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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■055 廃都の魔物





 【廃都ベルエラ】は【湾岸都市フレデリカ】から南南東にある。

 フレデリカから出る駅馬車に揺られ、僕が辿り着いたときはまだ日が高かった。

 DWOデモンズでは三倍の速さで夜になる。現実世界で午後8時にもなれば、こちらでも夜の帳が下りるはずだ。

 移動時間も考えて早めにログインしたのだが、早すぎたなあ。ま、いいか。

 廃都ベルエラはその名の通り、廃れた都の跡地で、そこら中に崩れた城壁や、燃え残り、雨に晒されて腐った柱などがゴロゴロ落ちている。

 古びた城壁にも採掘ポイントがあって、試しに採掘してみたが、『古びた石壁』しかとれなかった。ま、そりゃそうか。

 かつては家並みが並んでいたであろう場所を歩くと、そこらかしこに生えた長い雑草の中からモンスターが現れた。こいつはモンスター図鑑で見たことがあるぞ。【鑑定】してみる。



────────────────

【デスパイソン】 鱗甲種


■巨大な蛇。強力な毒を持つ。

 ドロップアイテム/

 ??? ??? ???

 ??? ???

────────────────



 ドロップアイテムはまだ倒したことがないのでわからないが、毒持ちってのはわかった。


『シャ────ッ!』


 デスパイソンが威嚇するように鎌首をもたげる。胴回りが太く、体長7メートルはあろうかという大蛇だ。実際にあれに巻き付けられたら、全身の骨が折れるだろうな。ま、ゲームだから締め付けられる感覚はあるだろうけど、骨までは折れない。HPは減るだろうけど。

 とにかく先手必勝。


「【アクセルエッジ】」


 引き抜いた双焔剣、『白焔』と『黒焔』でその胴体を斬り刻んでいく。攻撃を受けたデスパイソンはその長い尻尾を振り回し、僕を振り払おうとしたが、一瞬だけ【加速】を使ってそれを躱す。

 ここにきて【加速】の使い方にも慣れてきた。ここぞ、という時に少しだけ使うのが一番効果的なのだ。

 尻尾を躱した僕は、その胴体へと『白焔』を突き立てた。と、幸運にも剣の特殊効果が発動、炎がデスパイソンを襲い、火ダルマにして燃やしていく。じわじわとデスパイソンのHPが減っていった。

 十秒も燃えると炎のエフェクトはブスブスという黒煙を残して消えた。だいぶHPを減らしてやったぞ。

 最後のあがきとデスパイソンはそのあぎとを大きく開き、僕へと真っ直ぐ飛びかかってきた。


「【一文字斬り】」


 その横を走り抜けるように、左手に持った『黒焔』でデスパイソンの首を斬り落とす。

 大蛇は光の粒子となってその場から消滅した。

 ドロップアイテムは【大きな蛇の皮】と【大蛇の牙】か。蛇の皮は服飾系の素材にもなるらしいから今度レンにまとめて売ろう。牙の方は武器防具系かな。こっちはリンカさん行きだな。

 それから何匹かモンスターが現れたが、目的のキャンドラーはまだ現れない。やはり夜になるまで出てこないのかね?

 モンスターばかり倒しているのもなんなので、ときおり【採取】で『薬草』とかを採っておく。消費アイテムの素材はいくらあってもすぐ足りなくなるからな。小まめに採取しておかないと。あ、あんなところにも生えてら。

 ここからはよく見えないが、廃墟の壁が高くなったところに【採取】ポイントが見える。階段は崩れていて使えないので、近場の崩れた石壁を足がかりにして壁を登った。

 物見台のようになっているそこに生えていたのは『薬草』ではなく、様々な色をした花だった。


────────────────

【赤炎花】 Dランク


■赤い花。赤い染料の元になる。

□調合アイテム/素材

品質:S(標準品質スタンダード

────────────────


────────────────

【青天花】 Dランク


■青い花。青い染料の元になる。

□調合アイテム/素材

品質:S(標準品質スタンダード

────────────────


────────────────

【黄陽花】 Dランク


■黄色い花。黄色い染料の元になる。

□調合アイテム/素材

品質:LQ(低品質ロークオリティ

────────────────



 これはラッキー。これらの花は『染料』の素材になるのだ。目につく花を次々と【採取】する。塵も積もれば、ってね。

 おや?

 高いところに登り、視界が開けたおかげで、ここからなら遠くまで見える。それでもはっきりとは見えないのだが、向こうに誰かいるな。

 崩れた塔の先で誰か……何人かが動いている。戦っているのか? 他のプレイヤーかな? 僕はレンのように【鷹の目】スキルを持ってないからここからでは見えないなあ。

 邪魔しちゃ悪いので、離れようかと思ったが、なにかこちらへ向けて叫んでいるような……。向こうからもこっちを見てるのか?

 よくわからないが、ちょっとだけ近寄ってみよう。

 壁を降り、物陰に隠れながら近づいてみると、二人のプレイヤーが一匹のモンスターと戦っているところだった。

 プレイヤーは男女の二人組。

 男の方は部分鎧にカイトシールド、手にはゴツいメイス。白い髭面でずんぐりとした体型のおっさん。【地精族ドヴェルグ】か。

 見た目の歳は五、六十に見えるが、DWOデモンズでは当てにならない。十五歳以上ではあるとは思うが。

 DWOデモンズでは十五歳以上はアバターを十五歳未満にはできないし、十五歳未満はアバターの年齢変化をすることができないからな。

 一方、女の方は背中に矢筒を背負った弓使いで、歳は二十歳前後に見える。革鎧を着て、複合弓コンポジットボウを持っていた。こちらは金髪の【妖精族アールヴ】だ。

 そしてその二人に襲いかかっているモンスターは、頭はライオン、さらにその首の上に山羊の頭、尻尾は蛇という合成獣、キマイラだった。


「キマイラか。確か結構目撃されているけど、レアモンスターだったよな」


 ということは、邪魔しちゃ悪いか。僕はその場を離れようと踵を返した。と、そのとき、妖精族アールヴの女性から声が飛んできた。


「ちょっと待って、そこの人! 手を貸してくれない⁉︎」

「……僕ですか?」

「そう! 【鷹の目】で見えたのはあなただけなのよ! 近くに誰もいなくて……! ちょっと私たちだけじゃ負けそうなのよ。【キマイラの角】以外なら譲るから手伝ってくれない⁉︎」


 焦った様子で妖精族アールヴの女性がそう語る。レアモンスターに遭遇するのはなかなか難しい。倒せばレアアイテムが手に入るが、負けてしまえば当然、手に入らない。チャンスをふいにしたくないって気持ちはわかる。

 キマイラのHPは半分ほど減っていた。この状況なら参加してもアイテムドロップは普通に落ちるだろう。


「いいですよ。じゃあ申請送るんで」

「ありがとう!」


 ポップした二人の名前、『ギムレット』と『カシス』のうち、リーダーマークのあるギムレットさんの方へ戦闘参加申請を送る。

 すぐさま『許可』と返信がきて、戦闘に参加できるようになった。面倒くさいが、トラブルを避けるために必要なことだからな。


「よし、じゃあいきますか」


 大盾を持ち、キマイラからの前足攻撃を防いでいるギムレットさんとは逆の方に走る。鎌首をもたげ、その身をくねらせる蛇の尻尾の方と対峙した。


『シャアッ!』


 牙を剥き、その蛇が襲いかかってくるが、それを躱わしながら腰の『白焔』と『黒焔』を素早く抜き放つ。

 蛇の攻撃を右へ左へと躱しながら、少しずつ攻撃を加えていく。大きく蛇が隙を見せたタイミングで戦技を放った。


「【十文字斬り】」


 戦技を放つと滅多に出ない【Criticalクリティカル Hitヒット!】の文字が浮かび、蛇がバラバラに刻まれて光の粒になり消滅する。


『ゴガアアアアァァァッ⁉︎』


 尻尾を斬り落とされたキマイラが、痛みのためか大きな唸り声を上げる。真っ赤に燃えるその双眸を、尻尾を奪った憎々しい僕の方へと向けてきた。

 ギムレットさんの方を無視し、こちらへと飛びかかってくる。


「危ない! 【スパイラルショット】!」


 後方にいるカシスさんから回転のかかった矢が放たれた。その矢はキマイラの肩口に深々と突き刺さったが、それを物ともせず、ヤツは大きな口を開けて僕に襲いかかってくる。


「【加速】」


 キマイラの口が空振りに終わる。【加速】による猛スピードで僕は瞬時にキマイラの後ろに回り込み、右後ろ足を【アクセルエッジ】で切り刻んでやった。


『グギョアアアァァァッ!』

「今だ! 【ヘビィインパクト】!」


 僕の方へ振り向いたキマイラの横っ面(ライオンの方)に、ギムレットさんは凶悪なメイスによる一撃を食らわせた。

 先ほどの僕と同じように、【Criticalクリティカル Hitヒット!】の文字が浮かぶ。

 【地精族ドヴェルグ】は種族スキル【強打】を持っている。斧、棍棒、杖、格闘系に限り、攻撃力とクリティカル率が上昇するのだ。その反面、命中率が下がるのだが、【地精族ドヴェルグ】はもともとDEX(器用さ)が高いので、それほどマイナスにはならないとか。

 しかし絶対的失敗ファンブルである『ノーダメージ』が何%かの確率で起こることもあるらしいが。

 ギムレットさんのクリティカルが効いたのか、キマイラは頭の上に小さな星のエフェクトを浮かべてフラフラとよろめいている。ピヨった。


「【ツインショット】!」


 再びカシスさんから戦技の矢が飛んでくる。放たれた二本の矢の片方が、キマイラの右目を貫いた。


『グギャオオオオオオォォォォォォッ!』


 山羊の角から雷撃が走る。僕とギムレットさんはそれを避けつつ、斬り込むタイミングを計っていた。

 キマイラのHPはもうすでに五分の一も残っちゃいない。一気に畳み掛けるなら今だ。


「閃光弾を投げます! 目を閉じて下さい!」


 インベントリから閃光弾を取り出し、キマイラの顔面めがけて【投擲】で投げつける。

 ギムレットさんは盾を目を守るように前にかざした。僕も投げた右腕で目をかばう。

 まばゆい閃光が爆発するように広がり、辺りを包む。


『グルガァァァァッ!』


 ライオンと山羊の目を潰されたキマイラは、もがくようにめちゃくちゃに周りを攻撃している。隙だらけだ。

 まずは僕が飛び込む。


「【風塵斬り】」


 火炎旋風の渦がキマイラを斬り刻んだ。


「【骨砕き】!」


 燻るライオンの頭頂部へギムレットさんが重いメイスを振り下ろす。

 

「【バーニングショット】!」


 燃え盛る一本の矢が、涎を垂らしながら唸り声を上げていた山羊の眉間に突き刺さった。

 山羊の頭が燃え上がる。横倒しにキマイラが倒れ、弾けるように光の粒へと変わっていった。


「ふう」


 飛び入り参加だったが、なんとかなったな。ブレイドウルフ対策に作った閃光弾の余りを使ってしまったが、大した値段でもないので別にいいか。

 しかし【二連撃】は一回も発動しなかったな……。仕事しろよ。寝てんのか?


「いや、助かった。礼を言う」

「いえ、お気になさらず」


 ギムレットさんが頭を下げてくる。

 うーむ、どっからどう見ても白髭のオッサンなのだが、ひょっとしたら中身は僕と同年齢って可能性もあるのか……。

 ギムレットさんを見ながらそんなことを考えていると、後方からカシスさんが駆け寄ってきた。


「ありがとう、助かったわ。えっと、シロさん? それとも『ウサギマフラー』さん?」

「……シロです」


 くっ、その呼び名知ってんのか……。まあ、このマフラー目立つし、仕方がないか。別に悪いことしてるわけじゃないからいいけどさ。ギルドの宣伝にもなるとはミウラの弁だけど。

 

「PvPの動画で見たけど、実際に見るともっと速いね! いつの間にかこうシュン、って!」


 いや、まあPvPの時には【加速】を持ってなかったしな。今の方が速いのは確かだ。スキル内容を話すつもりはないので、曖昧に笑っておく。


「よし、【キマイラの角】が落ちたぞ! 約束通りそれ以外の【キマイラのたてがみ】【キマイラの爪】はシロに譲ろう」

「いや、別にいいですよ。僕の方もそれはドロップしましたし」


 ギムレットさんがそう申し出るが、断った。

 インベントリを見ると、【キマイラの角】はなかったが、【キマイラのたてがみ】と【キマイラの爪】、それに【キマイラの牙】を僕も入手している。

 

「遠慮しなくていいのよ? 私たちの狙いは角だけで、あとは使わないからどうせ売っちゃうし。何日もここに通い詰めてキマイラが出るのを待ってたんだけど、全然出なくてねー」

「運悪く仲間が二人死に戻ってな。カシスと二人ではどうしようもないから、俺たちも都に帰ろうとしてたところにご登場だ。危なく数日間の張り込みが無駄になるとこだった」


 あー、そりゃあタイミング悪いなあ。デスペナルティもあるから、抜けた二人がすぐさま戦闘に参加できるわけじゃないだろうし。

 何日も待ち構えていたのに、倒し損ねたら泣くよね……あ。


「そうだ。じゃあ『白蝋』って持ってます? できたら譲ってほしいんですが」

「『白蝋』……って、ここに出るキャンドラーが落とすやつ? それならいっぱいあるけど。夜中になるとここらへんあいつらばっかり出るし」

「ああ、『ワックス』を作るのか。いいぞ。露店で売ろうかと思ってたが、お礼に町での買い取り値段で売ってやるよ」


 ギムレットさんとカシスさんから『ワックス』の素材になる『白蝋』をたくさん売ってもらった。『白蝋』は、露店で売ればNPCに買い取ってもらうより高く売れるのに、NPCの買い取り値段で売ってもらった。悪いなあ。

 キャンドラーに会わずして目的のものをゲットしてしまったな。

 あ、レベルも25になってる。

 カシスさんたちとはフレンド登録を交わして別れた。所属ギルドは【カクテル】か。『カシス』に『ギムレット』。なるほど。

 思ったよりはるかに早く用事が片付いてしまった。日も暮れてきたし、僕も湾岸都市フレデリカに戻るか。本来ならこれからが本番だったのにな。

 来るときは馬車で時間がかかったが、帰るのはポータルエリアを使えば一瞬だ。ゲームって便利だね。

 帰ったら宿でさっそく『ワックス』と『染料』を【調合】しようっと。












DWOデモンズ ちょこっと解説】


■時間について

DWOデモンズでは三倍の速さで時間が流れている。現実世界での1時間で3時間進むということ。基準は午前9時と午後9時で、この時間にログインすると、ゲーム内でも午前9時と午後9時になる。(日にちはずれる)

当たり前だが、ゲーム内の午前、午後9時にログアウトしても、現実世界では必ずしも午前、午後9時というわけではない。(合う時もあるが)




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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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