■083 ガチャ無双
『【怠惰】の第三エリアボス、【ボーンドラゴン】が初討伐されました。
討伐ギルドである【スターライト】、【月見兎】、以上の方々に初回討伐報酬が贈られます。初討伐おめでとうございます』
討伐成功を知らせる個人メッセージウィンドウが表示された。
初討伐、か。僕らがこのゲームで初めてあのボスを倒したんだな。【スターライト】のみんなの力ってのが大きいけれど、なんか嬉しいな。
インベントリをチェックしたいが、スタミナがレッドゾーンに突入していて身体が重い。とりあえず座ろう。よっこらせ、っと。
ウィンドウの報酬リストをチェックする。
「お決まりのスキルスロットの増加は第二エリアと同じ数か……。レベルが32に上がったな。ドロップは『竜骨刀』、『ボーンガントレット』、『骨竜の角』、『骨竜の牙』……おっ、『ゴールドチケット』か」
「それが初討伐報酬だね。ガイアベア、ブレイドウルフの時はシルバーだったけど」
アレンさんがそう教えてくれた。ゴールドチケットってことは、ガチャが三回できるのか。……いや、僕が回しても周りのみんなにいいものが出そうな予感がビンビンするな……。
そんな僕をガルガドさんがにこやかに肩を叩いてきた。
「シロ、悪いんだけどあれ回してもらえるか?」
後ろ指で指し示すその先にはすでに出現したデモ子さんと大きなガチャマシーンが。デュラハンの時のことを覚えてたか……。
「いや、僕が回してもいいのが出るとは限りませんよ? 今までのは偶然ですって」
「わかってるわかってる。変なのが出ても文句は言わねえって。軽い気持ちで回してくれりゃいいからよ」
本当に? 責任持てないからね、僕は。
言質を取った僕は渋々とガルガドさんが出したガチャマシーンのハンドルを握る。『スキル』ガチャか。
なんかいいの出ろー。ガチャガチャリ。
あまり気合も入れずにハンドルを回すと、コロンとカプセルに入ったスキルオーブが転がり落ちてきた。
自動的にスキルオーブが飛び出してくる。野球ボールほどの水晶球には鉤爪のようなアイコンが浮かんでいた。
ガルガドさんはそれをインベントリに収納して詳細を見るためにウィンドウを開いた。開いた瞬間に目を見開いて大声を上げる。
「はあッ!?」
「ど、どうしたんですか、ガルガド。びっくりするじゃないですか……」
横にいたセイルロットさんが、びくんっ、となって、胸を押さえながら文句を言っている。そりゃ、あんな大声上げられたらなあ。
「もっとびっくりさせてやろうか、セイルロット……。俺、ソロモンスキルを手に入れたぜ……」
「へー……。はあぁッ!?」
「うえっ!?」
セイルロットさんに一拍遅れて、僕もすっとんきょうな声が出た。ソロモンスキル!? マジで!?
ベルクレアさんがガルガドさんに詰め寄る。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ、ガルガド! 本当に!?」
「おう! 見ろよ、これ! 【ヴァレフォールの鉤爪】! 星三つのスキルだぞ! 効果は『アイテムドロップが一・五倍』だ! しかも熟練度が上がればさらに増えるんだぜ!」
なにその反則感!? 一・五倍ってことは四つアイテムがドロップするところを、ガルガドさんは六つドロップするってこと?
しかし、嬉しさのあまりスキル能力を晒してしまっているが、いいのかね? まあ、バラすような人はいないと思うけどさ。
「ヴァレフォール、ヴァレフォール……。あった。『ヴァレフォール。ウァレフォル、マラファル、マレファルとも呼ばれる、ソロモン72柱の魔神の一柱。盗賊に関連深い悪魔であり、召喚者を窃盗の犯罪に巻き込み、誘惑しようとする……』つまりは泥棒の悪魔なのね」
なるほど、泥棒か。アイテムを余分にせしめるってのはそれかね。
「シロ、ありがとうな! さすがは幸運の白兎だぜ!」
「ハハハ。お役に立てたようで」
無表情と乾いた笑いをガルガドさんに返す。なんでその幸運が僕に回ってこないんスかねぇ……。そのスキル、僕も欲しい。
「ちょ、ちょちょっとシロ君! 私のも回してくれないですかね!? 試し! 試しに!」
「あ、セイルロット、てめっ!」
セイルロットさんが試しと言うには必死の形相で僕の手をとる。えー……。
すでにデモ子さんとガチャマシーンを呼び出しているし、断り辛いじゃんか。また『スキル』ガチャか。
ワクワクしているセイルロットさんの視線を背中に感じる。プレッシャー与えるのやめて。
ガチャリとハンドルを回すと先ほどと同じようにコロンと転がり、飛び出してきたスキルオーブには、なにやら城壁のようなアイコンが浮かんでいた。あれ、なんかやな予感。
セイルロットさんがすぐさまウィンドウを開くと、みんなの注目が集まる。
「ぬぐっ……! これは……!」
「なになに? ハズレ?」
なぜか嬉しそうにメイリンさんがセイルロットさんのウィンドウを覗く。ウィンドウの文字は本人以外には見えないので意味はないが。
「いえ、一概にハズレとは。ただ私が持っていてもなんの役にも立たないスキルで……。星二つなんですがね……」
「はあ!? また!? なんでそんなにポンポン星付きのスキルが出んの!?」
メイリンさんが呆れたように声を上げるが、わからんでもない。星付きのスキルはレアスキル。星一つでもかなりレアで、星二つなんて滅多になく、星三つなんてのになるとほとんどお目にかかれない。まあ、僕は星三つの【セーレの翼】を持ってますが。
【加速】、【二連撃】、【分身】も星二つのスキルだ。まあ、【加速】と【二連撃】は貰い物だけど。【分身】もレンに当ててもらったから、実質自分で手に入れたのって【セーレの翼】しかないな……。
「それでなんのスキルなの?」
「アレン向けのスキルですね。スキル名は【鉄壁】。大盾で受けたダメージを30%減少するスキルです。これも熟練度でさらに上昇する成長スキルですね」
え? 盾で受け止めて減少したダメージをさらに減少できるってこと?
確かに盾職にとっちゃかなり使えるスキルだけど、それ以外の人には無用の長物か。セイルロットさんも円形の盾を持っているけれど、あれは小盾で大盾ではないから、スキルの発動条件を満たせないってわけだ。
「【鉄壁】か。いいね。で、セイルロットはそれをどうするのかな?」
「変なプレッシャーをかけないでも譲りますよ……。その代わり私向けのスキルが出たらお願いしますよ?」
にこにことしているアレンさんにセイルロットさんが口を尖らせた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、シロ君! 私のガチャも回してくれない!?」
「シロ兄ちゃん、あたしのも!」
ジェシカさんとミウラに両サイドから腕を引かれる。うはー、モテモテだなあ……。ってアホか。痛みを大幅にカットしているVRで、痛みを感じそうなくらい引っ張らないでほしい。
他のみんなもいつの間にかガチャマシーンを召喚しており、この後、僕は何回もハンドルを回すことになった。
「腕が痛い……」
「VRで強い痛みは感じないはずですが」
ウェンディさんから冷静な言葉が返ってきたが、そんな気がするんだよう。あんな緊張感の中で回して、現実なら間違いなく腕が攣っている。
シルバさんに回収された僕らは銀星号で港へと戻り、やっとのことでギルドホームへと戻ってこれた。【スターライト】のみんなも自分たちのギルドホームへとすでに帰っている。
「きゅっ?」
テーブルの上で突っ伏した僕の腕をスノウがペシペシと叩く。慰めてくれているのか、それとも追い討ちか。
あのあとみんなのガチャを何回も回した。全部が全部当たりというほどではなかったが、かなりいいものが出たのは確かだ。とんでもないものも当たったし。
「ふふふふふふふふふ」
そのとんでもないものをゲットしたリンカさんから変な笑いが漏れている。
手にしているのはSランク鉱石。しかも二つ。嬉しいのはわかるけど、あの笑いは若干引くな……。
アレンさんたちも手に入れているが、オークションに出品するって話も出てるらしいからな。そうなるとリンカさんがSランク鉱石を扱うチャンスは無くなってしまう。そこに転がり込んできた自分のSランク鉱石だ。気持ちはわからんでもないが。
他のみんなもかなりいいものを引いた。いや、引いたのは僕なんだが……。セイルロットさんの時みたいに、本人以外のいいものをゲットした人もいたが、そこは交換したりでまとまった。
ウェンディさんとシズカは新たな防具を手に入れ、ミウラとリゼルは能力強化のアクセサリー、リンカさんはSランク鉱石、レンは新スキルだ。
そして僕はというと……。
「あんなの当たってもどうすりゃいいのか……」
バルコニーから見下ろすと、ギルドホームの前にアスレチック施設が出来上がっている。
僕が『アイテム』ガチャで手に入れた『冒険アスレチックコース』だ。
正確には『冒険アスレチックコースカタログ』であって、カタログ本である。グラスベン攻防戦の時にもらった『カタログギフト』と同じようなもので、言ってみれば通販カタログだ。
中にはいろんなアスレチック施設が載っていて、お金を払うと設置できる。
試しに無料提供の『まるたぶらんこ』と『ろーらーすべりだい』を設置してみた。これをレンたち年少組が面白がって、有料の『たーざんろーぷ』と『みはらしだい』を買ってしまった。おかげでギルドホームの東側はちょっとした遊び場みたいになっている。
「このアスレチック施設ってすごいねー。ほらほら、『もんすたーくんれんじょう』とか、『せんぎとっくんじょう』とかもあるよ。あ、『もんすたーれーすじょう』なんてのもある!」
「全部お金がかかるけどな」
僕の当てたアスレチックカタログを見ながらリゼルがはしゃいでいる。確かに様々な施設が載っているが、どれもこれもお金が別途にかかるのだ。しかもいいものは高く、気安く買えるものではない。
『もんすたーくんれんじょう』はテイムしたモンスターを強くするための施設らしい。『せんぎとっくんじょう』は戦技の練習をする施設、『もんすたーれーすじょう』は競馬場のような施設だ。もちろんどれも高い。
リゼルの持っていたカタログを覗き込んでいたウェンディさんはその中の一つを指差す。
「私としてはこの『きみもだんじょんますたー』が気になりますね」
あー、それね。僕も気になった。まあ、自分好みのダンジョンを作れる、といったところだろうが、それ、他のに比べてもメチャ高いよね。
だいたいダンジョンに入る方がダンジョンを作ってどうするのかとも思うが。魔王にでもなれというのか。
「あくまでお遊びのダンジョンだと思うけど、それにしては高いよなあ」
「設置する場所によってはギルドホームになるのでは? プレイヤーキラーのギルドなんかが本拠地にしたりとか」
「あー、なるほど。そういうのもアリか」
悪の秘密基地プレイ? ってか。PKのドウメキあたりにでも売ってやろうか。
まあ、それよりも……。
「で、第四エリアへはいつ行く?」
第四エリアへのエリア門は第三エリアの東南にあるという。僕らはまだ行ったことのないところだ。かなり高い山脈の先にあるとか。
ボーンドラゴンを倒したことにより、僕らはエリア門の鍵を手に入れた。いつでも第四エリアへと行ける。
エリアボスを倒した直後、知り合いからおめでとうメールがたくさん届いた。まあ、それは挨拶みたいなもので、みんな第三エリアのボスについて聞きたがっていたけど。
アレンさんとも話したが、あとでセイルロットさんがまとめて公開するらしいので、知り合いには先に教えてもいいということになった。
まあ、残念ながら先に聞いたところでデュラハンが出る日付けは決まっているから、あんまり関係ないんだけどね。
「【スターライト】のみんなは今晩にでも行くらしいけど」
「今晩っていうか、リアル深夜に、だけどな。アレンさんたちってやっぱり大学生とかなのかなあ」
今日は平日だ。そんな深夜までプレイしてたら明日起きられないぞ。僕なら確実に遅刻する。毎回時間いっぱいまでログインしてるみたいだし。
「お嬢様たちのこともありますので、我々は明日、ということでどうでしょうか」
「賛成。急ぐことはないと思う。今日はもう休もうよ」
「ん。私もそれでいい」
もちろん僕も賛成だ。エリアボスを倒しただけでも充分だろ。第四エリアは逃げない。明日ゆっくりと行けばいいさ。
とりあえずは今日の勝利に酔いしれていたい。ガチャは散々……というか、滅茶苦茶だったけれども。
「シロさん、できました! 全員分のマフラーが!」
バルコニーへ年少組が突入してくる。手には色とりどりのウサギのぬいぐるみ……に見えるがマフラーを持っていた。【月見兎】のギルドのシンボルマーク(になるらしい)のウサギマフラーだ。
「速いね。やっぱり新しいスキルの効果かな?」
「はい! 前よりも短時間で作れます!」
レンが満面の笑みで頷く。レンが(正確には僕が当てたのだが)手に入れたスキルは【高速生産】。生産スキルがスピードアップするスキルである。これも星二つのレアスキルだ。
生産職には喉から手が出るほど欲しいスキルだろう。実際リンカさんも欲しそうにしてたしな。
「わあ〜、かわいい! これ、好きなの選んでいいの?」
「はい! とりあえずいくつかのタイプを作ってみました。色とかは『染料』でそれぞれ好きな色に染めていただければ」
リゼルが嬉々としてテーブルに置かれたマフラーを手に取る。確かにウサギの形や種類が違うな。マフラーというか、頭に被るのもあるけど。これってマフラーじゃなくて頭巾じゃないの?
「これはこうするんですよ」
レンがそのウサ耳付きの頭巾を被り、両脇からだらんと伸びた長いウサギの腕をくるんと首に巻いた。ああ、確かにマフラーだ。
「どうですか?」
「うん、かわいい。うわっ、手触りもいいね、これ」
「でしょう? 素材からこだわりましたから!」
えっへんと胸を張る、ウサ耳マフラーを被ったレンの頭を撫でる。気持ちいい。ふわふわしてんなあ。
「私はこれにしようかな」
「私はこれ」
「では私はこれを」
みんなそれぞれ気に入ったものを首に巻いていく。派手なものから地味なものまで個人の違いはあるが、どれも月を見上げる兎の形をしたギルドエンブレムが入っている。一目でギルドメンバーだとわかるな。
「よし、じゃあ打ち上げに『ミーティア』に行こうか!」
「賛成ー! あたしプリンアラモードが食べたい!」
僕の提案に真っ先にミウラが手を上げる。ここ最近ゆっくりとできなかったから、『ミーティア』に行くのも久しぶりだ。メテオさんは元気だろうか。
レンがテーブルの上のスノウとその横に立つデュラに声をかける。
「スノウちゃんもデュラちゃんも行こうね」
「きゅっ」
スノウがデュラの首のところに乗り込むと、デュラがガッチャガッチャと歩き出した。
もう、サポートデュラハンっていうより、スノウのパワードスーツみたいになってるぞ……。少しは自分の力で跳ねるなり飛ぶなりしろ。太るぞ。いや、あいつはVRキャラだから太らないのか。
そんな話を女性陣にしたら「羨ましい」と心の底からのお声をいただいた。
その日の『ミーティア』では、何人かが甘いスイーツを避けたが、それは記さないでおく。
【DWO無関係 ちょこっと解説】
■プリンアラモードについて
正しくは「プリン・ア・ラ・モード」。カスタードプリンを中心に、様々なフルーツ、菓子、クリーム、チョコレートなどをふんだんに使った盛り合わせデザートである。「ア・ラ・モード」とは、フランス語で「流行の」「最新、最先端の」といった意味である。




