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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■058 襲い来る緑




 【湾岸都市フレデリカ】を含む、第三エリアの半島を出ると、北には漁村である【ランブル村】、そして第二エリアへと続く【三日月門】がある。

 反対の南側には以前僕がキャンドラーを倒しに行った(倒してはいないが)【廃都ベルエラ】があった。

 そして西には広い草原地帯、【ラーン大草原】が広がる。

 まばらに点在する木々と小高い丘がある以外は、緑の海とそれを貫く街道のみが見える草原だ。


「馬車で一気に草原の町まで行かないの?」

「行ってもいいけど、新しいモンスターと遭遇しないだろ。ギルドホームを建てて素材も使っちゃったし、いろいろと補充もしないと」


 横を歩くミウラにそう答えながら、僕は辺りを注意深く観察する。今のところ【気配察知】に反応はない。

 僕らは【ラーン大草原】の街道から少し外れた草原地帯を歩いていた。

 この大草原にもレアモンスターは存在する。狙わない手はないが、別に普通のモンスターでも積極的に狩っていこうと僕らは決めていた。


「やっぱり第三エリアのボスは海のモンスターなんでしょうか?」

「どうかなー。ブレイドウルフのときみたいに『月光石』のようなアイテムを持っていないと出現しないって可能性も……」

「……待った。なにか来る」


 後ろにいたレンとリゼルを止める。グルルルル……と、草原にある木々の陰から現れたのは燻んだ緑色の毛を持つ狼、『グリーンウルフ』だ。ここらでは雑魚の部類に入る。数は三匹。


『グルガァッ!』


 飛びかかってきた一体をウェンディさんが盾で受け止めた。そのままウェンディさんが火炎のブレスを吐くと、グリーンウルフが火ダルマとなってゴロゴロと地面を転がる。

 転がる狼を後方から飛んできた矢が貫いてトドメを刺した。レンか。


「【疾風突き】」

「【アクセルエッジ】」


 鋭い踏み込みによる回転突きがシズカの薙刀から放たれる。それに続くように僕も戦技を放つ。

 残り二匹のグリーンウルフは真正面から僕らの戦技をまともにくらい、どちらも光の粒となった。


「あー、出番がなかった」


 あっさりと僕らが狼たちを撃退したため、ミウラが大剣を手に一人ボヤく。

 どうしても大剣使いのミウラと魔法使いタイプのリゼルは初動が遅くなる。ミウラは前にいればそれほどでもないのだが、今回は僕の横にいたからな。前にいたウェンディさんとシズカ、僕で片付けてしまった。レンも矢でトドメを刺したけど。


「シロ兄ちゃん、次は譲ってよ?」

「はいはい」


 グリーンウルフからは『緑狼の毛皮』と『緑狼の牙』が落ちた。正直どちらもいらない。あとで売ろう。

 しばらく進むと今度は『グリーンスライム』が二匹現れた。残念ながらスライム系は僕やシズカのような斬撃武器には高い耐久力を発揮する。

 ミウラの大剣もそうなのだが、彼女はサブウェポンとしてハンマーを持っている。振りかぶったハンマーをミウラはモグラを叩くがごとく、スライム目掛けて振り下ろした。もう一匹の方はリゼルが魔法で焼き払った。


『ギャギャギャッ!』


 さらに草原を進むと今度は『グリーンゴブリン』が三匹。そいつらを倒し、さらに進むと次は『グリーンワーム』が……。


「ねぇ、なんかさっきからやたら緑色のと遭遇してない?」

「単なる偶然だと思うけど……」


 疑問を投げかけるリゼルに僕は苦笑しながら無難な答えを返す。

 草原と言えば草、草と言えば緑。グリーン。

 その手のモンスターが多くてもおかしくはない。そもそもここのモンスターたちが緑色をしてるのだって、いわゆる保護色ってやつだろ、たぶん。


「あの木陰で休憩しましょう」


 レンが丘の上にある大木を指差して提案する。こまめにHPやMP、空腹を回復させておいた方がいいか。

 木陰に座ると僕はインベントリからサンドイッチを取り出して口に運んだ。おっと飲み物を用意してなかったな。インベントリから取り出そうとした時、横からウェンディさんがカップに入ったお茶を差し出してきた。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 緑茶グリーンティー……。ワザとじゃないよね?

 しかし本当にここまで見事に緑色のモンスターしか出てこなかったなあ。

 インベントリから第三エリアのモンスター辞典を取り出し、後ろの索引で【ラーン大草原】に出没するモンスターを調べた。

 確かにズバ抜けて『グリーン』がつくモンスターが多いが、『ポイズンフライ』とか『切り裂きモグラ』とかが普通に出現するみたいだけど。

 モンスターのポップするバランスが崩れてるのかな?


「私としては緑系のモンスターは押し並べて火系統に弱いから楽なんだけどさ。なんか気持ち悪いよね。狙われているみたい」


 リゼルがそんなことを口にする。狙われてるって、『グリーン』モンスターにか? なにかのイベントだとしても僕らはここに来るのは初めてだし、なにもしてないと思うぞ。

 しかし楽天的な僕の考えを嘲笑うかのように、それからも『グリーン』モンスターの攻撃は続いた。

 『グリーンホッパー』、『グリーンバード』、『グリーンスタッグ』、『グリーンオーク』……。ここまで続くとさすがに笑えない。なにか意図的なモノを感じる。


「これって絶対なにかのイベントが始まっていますよね?」


 尋ねてきたレンに僕も小さく頷く。さすがにここまでくると否定できない。


「たぶんね。だけど思い当たるトリガーは何もないし、イベント発生のウィンドウも出てないんだよなぁ。トーラスさんが前に言ってた隠しイベントか?」


 それに僕らが目指している草原中央部にある町、【グラスベン】に近付くにつれて、モンスターが強くなっている気がする。


「……なるほど。原因がわかりました」


 歩きながら掲示板を開いてなにやら調べていたウェンディさんが顔を上げる。原因がわかった? このグリーンラッシュの?


「現在、我々が向かっている草原の町【グラスベン】で大規模な戦闘が行われています。多数のグリーンモンスターが攻め寄せ、町が襲われているようです」

「えっ⁉︎」


 町が襲われている? って、確かDWOデモンズでは町にモンスターは入ってこれないはずだろ?


「ですからこれが『イベント』なのではないかと。現在、【グラスベン】にいるプレイヤーが迎撃に当たっています。ポータルエリアが破壊されたので、新しいプレイヤーが増援に来ることはできませんし、死に戻ると【湾岸都市フレデリカ】まで戻され、【グラスベン】周辺の草原フィールドには入れなくなっているようです」

「……ってことは【グラスベン】にいるプレイヤーと僕たちみたいなその周辺フィールドをうろついていたプレイヤーだけでなんとかしろってこと?」

「でしょうね」


 突発すぎるだろ。なにかしらきっかけになるトリガーはあったんだろうが。グリーンモンスターを規定数狩るとか、フィールドにプレイヤーが何人いるとか。

 これはどっちかというと、誰がか起こした『イベント』に僕らが巻き込まれた形だな。僕らというか、フィールドにいる全プレイヤーが、だけど。


「どうします?」

「どうするって参加するに決まってるじゃん! こんな機会滅多にないよ!」

わたくしもミウラさんに賛成ですわ。こういった突発イベントには積極的に乗っていかねば」

わたくしはお嬢様の指示に従います」

「ウェンディさんブレないねぇ……。ま、私も賛成ー。絶対なにか報酬とかあるよ、これ」

「いや、反対する気はないけどな。みんなリアルの都合とか大丈夫か?」


 現在、リアル時間で夜の七時ちょい過ぎ。レンたちはだいたいいつも十時前にはログアウトする。僕やリゼルは調子に乗ると深夜の一時二時までプレイしてたりするが。

 その代わりというわけでもないが、レンたちは僕らより早くログインして夕方ごろからプレイしてたりするけど。もちろん、夕飯の時は一時ログアウトしてるぞ。


「明日は日曜日ですし、いつもよりログアウトが遅くても大丈夫……です、よね?」


 レンがチラッ、とウェンディさんの方を覗き見る。レンの言うことにはほとんど従ってくれる彼女だが、厳しいところは厳しい。

 以前、宿題が終わってないということで、強制的にログアウトさせられたこともある。付き合わされたミウラとシズカはかわいそうだったが。


「十一時までなら大目にみましょう。それを過ぎましたらイベント中でも我々はお先に失礼するということで」


 それはまあ仕方がない。僕らも小学生たちを日付けが変わるまで付き合わせる気はさらさらないしね。

 レンたちがログアウトしても僕は続行するつもりだけどな。やっぱりこういうのは最後まで参加したいし。


「そうと決まれば【グラスベン】まで急ごうよ! 早くしないと終わっちゃうかもしれない!」


 ミウラが急げとばかりに走り出す。そんな簡単に終わるとは思えないが、その可能性もゼロではない。

 僕らは草原の町【グラスベン】へと急ぐために、草原から街道へ向けて走り始めた。

 こんなことなら始めから馬車に乗ればよかったなあ。





 草原の町【グラスベン】に近付くにつれて、空に煙が立ち上っているのが見えてきた。町が燃えているんだ。

 村は別として、DWOデモンズにおける町というのは大抵城壁が存在する。それがモンスターなどから町を守り、怪しい人物の侵入を防いでいるのだ。

 その町が燃えているということは、すでにモンスターに侵入を許してしまっているということに他ならない。

 これは……遅かったか?


「あちゃー。本当にミウラの言う通りイベント終了しちゃったか? 防衛失敗?」

「ええー! そんなー!」

「いえ、まだのようです」


 ミウラがイベントに参加仕損なったことを嘆いていると、横にいたレンが口を開いた。

 レンの目が金色に変化している。遠くを見渡せる【鷹の目】のスキルか。


「まだ城壁の上や門の前で戦っている人たちがいます。町はまだ落ちていません」

「ってことはまだイベント続行中ってわけか。これって僕らも参加していいんだよな?」

「みたいです。いま、私のところに【グラスベン】から参加申請のウィンドウが開きました。ギルド【月見兎】は緊急クエスト【襲い来る緑】に参加しますか? と」


 ギルドマスターのところに参加申請か。『参加しない』と答えれば、このフィールドから追い出されるかもしれないな。

 もちろん僕らに『参加しない』という選択肢はない。

 レンが『参加する』を選び、僕ら【月見兎】は緊急クエスト【襲い来る緑】に参加することになった。

 するとウィンドウの右側に参加しているギルド名、個人名がずらりと並んだ。灰色表示になっているのはおそらく全滅したギルドだろう。


「あれ?」

「どうしました?」


 参加ギルドの中に知ってるギルド名があったので思わず声が出た。

 【カクテル】。確か【廃都ベルエラ】で一緒にキマイラと戦ったギムレットさんとカシスさんの所属ギルドだ。

 【カクテル】のところをタッチすると、ギムレット、カシス、ダイキリ、ミモザ、キール、マティーニ、の六人が表示された。あ、やっぱりギムレットさんたちのギルドだ。

 戦闘中かもしれないが、情報を得るためにギムレットさんに連絡をとる。


『おう、シロか! 今ちょっとイベント中で忙しいんだが……』

「ああ、知ってます。僕らのギルドも参加中なんで。僕らはいま城壁外にいるんですが、今どういう状況ですか?」

『シロも参加中か。ああっと、今は四方から攻めてくるモンスターを撃退している。西門の守りが薄くて、城壁を乗り越えて何匹か侵入を許しちまったらしい。できればそっちを助けてくれるとありがたい!』

「なるほど。ありがとうございます。忙しいところをどうも。また後で」


 ギムレットさんから得た情報をみんなに話す。情報から判断して決定するのはギルマスであるレンだ。


「西門ってあそこ、目の前の門だよね? けっこう戦闘が激しいけどどうする?」


 リゼルがレンの方を振り返りながら尋ねる。


「いきましょう。イベントを生き残ることも大事ですが、イベントが失敗に終われば、報酬などが無くなることも考えられますし。貢献度が高い方がいいものをもらえるかもしれませんしね」

「なかなか腹黒い計算ですわね。素敵です」

「も〜。シズカちゃん、腹黒いとかやめてよ……」


 クスクスと笑うシズカにレンが半眼を向けた。


「よーし! そうと決まればいざ突撃ーッ!」

「あっ! こら待て、ミウラ! 先走るなっての!」


 飛び出したミウラを追いかけて、僕らも西門前に群がるモンスターと、それを撃退するプレイヤーたちの戦いへとその身を投じていった。









DWOデモンズ ちょこっと解説】


■突発イベントについて

大きいものから小さいものまでDWOデモンズではイベントクエストがそこらで繰り広げられる。中には小さい事件から大きな事件へと広がるものもあり、そのトリガーがどこにあるかプレイヤーにはわからない。条件を満たすことにより、他プレイヤーさえも巻き込むようなイベントに発展することもある。一応、拒否することもできる。




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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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