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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■069 虎と兎





「【加速】」

『ウガッ!?』


 八人に【分身】した僕が、一斉にサイクロプスへと襲いかかった。サイクロプスは手にした太い棍棒を地面へと向けて振り下ろすが、超スピードで動いている僕にはその動きがゆっくりに見える。当然、それを躱すことはわけない。

 サイクロプスの足首を、太腿を、腕を、肩を、胸を、首を、頭を、目を、それぞれ手にした武器で切り裂いていく。


『ウガガッ!』

「【流星斬り】」


 一気に戦技を叩き込む。左右交互に五連撃。星の形に切り刻み、最後は中心に刃を突き立てた。

 【分身】した八人のうち、胸を攻撃した一人のところからパキパキパキッ、と氷が発生し、あっという間にサイクロプスを覆い尽くしていく。

 やがて完全に氷はサイクロプスの巨体を包み込み、単眼の巨人は氷像と化した。


「リゼル!」

「【ファイアボール】!」


 大きな火の玉が氷漬けになったサイクロプスに激突し、氷像になった敵を粉々に砕いた。バラバラになった氷塊が光の粒になって消える。


「ふう」


 【分身】を解除する。インベントリからすぐにハイポーションを取り出し、一気に飲み干した。

 【分身】の弱点は敵からの攻撃がノーダメージだったとしても、分身の際に減ったHPは戻らないから回復が必要ってことだよなあ。

 二人なら1/2、三人なら1/4、四人なら1/8と一人増えるごとに半分になり、単純に考えて、八人に分身すればHPは1/128だ。これは【分身】を解除しても戻らない。

 【分身】を解除した直後に襲われたらアウトである。なので、すぐさまHPを回復しておく必要があるのだ。攻撃力が八倍になるのは嬉しいけど、その度にハイポーション消費ってのは効率がいいのか悪いのか。


「やったね。今のはかなり楽に倒せたんじゃない?」

「運良く氷結効果が発動したからね」


 僕は手にした新しい武器を眺める。リンカさんが【魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)】で造ってくれた新しい武器だ。


─────────────────────

【双氷剣・氷花】 Xランク

 ATK(攻撃力)+103

 耐久性42/42


■氷の力を宿した片刃の短剣。

□装備アイテム/短剣

□複数効果あり/二本まで

品質:F(最高品質フローレス

■特殊効果:

 15%の確率で敵を一定時間氷結。


 【鑑定済】

─────────────────────


─────────────────────

【双氷剣・雪花】 Xランク

 ATK(攻撃力)+103

 耐久性42/42


■氷の力を宿した片刃の短剣。

□装備アイテム/短剣

□複数効果あり/二本まで

品質:F(最高品質フローレス

■特殊効果:

 15%の確率で敵を一定時間氷結。


 【鑑定済】

─────────────────────


 【双氷剣・氷花】と【双氷剣・雪花】。雷、炎、ときて、今度は氷属性の剣だ。なにげに発動確率が前の双炎剣より高い。

 手にしっくりくる。今まで使っていた双剣と同じように扱えるな。攻撃力も高いし、ありがたい。


「あーん、【鬼眼巨人の骨】と【鬼眼巨人の爪】かー。【巨眼球】がよかったのになぁ」


 サイクロプスにトドメを刺したリゼルがボヤく。巨人系の素材はあまり使いどころがないとされている。大剣とか大斧とかには使われるけれど、骨などを使うのであまり見栄えは良くないから不人気なのだ。いわゆるドクロ系?

 好んで装備するプレイヤーもいるけど、やっぱり少数だ。当然引き取り額も安くなる。

 それに比べると【巨眼球】は硬質化したガラスのようなアイテムで、武器の素材やインテリアなどに多く使われる。もちろん目玉をそのまま飾るわけじゃないのでご安心を。

 僕の方も【鬼眼巨人の骨】と【鬼眼巨人の角】だな。まあ、角はまだ売れる方か。

 金儲けを考えると、【巨人の森】はあまりおいしくないかな。レベルや熟練度上げにはけっこういいけど。

 僕とリゼルは【怠惰】第三エリアの中央部にある【巨人の森】にやってきていた。

 新武器の使い心地を試すためにだ。もちろん申し分ない結果だったわけだけど。


「そろそろ帰ろうか。レンたちも待ってるし」

「え〜。【巨眼球】が出るまで粘らない?」

「いやいや。さすがに二人じゃ、複数出てきたらキツいだろ?」

「そこはホラ、シロ君の【分身】で」

「毎回毎回ハイポーションを使ってられるかっての」


 効率が悪すぎるわ。MPだって消費するんだぞ。そう何連戦もできるか。マジックポーションまで必要になるわ。


「とにかく戻るぞ。ここよりもいい狩場に行けるかもしれないんだからさ」

「あ、そうか」


 納得したリゼルを連れて、【巨人の森】のポータルエリアを通り、【星降る島】へ帰還した。

 これから僕らは【セーレの翼】を使って別エリアへと跳ぶ。アレンさんたちとパーティを組んでのランダムジャンプは確認済みなので、今度はみんなと跳んでみようというわけだ。

 待ち構えていたレンたちを連れて、再び裏庭のポータルエリアへと向かった。

 ちなみにリンカさんは今回遠慮するとのこと。他人の装備ばかりで、自分の装備を造るのを忘れていたとか。

 ひょっとしてだけど、パーティ制限で一人あぶれるのをわかっていて遠慮してくれたのかもしれない。早いとこギルドポイントを貯めて七人パーティを解放しないとなあ。アレンさんの【スターライト】から、この間ギルドポイントをもらったからもうちょっとなんだけど。


「じゃあみんな、行くよー」

「はい!」

「よろしくお願いします」

「うん!」

「楽しみですわ」

「早くー」


 僕が【セーレの翼】をセットしてポータルエリアに飛び込むと、いつものようにランダムジャンプが始まる。

 一瞬にして見たこともない別エリアへと転移が完了した。

 どうやら何かの遺跡のような場所だ。森の中かな? 崩れかけた石造りの壁や、蔦が蔓延った巨像なんかが視界に飛び込んでくる。


「ここは……」

「【フォラム遺跡】……【傲慢】の第二エリアだね。僕らでも充分戦えると思う」


 違う領国と言ったって、同じ第二エリアならそうモンスターの強さは変わらないと思う。でなきゃズルいしな。


「みんなの転移リストにここって登録された?」

「いえ。ありませんね。やはりこれは【セーレの翼】がなければ来れないということでしょうか」


 ウェンディさんの言う通りかもしれない。【スターライト】と転移したときもそうだったし。ギルドメンバーなら、とも思ったんだけど。

 よくよく考えてみれば、他のみんなも別領国のエリアに跳べるようになったら、【セーレの翼】の価値ってなくなるもんなあ。


「それでどうする? ここでひと狩りいっとく?」


 ミウラが遺跡の奥をちらっと窺いながら尋ねてくる。僕としてはそれでもかまわないんだけど……あ。


「ちょっと待ってて。ガイドを呼ぼう」

「ガイド?」


 キョトンとしたみんなをよそに、僕はチャットリストからあるプレイヤーの名前を引っ張り出した。





「リーゼ!? やだ、可愛い!」

遥花はるか!? そっちもかっこいい!」


 手を取り合って二人ともきゃっきゃとジャンプしている。初めて見るお互いのアバターを褒めあっているが、なんだろ、あれ。


「まさかリーゼもいるとは思わなかったな」

「本名言うなよ。リゼルだから」


 僕の横で腕組みしながら二人を眺める獣人族セリアントロープの大剣使い、『ソウ』こと霧宮きりみや奏汰かなた

 はしゃいでいるのはその妹で同じ獣人族セリアントロープの魔獣使い、『ハル』こと霧宮きりみや遥花はるか

 ここが【傲慢】のエリアなら詳しいだろうと二人を呼んだのだ。みんなに紹介したかったし。


「紹介するよ。こっちがソウで、こっちがハル。僕とリゼルの同級生だ……ってみんな聞いてる?」


 せっかく紹介したのにまともに聞いているのはウェンディさんだけだった。他のお嬢様三人はハルの連れてきた狼たちに夢中になっている。


「かわいいです〜」

「こら、やめろったら。くすぐったい!」

「うふふ、おりこうさんね」


 レン、ミウラ、シズカが六匹の狼たちと戯れている。そのうち二匹は子狼だ。わふわふと三人を取り囲み、じゃれあっている。


「っていうか、増えた?」

「うん、ブラックウルフにホワイトウルフ、グレイウルフにレッドウルフとグリーンウルフ、そしてシルバーウルフだよ!」


 自慢気にハルが語る。黒、白、灰、赤、緑、銀、とよくもまあ揃えたもんだ。六匹テイムするのも大変だろうに。

 シルバーウルフとレッドウルフは初めて見たな。どっちもまだ子狼だが。グレイウルフは前にあったとき、子狼だったのになあ。成長するんだな。


「ハルのやつは特化型のスキル持ちだからな。戦闘になると【召喚術】で呼び出したのも加えて、全部で十四匹の狼を操るぞ」

「十四匹!? ずいぶん多いな!」


 ってことはこの六匹以外に八匹の狼を召喚するのか!

 普通ならレベルの低い狼を召喚したってそれほど役には立たない。しかし全ての狼を強化するというハルの持つスキル、【群狼ぐんろう】は、その名の通り、数が多くなればなるほどさらに強化されるという特性を持っていた。さすが三ツ星スキル、とんでもないな……。


「【群狼ぐんろう】ですか。【群羊ぐんよう】や【群馬ぐんば】というスキルはサイトで見たことがありますが……」

「たぶん同じ系統のスキルだと思うよ。でもあたしの場合、自分も強化されるワーウルフだからね!」


 ウェンディさんにも自慢気に話すハル。確かに【群狼】のスキルを持っていても、魔人族デモンズ鬼神族オーガだったらそれほど活用できないかもしれない。ワーウルフであったハルが【群狼】を手に入れたからこその強さなんだろう。

 銀色の子狼と戯れていたレンがハルに尋ねる。


「この子たちって名前あるんですか?」

「あるよー。その子がギンで、こっちがクロ、で、グレ、アカ、ミド、シロ」


 ちょっとはひねれよ。そのままじゃないか……ん?


「シロ、お手!」

「シロ、おすわり!」

「シロ、伏せ、ですわ!」

「……ちょっと待て」


 うちのお嬢様三人の命令を律儀にこなす僕と同じ名前のホワイトウルフ。尻尾なんかブンブン振って嬉しそうに。なんだこのモヤッと感。狼の飼い主(テイマー)をジロッと睨む。


「おいコラ、どういうことだ?」

「あはは……。偶然の一致だよ! 狙ってつけるわけないでしょ!」


 いやまあ、そうだろうけど。ぬう。なんか釈然としないな。「シロ」「シロ」とホワイトウルフが呼ばれるたびに注意が向いてしまう。カクテルパーティー効果か。

 憮然としている僕にソウが話しかけてきた。


「それよりもさ、せっかくDWOデモンズで会えたんだから【PvP】しないか、シロ」

「お、やりますか?」


 虎の獣人族セリアントロープ、ワータイガーであるソウが大剣を肩に担いで、不敵な笑みを浮かべる。面白い。その挑戦受けて立つ。

 【分身】と【加速】で驚かせてやるか。

 ソウからの【PvP】参加申請を受諾する。ポンッと三頭身のデモ子さんが現れ、試合開始を告げた。


「最初から全開でいくぜ?」


 咆哮とともにソウの身体がひとまわり大きくなり、獣化していく。獣人族セリアントロープの特性、【獣化】スキルだ。虎だ。彼は虎になるのだ。

 なかなかカッコいいな。僕も兎の獣人族セリアントロープとかにしようと思ったけど、兎顔があまりかっこよくないと考え直したんだっけ。


「虎と兎……。はっ! タイガー&バニ……」


 なんかつぶやこうとしたハルの口をウェンディさんが塞ぐ。いろいろナイスです。

 完全に虎の頭に獣化したソウが軽々と大剣を振り回す。ワータイガーはSTR(筋力)強化だっけか?


「じゃあこっちも最初から全力でいかせてもらうかな、っと!」


 一気に最大八人へと【分身】する。ソウとハルの目が見開かれ、顎が落ちた。


「ちょ、おまっ……! なんだそれ!?」

「いくぞー」


 虎顔でアタフタしているソウ目掛けて、僕は【加速】スキルを発動させた。












DWOデモンズ ちょこっと解説】


■【群狼】スキルについて

従える全ての狼族に強化の付与を与えるスキル。スキル所持者がパーティリーダーである場合、スキル所持者だけではなく、パーティメンバーのワーウルフ、それに従う狼たちも強化の対象となる。数が増えれば増えるほど、強化のプラス値は高くなる。むろん、MPを消費する。


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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