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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■080 骸骨と幽霊船

□書籍版のイセスマで登場するキャラクターとの関連性はありません。あしからず。





 パラパラと未だ降り注ぐ雨の中、僕らは波間に漂うその船に目を奪われていた。

 ボロボロの帆が風に揺れてなびく。大きさは銀星号よりかなり大きい。巨大船といってもいいくらいだ。

 といっても、マストが四本、五本と並んで大きいのではない。一本折れてはいるがマストは三本だ。銀星号と変わらない。

 だが、船のサイズ自体がでかいのだ。よく浮いていられるなと思うが、ボロボロと穴だらけの木造の船が平然と浮かんでいる時点でおかしいので、今更なのかもしれない。


「どうやらアレが目的地みたいだね」

「あ、やっぱり?」


 アレンさんの声に半ば諦めモードで答える。

 幽霊船かー……。またアンデッドなのかね?


「どうするよ、アレン」

「とりあえず近づいてみよう。みんな気を抜かないでくれ。突然攻撃されるかもしれない」


 シルバさんが銀星号を幽霊船へと近づけていく。突然大砲なんか食らったりしたらどうしよう。

 NPCであるシルバさんたちも海に放り投げられてHPが無くなったら死んでしまう。その場合は僕らと同じく港の教会で復活するが、デスペナルティは僕らよりキツいはずだ。

 その点もアレンさんとの契約で決まっているんだろうけど。さすがにボス戦までシルバさんたちを巻き込むことはすまい。

 意外なことに幽霊船は攻撃してくることもなく、すんなりと銀星号を横付けすることができた。

 インベントリから鉤縄を取り出したメイリンさんがブンブンとそれを振り回し、上方に見える幽霊船の手摺り目掛けて投げつける。

 一発で鉤を引っ掛けた彼女は、ひょいひょいと軽い身のこなしで幽霊船の船体を登っていく。速っ。【軽業かるわざ】のスキル持ちなのかな?

 しばらくすると、上から丈夫そうな縄梯子が下ろされた。


「オッケーだよー」


 メイリンさんが顔を出し、腕でまるっ、と輪っかを作る。


「シルバたちはここで待機していてくれ。なにか異変があったり、一時間も戻らなかったら僕らを置いて引き返していい」

「わかった。気をつけろよ」


 アレンさんとシルバさんの会話を背に、まずは僕から縄梯子を登る。安全を確かめるのと、スカートの女性陣が先に登るのを拒否したためだ。ま、気持ちはわかる。

 縄梯子を登りきり、幽霊船の甲板へとよじ登った。

 甲板には人っ子ひとりいない……って、当たり前か。いたら幽霊船じゃないし。


「シロちゃんは周りを警戒してて。あたしはみんなを見てるから」

「わかりました」


 【暗視】スキルのおかげで薄暗い曇天の下でもはっきりと周りが見える。ホントにボロボロだな。いきなり沈没したりしないだろうな? なんとも不気味だ。


『て……ホー……』

「え?」


 気のせいか? なんか聞こえたような……。


「ガルガド! あんた重いんだからアレンとセイルロットが登り切ってからにしなさいよ!」

「わーったよ。ぎゃあぎゃあ言うない!」


 背後からベルクレアさんもガルガドさんが言い争う声が聞こえてくる。やっぱり気のせいか。

 雨は相変わらずパラパラと降っている。小雨程度だが、煩わしいな。

 すたっ、と背後からアレンさんが甲板に飛び降りるなり盾を構えて前に出た。


「敵は?」

「いえ、まだなにも。本当にここにボスがいるんですかね?」

「わからない。でも明らかにこれは何かのイベントだ。『銀の羅針盤』が導いた以上、必ずここになにかがある」

「よいしょっと。アンデッド系ならデュラハン戦で装備を整えてありますし、楽に戦えそうですけどねえ」


 セイルロットさんも甲板の上にやってくる。幽霊船ならアンデッド、と関係付けるのはおかしくない。それならば聖属性魔法を使えるセイルロットさんの独擅場だろう。

 僕たちも聖属性の武器がインベントリにサブウェポンとしてあるし、戦いやすいかもしれないが。

 念のため、聖属性の『シャイニングエッジ』に武器を交換しておこう。精神防御のパラメータが上がるしな。


「しかし大きな船ですねえ。戦艦かっての。走り回れるくらいの広さがあるのは、ここがバトルステージだからかな?」


 セイルロットさんがニヤリとつぶやく。うん、実は僕もちょっとそう思ってた。広い甲板に登れるマスト。ぶら下がった切れたロープに、階段を上った先にある後部デッキ。立ち回るにはおあつらえ向き『すぎる』気がするんだよね。

 バトルステージ『幽霊船』って感じ。


「ふむ」


 不意にアレンさんが剣を抜き、近くの手摺りを斬りつけた。ギィン、という音がして、剣が弾き返される。


「破壊不可能なオブジェクト、か。セイルロットの予想は当たらずとも遠からずってとこかな」


 DWOデモンズに存在するものは、ほぼ破壊が可能である。もちろん、攻撃力や防御力、耐久性といったものが加味された上でのことだが。

 しかし特に重要な物などは破壊が不可能なものがある。無くなるとゲームに支障をきたすものなどがそれだ。それらは破壊不可能なオブジェクトで、身近なものではポータルエリアやエリアの境目にある門などである。これらは絶対に破壊できない。

 おそらくこの船もその破壊不可能なオブジェクトなのだろう。あの手摺りが鋼鉄とかでなければ。


「つまり遠慮なく戦えるってことだね」

「いや、全てが破壊不可能ってわけじゃなさそうだぜ。ほれ」


 セイルロットさんの言葉に、いつの間に上がってきていたのか、ガルガドさんが近くの樽を大剣で破壊する。中は空っぽだった。破壊できるものも混ざっているのか。あのボロボロの帆なんかは破れそうだけど。


「しかし本当に人っ子ひとりいねえな」

「いたらいたで怖いですよ」

「まあ、そりゃそうか」


 ガルガドさんたちが上がってきたので、少し船縁から離れる。後部デッキにある船室へ続くであろう扉は、鍵がかかっているのか開かない。

 扉が破壊不可能なオブジェクトでなければ壊せるかもしれないが……。


『……ちゃ……だ 俺……ゃ海…… 

 ……上……いざ……ず

 ……上で……け知らず 

 ……探し…… ……ホー ……』

「え?」


 わずかに聞こえる小ささで途切れ途切れではあったが、今度はちゃんと聞こえた。


「え、今のなに?」

「なにかの歌みたいだったけど……」


 【スターライト】のみんなに続き、甲板に上がってきたミウラとレンが立ち止まり辺りを窺う。

 次々とみんなが縄梯子を登り切り、最後のウェンディさんが甲板に上がると、突然足下にある板張りの隙間から黒い霧のようなものが漏れ出してきた。


「みんな気をつけろ! 後衛組を中心に円陣を組むんだ!」


 アレンさんの言う通り、バックアタックを避けるため、レン、リゼル、セイルロットさん、ベルクレアさん、ジェシカさんの五人を中心にして、その周りをその他のメンバーで固める。 

 黒い霧は僕らの周りを囲み、船の甲板を埋め尽くすほどに広がっていった。

 そしてその霧は、だんだんと人型の形をとっていく。なんか数が多そうだぞ……。


「やっとお出ましのようですわね」

「ちょっと待って。またなんか聞こえてきたよ?」

「シズカ、あれって踊ってるの?」


 年少組がなんか話してるが、僕も目の前の踊り回る黒い霧にあっけにとられていた。


『俺たちゃ海賊だ 俺たちゃ海賊だ 

 おかの上ならいざ知らず

 海の上では負け知らず 

 お宝探して ヨーホー ホー』


 だんだんと黒い霧が固まり、形を造っていく。舶刀カトラスを腰に差し、海賊のような服を身にまとった骸骨兵士スケルトンの集団に。ご丁寧にいくつかの鬼火をともなって、僕らの周りをぐるぐる回る。


『俺たちゃ海賊だ 俺たちゃ海賊だ 

 どんな奴にも負けやしねえ

 酒と女にゃかなわねえ

 酔わせてくれるな ヨーホー ホー』


 スケルトンの海賊は未だに踊り続け、僕らの周りを回っている。


『ヨーホー! 地獄のステージへようこそ! 俺様はキャプテン・トレパング! 海の悪魔と呼ばれた男さァ!』


 船首甲板の方に、他の骸骨船員とは違う、羽根つきの海賊帽を被ったロングコートの船長らしき骸骨と、その後ろに副長のような服を着た小柄な骸骨が控えていた。


「……トレパング?」

海鼠なまこって意味です」


 僕が眉を顰めていると、背後からレンが教えてくれた。海鼠なまこってあのナマコか?

 ナマコ船長はカラカラと顎の骨を揺らしている。あれって笑っているんだろうか。


「まさかモンスターと話ができるとは思わなかったな……」

「あれってモンスターなんですかね? NPCとかなんじゃ……」

「いえ、あれはモンスターよ。【解析】したから間違いないわ」


 アレンさんの言葉に反論しかけたが、途中でジェシカさんに遮られた。【解析】は【鑑定】の派生スキルだ。モンスターも【解析】できる。


「種族は【スケルトンキャプテン】ね。配下のスケルトンを操れるみたい。知識にないからそれ以外はわからないけど、確実にアンデッドモンスターよ」


 やっぱりアンデッドか。見たまんまだけど。


『生きてる奴らってのが気に食わねェが、歓迎するぜェ! この広い海に比べたらちっぽけなことさァ! 野郎ども、熱烈にお出迎えしてやんなァ!』

『アイアイサー!』


 キャプテン・トレパングの命令により、僕らを取り囲んでいた骸骨船員たちが一斉に舶刀カトラスを抜いて襲いかかってきた。


「【ターンアンデッド】!」


 セイルロットさんが先程から詠唱していた魔法が発動し、僕らを中心に光の魔法陣が広がっていく。

 が、その魔法陣はまるで弾けるように光の粒となって消滅してしまった。


「セイルロット!?」

「違います! 『失敗ファンブル』じゃない! 打ち消された!」


 斬りかかってきた骸骨船員のカトラスを双天剣で受けて真一文字に斬り払う。それでも骸骨船員は倒れず、さらに剣を振るってきた。三、四回斬りつけて、やっとバラバラになって甲板に落ちる。

 おかしい。

 通常、スケルトンなどのアンデッドは【リボーン(小)】というスキルを持っていて、HPが0になっても蘇る性質を持つ。これは一回こっきりだが、非常に面倒くさい。復活まで間があるけどな。

 ところがアンデッドに聖属性の武器や魔法でトドメを刺すと、この【リボーン】が発動せず、倒したら一回で光の粒になる。そのはずなのだ。リビングアーマーもそうだった。

 だけどさっきの骸骨船員は光の粒になっていない。つまりそれは……。


「聖属性の武器がきいてない?」

『正解だぜ、白いのォ! この船上では聖属性は打ち消されてしまうのさ! 卑怯な手は使わずに、正々堂々とりあおうぜェ!』


 カラカラとナマコ船長が笑う。この船のフィールド効果は卑怯じゃないのかよ!?


「【ツインショット】!」


 レンが同時に放った二つの矢が、ナマコ船長の眼窩に深々と二本とも突き刺さる。お見事といいたいが、意外と残酷なことをするね、お嬢様。


『ぐべらっ!? オオッ!? 目が!? 俺様の目がァァァ!?』

『副長……あっしらには元から目はねえですよね?』

『しっ、黙ってろ!』


 大げさに悶える船長の横で、副長と思われる骸骨船員と下っ端骸骨船員がぼそぼそと話しているのが聞こえた。なんだこのコントは?


「【ファイアボール】!」


 ゴウッと、骸骨船員たちが固まっているところへリゼルの放った火の玉が炸裂する。数体の骸骨船員がまとめてバラバラになった。もちろん破壊できない船体はなんともない。

 ふと、破壊不可能なオブジェクトを盾にすれば無敵なんじゃ、と思ったが、ほぼ船体のみなのでせいぜいマストの裏に隠れるぐらいしかできない。なんか破片とかあればいいのに。


「【風塵斬り】」


 僕が巻き起こした小さな竜巻に二、三体のスケルトンが吹き飛ばされてバラバラになる。

 あれっ? そういえば……おかしいな。


「なんか変」


 『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』を振り回していたリンカさんが小さくつぶやいた。おそらく僕と同じ疑問を持っているのだろう。


「確かに変ですわね。スケルトンは一度バラバラになると、しばらくして復活します。なのに先程からバラバラになった骨が、一向に復活する気配がありません」


 と、薙刀を振るいながらシズカも思った疑問を口にする。

 そうなのだ。スケルトンが復活するには多少時間がかかるといっても、数秒から数十秒ってところのはず。しかし、僕が最初に倒したスケルトンの骨はバラバラになったままで、いまだに復活する兆しを見せない。

 おかげで足下は骨だらけで、死屍累々といった雰囲気を醸し出している。


「全部倒した後に一気に復活するとか?」

「うわっ。やだなぁ、それ」


 ミウラは冗談で言ったのだろうが、想像してしまい、思わず声が出た。初めからやり直し、なんて嫌過ぎる。


「いや、それよりもだ。第三エリアのボスは本当にあのキャプテンなんとかなのか? はっきり言ってあんまり強そうには見えねえんだが」


 ガルガドさんが大剣を振るいながら別の疑問を呈した。確かに両目に刺さった矢を抜いている、あの骸骨船長が第三エリアのボスとはちょっと迫力に欠ける。ガイアベア、ブレイドウルフに比べるとどうもなぁ……。


「仕掛けてみるか」


 アレンさんが剣を天に翳し、剣に付与された特殊魔法を発動させる。


「【メテオ】!」


 空が斬り裂かれ、ポッカリあいた切れ間からバスケットボールほどの火の玉がナマコ船長目掛けて落ちてくる。

 それを見た副長がナマコ船長を見捨てて真っ先に逃げ出した。忠誠心無いなあ!


『副長、手前ェ!? アッ、アイェァアアア────────ッ!?』


 大爆発とともにまともに【メテオ】をくらって粉々に砕け散るナマコ船長。驚くくらいあっさりと倒してしまったんだが。


「え、これで終わり?」


 骸骨船員に回し蹴りを食らわしたメイリンさんがポカンとした表情でつぶやいた。僕らを取り巻いていた骸骨船員もほとんど倒してしまっている。まさか本当にこれで終わり……か?


『ヒャッヒャッヒャッ! やってくれるじゃねェか、小僧ども! このトレパング船長をこんな目に合わせるたあなァ! さすがの俺様も肝を冷やしたぜェ!』


 メテオが落ちた場所に、首だけとなってナマコ船長は存在していた。しぶとい。さすがアンデッドとでも言おうか。


『……副長、あっしらに肝は……』

『しっ、黙ってろ!』


 さっき逃げ出した副長が下っ端骸骨船員と小声でまたしてもぼそぼそと話している。恨みがましくナマコ船長は副長を睨みつけていたが、やがて頭蓋骨をこちらへと向けた。頭だけで器用なことするな……。


『どーれ、そんじゃ本気で相手をしてやるとするか! 野郎ども、いくぜェェ!』

『アイアイサー!』

「なにっ!?」


 甲板に転がっていたバラバラの骸骨がカタカタと動き出し、ナマコ船長の頭蓋骨の方へと集まっていく。

 砕けた骨と骨が互いにくっつきあい、さながら群体のようにさらに大きな骨へと変化していった。そしてそれはブロックが組み上がるみたいに、巨大なスケルトンへとその姿を変える。

 鎧のような装甲を持ち、手には骨でできた棍棒を持つ、高さ五メートルはある巨大なスケルトンだ。ナマコ船長の頭蓋骨が胸骨の真ん中でカタカタと笑っている。

 おいおい、合体するとか反則だろ……。


「『デスボーン・ジャイアント』……」


 【解析】スキルを持つジェシカさんのつぶやきが僕の耳に聞こえてきた……。










DWOデモンズ ちょこっと解説】


■【リボーン】について

多くのアンデッドは【リボーン】というスキルをもっている。【リボーン】にも【リボーン(小)】や【リボーン(高速)】などの種類があるが、聖属性の攻撃でトドメを刺すとこの効果が無効になるのは変わらない。基本的にモンスターが持つ【リボーン】と、【夜魔族ヴァンパイア】プレイヤーのもつ種族スキル【再生】は別物である。



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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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