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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■082 骨竜退治





「【テンペストエッジ】!」


 暴風が轟き、リゼルの杖の先から無数の風刃がほとばしる。

 ボーンドラゴンに直撃したが、効果は薄い。やはりアンデッドには聖属性じゃないと高いダメージを与えられないようだ。

 だけどこの船の上では聖属性は打ち消されてしまう。船の上でなければ打ち消されずダメージが通るかもしれないが、あいにくと僕らは空も飛べないし、海の上を歩くこともできない。

 ふと、船を観察してみると、中央マストの天辺に青白い光が浮かんでいた。セントエルモの火か? いや、鬼火みたいだな……。

 よく見ると船の衝角や後部デッキ、いろんなところに青白い炎が揺らめきながら移動している。特に攻撃もしてこなかったから認識しなかったけど、これって単なる幽霊船の背景なのか? それとも……。

 僕は場所を移動して後方で支援魔法を使っていたジェシカさんに近づいた。

 ジェシカさんが【解析】スキルを持ってるからって、【鑑定】スキル外しちゃったんたよね、僕。おかげであれがなにか区別がつかない。


「すみません、ジェシカさん。あれってなにかわかります?」

「え?」


 僕は船縁にいる青白い鬼火を指差した。相変わらずゆらゆらと揺らめきながら、ゆっくりと移動して船を照らしている。


「なにかって……普通の鬼火の背景オブジェクトじゃ……え? 『ウィル・オ・ウィスプ』!?」


 ジェシカさんが驚きの声をあげた。やっぱりか。あれも敵キャラなんだ。


「魔法を受け付けず、範囲内に発動した聖属性魔法は吸収、効果を無効化する……そうか! あのモンスターがこの船の聖属性効果を打ち消してたのよ!」

「ってことはあの鬼火さえ倒せば……」


 ボーンドラゴンの攻撃を、ウェンディさんとアレンさん、それをカバーするセイルロットさんで防いでいるが、あのままじゃジリ貧だ。

 僕らの話を聞いていたベルクレアさんがキリキリと弓を引き、マストの天辺で揺らめいているウィル・オ・ウィスプに狙いを定めた。


「【ストライクショット】!」


 放たれた矢がまっすぐにウィル・オ・ウィスプを射抜く。次の瞬間、『ギィィィィィィィィィィィッ!』と、黒板をフォークで引っ掻いたような耳障りな音を残し、ウィル・オ・ウィスプは消滅した。

 おいおい、今の断末魔の悲鳴で僕のHPが減ったぞ!? しかも四分の一も! 他のみんなも食らっている。


「く……! 自爆系……攻撃はしてこないけど、消滅時にプレイヤー全員に決まったダメージを与えるのね。しかも防御不可……いえ、【耳栓】スキルがあれば防げるのかもしれないけど……」


 ジェシカさんが苦々しくつぶやく。全員のHPを把握した上で倒さないといけないのか。


「とりあえずベルクレアとレンちゃんはウィル・オ・ウィスプを。セイルロットはひたすらアレンたちを回復! あとは各自自分のHPを回復させて!」


 くっ、またポーション飲むのか。質は落ちるけど、味付きのジュースポーションの方が気分的には楽なのかもしれない……。

 ポーションを一気飲みして、僕もボーンドラゴンの牽制に回る。ウィル・オ・ウィスプの方はレンたちに任せよう。


『ヨーホー!』


 青白いオーラで繋がったボーンドラゴンの手首が飛んでくる。まるで鎖鎌だ。僕はそれを躱し、ボーンドラゴンの懐へと飛び込んだ。


「【アクセルエッジ】」


 デスボーン・ジャイアントの時の傷はすっかり治ってしまった左足に、再び戦技を叩き込む。

 少しだがHPを削った。すぐさま【加速】を使い、その場から退避する。

 するとそのタイミングで再びウィル・オ・ウィスプの断末魔の悲鳴が聞こえてきた。またしてもHPが減る。これ地味にキツいな。


「【エリアヒール】!」


 セイルロットさんの範囲回復魔法が放たれる。ウィル・オ・ウィスプに削られた僕のダメージも回復した。

 アレンさんたちの近くにいれば、ついでに僕も回復させてもらえるな。危険度は高いけれど。


「セイルロット、マナポーションはあといくつある?」

「三本。けっこう用意したんですけどねえ」


 アレンさんの問いに苦笑いしながらセイルロットさんが答える。MP回復ポーションが尽きたらセイルロットさんは回復魔法を使えなくなる。そしたらあとは各自手持ちの回復アイテムで凌ぐしかなくなるわけで。一気に戦局は不利になるぞ。


『ギィィィィィィィィィィィッ!』


 三体目。全部で確か五体だったか。ならあと二体……。


『しつけぇなァ! 諦めて俺たちの骨仲間になりなァ!』


 ボーンドラゴンの口から火炎が吐き出される。アレンさんとウェンディさんが盾を構えてそれに備えようとしたが、その前に氷の分厚い壁が立ち塞がり、炎のブレスを防いだ。ジェシカさんの【アイスウォール】か。

 そこへ四回目の断末魔の悲鳴が届く。


『ギィィィィィィィィィィィッ!』

「四体目……! 残り一体……。だけどあれは……!」


 リンカさんがボーンドラゴンの背後、つまり船首の方にいる、ウィル・オ・ウィスプを睨む。

 ボーンドラゴンが邪魔で弓矢も魔法も届かない。


「アレンさんの【メテオ】は?」

「この状況で狙い撃ちは難しいかな……」

「無駄よ。それにウィル・オ・ウィスプは魔法を受け付けない。誰かが倒しに行かないと」


 みんなの視線が一点に集まる。つまり僕に。

 確かにボーンドラゴンの攻撃を躱し、あそこまで行くのに一番適任なのは僕だと思う。メイリンさんでも行けるだろうが、僕の方が圧倒的に速い。


「わかった。僕が行く」


 残り少ないポーションを飲み、HPを全快させる。どうせあれを倒したらまた減るのになぁ。……よし、行くか。

 

「【加速】!」


 甲板を蹴って走り出す。ボーンドラゴンからの炎のブレスを躱し、射出された手首の爪攻撃をさらに躱す。横を駆け抜け、鞭のようにしなって襲いかかってきた尻尾を飛び越えた。


「【ファイアボール】!」

『あぁ!?』


 背後でリゼルの声と爆音が聞こえた。僕をフォローしてくれたんだろう。甲板を一気に駆け抜ける。目の前に見える衝角の上にはふわふわと青白い鬼火が浮かんでいた。

 ターゲット目指しジャンプして、空中で戦技を発動させる。


「【ダブルギロチン】!」


 振り下ろした双剣がウィル・オ・ウィスプを斬り裂く。


『ギィィィィィィィィィィィッ!』


 間近でこの断末魔の絶叫はキツい。全身が総毛立つような感覚を覚える。この感覚だけカットできないかなあ。

 冥土の土産に僕たちのHPをきっちり奪って、ウィル・オ・ウィスプは消滅していった。

 すると突然、天から一筋の光が差し込んできた。小雨が降っていた曇天模様の雲の切れ間から太陽の光が降り注いだのだ。


『ぐおぁあァァァ!? コンチクショウがァ!?』


 ボーンドラゴンが空からの光を受けて身悶える。

 空は次第に晴れていき、眩いばかりの太陽がその顔を覗かせた。幽霊船の甲板から蒸気のように黒い靄が立ち昇り、風に散じて消えていく。

 ポーン、と僕らの耳にアナウンスが流れた。


『フィールドの特殊効果が消滅しました』


 これは……!


「セイルロット!」

「はい! 【シャイニングランス】!」


 セイルロットさんの頭上に燦然と輝く光の槍が現れ、真っ直ぐにボーンドラゴンへ向けて撃ち出された。太陽に悶えていたボーンドラゴンは避けることもできず、真正面からそれを受けてしまう。


『うぐおわァァァッ!?』


 あれは神聖魔法だ。なのに打ち消されない。やはりあのウィル・オ・ウィスプが結界を張っていたのだ。


「聖属性のダメージが通る! みんな、攻撃に転じるぞ!」


 アレンさんの号令に一斉にみんなが動く。僕もポーションを飲み干して、『シャイニングエッジ』を握り締め、背後からボーンドラゴンに襲いかかった。


「【ダブルギロチン】!」


 先ほどは大して効果のなかった戦技を、同じようにヤツの尻尾に叩き込む。かなり硬い手応えがあったが、押し込むように力を入れると、ぶっとい骨の尻尾がブツンと切れた。


『ぐおあっ!?』


 長い尻尾を半分ほどで断ち切られたボーンドラゴンはこちらを振り返り、炎のブレスを吐いてきた。僕はそれを【加速】で躱し、さらにドラゴンの懐へと入り込む。


「【一文字斬り】」


 足元を駆け抜けながら、左足の骨を一閃する。聖属性の刃が太い骨に大きなダメージを与えた。

 先ほどとは比べ物にならないくらいダメージが通る。ボーンドラゴンのHPの減りが大きい。やはり聖属性のダメージ効果が表れている。

 

「ガルガド」

「よしっ!」


 ガルガドさんが、リンカさんを大剣の腹に乗せ、フルスイングで上空高くぶん投げた。パワー自慢の【鬼神族オーガ】だからできる芸当だなあ。

 ボーンドラゴンの頭よりも高く飛んだリンカさんは、くるりと一回転し、手にした『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』を回転した勢いのままにドラゴンの頭蓋骨に叩き付けた。

 正確にはそこに嵌っているナマコ船長の頭蓋骨に。


「【ヘビィインパクト】」

『たわばっ!?』


 ゴワァンッ! という鈍い音がして、叩き付けられたドラゴンの頭からは星のエフェクトが飛び出す。頭上に星が回り始め、ぐらんぐらんとボーンドラゴンがよろめき始めた。しめた、ピヨったぞ!


「【分身】!」


 ここしかこれを使うチャンスはない。僕は一か八か、七人へと分身した。一気にHPが1/64になる。

 瀕死状態ギリギリだ。最大は八人にまで分身できるのだが、そうなると僕のHPではレッドゾーンに突入してしまい、瀕死状態になって身体の動きが鈍ってしまう。それでは意味がない。

 七人の僕がボーンドラゴンに切迫し、同時に戦技を発動させる。


『【双星斬】!』


 五芒星を描くように放たれる左右連続の十連撃。それが七倍。七十もの連続攻撃がボーンドラゴンを同時に襲った。


『ウごァあアアァァァァァァ!?』


 大幅にHPが減っていき、絶叫するボーンドラゴンなど目もくれず、僕はすぐさま【加速】を使ってその場を離脱した。なにせ瀕死状態ギリギリなのだ。簡単な一撃を受けても死に戻る。

 リンカさんのピヨり状態もすでに解除されているだろう。ヒットアンドアウェイ。やることやったらすたこら逃げるが勝ちさ。

 【分身】を解除し、その場に膝をつく。HP、MP、スタミナ、全てが残りちょっとしかない。さすがに無理をしすぎたか。

 ポーションとマナポーションをインベントリから取り出して飲む。うっ、マズイ。いや、味も不味いのだが、これが最後の一本だ。マズいぞ、これは。

 あとはセイルロットさんと……レンも回復魔法を使えたな、確か。初歩の【ヒール】しか使えなかったはずだけど。

 マナポーションもこれで終わりだ。僕のHP、MPは半分ほどしか回復していない。スタミナは休憩していれば時間とともに戻るし、HPは回復魔法をかけてもらうか、回復飴でゆっくりとならなんとか戻る。しかしMPは回復しない。MPを消費する戦技はあと数回しか使えないだろう。


「【スタースラッシュ】!」


 ウェンディさんの五連撃がボーンドラゴンの右手を斬り刻む。手首の先が粉々になり、甲板に骨片がばら撒かれた。

 さっきよりもダメージが通る。ボーンドラゴンのHPはすでに四分の三ほど減っている。一気に畳み掛ければいけるか?


「【昇龍斬】ッ!」

「【虎砲連撃】!」


 ガルガドさんの大剣が下からボーンドラゴンの右上腕部を砕き、メイリンさんの両拳による左右連打が左膝に亀裂を入れた。


『ウルガァァァッ!』


 前半のおしゃべりさも消えて、ボーンドラゴンはただの魔獣と化していた。骨だけの翼が前方へ曲がり、鋭いその先端が槍のように伸びてアレンさんたちを串刺しにしようと襲ってくる。

 アレンさんたちはそれを躱しつつ、ボーンドラゴンにダメージを加えていく。みんなの回復アイテムも尽きているらしく、満身創痍だ。まさかここまで長丁場になるとは。総じてアンデッド系はしぶとい。


「【アイスバインド】!」

「【シャイニングランス】!」


 ジェシカさんがボーンドラゴンの足下を氷で固め、逃げられないようにしてから、セイルロットさんの神聖魔法が発動する。一撃のダメージがでかいセイルロットさんの魔法を外れさせるわけにはいかないからな。

 投擲された光の槍は確実にボーンドラゴンの心臓部(心臓なんてないが)を貫く。セイルロットさんのMPもとうとう尽きたようだ。


『グルルララアァァァァァァァ!』


 もはや言葉にならない呻き声を上げ、ボーンドラゴンがガクガクと痙攣するような動きで一歩退がる。

 相手のHPはとうとうレッドゾーンに突入した。一気に決めるチャンスだ。だがもうみんなもボロボロで決め手に欠けていた。

 僕の方はずっと回復飴を舐めながら休憩して、溜めておいたHPも全快に近くなった。MPが少ないので短時間しか発動できないが、やるなら今しかないだろ。


「【加速】!」


 なけなしのMPを使ってボーンドラゴンの懐へと入り込む。直前で【分身】を使い、五人へと分かれて、ボーンドラゴンの正面、左右の前方後方と五角形の位置に回り込んだ。HPはすでに1/16だ。ここで倒せなければ反撃を受けて死に戻るかもしれない。

 それでも残りのスタミナを使って最後の戦技を発動させる。


「【スパイラルエッジ】!」

 

 僕は独楽のように回転しながらボーンドラゴンを斬り裂いて、上方へと登っていく。刃の竜巻が五つ、全方位から骨の竜を斬り刻んで、そのHPを奪っていった。


『ギシャラオアアァァァァァァ!』


 すぐに【分身】を解除する。MPが尽きると気絶状態になるからな。

 甲板に着地するが、スタミナが切れて身体の動きが鈍い。重たい身体に逆らえずに膝をつく。

 見上げたボーンドラゴンのHPはわずかながら残っていた。届かなかったか……。

 額に嵌められたナマコ船長の眼窩が赤く光り、正面で膝をつく僕へ向けて、鋭い牙が並ぶ大きな口が開く。そこには今にも吐き出されんばかりの炎が渦を巻いて──────。


「【ホーリーショット】!」


 スコン、といささか間抜けな乾いた音がして、ナマコ船長の頭蓋骨に一本の矢が突き刺さる。振り向くと、後方に矢を構えたレンが残心を保ちながらドラゴンを睨みつけていた。

 ははっ。いいところ持っていかれたなァ。

 刺さった矢が光を放ち、聖なる光を放つ。


『ウグルガアアァァァァァァァァァァァァ!』


 大絶叫を残しながら、HPが0になったボーンドラゴンがガラガラと崩れ落ちる。光の粒となって消えていく骨の中に、ナマコ船長の頭蓋骨だけがカタカタと揺れながら残っていた。


『……ヨーホー。俺様を倒すたぁ最高にファンキーな馬鹿野郎たちだぜ。だが、俺様はキャプテン四天王の中じゃ最弱。いずれお前たちの前に第二、第三のキャプテンが……』


 嫌な予言を残しながらサラサラとナマコ船長の頭蓋骨が光の粒へと変わっていき、完全に消滅した。


「ふう」


 僕がため息をつくと同時に、辺りにエリアボスクリアのファンファーレが盛大に鳴り響いた。










DWOデモンズ ちょこっと解説】


■フィールド効果について

特定のフィールドには妨害や支援効果のあるものが存在する。また、ある条件下でのみ発動するフィールド効果もあり、それが崩れるとフィールド効果が消滅することもある。フィールド効果を及ぼすモンスターも存在する。





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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