■066 発見、発見、また発見
少し長いです。
「せいっ!」
メイリンさんがパワーピッケルを振り下ろすと、そこを中心として周囲の採掘ポイントも一斉に削れ、ゴロッと大きな塊がいくつも地面に落ちた。一振りで複数の採掘効果。これが【範囲採掘】か。いいなあ。
【採掘】から派生する上位スキルの一つだな。もう一つは穴を掘る【掘削】だっけ?
「Bランク、Bランク、Cランク……あった! Aランク鉱石よ! メイリン、その調子で頑張って!」
「あいさー」
【解析】スキルを持つジェシカさんが落ちた鉱石を鑑定していく。早いな。一つ一つ【鑑定】しなくても全部まとめてできるのか。このスキルも欲しいな。
「しかし、なかなかの緊張感だね。いつあのドラゴンみたいなモンスターがくるかと思うと……」
「だなぁ。負けるの承知で一戦交えてみるか?」
「よしてよ。変なトラウマ刻まれたらどうすんのよ」
アレンさん、ガルガドさん、ベルクレアさんは周囲に注意を払いながらモンスターを警戒している。このエリアに出てくる雑魚モンスターでも、おそらくかなりの強敵だろう。現れたらすぐさまポータルエリアに飛び込み撤退せねばなるまい。
僕はといえば、一応【採掘】を持っているので、メイリンさんのところとは別の岩肌にパワーピッケルを突き立てている。が、熟練度が低いためか採掘ポイントが広く、突き立ててもなかなか鉱石が落ちない。ハッキリ言って効率が悪い。っと、やっと落ちた。
「んー、Bランクか……」
Bランクでも第三エリアにいるプレイヤーからしたら、かなりいい方なんだけどね。贅沢になったもんだ。
小さくため息をついた僕の耳に、ジェシカさんの叫び声が聞こえてきた。
「ちょ、ええええええええっ!? こっ、こっ、これっ!?」
「バッ、バカッ! 見つかるだろ! シィーッ! シィーッ!」
アレンさんが慌てて人差し指を立て口に当てる。はっ、とした様子のジェシカさんも口に手を当てて周りをキョロキョロと窺っていた。
いつも冷静なジェシカさんとは思えない行動だな。【夢魔族】特有の悪魔のような尻尾もぴーん、と上を向いている。
みんな黙り込んで、辺りの音に意識を向ける。…………どうやら気付かれた様子はないようだ。
「ふう……。それでどうした?」
ガルガドさんが額の汗を拭うようにしてジェシカさんに声をかける。
「Sランク……」
「は?」
「Sランク鉱石よ! これっ、Sランク鉱石なの!」
「「「「「ええええええええっ!?」」」」」
それを聞いた五人とも大声を張り上げてしまい、慌てて口を自分たちで塞いだ。
Sランク!? そんなとんでもないランクの鉱石まで採れるのか、ここ!?
「えっ、Sランク!? ちょ、ちょっと待ってくれ、Aランクの上はAAランクだろ? それをすっ飛ばしてSランク!?」
アレンさんもいつもの落ち着きは何処へやら、かなり興奮してパニくっている。
「間違いなく【怠惰】の領国プレイヤーが手にいれた、初めてのSランク鉱石よ! まさかこんなのが見つかるなんて!」
「ここは第五エリアだから不思議じゃないかもしれないけど……。ひょっとして【ヴォルゼーノ火山:中腹】って第五エリアでもかなりの終盤エリアなのかしら……」
茫然としてベルクレアさんがジェシカさんの手にあるSランク鉱石を眺める。あんなドラゴンがいるんだ、その可能性はあるよなあ。
「Sランク鉱石かー。どうりで。パワーピッケルが折れちゃったもん。ホラ」
メイリンさんが使い物にならなくなった折れたパワーピッケルを投げ捨て、インベントリから新しいパワーピッケルを取り出す。おそらくピッケルももう一段階上のものを使った方がいいんだろうな。それこそAランク鉱石で作ったやつを。
「とっ、とにかくメイリンは掘りまくれ! こんなチャンス逃す手はないぞ!」
「ラジャー」
ガルガドさんの言葉に従うように、メイリンさんが岩肌を登っていく。再びパワーピッケルを突き立てて、下へと数個の鉱石が落とされる。
「Aランク、Cランク、Aランク、Bランク、Aランク……さすがにそんな簡単には出ないわね」
なんてことをジェシカさんが言っておりますが、もともとAランク鉱石を採掘しに来たんですから充分でしょうに。
僕もSランク鉱石が欲しくなった。派手に採掘を続けるメイリンさんと比べると地味にピッケルを突き立てて、採掘を続ける。
いくつかAランク鉱石は採れたけど、やっぱりSランク鉱石なんてなかなか採れないよねぇ。せめてAAランクとか……。ん?
ポータルエリアから少し離れたところに別の採掘ポイントを見つけた。変だな。採掘ポイントは広いんだけど、明らかになにか岩の中に埋まっているだろ、これ。
どう見てもなにかの『柄』のようなものが岩から突き出ている。なにかのレバーか? ひょっとして埋もれた武器とか?
興味を持った僕はパワーピッケルを周囲に突き立て、岩を削っていった。
かなり硬いものらしく、力加減を間違えて突き立てると一発でパワーピッケルが砕けた。これはSランク鉱石並みのお宝かも!
【鑑定】しようとしても岩の中から取り出してないからか、【鑑定失敗】となってしまう。
少しずつ剥離しながら周りの岩を砕いていく。なにやらT字型の形をしているけど……。化石発掘みたいになってきたな。
「っ! みんな! 飛行モンスターがきたぞ! こっちへ向かってくる!」
「ええええええっ!?」
ガルガドさんが視線を向ける先、湖の方から黒い飛行物体がこちらへと向かっているのが見えた。ちょっと待ってよ! もう少しなのに!
「く……! 【分身】!」
僕の横に二体の僕が現れる。と同時にHPが1/4になった。
「パワーピッケルでこのアイテムを採掘!」
【分身】してもインベントリの中身は共有だからそのままだ。残っていた二本のパワーピッケルを分身体がそれぞれ取り出し、僕も含めた三人で岩に突き立てる。
「シロ!? お前どうなってんだ、なんで三人に!?」
「あとで説明します!」
【分身】スキルのことを知らないガルガドさんたちが驚いているようだが、それどころじゃない。
とにかくこれを……やった!
ズシンと柄がついたそれは僕の足下に落ちた。同時に役目を果たし終えた分身体が雲散霧消する。
「早くポータルエリアへ!」
焦ったようなアレンさんの声に、僕はそれを持ち、持ち……持ち上がらない!?
なんて重さだ! くそっ、STR(筋力)が足らないのか!?
「なにしてるのよ! インベントリに入れればいいでしょうが!」
「あ、そうか……」
ベルクレアさんに言われて我に返る。そうかそうか、その手があったか。言われた通りインベントリに収納。できた。なんだ、これでよかったんじゃないか。まったく、僕も馬鹿だな……。
「ゴガアアアアァァァァ!!」
「っ、忘れてた!」
突然の咆哮に身が縮み上がる。振り向くと、さっきのレッドドラゴンとは別の黒いドラゴンがこちらへ向けて空中から炎弾を放っていたところだった。
「っ、【加速】!」
間一髪でその場から退避できた僕であったが、背後で巻き起こる爆風に吹き飛ばされ、みんなの入っていたポータルエリアを飛び越えてしまう。
「早く、こっちへ!」
「あいてて……くっ!」
どうやらあのブラックドラゴンは先ほどのレッドドラゴンより、心が狭いらしい。僕らを見逃してくれる気はなさそうだ。頭に剣もないしな。
再び【加速】スキルを使い、ポータルエリアへと急いで飛び込む。ブラックドラゴンが再び炎弾を放ってくる姿を視界の端に見ながら、僕らは自動的に転移した。あ、そうか。【セーレの翼】外してないや……。
転移が終わり、たどり着いた場所に僕らはへなへなと座り込む。あー、疲れた……。
「確かにこれは……なかなかハードだね……。肉体的にも精神的にも……」
アレンさんがぐったりとした調子でつぶやく。どうやら僕の苦労をわかってもらえたようだ。
「んで、ここはどこだ?」
ガルガドさんの声に僕もあらためて周囲を見渡す。どこかの建物の中……かな? 白い石壁にぐるりと囲まれたかなり広い部屋に僕らは座っていた。高いところにある窓のような部分から、明るい光が差し込んでいる。
正面には大きな階段があり、その先にはこれまた大きな扉が見えた。見た限りモンスターはいないようだけど……。
「えーっと【星の塔:一階】? いったいどこの…………あら?」
「どうしたベルクレア?」
「あ、あの……マップ表示されないんだけれども……。ひょっとしてここもシークレットエリア……?」
「な……っ!?」
ベルクレアさんが引きつったような顔で僕らに視線を向ける。シークレットエリア!? ま、また飛び込んだってか……。
『その通りですの!』
「「「「「「うわあ!?」」」」」」
突然放たれた大声に、僕らは腰を抜かす。見ると空中に三頭身のデモ子さんが腕を組んで仁王立ちしていた。
『ここはシークレットエリア、【星の塔】。六十階層からなる、自らの実力を測るための試練の塔ですの! お宝いっぱい夢いっぱい! だけど危険もめいいっぱい! 普通なら特殊なアイテムを手に入れないと来れない場所ですの! 入り口の扉も開かずに入ってくるなんてあなたたち非常識ですの!』
なんかよくわからんがおかんむりらしい。デモ子さんの指差した方を見ると階段の上にある扉と同じくらいの扉が正反対の壁に設置してあった。たぶん、本当はあそこから塔に入ってきて、このポータルエリアで登録したり、帰ったりするのだろう。
「すみません、わざとってわけじゃないんです。どこに出るかわからなかったもので……」
『わかってますの! そこの彼のせいですのね。非常識ですけど、不正行為ではありません。塔に挑戦することを許可します!』
アレンさんが謝ると、デモ子さんは偉そうに腰に手をやり、ふんぞり返った。いや、許可されてもな……。そもそもどういった塔なんだよ、ここは。
『一階層ごとにいくつかの宝箱と鍵が設置されているですの。鍵を見つけ、扉を開けて上へ上へとのぼっていけばいいですの。たーだーし、この塔の中では死んだら塔で手に入れたアイテムは全部消滅しますの。さらにポータルエリアは十階層ごとにしかありませんの』
「ってことは、途中で力尽きたら道中に手に入れたお宝アイテムも消滅するってことか」
『そうですの。自分の実力を見極めて、引き際を考えないと全て無駄になりますの。で、挑戦しますの?』
デモ子さんがそう尋ねてくるが、みんな眉を寄せて難色を示している。やがて小さくため息をつきながらアレンさんが口を開いた。
「挑戦したいのは山々だけど、今回は準備不足だね……。メリットよりもデメリットの方が大きい」
「そうね。せっかく手に入れたSランク鉱石が消滅したら目も当てられないわよ」
「モンスターのレベルもわからねえしな。二階に上がって即死したら最悪だ」
ジェシカさんとガルガドさんがアレンさんに同意する。僕も同じだ。
「あたしはちょっとだけ入ってみるのも面白そうかなーって思うけど」
「やめときなさい。今回の目的はこれじゃないでしょう。二兎を追う者は一兎をも得ずって言うわよ」
メイリンさんは興味があるようだが、ベルクレアさんに止められていた。確かに今回の目的とは大きく離れている。目的であったAランク鉱石はたくさん手に入ったはずだ。これ以上危険を冒す必要はない。
「悪いけど、今回は遠慮しておくよ。また日を改めて挑戦させてもらう」
『そですか。ではまたのご挑戦をお待ちしていますですの』
ポンッ、という擬音とともにデモ子さんが消えた。再び辺りに沈黙が下りる。
「とは言ったけど、ここにもう一度来られるのかしら?」
ジェシカさんが不安を滲ませた声を漏らす。
「大丈夫なんじゃないですか? 一度ここへ来た以上、皆さんの転移リストにもここが載っているんじゃないかと……」
「ああ、あるわね。【星の塔】。ならセイルロットもここに連れてくることができる……ちょっと待って。なんで今日行った【コーク大密林】や【ヴォルゼーノ火山】は登録されてないのかしら?」
「え? そうなんですか?」
僕の転移リストには新しく【コーク大密林】や【ヴォルゼーノ火山】が追加されているが。なんで【スターライト】のみんなには【星の塔】だけしか登録されてないんだ?
やはり【セーレの翼】を持っている者がいないとエリアの壁は超えられないのか……? でも、ならなんでこの塔だけは例外なんだ?
考え込んでいたアレンさんが口を開く。
「たぶん……ここがシークレットエリアだから、かな? 本来は領国間を飛び回れるのは【セーレの翼】の持ち主、それとその時に組んでいるパーティメンバーだけなんだろう。だけど、シークレットエリアはどこの領国でもないから僕らにも転移できる……」
ああ、そうかもしれない。【星降る島】もシークレットエリアで、僕の判断で出入りする人を選べる。この塔もきっとそうなんだろう。その判定が『訪れたプレイヤー全て』になっているってことか。
「とりあえずそろそろ戻らねえか? もう充分目的は果たしたしよ」
「そうだね。一旦セイルロットのところに戻ろうか」
それには僕も賛成だ。いろいろあり過ぎて疲れてしまった。
スキルスロットから【セーレの翼】を外し、ポータルエリアへと足を踏み入れる。
全員がポータルエリアに入っても自動的に転移することもなく、行き先の転移リストが現れるだけだった。その中から本拠地である【星降る島】を選択する。
僕たちは一瞬にしてギルドホームの裏庭へと戻ってきた。
「はー……。疲れたー……」
「あっ! お帰りなさい、シロさん!」
裏庭から直接壁に取り付けられている階段を上り、二階のバルコニーへ出るとレンが出迎えてくれた。
僕らはぐったりと身体をテーブルに預け、脱力するに任せる。海から吹く風が心地良い。
「はあ……。いろいろ面白かったけど、大変だったわ……」
「そうなんですか?」
「ええ。『調達屋』の苦労が身に染みてわかったわ。慣れないことはするもんじゃないわね」
レンがお茶を飲みながらベルクレアさんと話している。メイリンさんはセイルロットさんのところへ釣り道具を持って行ってしまった。元気だなぁ。
リンカさんはジェシカさんが取り出したSランク鉱石に夢中になっている。目を輝かせて興奮しっぱなしだ。無理もないか。
「皆さん大変だったんですね」
「危うくシロなんかドラゴンにやられるところだったんだぜ?」
「えっ!?」
「あー、大丈夫大丈夫。なんとか逃げられたよ。ギリギリだったけど」
驚くレンに軽く手を振る。とはいえ、出発前にウェンディさんのパエリアを食べてなかったら危なかったかもなあ……。
「そういやあの時、何を拾ってたんだい?」
あ、そういえば。すっかり忘れてた。採掘した例の物を確認しようとインベントリから取り出す。
「うおっ!?」
ズシィッ! と、取り出した右手にメチャクチャな重さが加わる。あまりの重さに僕はT字型のそれを取り落とし、バルコニーの床を傷つけてしまった。
「ぐぐぐ……。重っ……!」
落ちたそれを持ち上げようとするが、まったく動かない。いくらなんでも重過ぎないか? 確かに僕はSTR(筋力)が低いけど、それにしたって……!
持つのを諦め、【鑑定】してみる。
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【unknown】 Xランク
unknown
■unknown
□装備アイテム/unknown
□複数効果なし/
品質:unknown
■特殊効果:
unknown
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はい、ダメー。unknownの嵐。僕の【鑑定】じゃ装備アイテムってことしかわからない。なんだろう? 柄があるし、メイスかなんかかな? 重いしな。
「ガルガドさん、これ持てます?」
「あ? こんなもん持てるに決まって……おおお!? なんじゃこりゃあ!?」
ガルガドさんが柄の部分を掴んで持ち上げようとするが、床からわずか十センチほど上げただけで再び落としてしまった。
ガルガドさんは大剣使い。おそらくSTR(筋力)はこの中で一番のはずだ。その人が持てないって……。ちょっと待ってよ、こんなもの装備できんの?
「おい、ジェシカ! ちょっとこれ【解析】してくれ!」
なるほど。【鑑定】スキルの上位スキルである【解析】ならわかるかもしれない。
ジェシカさんはメイスもどきに触れ、「なにこれ!?」と言いつつも【鑑定済】にしてくれた。
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【魔王の鉄鎚】 Xランク
ATK(攻撃力)+0
耐久性100/100
■太古より封印されし魔王の鉄鎚。
扱えるのは特定の称号を持つ者のみ。
【状態】封印中 無登録
□装備アイテム/鎚
□複数効果なし/
品質:LQ(低品質)
■特殊効果:
様々な付与をランダムで与える。
金属を鍛え、進化させることができる。
違う金属を融合することができる。
【鑑定済】
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…………いやいや、魔王って。
【DWO ちょこっと解説】
■星の塔について
六十階層からなる試練の塔。それぞれの階層にいくつかの宝箱がある。次の階に進むための鍵もその中。一度手に入れた宝箱は二度と現れない。(別のプレイヤーならその限りではない)
十階層ごとにしかポータルエリアはなく、死に戻ると塔で手に入れた全てのアイテムが消滅する。最上階の手前、五十九階層に魔神ドゥルガーがいるとの噂も。