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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■076 新月の晩に





 DWOデモンズではリアルな一日に三回夜が来る。

 僕らが待ちかまえていた新月の晩は、リアル時間でいうと午後八時半から午前零時までの三時間半。

 これが一日前後にズレてたら真昼間か早朝だった。十日に一度、さらにこの時間帯では発見されることがあまりなかったのも頷ける。

 明日は日曜なので、レンたち年少組も深夜十一時までは大丈夫らしい。つまりDWOデモンズでは午前三時ってことだが。


「出ませんね」

「まだ九時だからね。真夜中ってほどじゃないし」


 隣のシズカに答えながら、僕は寄ってきたロウソク型のモンスターであるキャンドラーを斬り伏せる。ドロップ品は『ワックス』の元になる『白蝋』。またか。

 ワラワラと現れるキャンドラーにみんなウンザリしていた。

 僕らがいるのは【廃都ベルエラ】。集まったメンバーは僕ら【月見兎】と【スターライト】のフルメンバーだ。

 僕ら【月見兎】はほとんどのギルドポイントを使い、パーティメンバーの拡張をして、リンカさんを含めた七人パーティになった。

 そしてそれぞれがそのリンカさんの造ってくれた聖属性の武器を手にしている。

 僕の手の中にも【双天剣 シャイニングエッジ】という御大層な名前の双剣があった。

 二本で【シャイニングエッジ】という名を持つこの双剣は、稀に敵に与えたダメージの一割を回復でき、悪霊系であるレイスなどの精神攻撃からある程度守ってくれるという。

 その代わり普通のモンスターに対する攻撃力は双氷剣などに劣るが。しかし、相手がアンデッド系ならこっちの方が断然いい。



─────────────────────

【双天剣 シャイニングエッジ】 Xランク

 ATK(攻撃力)+95

 耐久性46/46


■聖なる力を宿した双剣。

 死霊系の精神攻撃を緩和する。

□装備アイテム/短剣(双剣)

□複数効果あり/二本まで

品質:F(最高品質フローレス)

■特殊効果:

 稀に敵に与えたダメージの10%を回復。


 【鑑定済】

─────────────────────



 とはいえ、先程から襲ってくるのはキャンドラーばかりで、アンデッドであるリビングアーマーがほとんど出てこないけど。


「集めた情報だと、深夜になるにつれリビングアーマーが増えるんだそうです。かなりの数が現れるみたいですよ」


 キャンドラーはアンデッドではないので後方待機をしていたセイルロットさんが説明してくれた。


「ただ待ってるのって暇だなー」


 ミウラがボヤく。僕らは廃墟の一角を占拠し、近づくキャンドラーやリビングアーマーを撃退していた。

 崩れた建物の屋根にはベルクレアさんとレンが周辺を監視していた。彼女たちは遠くを見渡せる【鷹の目】と、夜でも昼間のように見ることができる【暗視】のスキルを持っている。ちなみに【暗視】なら僕も持っているが、あまり熟練度が高くないので「昼間のように」とまではいかない。せいぜい夕方ぐらいだ。


「シロ兄ちゃん、スノウを連れてきたらよかったのに」

「お前は全滅エンドにしたいのか」


 ミウラがアホなことを抜かしている。あいつを連れてきたらこんな暗闇の中、どうなるかわかったもんじゃないぞ。

 【暗視】スキルがないと、新月の今日は真っ暗闇だ。もちろん戦闘になれば【ライト】の魔法を発動させたりするわけだが、実は今のところ必要なかったりする。

 なにせでっかいロウソクのモンスターがそこらにウロウロしているからねぇ。

 キャンドラーやリビングアーマーは察知能力が低いモンスターなので、隠れていれば意外と見つからない。『聖水』を使えばさらに確実なのだが、それでデュラハンが出なかったら最悪なので使ってない。

 キャンドラーは暗闇の中じゃ目立つから不意打ちされることもないので正直倒すのは楽だ。

 が、いささか数が多い。【カクテル】のギムレットさんが『白蝋』をたくさん持っていたのも納得だ。


「ホントにデュラハンなんか出るのかな?」

「それを確認するために来てるんだろ。デュラハンかどうかはわからないが、大きなリビングアーマーが出たのは確からしいし」


 メイリンさんの疑問にアレンさんが答える。ギムレットさんの話だと、闇の中にボンヤリとした大きな鎧型モンスターを見た、という。そしてその足跡も確認したらしい。存在しているのは確かなんだろう。

 ただ、それがデュラハンとは限らないってのがなあ。


「出たとしてもこうもキャンドラーが多いと戦闘の邪魔だろ。少し間引いてくるか」

「あ、あたしも行くー」

「私も行きます」


 暇を持て余したガルガドさん、ミウラ、リゼルの三人が連れ立って闇の中へ消えていく。まあキャンドラーぐらいならどうということもないと思うけど、メインの前に余計な力を使うのもどうかね。


「デュラハンが出たら、まずアレンさんの『流星剣メテオラ』で一撃かましますか?」

「うーん。メテオの魔法は『モンスター』ってくくりじゃなくて範囲でロックオンするから、下手するとキャンドラーたちに落ちるかもしれないんだよねぇ。できれば無駄撃ちはしたくない。それにメテオなんかかましたら周りのモンスターたちが全部寄ってくるんじゃないかなあ」


 ありゃ、そうなのか。かといって使わないのももったいない。おまけにメテオは発動に時間がかかる。前衛であるアレンさんが戦闘中に抜けるのはキツいんだけどな。

 ちょこちょこと寄ってくるキャンドラーや、たまにくるリビングアーマーを倒し続けて数時間。リアル時間で午後十時になろうとしている。あと一時間で出てくれないと、レンたち年少組、そしてウェンディさんもログアウトしてしまう。【月見兎】はリンカさんとリゼル、そして僕と、半数以下で戦わねばならない。さすがにそれはキツい。

 午後十時になった。ゲーム内では午前零時である。てっぺんを回ったが果たして……。


「きた……」

「え?」


 小さなその声に僕ら全員が反応する。声は頭上から。屋根の上にいるレンとベルクレアさんからだ。


「いるわ。明らかにリビングアーマーよりかなり大きな個体が。それに……」

「首が、ありません」


 っし! 思わずアレンさんと僕は拳を握る。間違いない。デュラハンだ。ギムレットさんの情報は間違いじゃなかった。


「メイリン、ガルガドたちに戻ってくるように伝えてくれ。ベルクレアとレンちゃんはそのまま監視を。他のみんなは戦闘の準備だ」


 建物の陰からレンたちの監視している方向へ僕も視線を向ける。熟練度の低い【暗視】だからか見えにくいが、確かにリビングアーマーより大きな鎧がゆっくりと廃墟をさまよっているのがわかった。首はない。間違いなくあれがデュラハンだろう。

 大きな大剣を片手に持ち、さらに大きな盾をもう片方の手に持っている。動くたびに関節の隙間から黒い霧のようなものが漏れ出していた。

 アンデッドは高い再生能力を持つが、聖属性の武器に弱い。あの硬そうなデュラハンにどれだけ効果があるかわからないが、通常の武器よりはマシなはずだ。

 しばらくするとガルガドさんたちも戻り、全員が揃った。


「よし、じゃあ初手はセイルロットの【ターンアンデッド】で。おそらく抵抗値の高いデュラハンには効き目が薄いだろうけど、周りのリビングアーマーを一掃できる。続けてジェシカとリゼルさんの火属性魔法でキャンドラーを。周りの奴らが片付いたら前衛組は突撃、後衛組は後方支援を」


 アレンさんが作戦を伝える。前衛組はアレンさん、ガルガドさん、ミウラ、ウェンディさん、リンカさんだ。

 後衛組はベルクレアさん、ジェシカさん、セイルロットさん、レン、リゼル。

 残る僕、シズカ、メイリンさんは遊撃組となる。時に攻撃、時に囮、時にみんなのフォローと臨機応変に動く。特に僕は【分身】を使えば複数のことを同時にこなせるからな。そのためインベントリには回復ポーションから相手の妨害アイテムまで、いろいろ取り揃えている。

 前衛組がそれぞれインベントリから僕の作った回復飴を取り出して口に含み、顔を歪ませた。苦いからねぇ、それ。


「準備完了。ではいきますよ!」


 セイルロットさんがメイスの代わりに手にした白い杖をデュラハンのいる方向へと翳すと、白い光を放つ魔法陣が、杖の正面とその先にいるデュラハンの周囲に展開した。


「【ターンアンデッド】!」

『ギギッ』


 白い光の柱が魔法陣から放たれる。その光を浴びたリビングアーマーたちは、たちまち動きが鈍くなり、やがて耐えられなくなったように一体、また一体と消滅していく。

 すごい。一撃じゃないか。かなり熟練度の高い【ターンアンデッド】だ。ちょっとセイルロットさんを見直した。

 しかしセイルロットさんの【ターンアンデッド】は、リビングアーマーには効果覿面こうかてきめんだったが、その反面キャンドラーにはなんの効果もなかった。残念ながらアレンさんの予想した通り、デュラハンにもである。

 おそらくデュラハンのレベルは、セイルロットさんの【ターンアンデッド】が及ぼすレベル域よりも上なんだろう。

 リビングアーマーがいなくなったところへ今度はジェシカさんとリゼルの火魔法が放たれた。


「【ファイアバースト】!」

「【ファイアストーム】!」


 どちらも広範囲攻撃の火属性魔法だ。燃え広がるような炎の波がキャンドラーたちを襲ったあと、とどめとばかりに火炎の嵐が吹き荒れる。


『ギョアアアア……!』


 不気味な断末魔を残してキャンドラーたちが次々に溶けていく。やがてそれは光の粒となって夜の闇に消えていった。

 リゼルたちの攻撃範囲にはデュラハンもいたはずなのに、ダメージをくらった様子はない。ブスブスと小さな煙を立ち昇らせるだけで、ケロリとしている。鎧に火魔法は効果が薄いか。


「前衛組、突撃!」


 アレンさんの言葉に従い、ガルガドさん、ミウラ、ウェンディさん、そしてリンカさんがデュラハンに向けて走り出した。


「あたしらは倒し損ねた周辺のザコたちをやるよっ!」


 そう言ってメイリンさんも飛び出す。先ほどの火属性魔法でだいたいのキャンドラーは倒したが、まだしぶとく残っているものや、新たに寄ってきたものがいる。そいつらを駆除し、アレンさんたちへと寄せ付けないようにしなければ。

 メイリンさんに続いて僕とシズカも廃墟の建物から駆け出す。アレンさんたちとは別の方向へ向かい、そこにいたキャンドラーたちに攻撃を仕掛けた。


「【正拳突き】!」


 メイリンさんの戦技がキャンドラーに炸裂する。先ほどの火炎攻撃でダメージを受けていたのだろう、くらったキャンドラーは一撃で光の粒となって消えた。


「【バーンスラスト】」


 炎をまとわせたシズカの薙刀がキャンドラーを貫く。シズカの薙刀は聖属性だが、これは戦技自体が火属性の技なので関係ない。こちらのキャンドラーも一撃で消えた。僕も負けてはいられない。


「【アクセルエッジ】」


 左右の連撃をキャンドラーに叩き込む。斬り裂いた相手をすり抜けながら次の相手を見つけ、今度は【スラッシュ】で斬り付ける。

 『シャイニングエッジ』を一閃すると二つの切り裂いたエフェクトが発生した。お、珍しく【二連撃】のスキルが仕事をしたな。

 今回の僕のスキル構成は、



■使用スキル(9/9)

【順応性】【短剣術】【見切り】

【敏捷度UP(中)】【二連撃】

【気配察知】【暗視】

【加速】【分身】


■予備スキル(10/12)

【調合】【セーレの翼】

【採掘】【採取】【鑑定】

【伐採】【毒耐性(小)】

【隠密】【蹴撃】【投擲】



 となっている。

 【敏捷度UP】のスキルはこのあいだやっと(小)から(中)になった。

 あまり発動しない【二連撃】を入れるか【投擲】を入れるかで迷ったが、鎧相手には手裏剣も効果がなさそうだし、一応【投擲】がなくてもアイテムを投げることはできるので、【二連撃】にした。少しでも熟練度を上げたいし。

 視線をデュラハンの方へ向けると、アレンさんたちとの戦闘が始まっていた。


「いくぜぇ! 【大切断】ッ!」


 ガルガドさんがデュラハン目掛けて飛び上がり、手にした大剣を振り下ろす。それをデュラハンは手にした大きな盾で防ぎ、ガルガドさんの巨体ごと払いのけた。


「【ソニックブーム】」


 ウェンディさんが剣を振ると、剣先から三日月のような衝撃波のエフェクトが発生し、デュラハンを襲う。中距離から攻撃できる【剣術】スキルの戦技、【ソニックブーム】だ。

 風のような速さでデュラハンに向かった衝撃波だが、なんでもないことのようにやつはそれを一刀両断にする。

 おいおい【ソニックブーム】は一応風属性の魔法、【ウィンドカッター】と同じくらいの威力があるはずなのに。


「【ヘビィインパクト】」


 巨大化させた【魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)】を今度はリンカさんがデュラハンに叩き込む。

 素早く構えた盾に阻まれたが、ハンマー系の衝撃までは防げない。少しだけHPが減ったな。


『ギギッ!』

「おっと」


 よそ見をしていた僕に槍を持ったリビングアーマーが襲いかかってきた。さっきの【ターンアンデッド】でここらのリビングアーマーは全滅させたと思っていたが、どこからかまた寄ってきたのか。

 こいつらをさっさと片付けて僕もデュラハンを攻撃しないと。それなりにデュラハンに攻撃を加えないとドロップアイテムが手に入らないしね。

 『銀の羅針盤』とやらがいくつドロップするのかわからないが、人数を多くして確率は上げておいた方がいい。ダブったらあとで売ればいいわけだし。第三エリアのボスに辿り着けるキーアイテムだ、高く売れるに違いない。


「【十文字斬り】」

『ギギャッ!』


 リビングアーマーは聖属性に弱いアンデッドだ。リンカさんに造ってもらった『シャイニングエッジ』があれば、倒すのは難しくはない。

 槍を持ったリビングアーマーを十文字に斬り捨てて、僕は【加速】を発動。アレンさんたちが取り囲むデュラハンへと向かった。






DWOデモンズ ちょこっと解説】


■戦技の属性について

基本的に武器に付与してある属性がその戦技の属性となるが、いくつかの戦技はそれ自体に属性がついているものがある。炎をまとう【槍術】戦技の【バーンスラスト】、風で相手を吹き飛ばす【短剣術】戦技の【風塵斬り】などがそれに当たる。武器に属性が付いている場合、武器と戦技、二つの属性が効果を及ぼすことになる。



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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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