■049 月下の死闘
もう一撃どころか軽く踏まれただけでも死に戻りする。
かなりヤバめのピンチを迎えた僕だったが、突然なにかが振りかけられ、身体の重さが消えた。
HPを見ると三分の二くらいまで回復している。レッドゾーンから回復したため、重さが消えたようだ。
「大丈夫ですか?」
「……助かった。サンキュー」
僕を覗き込むシズカの手には、昨日渡した『ハイポーション』の瓶があった。さっき振りかけられたのはそれだな。
どうやらさっきの【ハウリング】に、シズカだけは抵抗できたらしい。でなければこんなに早く回復しには来れないだろう。
立ち上がり、ブレイドウルフの方を見ると、防戦しつつ【ブレス】を放つウェンディさんと、その後ろから矢を放ち、注意を引きつけようとしているレンの二人が戦っていた。
ミウラはブレイドウルフの背後に回り込もうとし、リゼルは魔法を詠唱している。
インベントリから『ポーション』を取り出し、一気に飲む。相変わらずマズい。けど、これでフル回復だ。全快にしとかないと僕の場合怖い。
おっと『マナポーション』も飲んでおこう。【加速】でだいぶ減らしたからな。
戦線に復帰する。シズカと左右に分かれ、ブレイドウルフへと再び【加速】で斬り込んだ。
ウェンディさんが注意を引きつけ、その隙に背後から大剣を振り下ろそうとしていたミウラとほぼ同時に戦技を放った。
「【アクセルエッジ】」
左右四回ずつの斬撃がブレイドウルフの背中に繰り出される。
それを追いかけるように振り下ろされたミウラの大剣が、ブレイドウルフの尻尾を斬り落とした。
『ギャウァァアアァァッ!』
跳ね飛びながら、ブレイドウルフが全身の毛を逆立てて刃毛を撒き散らす。回転した刃毛は鋭利な剃刀のように周囲にいた僕らを襲った。
「【サイクロン】ッ!」
『グルガァァッ⁉︎』
リゼルの風魔法が生み出した竜巻が、刃毛を巻き込み、ブレイドウルフへと炸裂する。
己の刃に斬り刻まれて、刃狼はよろめきながらも丘の上へと跳び移り、僕らと距離を取った。
よし、相手のHPが三分の一は減ったぞ。
『ウオォォォ────────ンッ!』
高らかにブレイドウルフが吼え、月夜の草原に一陣の風が吹いた。
丘の上からこれまでよりも疾いスピードでブレイドウルフが突進してくる。その周囲には暴風が渦巻き、まるで放たれた矢のように僕らへと向かってきた。
「ぐっ!」
「わっ⁉︎」
「きゃっ!」
轢き逃げのような体当たりに、ウェンディさんはなんとか堪えたが、ミウラとシズカが吹っ飛んだ。
ウェンディさんは【不動】のスキル持ちのため、吹き飛ばし系の攻撃は効きにくい。
しかしそのウェンディさんに刃狼の牙が襲いかかる。盾を飛び越えて、その左肩をガブリと噛まれた。
「ぐっ!」
「【ファイアアロー】!」
「【スパイラルショット】!」
ウェンディさんに噛み付いたブレイドウルフの横腹に、リゼルの魔法とレンの矢が突き刺さる。
『グルガアァッ⁉︎』
飛び退くようにウェンディさんから離れたブレイドウルフに今度は僕が襲いかかった。
「【風塵斬り】」
風をまとわせた斬撃がブレイドウルフを斬り裂く。【二連撃】が発動し、二倍のダメージが通った。さらに切り裂いたその風が焔をまとい、ブレイドウルフを灼いていく。『双焔剣』の追加効果だ。
『ガルルガルガアァッ!』
ブレイドウルフはゴロゴロと地面を転がりながら、体についた焔を消そうとする。
その間にウェンディさんはHPを回復させて立ち上がった。
「もらったあっ!」
チャンスと見たのだろう、鬼神族の種族特性【狂化】を発動させたミウラが大剣を転がるブレイドウルフに叩きつけた。
『ギャオアアァァァァッ!』
首筋から盛大な血を撒き散らし、ブレイドウルフが悲鳴を上げる。未だチロチロとした焔がその身体を灼いていた。
一時的に防御力を下げ、攻撃力を大幅に上げることができる鬼神族の【狂化】は、タイミングさえ間違えなければ強力な武器となる。一度使うとクールダウンが必要となり、防御力がなかなか戻らないのが難点だが。
しかし、おかげで表示されるブレイドウルフのHPゲージが、半分どころか四分の一まで減っていた。よし、いけるぞ!
だが、小さく身体を沈めたブレイドウルフが、僕らに向けて口を開き、再びあの咆哮を轟かせる。
『オオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!』
調子付く僕らをまたもや衝撃波が貫いていく。全身が硬直し、動けなくなった僕らを置いて、傷だらけのブレイドウルフが丘の上へと駆け上がっていった。
『ウオォォォォォォ──────────ンッ!』
満月へ向けてブレイドウルフが咆哮すると、月の光がキラキラと刃狼を包み出した。見ると、ヤツのHPが半分近くまで回復している。『双焔剣』の追加効果も消えてしまっていた。
「ずるい! あれってアリなの⁉︎」
などとミウラが叫ぶが、
「まあ僕らだって回復アイテムとか使っているしな。アリといえばアリなんだろうけど。それよりお前、前に出るなよ? 【狂化】の反動で、しばらくは僕よりも防御力が低くなってるだろ。キツいの一発くらったら間違いなく死に戻るぞ」
言われて気が付いたのか、ミウラが僕の後ろに下がる。僕はまだ敏捷性で攻撃を躱すことができるが、ミウラはそれもできない。防御力が元に戻るまで、なるべくミウラは目を付けられないように動かなくてはならないのだ。
『ガルルルルァァァ!』
丘の上からブレイドウルフの刃毛が再び撒き散らされる。鋭利なカッターのようなそれを、僕はできるだけ打ち落とし、後ろのミウラは大剣の腹を正面に構えて防御に徹していた。
『ガルガァッ!』
飛びかかってきたブレイドウルフをウェンディさんの大盾がしっかりと受け止める。
そこへ回り込んだシズカがくるりと薙刀を回転させて戦技を放った。
「【三段突き】」
槍系の戦技【三段突き】が、シズカの踏み込みと同時に発動した。ほぼ同時に上中下と三つの突きが繰り出される。
しかもシズカの目は金色に変化していた。あれは弱点を見抜くスキル、【看破】が発動している証拠だ。
【三段突き】は狙った弱点、つまりブレイドウルフに大ダメージを与えられる場所に炸裂したのである。
『ギャオアアァァァァッ!』
横倒しになったブレイドウルフが暴れまくる。刃毛を逆立てて、周囲を無差別に攻撃し、その爪を振るってきた。
僕らは距離をとり、次の攻撃に備える。無闇に近づいたりはしない。
やがて立ち上がったブレイドウルフの刃毛がゾワゾワと波打ち、一方向に流れを作った。なんだ?
それはやがて額部分へと集まり、一本の剣の形を形成する。まるで一角獣のように額から伸びる剣が、月光に銀色の燦めきを放った。
「ブレイドウルフの最終形態です。気をつけて下さい!」
そう言いながら放ったレンの矢を、ブレイドウルフが額の剣で弾き返した。
『グルガアァァァァッ!』
ブレイドウルフが額の剣をこちらへ向けて突撃を開始する。
前に出たウェンディさんがそれを防ごうと大盾を構え、ブレイドウルフがその盾に正面から激突した。
「ぐっ……!」
ガキィッ! という音と共に、Aランク鉱石との合金で造られたウェンディさんの大盾が、ブレイドウルフの剣に貫かれてしまった。なんて剣だ。
しかも盾を貫いた剣先がウェンディさんの胸鎧をも貫き、大ダメージを与えている。ウェンディさんのHPが半分近くまで削られていた。
「【加速】!」
一瞬で最高速まで達した僕は、ブレイドウルフの顔面を『双焔剣』で斬りつけた。
ブレイドウルフがウェンディさんの貫いた盾ごとその場から飛び退く。
その隙にインベントリから取り出した『ハイポーション』を彼女に振りかけて、HPを回復させた。
「大丈夫ですか?」
「はい。助かりました。ですが……」
ウェンディさんがブレイドウルフに持っていかれた盾に視線を向ける。煩わしそうにブレイドウルフが首を振り、ウェンディさんの大盾を後方へとぶん投げた。
くっ。あの盾を回収しないとウェンディさんが盾役をこなせない。
なんとか隙を作ろうと、インベントリから閃光弾を取り出して投げつけたが、先ほどの攻撃で学習したのだろう、閃光が放たれるその瞬間だけ身体を反転させて、目を守る行動をとってしまった。
結果としてはその隙にウェンディさんが盾を拾えたからよかったものの、もう閃光弾はブレイドウルフには効かないと思う。
あとは……一か八か、試してみるか。
額の剣を振り回すブレイドウルフを躱しつつ、そのチャンスを窺う。危険は承知の上でなるべく正面近くを立ち回る。匂いでバレる可能性もあるからあえてインベントリからはギリギリまで取り出さない。
決してこちらから攻撃はせず、躱すことに専念する。
やがてしびれを切らしたブレイドウルフがわずかに身体を沈ませた。
きた!
僕は【加速】を使って正面へと回り、インベントリからその小瓶を取り出して、【ハウリング】を放とうと大きく口を開いたブレイドウルフに向けて投擲した。
蓋が外れて中身を少し振りまきながら、その小瓶はブレイドウルフの口の中へと消えていった。ストライク。我ながら見事なコントロールだ。
『ガッ⁉︎ ハッ⁉︎ ガガガガッ!』
ブレイドウルフが痙攣するように咳き込んで口から胃液とともに小瓶を吐き出す。
だけどもう遅い。ヤツからはすでに紫色の泡のエフェクトが立ち昇っている。そう、『猛毒』のエフェクトが。さすが飲ませると効果が違うな。
「またアレンさんから『毒クラゲの触手』を売ってもらわないとな。いや、これで第三エリアに行けるなら自分で取ってくればいいか」
さらにブレイドウルフに麻痺効果のエフェクトも現れる。効果時間がどれくらいあるかはわからない。そんなチャンスを逃す僕らではなかった。
「【三段突き】!」
「【パワースラッシュ】!」
よろめくブレイドウルフに向けて、シズカとウェンディさんの戦技が炸裂する。麻痺しているブレイドウルフは避けることもできずに、その攻撃をただ食らうだけだった。
猛毒の効果もあり、すでにブレイドウルフのHPはレッドゾーンへと突入している。また回復されてはたまらない。ここで決める。
「【十文字斬り】」
ブレイドウルフの頭部を斬りつけると、猛毒で弱っていたのか額の剣が粉々に砕けた。
追撃はせず、僕はすぐさまブレイドウルフから離れる。
トドメとばかりに最大級に練り上げたリゼルの魔法を無駄にはしたくないからな。
「【ファイアボール】!」
巨大な火球がブレイドウルフに向けて放たれ、月明かりの草原を真っ赤に染める。
『グルガアァァァァァァァッ!』
断末魔の雄叫びを月夜に放ち、刃狼が炎の中に飲まれていく。
やがて全身を真っ黒に焦がし、その場に力無く倒れたブレイドウルフは光の粒となって夜風に儚く消えていった。
【DWO ちょこっと解説】
【地精族】ドウェルグ
筋力と耐久力、器用度が高い。戦士、あるいは生産職向き。選択すると身体がひと回り小さくなる。種族スキル【強打】を持つ。
筋■■■■■■■■
耐■■■■■■
知■■
精■■■■
敏■
器■■■■■■■■■■
幸■■■■
種族スキル【強打】
斧、棍棒、槌系に限り、攻撃力とクリティカル率が上昇する。反面、命中率が下がる。




