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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■048 刃狼ブレイドウルフ





 ブルーメンから南西へ向かうと【嘆きの谷】へと辿り着く。

 このエリアは左右に切り立った断崖絶壁がそびえ、V字型の谷が続くエリアだ。

 それほど大きいエリアではないが、戦いにくく逃げにくい。どうしても横の制限を受けてしまうし、挟み討ちにも合いやすい。

 なのであまりプレイヤーには人気のないエリアである。

 出てくる敵もいやらしい。大きな青いカエル、『ブルーフロッグ』や、炎をまとったナメクジ、『メラスラッグ』など、さほど強くはないが、仲間を呼び寄せるタイプのモンスターが多い。


「絶対ここの敵って狙って配置してるよね……。ヌメヌメ系でさ。【嘆きの谷】の『嘆き』ってそういうこと?」


 粘着質の液体を吐く『ニードルワーム』を魔法で火祭りにあげながら、ウンザリとした様子でリゼルが呟く。まあ、嘆きたくもなるか。


「ガマンガマン。そんなに長いフィールドじゃないし、もうすぐ抜けられるよ」


 断崖には良さげな採掘ポイントもあるんだが、今回はスルーだ。あくまでここは通過点でしかない。

 あまりモンスターにSTスタミナMPマジックポイントを使いたくないところだが、ここの地形は逃げるには難しい場所だ。

 なるべく早く抜けて、ブレイドウルフのところに辿り着きたいが、さっきからモンスターがやたら現れる。はっきり言って鬱陶しい。

 しばらく進むと、渓谷の道が二股に分かれていた。


「どっちが【沈黙の丘】に続く道だろう?」

「左ですね。もうすぐで谷から抜けられます」


 ウェンディさんが断言する。下調べは充分なようだ。

 僕たちはミウラ、ウェンディさんを先頭に、真ん中にレン、リゼル、バックアタックを警戒して後ろに僕とシズカという二列のフォーメーションで渓谷を進んでいく。

 出てくるモンスターを撃破しながらどんどんと進んでいくと、やっと開けた場所に出た。どうやら【嘆きの谷】を抜けたらしい。


「ここが【沈黙の丘】?」

「エリア的にはそうですね。マップにもそう出てますわ」


 僕の言葉に隣にいたシズカが答える。

 目の前に広がるのは風が吹く草原で、確かにところどころに丘のような傾斜がある。

 空の青と雲の白、そして草原の緑が鮮やかに景色を彩っていた。


「で、ブレイドウルフはどこ?」


 キョロキョロとミウラが辺りを見回す。


「ブレイドウルフのテリトリーに入れば月光石に反応があるそうですから、そこらをうろついてみましょう」


 レンの提案にみんな頷き、とりあえず近くの丘へと登ってみる。風が気持ちいいなあ。

 【気配察知】ではまだ何も感じない。本当にここにブレイドウルフがいるのか?

 しばらくうろついてみるが、クインビーとかゴブリンとか、【トリス平原】にも出るモンスターが現れただけで、ブレイドウルフは影も形もなかった。


「見当たりませんわね……。何か出現条件があるのでしょうか……?」


 シズカが呟いたその時、突然僕らのインベントリから七つの『月光石』が飛び出した。

 『月光石』は点滅しながら僕らの周辺を衛星のように回り始め、その速度を上げていく。


「これは……!」

「シロさん、空が!」


 レンの声に空を見上げると、今まで晴れていた青空が、あっという間に夕暮れになり、夜になってしまった。


「なんだこりゃ……」


 いつの間にか空には煌々とした満月が浮かび上がっている。


『ウオォォォォォォ────────────ォォンッ!』

 

 突然、辺りに高らかな雄叫びが響き渡る。犬……いや、これは狼だろう。間違いなく。

 なぜなら僕らの正面、小高い丘の上に、大きな象ほどもあろうかという狼が、満月に向けて吠えていたからだ。

 その毛並みは白銀の光沢を放ち、その双眸は黄金に輝いていた。


 これが第二エリアのボス、刃狼ブレイドウルフ。


 僕らが息を飲んで立ち竦んでいると、周囲を回っていた『月光石』が、パキィィィンッ! という音と共に全て砕け散った。

 『月光石』が砕けたということは、もうここはブレイドウルフのフィールド内なのだ。


「気をつけて下さい! 来ます!」


 ウェンディさんが大盾を構えて前方に出る。僕も腰から『双焔剣・白焔』と『双焔剣・黒焔』を抜き放ち、ブレイドウルフに向けて構えた。


『オオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!』


 突然、大音響と共に衝撃波のようなものが草原を走り抜け、僕たちを貫き通す。

 身体が硬直し、まったく動くことができない。これが【ハウリング】か!

 そんな僕ら目掛けて、ブレイドウルフが風のように突進し、大盾を構えていたウェンディさんをいとも容易く吹き飛ばした。

 硬直状態だと【不動】の効果も弱まるのか!


「ぐっ!」


 空中に投げ出されたウェンディさんが背中から落ちる。その音が合図だったかのように、僕らの硬直がふっ、と消えた。

 時間にしてみたらわずか三秒ほど。しかしながらあのブレイドウルフが攻撃するには充分すぎる時間を与えてしまう。


「シズカちゃん、今の硬直した?」

「ごめんなさい。【健康】の効果が出なかったみたいです。私も硬直しました」


 レンにシズカが謝る。シズカの持つ【健康】は全ての耐性が上がり、状態異常に「かかりにくくなる」というスキルだ。逆に言うとかかる時はかかる。運に左右されるところも多々あるスキルだ。仕方がない。

 ウェンディさんが立ち上がり、再び大盾を構えた。

 彼女を吹き飛ばした張本人のブレイドウルフは、体を反転させると再び僕らへ向けて襲いかかってくる。金色の眼が僕の方を向いた。


「【加速】」


 僕へ向けてその大きな口を開き、一気に鋭い牙を突きたてようとしたブレイドウルフだったが、次の瞬間、ガチッ! と自らの歯を合わせることとなった。

 【加速】した僕はブレイドウルフの牙から脱出し、その横を抜けざまに右前足を斬りつけてやった。


『グルガアァッ!』

「おっと」


 今度はその右前足で僕を叩き潰そうとするが、寸前でそれを避けて後方へと跳んで逃げる。


「りゃあああああぁぁッ!」


 僕とすれ違いに飛び込んできたミウラの大剣が、ブレイドウルフへ向けて弧を描く。


『ガアアァアァッ!』

「っ!」


 突然、ブレイドウルフの毛が逆立ち、空中のミウラ目掛けて撃ち出される。

 毛が何本も集まり一束の刃となって、まるで短剣の雨のように放たれたのだ。

 撃たれたミウラがダメージを受けて落下する。僕はそれを【加速】で受け止めて、すぐさまブレイドウルフから離れた。


「大丈夫か?」

「びっくりしたけど大丈夫。そんなに大きなダメージは受けてないよ」


 腕の中のミウラがにかっと笑う。まだHPには余裕があるようだ。


「ちょ、ミウラちゃん! いつまでシロさんにお姫様だっこされてるの! うらやま……じゃない、戦闘中だよっ!」

「あはは。レンが怒ってる。下ろして、シロ兄ちゃん」


 ミウラを地面に下ろし、ブレイドウルフに向き直ると、今度はウェンディさんが大盾で攻撃を防ぎつつ、炎の【ブレス】で牽制していた。


「【ファイアボール】!」


 そこにリゼルの【ファイアボール】が撃ち込まれる。

 燃え盛る火球は一直線にブレイドウルフへと向かうが、刃狼はそれをひょいとサイドステップで躱してしまった。

 ブレイドウルフはかなり素早い。弱らせるか、拘束系の魔法を使ってからじゃないと【ファイアボール】は当たらないだろう。あるいは……。


「リゼル、もう一度【ファイアボール】だ! 準備ができたら合図を!」

 

 頷いて詠唱に入ったリゼルを置き、僕らはブレイドウルフへと突撃した。ウェンディさんと同じくブレイドウルフの注意をこちらへと向けさせる。

 ブレイドウルフが撃ち出す刃毛を、右に左に躱しながら、その巨体を斬りつけていくが、大きなダメージは入っていない。

 やはりあの毛が鎧のようになってこちらの刃を防いでいるのか。


「シロくん、いつでも撃てるよ!」

「よし、みんな離れて目をつぶれッ!」


 その一言で僕が何をしようとしているかみんなには伝わったようだ。

 ブレイドウルフは距離を取った僕らを追いかけてこようとする。そのタイミングでインベントリから取り出した「それ」を僕は【投擲】で投げつけた。


「くらえっ!」


 ガラス玉のような「それ」がブレイドウルフの額に当たると、眩い閃光が辺り一面に放たれた。『ミーティア』のマスターに教えてもらった『閃光弾』である。


『ガァアアッ⁉︎』

「リゼル、今だ!」


 眩しい光を腕で防ぎながら叫ぶ。


「【ファイアボール】!」


 目が眩んで立ち尽くすブレイドウルフに向けて、リゼルが巨大な火球を撃ち放つ。


『ゴルガフッ⁉︎』


 横っ腹に【ファイアボール】を受けて、ブレイドウルフが吹っ飛ぶ。


「やった!」


 しかしブレイドウルフはすぐさま体勢を整えると、全身から何千という刃毛を全方位へ向けて放ってきた。

 これは【加速】でも躱せない。いや、躱せないどころかこんな状況で【加速】を使ったら、逆に蜂の巣になる。

 僕は飛んでくる刃を両手の『双焔剣』で可能な限り打ち落とした。上半身は凌げたが、太腿や脛に攻撃を受ける。HPが一気に減った。

 ブレイドウルフが身体を小さく沈め、大きく口を開ける。


『オオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!』


 再び僕らを衝撃波のようなものが貫いていく。【ハウリング】だ。全身が硬直し、動けなくなる。


『グルオアアァッ!』


 正面にいた僕めがけて、真っ直ぐにブレイドウルフが飛びかかってきた。

 あっと言う間にその巨体に押し倒されて、右肩に鋭い牙を突き立てられる。


「ぐうっ!」


 それほどの痛みはない。肩を力強く掴まれているような感じはするが。VRゲームにおいて痛覚は大幅なカットをされているから当たり前と言えば当たり前だけど。

 ブレイドウルフは僕を咥えたまま、首を勢いよく振り、投げ捨てるように空中へと放り投げた。

 地面をバウンドし、ゴロゴロと草の海を転がる。僕のHPゲージがぐんぐんと減っていく。ちくしょう、容赦ないな。

 ゲージが緑から黄色になり、赤へと入って、すわ死に戻りかと思ったが、ギリギリのところで止まってくれた。日頃の行いがいいからかね?

 HPゲージがレッドゾーンに突入しているので身体が鉛のように重い。あれ、重いっていうか、動かすのもキツイんですけど? HPがギリギリだからか? インベントリからポーションを取り出すのもしんどい。

 あれ? 大ピンチ?













DWOデモンズ ちょこっと解説】


【妖精族】アールヴ

知力が高く、後衛向き。全ての魔法が使える。その反面、耐久力、攻撃力がない。また、器用さが高いので、弓使いにも向いている。選択すると耳が長くなる。種族スキル【高速詠唱】を持つ。


筋■

耐■

知■■■■■■■■■■

精■■■■■■■■■

敏■■■

器■■■■■■■

幸■■■■


種族スキル【高速詠唱】

短時間で魔法を使うことができる。





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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