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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第一章:DWO:第一エリア
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■006 セーレの翼



 『ポータルエリア』を使ってまた【北の森】に行く前に、スキルの入れ替えをしよう。

 戦闘では意味がない【調合】を外して【蹴撃】をセットするのだ。少しは戦闘がマシになるだろ。

 あれ? 

 【蹴撃】をセットしようと予備スキルのところを見たら、【セーレの翼】が使用可能になってる。レベル4になったから?

 ともかく【セーレの翼】をセットしてみる。……特に変わったところはなにもないが……。

 スキルの説明を改めて見たが、やはり【???】となっていて、何ひとつわからない。

 これって効果が発動して、初めて説明が出るのかな……。だとしたらずっとセットしておかないといけないのか? 意味のないスキルがスロットをずっとひとつ占拠するってキツいんだけど……。

 本音を言うと他の人に検証して欲しいが、ウェンディさんの言うとおりユニークスキルとやらだったら、僕以外に誰も持ってないってことだろ? 売ってしまうのももったいないしなあ。


「仕方ない。しばらくは付けっ放しにするか……」


 【セーレの翼】をセットしたまま、町の『ポータルエリア』へと入る。

 『ポータルエリア』に入った瞬間、周りの景色が一瞬にして森の入口に変わった。あれ? まだ選択してないのに【北の森】に来ちゃったよ。

 あ、まだ僕の行けるところは【北の森】以外ないから、選択する必要もないのか。……でも最初のときは選択したよな?

 よくわからないが、とりあえず森の中へ入る。あ、そうだ。一角兎が出る前に、露店のトーラスさんが言ってた薬草を採っておこう。

 そこらへんの草に片っ端から【鑑定】をしていく。

 【雑草】、【雑草】、【雑草】、【雑草】、【薬草】……お、あった。

 見つけた薬草を引っこ抜く。


────────────

【薬草】 Fランク


■傷を癒す効果のある草。

□調合アイテム/素材

品質:S(標準品質スタンダード

────────────


 なんともシンプルだね。

 【気配察知】で周りを一応注意しながら、薬草を次々と採取していく。

 【採取】のスキルがあれば、もっと要領よく採れるのかなあ。確か初期スキルだし、町のスキル屋に売ってるはずだ。余裕ができたら買うのもいいかもしれない。

 おろ?


────────────

【霊薬草】 Dランク


■unknown

□調合アイテム/素材

品質:S(標準品質スタンダード

────────────


 Dランクの調合アイテムだ。へえ、こんなところに生えてるのか。僕の熟練度じゃ詳細が鑑定できないけど、Dランクだし、なにかの調合材料になるなら売れるだろ。

 それから薬草と霊薬草を採れるだけ採った。だいたい薬草七割、霊薬草三割ってところか。これくらいあれば充分だろう。夕方になってきたし、引き返すか。

 ……さっきから思ってたけど、なんかおかしい。二回しか来てないけど、この森ってこんなに静かだったかな。それにまだ兎一匹出てきていない。まるで────。


 ゴガアァアアアァァァァ!!

 

 突然、森全体に響き渡るような咆哮が聞こえてきた。なんだ!? 魔獣か!?

 灰色狼のものでは絶対にないその声に、僕は腰から買ったばかりのククリナイフを取り出すと、辺りを警戒しながらゆっくりと視線を巡らせる。

 森の奥から、ぬっ、とそれは現れた。

 熊だ。しかもただの熊ではない。黒い体毛にバチバチとなにやら雷のようなものをまとっている。

 一目でわかる。あれはグレイウルフよりもずっと上の魔獣だ。勝ち目はない。熊の頭の上に【雷熊かみなりぐま】と表示された。まんまだな!

 そろりそろりと目を逸らさないようにして、僕はナイフを納め、少しずつ後退あとずさっていく。本物の熊の対処法が効くかは甚だ疑問だが、死んだふりよりは効果があるだろう。


「動くなよー……。そうそう。そのまま、そのまま……」

『ゴガアァアアアァァ!』

「やっぱダメかー!」


 襲いかかってきた熊をなんとか躱す。うおお、紙一重! 【見切り】スキルのおかげか!? とにかく勝てっこないので一目散に逃げる!

 走り出してから気がついたが、熊の走るスピードって時速60キロにもなるってテレビで言ってたな! じゃあ逃げても無駄か!? ゲームの中でそれが適用されるのかは知らんけど!

 追いかけてくる熊を振り返りながら、森を突き抜けると、ふっ、と足場が無くなった。


「嘘ん……」


 眼下には流れる川。森の先は崖になってたのだ。え、この近くに川なんてあったかー!?

 

「うわあああぁぁぁぁ!」


 真っ逆さまに僕は川に落ちた。ぶはっ、くそっ、流れはそれほど速くないけど、うまく泳げない!

 初期スキルに【水泳】ってスキルがあったなあ。取っときゃよかった!

 このままだと溺れ死ぬ。嫌な死に戻りだな……。


「おい! これを掴め!」


 どこからか声がして、目の前になにか小さな木でできた、ビールを飲むジョッキみたいな物が落ちてきた。

 わけがわからぬまま、その浮いているジョッキに手を伸ばす。木製のジョッキには持ち手のところにロープが結ばれていて、それを僕がしっかりと握ると、ものすごい力で川縁かわべりの方へと引かれていった。

 あっという間に川から脱出した僕は、力尽きてその場で仰向けに倒れこむ。


「ごほっ、がはっ……!」

「おい、君、大丈夫か?」


 声をかけられて目を開けると、僕を覗き込むように三人の男女の顔と、薄暗くなってきた空が見えた。


「大丈夫……です。助けてくれてありがとうございます……」


 男性が二人に女性が一人。

 男性は僕と同じ【魔人族デモンズ】と、二メートル以上ある背丈に、額に二本角、赤銅色の肌をした【鬼神族オーガ】の二人。ロープを引いてくれたのはこの【鬼神族オーガ】の人だろう。

 女性はおそらく【夢魔族サキュバス】。背中から蝙蝠の翼が、あと、細い尻尾が生えていた。

 なんとか落ち着いてきた僕はあらためて三人に礼を述べた。


「いや、別に構わないけどね。でもなんだって、そんな初期装備で川に流されていたんだい?」

「薬草を採っていたら熊に遭遇しまして。逃げてたら川に落っこちたんですよ」


 これまでの経緯を語ると【鬼神族オーガ】の男性が苦笑しながら話しかけてきた。


「熊って、『雷熊かみなりぐま』か? なんだ初期装備でも狩れるか縛りプレイでもしてたのか?」

「縛り……? よくわかんないですけど、グレイウルフよりも強いでしょう、あれ。狩れっこないですよ。だから逃げたんです。狼だって死んだのに」


 僕の話を聞いていた【夢魔族サキュバス】の女性が、片眉を上げて首をひねる。


「……ちょっと待ってくれる? 話がなんかおかしいわ。失礼だけど、あなたレベルいくつ?」

「4ですけど」

「「「4!?」」」


 三人全員に驚かれた。なんだなんだ、変なこと言ったかな。


「いや、確かにまだレベルは低いですけど、今日ゲームを始めたばかりですし、そんなに……」

「いやいやいや、そこじゃない。初日でレベル4なんて普通だよ。最初は上がりやすいものだしさ」

「俺たちが驚いたのはなんでレベル4のプレイヤーがこんなところにいるのかってことだ」

「誰かレベルの高いプレイヤーに連れてきてもらったの?」

「え? 【北の森】なんか一人で来れるでしょ?」

「「「は?」」」


 なんだなんだ。さっきから会話が噛み合わないなあ!


「【北の森】って……ひょっとしてフライハイトの【北の森】?」

「他にどこが?」

「あのな……お前、地図買ったか?」


 地図……? あ、そういえばウェンディさんに買うように言われてたな。忘れてた。

 僕が首を横に振ると、【魔人族デモンズ】の青年が軽くため息を吐く。


「いったいなにが起こったのかはわからないけど、ここはフライハイトの【北の森】じゃないよ。その先の第二エリアの町、【ブルーメン】から南にある【クレインの森】だ。レベル20前後でやっと来れる場所なんだけどね」

「へ?」


 今度は僕の方が驚く番だった。





 濡れた服を乾かすため、焚き火に当たりながらもらったスープを飲む。すっかり辺りは暗くなり、空には星が瞬いていた。

 【魔人族デモンズ】の青年はアレンさん。金髪で板金鎧を着込んだ前衛の戦士といったところか。背中には盾、腰にぶら下げているのは長剣で、まさに騎士、って感じだな。

 【鬼神族オーガ】の赤髭を生やしたおっさんはガルガドさん。特注の肩当てと胸当て、そしてガントレットを装備して、背中には大きな大剣を背負っている。こちらも前衛のパワー型ファイターってところか。

 最後に【夢魔族サキュバス】のジェシカさん。杖を持ってるところを見ると魔法使い系の後衛だろうか。長いブルーの髪を後ろで束ねている。前髪で右目が隠れて見えないが美人なのはわかった。まあこのゲーム、顔もいじれるので美人、美男子で溢れているけどね。


「……なるほど、ポータルエリアから【北の森】に転移しようとしたら、なぜだかこの【クレインの森】に来てしまったと。心当たりはないのかい?」

「心当たりですか? ……あ」


 もしかして。あれか?

 僕はステータスを呼び出し、スキルスロットの説明を開く。


────────────────

■セーレの翼 ★★★


①解放条件:

・レベル4になる。

・死亡する。

・地図を持たずにポータルエリアを使用する。


◉セット中、一日に五回のみポータルエリアを使用することでランダム転移が可能。

(4/5)


②解放条件:

???


③解放条件:

???

────────────────


 やっぱりこれかあ……。

 (4/5)ってのは一回発動したからか。

 僕が微妙な顔をしていると、アレンさんが笑いかけてきた。


「心当たりがあったようだね」

「はい……。自分が持ってたスキルが発動したようです……」

「スキルが? ……ははあ、ひょっとして君はソロモンスキルを持ってるのか?」

「ソロモンスキル?」

「ソロモン72柱の名を冠したスキルさ。まだ数個しか見つかっていないけどね。ゲーム開始最初のスキルプレゼントで手に入れたのかな?」


 アレンさんの質問に僕は「はい」とだけ答える。助けてくれたし、悪い人だとは思わないけど、このスキルのことを話してもいいのか判断に迷う。

 レンのときは知り合いだったし、ウェンディさんの身元もわかってたからなあ。

 そんな風に考えこんでいた僕にジェシカさんが話しかけてきた。


「本当は個人のスキルを詮索するのはマナー違反なんだけど、スキル名だけでも教えてもらえないかしら?」


 うーん、まだ知り合って間もない人に効果まで教えるのは抵抗があるが、スキル名だけなら構わないか。って、もう効果もバレているようなもんだけど。

 スキル名を告げるとジェシカさんは考え込むようにウィンドウを開き、なにかを調べ始めた。


「【セーレの翼】……ねえ。セーレ……ああ、あった。『セーレ。セアル、セイルとも呼ばれるソロモン72柱の魔神の1柱。移動したり物を運んだりする能力を持ち、瞬きする間に世界の果てから果てへと移動できるという……』なるほど、そのまんまのスキルっぽいわね」


 はい。そのまんまのスキルです。まだ追加能力があるっぽいけど、それは黙っておく。


「すまない。実はそのジェシカもソロモンスキルを持っていてね。他のソロモンスキルが気になって仕方ないみたいなんだ」

「そうなんですか?」


 驚いて思わずジェシカさんを見てしまう。まさか同じようなスキルを持つ人がいるとは……。


「私のは【ナベリウスの祝福】というスキルで、少しだけ便利なスキルよ。第一エリアのボスからドロップしたの」


 【ナベリウスの祝福】……ナベリウスってのが72柱の魔神の名か。ウェンディさんが調べた時にはなかったみたいだけど、ジェシカさんもあまり公開してはいないのかな。


「エリアボスを倒せば僕もそのスキルを手に入れられる可能性があるんですかね?」

「どうだろうな。おそらくだが、第一エリアのボスの時は『ランダムドロップ』しただけなんじゃないかと思う。ジェシカがボスで手に入れたのはたまたまだろう。スキルオーブを入手することはできるかもしれないが、ソロモンスキルが出る確率はかなり低いんじゃないかな。僕らもそのあと何回も狩ったけど、ソロモンスキルは落ちなかった」

「確かにボスドロップだとスキルオーブが落ちやすいけど、せいぜい★一つのレアスキルくらいだよな」

「【ザガンの杯】は普通にフィールドドロップで落ちてるわよ? 【嫉妬】の領国でだけど」


 三人の話を聞くと、【サガンの杯】というスキルは、普通にフィールドモンスターを倒したら出たそうだ。そういや僕もフィールドモンスターから【蹴撃】のスキルオーブがドロップしたな。

 早い話が全くの幸運ってこと? そういやジェシカさんは幸運度が高い【夢魔族サキュバス】だ。それも関係あるんだろうか。

 とはいえドロップするのなら、可能性は低いけどソロモンスキルは誰にでも手に入る可能性があるってことだな。僕だけのユニークスキルじゃなくて残念だ。

 まあ、唯一無二のスキルなんて、不公平か。だけどランダムでスキルオーブが手に入ること自体低い確率だし、その中からさらにソロモンスキル72種が出る確率はもっと低いと思う。

 そしてその72種の内【セーレの翼】を引く確率っていうと……かなり難しいんじゃないだろうか。


「しかし転移系のスキルってのは珍しいな。ポータルエリアを持ち運んでいるようなもんか」


 ガルガドさんが腕を組んでそう話すが、そんないいものじゃない。ランダムで知らない土地に飛ばされる、気まぐれスキルだ。追加能力があるっぽいから、まだわからないけど。


「一応警告しておくけど、あまりおおっぴらにそのスキルを使わない方がいいと思う。根掘り葉掘り聞いてくる輩もいると思うからね。まあ、遅かれ早かれ同じスキルを誰かが手に入れたら存在はバレると思うけど」

「はい、わかりました」

 

 まだ始めたばかりなので、面倒事はごめんだ。まあ、レンとウェンディさんには話しても大丈夫だと思うけどね。
















【DWO ちょこっと解説】


■レベルについて

DWOデモンズにおけるレベルとは種族レベルのことである。レベルが上がると、HP、MP、STのゲージが伸びるが、筋力や敏捷度が上がったりはしない。

レベルは経験値により上がるが、これは戦闘経験値だけではなく、生産などをした時の技術経験値によっても上がる。なので、工房に閉じこもりひたすら生産していてもレベルは上がる。

故にレベルが高い=強い、ということではないが目安にはなる。

なお、熟練度によってHP、MP、STのゲージが上がるスキルもある。





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