使い風、どちらも女性だった。こんなうさんくさい怪しげな店に来るなんて物好きな。


「今なんかディスられた気がすんにゃけど」

「気のせいじゃないッスか」


 トーラスさんの追及をさらりと躱し、アクセサリーコーナーへと向かう。置いてあるのは大抵女性向けで、男物はあまりない。いいとこブレスレットや指輪、ピアスくらいなもんか。


「トーラスさん、耐寒付与のついたアクセサリーってどれですか?」

「ん? 耐寒付与か? ……ははあ、シロちゃんら第四エリアへ行くんやな? わいらより一足お先にってか。羨ましいこって」


 トーラスさんも来週、ピスケさんとかの生産職仲間でデュラハン討伐に行くんだそうだ。失礼ながら、あの人見知りのピスケさんがパーティを組めるんだろうか……。


「耐寒付与のアクセサリーなら、これとこれとこれやな。ちょい待ってな、インベントリから残りのやつを出すさかい」


 ガラスケースに入っていた耐寒付与のアクセサリーを取り出してカウンターのところに置くと、インベントリからジャラジャラとネックレスだのイヤリングだのを取り出して並べ始めた。けっこう多いなあ。


「わあ、このブローチかわいい」


 レンが桜の形をしたブローチを手に取った。鑑定してみると、10%の耐寒が付与されている。アクセサリーに限らず同じアイテムの効果は発動しないから、これを十個装備したって100%になるわけではない。10%のまんまだ。それ以前にそんなにアクセサリーを装備するためにはアクセサリーの装備スロットを拡張する必要があるが。


「【氷炎のブレスレット】、か」


 僕はカウンターにあった赤と青に二分割された色のブレスレットを手に取った。男物はこれくらいだったんで。


「耐寒と耐熱の効果があるのか。どっちも25%……かなり高いな」

「せやろ。自信作や。シロちゃんなら特別に一割引きにしたるで」


 トーラスさんがここぞとばかりに売り込んでくる。まあ、そこそこのお値段だから割引いてくれるのは助かるけど。お金は充分にあるけどね。


「じゃあこれひとつ下さい」

「まいどあり〜」


 さっそく買ったブレスレットを左手に装備する。腕を軽く振って動かしてみるが、それほど邪魔にならない。普通にしていればコートの袖に隠れるし、悪目立ちもしないだろう。

 これでマフラー40%、コート30%、ブレスレット25%の95%か。残り5%くらいならいいかなとも思うが、それが致命的なものになるかもしれない。やっぱり僕もブローチでも買って100%にしておくか。


「うーん……」


 でもここにあるブローチって女の子向けってやつばかりなんだよなあ……。さすがに花とかハートのはちょっと……。兎のマークをつけてておいて、なにを今さらとか言われそうだけど。

 他の物がなにかないか店内のケースを見て回る。別にアクセサリーじゃなくてもいいわけだし。防寒が付いた靴とかないかな。


「ちょっといいかしら」

「え?」


 突然の声に振り向くと、いつの間にか店内にいた女の子のプレイヤー二人が後ろに立っていた。

 一人は軽装の革鎧とマントで身を固め、腰には長剣、背中には小盾を背負った戦士風で【魔人族デモンズ】の少女。栗毛のショートカットで、ぱっと見、男の子にも見えなくもないが、ボーイッシュな女の子だ。

 もう一人は白を基調としたゴスロリ系の服の上に、淡い水色のローブをまとった魔法使い風の少女。こっちも【魔人族デモンズ】だ。銀色の長い髪を三つ編みにして肩から流している。魔法使いのような軽装なのに腰には細身の剣を差していた。魔法剣士か?

 二人を眺めているとその頭上に名前がポップした。ショートカットの子は『ソニア』、銀髪の子は『アイリス』か。


「あなた、【月見兎】のシロよね? ウサギマフラーの」

「そうだけど……」


 僕に質問してきたのはクール系で銀髪の魔法使いの子だった。向こうにも僕の名前がポップしているだろうから、誤魔化したところで意味はない。別に誤魔化す気はないけどさ。


「私はギルド【六花りっか】のアイリス、こっちの子はソニア。よろしく」

「はあ、どうも……?」

「単刀直入に言うけど────あなたが『調達屋』?」

「え?」

 

 思わず息が止まる。イエスかノーかと言われればイエスであるが、ウサギマフラーや忍者なんたらならともかく、なぜその通り名が出てくるのか。


「その反応、図星みたいね」

「え、いや! 知らないなあ、なんのこと?」

「考えが顔に出るタイプね。『誤魔化さなきゃ!』って書いてあるわ』


 思わず顔を押さえると、アイリスと名乗った少女はそこで初めて笑った。あいにくとにこやかな微笑みではなく、ニヤリとした笑みだったが。


DWOデモンズにおいて、様々な未知の素材を掻き集め、あらゆる情報を手に入れて、プレイヤーたちに与える謎の存在『調達屋』。その正体は運営の社員とも、プレイヤーに成りすましたNPCとも言われる……」

「なにそれ、初耳!?」


 いつの間にそんなことになってんの!? 噂が一人歩きしてるぞ!? 

 確かにレアモンスター図鑑の内容を発表するときに、その情報を『調達』してもらった別のプレイヤーがいる、ということで、アレンさんたちには細かい追及がいかないようにしたけど。

 そこから『調達屋』という存在が生まれても不思議はないが、なぜそれが僕ということになるのか。


「決め手になったのは二つ。一つはこの店。一見ガラクタばかり売ってそうな店なのに、売っているものはどれもこれも珍しいアイテムばかり。なんの素材を使っているのかもサッパリわからないものがいくつもあるわ。その店にあなたが頻繁に出入りをしている。あなたが訪れてしばらくすると、この店に新しい新作が並ぶ。無関係とは思えない」


 ギク。確かに【セーレの翼】を使って手に入れた珍しいアイテムは、足がつかないようにトーラスさんの店で売っていた。逆にそれで足がつくとは。こんなことになるんなら他の店でも売りさばいておくべきだったか。


「二つめはギルド【スターライト】との関係性。【スターライト】は今まで見つかったことのないレアモンスターや、レアアイテム、新装備を先んじて見つけたり、手に入れている。【調達屋】のお得意様って噂があるわ。その【スターライト】はいろんなギルドと付き合いがあるけれど、今回初めて他ギルドと共闘し、第三エリアのボスを倒した。そのギルド【月見兎】にあなたが所属している。これは偶然? 私はそうは思えないわ」


 むぐ。アレンさんたち【スターライト】と付き合いがあるってのは、例の三馬鹿を【PvP】で倒した時に知られているが、ボスモンスター討伐まで絡んだのはマズかったか。でも僕ら船を持ってなかったからなあ。


「つまりあなたが【調達屋】であるという可能性が一番高い。そしてあなたがNPCや運営側の人間でなければ……なにか特殊なスキルを持っていると私は考える。それはおそらく情報収集……サーチ系のソロモンスキル。それを使ってレアモンスターの情報や、レアアイテムを手に入れていた……違うかしら」


 惜しい。ソロモンスキルは当たっているが、サーチ系とかじゃない。転移系です。


「もし仮にそうだとして。僕になんの用なんだ? 正体バラすぞ、って脅しかい?」


 バラされたところでシークレットエリアにギルドホームを手に入れた今、レアアイテムを奪われる恐れはほとんどないしな。今回のギルドボス討伐のせいでけっこう有名人になってしまったらしいし、そっちも今さらだ。


「正体をバラす? まさか。なんでこのことに気付いてもいない赤の他人に貴重な情報を教えないといけないのよ。【スターライト】と同じく私たち【六花りっか】と親しくしてもらいたいだけ。貴重なアイテムや情報を得るためにね」

「はあ……」


 いや、思いっきり下心言うてますやん……。この子、頭いいのかアホなのか……。いや、変に下心を隠して近づく輩より、よっぽど気持ちがいいけれども。


「ごめんね。この子ちょっと変わってるから。悪い子じゃないんであまり気にしないでもらえると嬉しいかな」

「うん、まあ、それはわかる」


 後ろに控えていたボーイッシュな子の方が、銀髪三つ編みの子を押しのけて前に出る。その顔には困ったような笑顔が貼り付いていた。なんか苦労してそうだな……。


「なにするのよ、ソニア。【調達屋】なら私たちの欲しいものも手に入るかもしれないのに……」

「アイリス、君ね……気軽に『Aランク鉱石下さい』って言ったところでホイホイ手に入るもんじゃないんだよ? 君だって十五回もガチャ引いて一回も手に入らなかったじゃないか」

「え、十五回もガチャ引いたのか!?」


 そりゃすごい。僕らが第三エリアのボスを倒してもゴールドチケット一枚、三回しか回せなかったのに。五倍だぞ。


「ああ、この子前のグラスベン攻防戦で総合貢献度一位だったから。知らないかな? 【氷剣使いのアイス】って」

「私はアイリス。アイスじゃない」


 表情を変えずにソニアの言葉を否定するアイス、もといアイリス。

 ああ、この子がグラスベン攻防戦での貢献度一位だったのか。僕は九位だったが。確かに氷を使うプレイヤーが一位とは聞いたな。あれ? ってことはアレンさんレベルのトッププレイヤーなのか、この子。


「攻防戦で手に入れたチケットを全部アイテムガチャに突っ込んだのか……」

「その時に手に入れた要らないアイテムを売って、オークションでAランク鉱石を何個かは手に入れたわ。でも足りないの。あと三つは必要なのよ。デュラハン戦までに私の魔法剣に耐えられる新しい剣を作っておきたいのに」

「Aランク鉱石ねえ……。まあ、三つくらいならあるけど……」


 バッ、と向けられた二人の視線に、僕はしまった、と口を押さえた。ついポロリと出てしまった!

 第三エリアではAランク鉱石はほとんど手に入らない。ガチャで当てるのがせいぜいだ。Bランク鉱石でもなかなか見つからないのだから。

 ゆらり、とアイリスが近づいてくる。


「いくら……? 言い値で買うわ」

「やっぱり【調達屋】だったんだ……」


 マズったな……。いいや、こうなりゃ開き直って釘を刺しておこう。その方がこの子らには効果的な気がする。それにこの子らが実力派のプレイヤーなら、こちらとしても縁を作っておくのは無駄じゃない。下心には下心なり。


「オーケー。わかった、売ろう。だけど僕のことは一切秘密にな。君たちから漏れたとわかったら二度と売らない」

「約束するわ」

「ボ、ボクも」


 何かに誓うように手を小さく挙げる二人。ソニアはボクっ子だったのか。

 ため息をついてトレードウィンドウを開く。値段はアレンさんたちに売った値段と一緒でいいだろ。けっこう高いけど、出せない額じゃないと思う。


「え? こんな安くていいの!? オークションだともっと高かったのに……」

「…………口止め料も入ってるからね。安くしといた」


 マジか。オークションだとこれ以上で売れるのか……。出品者の名前が出なけりゃ僕も売るのになあ。代理者を立てたところで何個も何個も売ってたら怪しまれるし。みんながAランク鉱石をそこそこ採掘し始めた時が売り時かな……。


「ありがとう、助かったわ。このことは誰にも言わないから安心して」

「あ、あの……ボクにもいくつか売ってもらえるかな?」


 おずおずとソニアも尋ねてきたので、新たにAランク鉱石を取り出す。【ヴォルゼーノ火山】やガチャでけっこう手に入れたからまだ余裕がある。


「言っとくけど、僕もそんなにホイホイ手に入るもんじゃないからね。追加で、とか言われても無いときは無いから……」

「おいコラ……人の店ン中でなに商売しとんねん。シロちゃん、客の横取りはやめてくれんかのぅ……」


 ドスの利いた声が背後からかけられる。振り向くと笑顔ではあるが、額に青筋を浮かべたトーラスさんがいた。


「いや、ちがっ、これはそういうんじゃなくて……!」

「ほならナンパか! おいみんな、シロちゃんがナンパしとるで! エロウサ化や! このハーレム野郎が! まだ足りないってか!」

「おい、待てェ!? なに言っちゃってくれてんのかなァ、このアロハさんは!」


 ああっ、年少組はキョトンとしてるし、それ以外は白い目でこっちを見てる!? 違うよ!? ナンパなんかしてないよ!?


「ナンパ? エロウサ? どういう意味なんでしょうか……?」

「お嬢様は知らなくていいことでございます」


 ウェンディさんが後ろからそっとレンの耳を両手で塞ぐ。その後、一悶着あったがなんとか誤解を解くことができた。ふう。

 とりあえずトーラスさんは【PvP】で容赦なくシバいておいたと記しておく。











DWOデモンズ ちょこっと解説】


■フィールド【極寒】について

【灼熱】と同じく、その場にいるだけでダメージを受けるフィールド。【耐寒】の値を100%にすることで相殺できる。また、寒さに強いモンスターが多いため、水、氷属性の武器、または魔法はダメージが通りにくい。


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
[良い点] シロが調達屋として名を馳せてるのを見ると、アレンの先見の明は凄かったんだなぁって感心しきり。 情けは人の為ならず。
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