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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■078 デュラハンパーツ





 デュラハンを倒した僕らはさっそくステータスチェックとインベントリの確認をする。本来の目的である『銀の羅針盤』が手に入ったのか確認するためだ。

 ステータスの方はレベルが31になった。熟練度もそこそこ上っている。あ、【見切り】が最大値になって☆が付いてる。上位スキルに変換できるぞ。確か分岐なしで【心眼】だったか。

 おっとそれよりもドロップチェックだ。

 『デュラハンパーツ』が三つ。……なんのパーツなんだろう。そしてなにに使うんだろう。鎧を造れってことかね?

 『亡者のダガー』がひとつ。あー……これ、リビングアーマーも落とす錆びついた使えないダガーだ。ハズレだな。

 『シルバーチケット』がひとつ。おっ! これは嬉しい。だけど僕はガチャ運悪いからなぁ。

 そして『銀の羅針盤』。


「よし!」


 目的のものは手に入った。インベントリから取り出してみると、銀色に輝く直径十センチほどの羅針盤が現れた。

 見ると普通の方位磁針と違って針が一定しない。ゆっくりとくるくる回っている。これは第三エリアのボス近くに行かないと定まらないのだろうか。


「おっ、シロ君も手に入れたのか」


 横を見るとアレンさんも『銀の羅針盤』を持っていた。僕らだけではなく、他にミウラ、レン、セイルロットさん、ベルクレアさんも手に入れていた。十三人中六人か。ほぼ半分がドロップしたらしい。比較的手に入りやすいアイテムだったのかな。


「まあ、十日に一回しか現れないモンスターだし、時間も限られるからね。一ギルドにひとつあれば充分なら、残りは市場に回すのが一番だろうな。デュラハンに会えなくて手に入らないプレイヤーも助かるし」

「始めは高額で売れるかもしれませんね」

「そうだね。情報公開すればすぐに値崩れするだろうけど」


 僕らは『銀の羅針盤』が手に入ったら、デュラハンの情報を隠すつもりはなかった。ただでさえこの次は十日後なのだ。さすがにそれはフェアじゃない。

 とはいえ、その十日の間に第三エリアのボスを探し出してやるつもりではいたが。倒せるか倒せないかは別として。


「さて、こうなると次は第三エリアのボスだけど……君たちはどうする?」


 アレンさんがレンに話しかける。【スターライト】は第三エリアのボスに挑むつもりなのだろう。【月見兎】はどうする? と聞いているのだ。


「海に出るんですよね?」

「うん。第三エリアのボスはやはりそこにいると僕は思う。大型じゃないけど僕らは船を一隻持っているし、もう一パーティくらいなら乗れるけど……」

「連れてってもらえるんですか?」

「ここまできたら、一緒に行こうよ。ブレイドウルフの時と同じく、一回目だし負けるかもしれないけど」


 そりゃそうだ。このエリアで初のボス挑戦なのだ。あっさり倒せる方がおかしい。


「一応挑戦するのは三日後としている。当然デュラハンよりも強い相手だろう。簡単には勝てないと思う。それでも勝つつもりで行くけどね」

「僕らが行って足でまといにならないですかね?」

「今の戦いを見て誰も足でまといとは思わないよ。それにボスと戦うのはパーティ別かもしれないし」


 僕が疑問を呈するとアレンさんは笑いながらそう答えた。そうか。デュラハン戦は一緒に戦えたけど、ガイアベアもブレイドウルフもギルドごとの戦闘だったっけ。

 となるとアレンさんたちが戦ったあとに僕らも戦うか、それとも引き返すかってことになるかもしれないな。


「もし第三エリアのボスがレイドボスなら、みんなで戦うってことですか?」

「もし第三エリアのボスがレイドボスなら、二パーティで倒せるとはちょっと思えないけどね」


 むう。それもそうか。もしも第三エリアのボスがレイドボスなら、もっと多人数の戦力とりあえるだけの強さを持っている気がする。三十人くらいとか?

 グラスベンを襲ったグリーンドラゴンはそれぐらいの強さだったよなあ。ブレス一発で何人も死に戻りしてたし。

 レイドボスであろうとなかろうと、どっちにしろ確認のために同行させてもらうのは悪いことではないだろう。

 レンもそう考えたらしく、アレンさんの提案を受け入れた。


「ではそういうことで。申し訳ありませんがそろそろ時間ですので、わたくしたちはログアウトさせていただきます」


 ウェンディさんの言葉にウィンドウの時計を見ると、リアル時間で十時半だった。十一時までOKとはいえ、年少組はもう寝た方がいいだろう。


「では失礼致します」

「みなさん、お休みなさい」

「楽しかった! じゃあね!」

「お休みなさいませ」


 保護者であるウェンディさんがログアウトすると同時に、三人も強制ログアウトされる。

 あの三人がいなくなると急に寂しくなるな。


「さて。ついに第三エリアのボスとご対面か。どんなモンスターなのかな」

「あたしはクラーケンじゃないかと思ってるけど」

「いやいや、メイリン。それはストレート過ぎる。ここはひねってケルピーとかだね」

「セイレーンってのもあるかもよ? 【耳栓】スキルが必要かしら?」


 【スターライト】のみんなが次の戦いに思いを馳せているのをよそに、僕は手に入れた『シルバーチケット』を取り出した。


「あ! シロ君、チケット手に入れたの!?」


 目ざとくリゼルが寄ってくる。う。いま回すとリゼルに運を吸い取られそうな気が。しまったな、こっそりとあとで回すんだった。


「へえ、デュラハンはガチャチケットも落とすんですね」

「なにが出るかな? 早く回してよ!」


 セイルロットさんもメイリンさんも寄ってきた。今日は回しません、とは言えない雰囲気だ。くそう。

 ピリリッ、とチケットを切り取り線から切り取ると、三頭身のデモ子さんがポンッと現れた。チケットが銀色の大きいコインに変わる。


『チケットをお使いいただきありがとうですの! 【アイテム】【武器・防具】【スキル】のうち、どれかを選んで下さいですの!』

「うーん……。【アイテム】……いや、【スキル】で!」

『了解ですの! 【スキル】ガチャ、しょ〜か〜ん!』


 目の前にデカいカプセルトイの機械が現れる。投入口にコインを入れて、ガチャリガチャリと一回転させた。

 大きなカプセルがコロンと転がって、中身が飛び出してきた。

 野球ボールほどの水晶球に拳を握りしめたアイコンが浮かんでいる。握りしめた拳から炎のような揺らめきが浮かんでいるな。


「うわっ! 【魔拳】だッ!? すごい!」


 覗き込んだメイリンさんが叫ぶ。【魔剣】? いや、この場合【魔拳】か。

 インベントリに入れると確かに【魔拳】と出た。星二つのスキルじゃないか! こりゃレアスキ、ル……。

 スキルの説明を読む僕のテンションが下がっていく。

 【魔拳】は格闘スキルである。拳に魔力をまとわせて、属性攻撃を生み出すスキルらしい。相手に合わせて属性を変えることのできる強力なスキルである。それはいい。

 問題はその下の使用条件。


 『扱えるのは【拳士】の称号を持つ者のみ』


 という、部分である。


「……メイリンさん、【拳士】の称号ってどうすれば取れるんでしたっけ?」

「【格闘の心得】と【拳撃】をカンストすれば取れるよ」


 はい、アウトー。今からこのスキルのために【格闘の心得】と【拳撃】をカンストなんかしてられないってーの。おまけにこのスキルを使うときは当たり前だけど、双剣スキル使えないし。

 くそう。ダメだ! やはり僕のガチャ運は周りに吸い取られている!

 周りの人たちが欲しいアイテムを手に入れてしまう呪いにかけられているんだ!

 今度回す時は周りに誰もいない時に回そう……。


「……メイリンさん、これ買います?」

「いいの!?」


 いいのもなにも思いっきり期待した目で見てたよね、あなた。絶対にこの中でこのスキルを装備できるのは自分だけってわかっていた目でしたよ、こんちくしょう!

 【魔拳】の相場値段を調べようとしたが、アホみたいな金額をつけている馬鹿どもしかいなかったので、平均的な星二つの値段でメイリンさんと交渉して金額を決めた。

 僕が使えそうなスキルが手に入ったら優先して回してもらう約束をしたし、大金も入ったからよしとしとくか……。……いいのかそれで?


「シロ君がガチャ引くと周りの人が欲しいアイテムが出るよね」

「好きでやってんじゃないやい」


 痛いところを突いてきたリゼルを睨みつける。呪いをかけたのはお前か?


「マジか。俺もチケット出たらシロに回してもらおうかな」

「幸運を振りまくウサギ……。スノウと同じね。【豪運】スキルとか持ってる?」


 ガルガドさんとジェシカさんが勝手なこと言ってやがる。幸運を振りまいた挙句、僕が不幸になるんじゃ意味がないからね! 

 本当に【幸運】とか【豪運】とか手に入れた方がいいかもしれん……。



          ◇ ◇ ◇



「結局この『デュラハンパーツ』ってなんなの?」


 次の日、再び集まった【月見兎】の僕らは手に入れたアイテムについて話し合っていた。

 僕の手に入れた『デュラハンパーツ』は三つ。『デュラハンパーツ(右腕部)』と『デュラハンパーツ(胸部)』、そして『デュラハンパーツ(右脚部)』だ。

 デュラハンのパーツらしいが、インベントリから取り出してみるといささか小さい。まるで子供のデュラハンのパーツみたいだ。


「シロさんが『右腕』『胸』『右脚』。私が『左肩』と『左脚』。ウェンディさんが『腹』と『左腕』。リンカさんが『腰』。ミウラちゃんが『右肩』と『胸』。シズカちゃんが『右腕』と『左腕』。リゼルさんが『左脚』……。何個か被ってますね」

「頭部がないけど」

「『デュラハンパーツ』なんだから頭があったらおかしい。それよりこれ繋いでみない?」


 リンカさんがそう言い出した。まあ、見るからに組み立てろって造りだしな。『デュラハンパーツ』と言いながら中身は空洞ではなく、なにやら機械のようなものが詰まっているし。

 『胸』『腹』『腰』『右肩』『左肩』『右腕』『左腕』『右脚』『左脚』の九パーツを繋げると、三頭身……頭がないから二頭身? いや、頭があったら三頭身……まあ、そんな感じの鎧が出来上がった。

 ピッ、とウィンドウが開く。


「『アシストデュラハン』? ああ、お手伝いロボットみたいなものか」


 DWOデモンズでは生産や店の手伝いに使役したモンスターを使うこともできる。これもその一つなのだろう。


「この場合ゴーレムと言うのでしょうが……。ギルマスによる登録が必要のようですね。お嬢様、お願いいたします」

「えっと……所属は【月見兎】、と。名前はデュラハンだからデュラちゃんでいいかな」


 おい。なんだその安直な名前は。スノウの時に僕の命名を散々却下したくせにさあ。

 じゃあ他になにかいい名前はあるかと言われれば僕も大して思い浮かばないので黙っておくけど。


「デュラちゃん【起動】と」


 レンがウィンドウにタッチすると、床に寝ていたデュラハン……デュラがガシャン、と起き上がった。

 そのまま立ち上がり、深々と頭を下げる。頭無いけどな。


「さすがに話はできないか」


 その通り、というようにデュラは頭……というか胴体を小さく前後に揺らす。


「しかし、我々の言葉は理解しているようです。ギルド内でしか使えないみたいですが、サポート要員としては充分かと」

「だけど頭が無いのはなんか寂しいなあ。あ! スノウを乗っけてみようか」

「きゅっ?」


 ミウラがテーブルの上で丸くなっていたスノウを抱き上げた。デュラの首は皿のようにボコッとへこんでいて、スノウがそこに入るとちょうど首だけが鎧騎士に生えたようにも見える。兎騎士爆誕。顔とボディの比率がおかしいが。


「なんか昔のロボットアニメであんな風に合体するのあったよね」


 リゼルが耳打ちしてくるが、頭のパーツが分離合体なんてそんな作品、いろいろあってどれだかわからない。っていうか、なんでそんなこと知ってるんだ。ヨーロッパじゃ日本の古いアニメが流れてるんだっけか?


「バランスが悪いですわね」

「そのうちちゃんとしたサイズの頭を作ってあげましょう」


 いや、普通に鎧の兜でも乗っけておけばよくない? だいたいちゃんとしたサイズの頭って、兎の?

 シズカとレンの会話にツッコミを入れたいところだが、ワイワイとはしゃいでいるところに水を差すこともないか。


「きゅっ!」


 首の上にいるスノウが前足でたしたしと叩くと、デュラがガッシャガッシャと前進する。従わされてる……? 意思疎通できるのか、あいつら。というか、スノウの方が上なのかよ。


「きゅー!」


 スノウはデュラに乗ってご満悦だ。そいつはお前の乗り物じゃないからな?

 ガッシャガッシャと歩き回るデュラはけっこう力持ちで役に立った。暇な時は桟橋で釣り竿を垂らして魚などを釣り、ギルドのインベントリに入れておいたりしてくれる。

 そのうちデュラハンを倒した他のギルドにも、このアシストデュラハンは広まっていくんだろうなあ。オリジナルの改造をするところも増えてきそうな気もする。

 僕はデュラに【調合】を手伝ってもらいながら、そんなことを考えていた。

 第三エリアのボスがどんな奴かは知らないが、ポーションが多くて困ることはないだろ。グリーンドラゴンのときみたいに一撃で死に戻りとかじゃなけりゃ……。いや……エリアボスだしなぁ……しそうな気もするなあ。グリーンドラゴンより弱いってことはないだろうしなあ。

 とにかく準備だけはしておこうと僕は【調合】を続けた。







DWOデモンズ ちょこっと解説】


■称号について

いろんな条件をクリアすることで得られる。スキルやアイテムの中には特定の称号がなければ使えない物もあり、また、強制的に会得してしまうものや、【前科者】のように外せないものなども存在する。基本的に称号が直接的に能力値に影響を与えることはないが、NPCなどの好感度に影響を与えることはある。DWOデモンズにはゲームにひとつだけというユニークスキル、ユニークアイテムなどは存在しないが、称号には存在する。



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