■065 パーティランダム転移
ソロモンスキル【セーレの翼】が進化した。グレードアップというべきか。これって条件項目を見るに、けっこう前に解放されてたんじゃ……。
「……どうやら他のプレイヤーも一緒に連れて転移できるようになったみたいです」
「なんだって!? ってことは、僕らも一緒に転移できるのかい!?」
「えっと、たぶん。ただ、ランダム転移になるんじゃないかとは思うんですけど」
『ギルド』ではなく『パーティ』とあるから、一時的にアレンさんたちとパーティを組めば一緒に転移できるばずだ。
「ち、ちなみにAランク鉱石があったエリアってのはどこなんです?」
再び興奮したかのような口調でセイルロットさんが口を開いた。えっと、あそこは……。
「確か……【憤怒】の第五エリア。『輝岩窟』ってところですね」
「だ、第五エリアぁ!?」
「ま、マジかよ……」
ベルクレアさんとガルガドさんが目を見開いている。まあ、普通は驚くわな。
「そんな先まで行けるのか……」
「行けますけど、逃げ隠れが基本ですよ。モンスターとは戦っても倒せないし、運良く倒せたとしても、レベル差があると大して経験値が入らないから骨折り損のくたびれ儲けだし」
まあ、倒せたらそのモンスターの素材は手に入ると思うけどさ。かなりのハイリスクだと思う。
「一度シロ君に連れていってもらえれば、そのあとは自分たちだけでもそのランダムで飛ばされたところにポータルエリアから跳べるのかしら? それとも【セーレの翼】を持ってないとエリアの壁は越えられないとか?」
ジェシカさんがそんな疑問を呈してくるが、僕にだってわからない。たった今解放されてたの知ったばかりだしさ。
「ち、ちょっと待ってくれ。そうなると依頼内容を変えてもらえないだろうか。Aランク鉱石を取って来てほしい、から、僕ら【スターライト】をそこへ連れて行ってほしい、に。……ダメかな?」
「ダメってことはないんですけど……」
アレンさんがワクワクした顔で迫ってくるが、一応、ギルド同士の依頼だからギルマスであるレンにお伺いを立てた方がいいと思うし、それよりなにより────。
「パーティでの転移ですから、この場合、当然ながら僕がリーダーになるわけですけど」
「うん。それはそうだね」
「僕らのギルド、パーティメンバーの拡張はしてないから、僕は六人までしかパーティ組めませんよ? アレンさんたちを連れていくといっても、一人行けない人が出ますけど」
「「「「「「あ」」」」」」
【スターライト】の面々が黙り込む。お互いがお互いに鋭い視線を飛ばし、まずメイリンさんがセイルロットさんの肩を叩いた。
「セイルロット、悪いけど」
「ちょっとおっ!? なんで私なんです!? ここは逃げ隠れするのに不適切なデカいガルガドが残るべきでしょう!?」
「ああ!? なんで俺が! そんなら口うるさいベルクレアを残しゃいいだろ! 連れてったら絶対見つかるぞ!」
「なんで私なのよ! 口うるさいのはあんたらがだらしないからでしょうが! ここはギルマスのアレンが身を引いて、」
「異議あり! 僕が行かないで誰が指揮を取るんだ⁉︎ その役はサブマスのジェシカに譲る!」
「私っ⁉︎ 言っとくけど、【解析】スキル持ってるの私だけなんだからね! Aランク鉱石発見するのに必要でしょうが! 脳筋のメイリンを残せばいいじゃない!」
「脳筋ってなんだよ! あたしだって【範囲採掘】持ってるんだから! セイルロットが残ればいいじゃん! どうせ戦わないなら回復役必要ないし!」
「なにおう!」
【スターライト】分裂。この人ら本当に【怠惰】の領国が誇るトップギルドなんだろうか。
結局揉めに揉めた挙句、最終的にはジャンケンといういたってシンプルな方法で決着をつけることになった。
「よっしゃああっっ!」
「なんでえぇぇっ!?」
ガッツポーズをとるガルガドさんと、対照的にがっくりと地面に両手と膝をつくセイルロットさん。
最後の一人が勝ち抜け、留守番役が決まった。
「三回連続グーはないと思ったのに……。ガルガドの考えのなさを計算に入れるのを忘れていた……」
「んだとこの野郎」
うずくまるセイルロットさんにガルガドさんが文句を言う。ま、なんにしろこれで決まりだな。
「とりあえずうちのギルマスに話を通すために本拠地に来てもらえます?」
「ああ、それはそうだね。そう言えば、【月見兎】のギルドホームってどこだっけ?」
あれ? アレンさんたちにまだ教えてなかったっけ。あ、リンカさんにも教えてなかったか。うーむ……まあ説明するより連れて行った方が早いな。うん。
「こっ、これは……」
「なにこれ!? すごーい!」
アレンさんが目を見開き、メイリンさんがキラキラとした目でビーチを眺める。
ギルド【スターライト】のメンバー+リンカさんの七名を『星降る島』へご招待だ。
「ど、ど、どうなってるんですか⁉︎ 地図に表示されない……ここって『シークレットエリア』じゃないですか⁉︎ いったいどうやって……!」
「島まで調達しちゃったのね……。さすが『調達屋』……」
驚きすぎて挙動不審になっているセイルロットさんと、呆れたような声をもらすベルクレアさん。この島を調達したのは正確には僕じゃないんだけどね。
とりあえずみんなを連れてギルドホームへと向かう。そのままリビングでくつろいでいたレンのところへ連れて行った。
アレンさんが事情を話し、【スターライト】のギルド依頼を【月見兎】が受けることになった。まあ、動くのは僕だけだけど。
「それにしても【セーレの翼】の第二条件って解放されてたんですね。知ってたら私たちも連れて行ってもらいたかったんですけど……」
「面目次第もない……」
普通、そういったスキルは小まめにチェックするものである。だが僕はここ最近【セーレの翼】にはまったく触れていなかった。
正直、戦闘とかで使うわけでもないし、どっちかというと、使用スキルにセットしておくと面倒なことになるんで、ずっと控えに置きっぱなしだったというのが本音であった。
お詫びというわけではないが、アレンさんたちの依頼を終えたらレンたちも別のエリアへ連れていってあげよう。【傲慢】の領国にいる、奏汰と遥花にも合わせてやりたいしな。
ミウラが今日はログインしてなくて助かった。絶対に自分も行くとゴネまくったろうし、リゼルもいたらきっと同調したに違いない。そしたらまたジャンケン大会になったかも知れぬ。
「行く前に食事を取っては? 少しでもパラメータを上げておいた方がいいと思いますが」
「あ、そうですね」
「では調理してまいりますので。失礼します」
「手伝いますわ、ウェンディさん」
ウェンディさんとシズカが厨房の方へと消える。この島で採れる山菜や、動物、魚などを料理すると一時的なボーナスがつくと判明してから、ウェンディさんは【料理】スキルを伸ばし始めた。
【料理】スキルを持つプレイヤーの作った料理も食べるとボーナスがつく。さらにボーナスがつく素材を使うなら二重の効果だ。
その効果をアレンさんたちに教えたらまたしても驚いていた。セイルロットさんなど、すぐさま釣り竿を僕から買って飛び出して行ったくらいだ。
まあ、あの人は留守番だから、釣りをしていても問題はないけど。
「お待たせしました」
「わ、すごい!」
「おお、こりゃ美味そうだ!」
メイリンさんとガルガドさんの目が輝く。出てきた料理はシーフードをたっぷりと使ったパエリアと山菜のサラダだった。
大皿からそれぞれ自分の皿へと移し、みんなさっそく食べ始める。
「ちょっと待って、こんなに上がるの……!?」
ステータスウィンドウを開きながら食べていたジェシカさんが目を見開く。
「この料理は上がり幅がランダムでして、大きく上がる時は上がりますが、上がらない時はそれなりの効果しかありません。それでも普通の食材を使ったものより遥かに上回る効果です」
ウェンディさんがレンとシズカのカップにお茶を注ぎながら説明してくれる。
ウェンディさんのスキル熟練度はまだ低いはずだ。それでもこれだけの効果が出るのはすごいと思う。もともと料理の腕前は一流らしいからそれが関係してるのかな。
「私の【鍛冶】スキルの成功率も上がっている……! 普通、【料理】スキル持ちの料理でも基本値が上がるだけで、スキルの値は熟練度によるものなのに……!」
スキルステータスを見ながらリンカさんも声を上げた。一時的なものだとは思うが、リンカさんの【鍛冶】にも効果があったようだ。
確かに僕もウェンディさんの料理を食べてから【調合】するとうまくいきやすかったが、そうか、成功率が上がってたのか。スキルのステータスまではチェックしなかったな。
「なんだっていいじゃないか、美味ければ」
「そうそう。難しいことは食べてからでいいよ」
ガルガドさんとメイリンさんは食べることに集中しているようで、まったく気にしていない。いや、少しは気にした方がいいとは思うが。この二人、あまり細かいことを気にしないタイプのようだ。
「いったいこの島はどうなって……。シロ君、よくこんなところを見つけたね。これも【セーレの翼】で?」
「いや、見つけたというか、土地を貸してもらったというか……」
「貸してもらった? 誰にだい?」
「親切なNPCに、ですかね」
パエリアを食べながら、アレンさんに曖昧に答える。【セーレの翼】がグレードアップしたことによって、みんなも【天社】へと連れて行けるようになったとは思う。ミヤビさんを紹介することもできるだろう。
だけど、まずミヤビさんにお伺いを立ててからの方がいいと直感で思った。あの人は騒々しいのを嫌うような気がしたし、あそこは神社などがあるから、神聖な場所なのかも知れない。
パエリアを食べて能力値を上げた僕らは、さっそく【セーレの翼】によるランダム転移に挑戦することにした。
リンカさんから以前のように『パワーピッケル』を多めにもらう。
【スターライト】のメンバーは一旦自分たちのギルドホームへと戻って、貴重品やお金をギルドのインベントリへと預けてきた。これは最悪死に戻ることもありえるからだ。もちろん、僕も地下の金庫にお金を預けてきてある。
ギルドホームの裏庭にある、簡易ポータルエリアへとみんなが集まり、いよいよ転移を行う。
「よし、準備完了だ。じゃあシロ君、頼む」
「はい」
パーティ招致のウィンドウを開き、僕をリーダーとしたパーティからみんなへとお誘いをかける。アレンさん、ガルガドさん、ジェシカさん、メイリンさん、ベルクレアさんが受諾し、僕をリーダーとした六人パーティが出来上がった。
スキルウィンドウを開き、【セーレの翼】をセットする。
「じゃあ行きますよ」
いつもならポータルエリアの魔法陣に入っただけでランダム転移が始まるのだが、僕一人だけで入っても何も起こらなかった。
続けてアレンさん、ガルガドさんとポータルエリアに入っていき、最後のベルクレアさんが足を踏み入れたその瞬間、いつものように転移が始まった。
一瞬にして背景が切り替わる。どこだ? ここは?
ポータルエリアから足を踏み出せば、鬱蒼とした森の中。いや、森というよりはジャングルといった雰囲気の場所だ。どこからか奇妙な鳴き声が木霊し響く。鳥だろうか。
「ここは……」
「【嫉妬】の第三エリア……【コーク大密林】……! ホントに別の領国に来たのね!」
マップを見て位置確認をしたジェシカさんが声を上げる。興奮する【スターライト】の面々とは違って、僕はいたって冷静に口を開いた。
「失敗ですね」
「失敗? どういうことだい?」
「第三エリアってことは、それほど貴重なアイテムは採取できないと思います。しかもここは森の中。鉱石を狙うなら岩場がポータルエリアの近くにないと……。もう一度跳びましょう」
僕は再びポータルエリアの中へと戻る。【スターライト】の人たちも僕の言った意味がわかったようで、全員がポータルエリアへと戻ってきた。
再びランダム転移が始まる。一日にランダム転移できる回数は五回。その五回で当たりを引かなければならない。
周りの風景が変わった。今度は赤い岩がゴロゴロと転がるどこかの山の中腹あたり。眼下には森と湖が見え、こちら側の上の方では煙を立ち昇らせている火山が見えた。
岩場がある以上、ハズレではない。ここが第三エリアより先ならば、だが。
「【傲慢】の第五エリア。【ヴォルゼーノ火山:中腹】……。よしっ!」
マップを開いて確認し、僕は思わず拳を握る。当たりだ。第五エリアってことは、Aランク鉱石を手に入れた【輝岩窟】と同じエリア。間違いなく手に入るだろう。
「すごいな……。本当に先のエリアに来てしまった」
「これってかなりのレアスキルよね……」
アレンさんとジェシカさんが目の前の湖を見下ろしながら茫然としている。いやいや、ぼうっとしている暇はないですって。さっさと採るもの採って帰らないと……。
次の瞬間、僕とメイリンさんがその存在に気付く。
「みんな! 岩陰の方に隠れて!」
説明せずともさすがはトッププレイヤーの皆さん、メイリンさんの言葉に即座に従い、すぐに体勢を低くして岩場の陰に隠れた。
しばらくすると僕らの頭上を悠々と大きな影が横切っていく。
「…………ッ……!」
思わず声が出そうになるのをこらえる。【気配察知】で気付いたその存在が大きな翼をはためかせながら、湖の方へと飛んでいく。
ドラゴンだ。しかもレッドドラゴン。このあいだ倒した飛べないグリーンドラゴンとは比べ物にならないほどの大物。ちらっと見えたその頭、額になにか角のようなものが伸びており、それが光を反射して輝いていた。
僕らはその赤いドラゴンが湖の彼方へと消えていくのをただ見ていることしかできなかった。
「────ぷはっ!」
最初に息を吐いたのは誰だっただろう。僕らはその場に座り込み、大きく息を吐いた。
「とんでもないものに遭遇しちまったぜ……」
「あのドラゴン、こっちに気がつかなかったのかな?」
汗を拭いながらガルガドさんとアレンさんが顔を見合わせる。続けてジェシカさんが口を開いた。
「いえ、気が付いていたんじゃないかしら。その上で『取るに足らない存在』と判断されたから見逃されたのよ、きっと」
ありうるな。レベル差がありすぎて、相手にするのも馬鹿らしかったのかもしれない。まあ、ひょっとするといいドラゴンだったのかもしれないけれど。可能性は低いよな。
「それよりも見た? あのドラゴンの額」
「なんか光ってましたけど……よく見えませんでした」
ベルクレアさんが興奮気味に話しかけてくるが、あいにくと僕にはハッキリとは見えなかったのだ。
「あ、そうか。私、【鷹の目】でハッキリと見えたんだけど、あれって剣だったよ、間違いなく」
「剣が刺さっていたってことですか?」
「いや、刺さっていたというか……アレン、ちょっと剣貸して」
「え? ああ、ほら」
アレンさんから剣を受け取ったベルクレアさんは、それを地面へと突き刺す。
「こんな風に刺さっていたんじゃなくてさ、逆に、切っ先の方が上だったの。こんな感じ」
ベルクレアさんが剣を抜いて、柄頭の方を地面へと付ける。逆……ってことは頭から剣が生えてたってこと?
ユニコーンや一角兎みたいに武器として攻撃に使うんだろうか。
「あのドラゴンを倒したらその剣が手に入る、とか?」
メイリンさんが冗談っぽく言うが、僕は意外と的を射ていると思う。アレンさんも同じ考えなのか小さく頷いていた。
「ありえなくはないな。竜退治をして聖剣魔剣を得るなんてのはゲームじゃよくある話だし」
「そうね。ヤマタノオロチと神剣天叢雲剣みたいに、あの竜を退治することによって額の剣が手に入るのかもしれないわ」
アレンさんやジェシカさんの言う通り、その可能性は高いと思う。しかし、あのドラゴンと僕らがやりあえるようになるまで、あとどれぐらいかかるのやら。先は遠いねえ……。
おっと、それどころじゃなかった。あのおっかないドラゴンが戻ってくる前に早いとこ採掘しないと。
僕らはパワーピッケルを持ちながら、慌てて辺りの岩場にある採掘ポイントを探し始めた。
【DWO ちょこっと解説】
■ドラゴンについて①
DWOにおけるドラゴンは大きく分けて翼のあるドラゴンとないドラゴンに分かれる。翼があっても二本足の翼竜や、翼のない四本足の陸竜などは下位種であり、角と翼があり四本足なのが上位種である。さらに古竜ともなると言葉を理解し、魔法を使う種も存在する。また例外として、『龍』といった翼のないのに飛べる四本足のドラゴン(上位種)も存在する。