■050 海辺の村
ファンファーレが鳴り響く。
『【怠惰】の第二エリアボス、【ブレイドウルフ】の討伐に成功されました。
討伐パーティの六名、
【レン】さん
【ウェンディ】さん
【シロ】さん
【ミウラ】さん
【リゼル】さん
【シズカ】さん
以上の方々に討伐報酬が贈られます。討伐おめでとうございます』
討伐成功を知らせる個人メッセージウィンドウが表示された。と、同時にパキィンッ、と何かが砕けるような音がして、夜だった周囲が昼間に戻った。ブレイドウルフの結界が消えたのだろう。
「つっかれたー」
そう言って最初にへたり込んだのはトドメを刺したリゼルであった。
「ちぇっ。最後の方、あたしなにもできなかったなあ」
「私もだよ」
ボヤくミウラに同意するレン。
「みなさん、あれを」
シズカが指し示す先、ブレイドウルフが倒れた場所に転移陣が現れている。これは進めってことなんだろうな。
「ぐずぐずしてると消えてしまうかもしれません。とりあえず進みましょう」
ウェンディさんの指示に従って、僕らはミウラ、レン、シズカ、ウェンディさん、リゼルの順に転移陣へと飛び込んでいく。
最後に僕が転移陣へと飛び込むと、転移した先はどこか神殿のような建物の中だった。
神殿といっても柱が数本立っているだけの簡素な造りで、壁などはまったくない。
外に出てみると、そこは岩場のような荒れ果てた場所で、殺風景なところだった。周りは高い崖に囲まれている。
「あ、扉がある!」
ミウラが指し示す先の岩壁が一部大きな扉になっていて、左右には二対の狼と三日月と思われるレリーフが彫られていた。
正面に立って取っ手を押したり引いたりしてみるが、鍵がかかっているのかまったく開かない。
「おそらくこれが第三エリアへの扉に違いありません。各自インベントリを確認してみましょう。ブレイドウルフを倒した時に扉を開く鍵を手に入れているはずです」
ウェンディさんに従ってインベントリを開く。鍵……鍵ねえ。僕の方にはないな。
えーっとブレイドウルフの報酬が、『刃狼の牙』と『刃狼の毛皮』が三つずつ、あとは『刃狼の爪』が一つ、か。
ん? あと【水属性魔法(初級)】のスキルオーブか。これは僕には必要ないなあ。リゼルに譲ろうかな? でも多属性持ちは器用貧乏になるっていうし、リゼルもいらないかもしれないな。
僕の報酬はあまり良くないみたいだ。エリアボス討伐の通常報酬である、スキルスロットの増加が一番嬉しい。
前回は使用スロット一つだけだったのに、今回は使用スロットが一つ、予備スロットが二つ空いたぞ。
レベルも24になった。熟練度もそれなりに上がっている。【二連撃】はさっぱりだったけど。一回しか発動してないしな……。
「ありました。『銀月の鍵』」
レンがインベントリから大きな銀色の鍵を取り出した。どうやらパーティリーダーにドロップすることになっていたようだ。
扉の鍵穴にそれを差し込み、軽くひねるとガチャリと重い音が響き渡った。
「んしょっ……あ、開きました」
レンが扉の取っ手に体重をかけて引っ張ると、ギギギ……と重い音を軋ませながら大きな扉が開いた。
全員がその扉をくぐり、岩壁の向こう側に出ると、再び扉が自動的に閉まり、ガチャリと鍵までかかってしまう。
こちら側も岩場地帯であったが、囲むような高い岩はない。
「あ、ポータルエリアがあるよ」
リゼルの視線を追うと、扉のすぐ横に小さなポータルエリアがあった。とりあえずそのポータルエリアに踏み込み、この場所を登録しておく。【三日月門】か。
登録は終えたので、ここからブルーメンに帰るのも可能だけど……。
「もうちょっと先に行ってみませんか? 先ほどから潮の香りがします。海が近いんじゃないかと思うのですが」
「だよね!」
シズカの言葉にミウラが首肯する。潮? 確かにそんな気もするな。
せっかくここまで来たんだし、海を見てから戻ってもいいか。
岩山を抜けるとすぐに崖の上へと出た。緩やかな下へと続く道が延びている。
ぐるりと岩場を回りこむような道を歩いていると、急に先頭を歩いていたミウラとレンが走り出した。
「海だ!」
「わああ! 綺麗!」
岩場の高い場所から海が見えた。白い砂浜が続き、遠くに小さな村が見える。漁村だろうか。第三エリアは海が多いってアレンさんが言ってたけど、こんなにすぐ近くにあるんだな。
「よしっ、早く行こう!」
「あっ、ミウラちゃん待って! シズカちゃん、行こっ!」
「ええ!」
お子様三人組が走り出し、保護者であるウェンディさんもそれに続く。
「子供は元気だなー」
「シロくんだってまだ子供でしょ」
しつれーな。バリバリのジェントルマンをつかまえて何をいう。
僕とリゼルはのんびりと歩きながら道を下っていった。ここらはセーフティエリアのようで、モンスターは出ないみたいだ。助かるね。しばらく戦闘はいいや。
坂を下りきると、海岸が広がっていた。道はなかったが、すぐその先に砂浜が広がり、潮の香りと波の音が僕らにも届く。
「あらためてVR技術ってすごいって思うよ。本物みたいだ」
「DWOは特にね。たぶん他じゃこうはいかないよ」
DWO以外をプレイしたことがないので僕にはその比較はできない。ゲーマーのリゼルが言うのだからたぶんそうなのだろう。
砂浜ではすでに三人娘が裸足になって海に入っていた。はしゃいでるなあ。
「海だー!」
「つめたーい!」
「水が綺麗ですね」
うずっ。気持ち良さそうだな。なんか泳ぎたくなってきた。
島にいた時はちょっと自転車で走ればすぐに海だったからな。久々に泳いでみたい。
だけどアレンさんに出会ったとき、川で溺れたからなあ。【水泳】のスキルがないと泳げないのだろうか。
【水泳】自体は売っている初期スキルだから買ってもいいけど、それでせっかく空いたスキルスロットを埋めてしまうのもな……。
「シロくん。ホラ、あれ見て。お魚泳いでる」
「ホントだ。すごいなあ」
透明度の高い海の中に、数匹のカラフルな魚が泳いでいる。現実世界なら当たり前のことについ感心してしまう。釣りとかもしてみたいな。
おっと、感心している場合じゃないか。
「ほら、はしゃぐのはそれくらいにして、とりあえずあの村へ行ってみよう。噂の湾岸都市って場所を聞けるかもしれない」
アレンさんの話だと、第三エリアに入ってすぐに湾岸都市があるって話だ。とすると、ここからそう遠くない場所にあるんじゃないかな。
「ちぇー、まあいいか。また今度泳ごうっと」
「水着作んなきゃいけないね。伸縮性のある素材があればいいけど」
「レンさんが作るなら素敵なのができそうですわね」
名残惜しそうに海から上がった三人が、砂浜で靴を履きながらワイワイと話していた。
セーフティエリア内の海じゃないとモンスターが出て危険だろうけど、泳ぐことには賛成だ。
「もうすぐ夏だし、リアルでも海に行きたいなあ。たまには地中海とかじゃなくて日本の海がいい」
「あ、それいいね。うちの島の別荘なら目の前が海だし、夏休みになったらみんなで行こうか?」
「いいですわね。うちの別荘は軽井沢の方ですから、レンさんの方がよさそうです」
……なんだそのセレブな会話。たまーに常識を疑いたくなる会話が飛び出すよね、君ら。
「いつから別荘とか持っているのは普通のことになったんだ……?」
「え? シロくんち持ってないの?」
横にいたリゼルから追い打ちを食らう。ブルータス、お前もか!
所詮おいらは庶民だよ……。あれ? でも確か亡くなったじいさんが土地だかなんだかを持ってるとか聞いた覚えがあるな。そこにテントでも立てれば僕も別荘持ちになれるのだろうか……。
そんな益体もないことを考えながら海岸沿いに歩いていくと、やがて小さな漁村に着いた。マップに村の名前が表示される。【ランブル村】か。
いかにも漁村という感じのその村の桟橋には、小さな船がいくつも海に浮かんでいた。あれで魚を獲るのだろう。
そこらで破れた網を直す人たちや、魚を干す人、漁の仕掛けを作っている人たちがいる。何人かのプレイヤーもちらほらと見かけた。
「あ、あそこに定食屋がある。入ってみようよ」
リゼルの提案にみんな乗った。なんだかんだで海辺の料理というものにみんな関心があったのだ。
南国の料理店といった感じのその店のテーブル席について、メニューを確認する。やっぱりというか当たり前というか、シーフード系の料理が多いな。パエリアとか焼き魚定食とかシーフードカレーとか。さすがに寿司はないけど。
みんなはシーフードスパゲティとか白身魚のムニエルとかを頼む中、僕は「鰹のたたき定食」を頼んだ。刺身を食べたかったんだよ……。
ついでだし、料理を持ってきてくれたウェイトレスさんに湾岸都市のことを聞いてみた。
「【湾岸都市フレデリカ】なら、この海岸沿いをぐるっと回ればやがて着くだよ。突き出た半島にある大きな都だからすぐにわかるだ」
マップを見ると、確かにここより南西に突き出た半島がある。そこに【湾岸都市フレデリカ】があるのだろう。
「昼過ぎから馬車が一本出とるで、それに乗るといいだよ。夜までには向こうに着くべさ」
馬車か。牛が引くリヤカーなら島で乗ったことがあるんだけどな。
この際だからもうその馬車で行ってしまうことにした。一度行ってしまえば次からはポータルエリアから自由に跳べるし。
鰹の美味さに舌鼓を打ちながら、僕は気になっていたことをレンに尋ねた。
「そういやレンはレベル上がった?」
「あ、はい! 25になりました!」
確認してみるとみんな一つずつ上がって、レンは25、ウェンディさんは26、ミウラは23、リゼルは25、シズカは23、僕は24になっていた。
「ギルド設立だけどどうする? ギルドマスターになれるのはレベル25以上……この場合、レンとウェンディさん、リゼルの三人だけど」
「私はお嬢様を差し置いてギルドの代表になどなる気はございませんので」
「私は別にギルドマスターになってもいいけど、レンちゃんの方がいいと思うな。責任感ありそうだし」
ウェンディさんの答えは今まで通り、リゼルは可もなく不可もなくといった返事だった。
「私……でいいんですか?」
「パーティリーダーもレンだし、いんじゃない?」
「ですわね」
満場一致でレンがギルドマスターになることに決まった。ちなみにギルドサブマスターはウェンディさんとリゼルだ。
ギルドマスターが半年以上ログインしなかったりすると、ギルドマスターの権利はサブマスターへと移行する。サブマスターが設定されていないと、そのギルドはギルドマスター不在ということで登録を抹消され、解体されてしまうのだ。
「で、ギルド名はどうするの?」
「うーん、【ヴァルキューレ】とか?」
「ちょっと待って。それは僕がキツい」
リゼルの提案を却下した。戦乙女とか、男の僕にはちょっと抵抗がある。
「【忍者シロ軍団】は?」
「【マフラーズ】とかどうでしょう?」
「【ペーターラビッツ】ってのも……」
「お前らまともに考える気ないだろ?」
ミウラ、シズカ、リゼルを睨み付ける。なんで僕基準なんだよ。
「ギルド名は馬車の中でゆっくり考えましょう。その他にもやることがいっぱいありますから」
レンの言葉にみんな頷くと、食事を片付け始めた。僕も何か考えよう。このままでは変なギルド名を付けられかねないからな。
僕は鰹のたたきを味わいながら、あーでもない、こーでもないと頭を捻り続けた。
■本名:因幡 白兎
■プレイヤー名:シロ レベル24
【魔人族】
■称号:【刃狼を滅せし者】
【駆け出しの若者】
【逃げ回る者】【熊殺し】
【ゴーレムバスター】
【PKK】【賞金稼ぎ】
■装備
・武器
双焔剣・白焔
【ATK+78】
双焔剣・黒焔
【ATK+78】
・サブ
突剣・鬼爪(右)
【ATK+28】
突剣・鬼爪(左)
【ATK+28】
・防具
レンのロングコート
【VIT+31 AGI+22】
サンジェ織の上着
【VIT+20】
剣士のズボン
【VIT+21】
迅雷の靴
【VIT+12 AGI+10】
・アクセサリー
レンのロングマフラー
【STR+14 AGI+37 MND+12 LUK+26】
メタルバッジ(兎)
【AGI+16 DEX+14】
ナイフベルト
【スローイングナイフ 4/10】
ウェストポーチ
【撒菱 200/200 十字手裏剣 20/20】
兎の足【LUK+1】
■使用スキル(8/9)
【順応性】【短剣術】
【敏捷度UP(小)】
【見切り】【気配察知】
【加速】【二連撃】【投擲】
■予備スキル(10/12)
【調合】【セーレの翼】
【採掘】【採取】【鑑定】
【伐採】【毒耐性(小)】
【暗視】【隠密】【蹴撃】
■実験的な作品でしたが、ストックはここまでです。正確には三章に入ってもう何話かあるのですが……。
やはりVRMMOというジャンルは難しく、いろいろと勉強になりました。
この後はまとまってから一気更新か、ちょこちょこ更新するかで迷ってます。気長にお待ちくださいませ。
お読みくださりありがとうございました。




