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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■046 雨とコーヒー





 梅雨の鬱陶しさは未だに去らず、夏はまだ遠い今日このごろ。

 僕は部活に所属していないため、遅くても四時には帰宅する。本当はなにかの部活に入ろうかとも思っていたのだが、家のこともあるし、取り立てて入りたい部活もなかったのでスルーした。

 家に帰ると簡単な掃除を終えてから、近くのスーパーへと夕飯と明日の朝食の食材を買い出しに行く。父さんは月に一回にしか帰ってこないから僕が買いに行くしかないのだ。

 今日は鮭の切り身が安かったので、これと冷奴ひややっこ、ほうれん草のおひたし、納豆にきんぴらごぼう、みそ汁と和食テイストで行くことにする。ちなみに面倒なので、明日の朝ごはんもこれだ。

 買い物から帰って、さてご飯の用意をするかと包丁を持った時に、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。


「はい」

白兎はくと君、わたしー」


 インターホンの画面に映し出されたのは、手を振るプラチナブロンドの少女。お隣さんのリーゼだ。なんだ?

 玄関のドアを開けてやると、入ってきたリーゼの手には小さな器があった。


「伯母さんが持っていきなさいって。たくさん作ったから『押すとハゲ』だって」

「押すと……? ああ、『お裾分け』か。ありがとう。こりゃ旨そうだ」


 リーゼが差し出した器にはジャガイモとニンジン、サヤエンドウ、そして豚肉の、いわゆる『肉じゃが』が入っていた。夕飯が一品増えたな。


「ご飯作ってたの?」

「ん? ああ、週末以外は一人だし、外食するとお金かかるしね」


 食費というか、生活費は父さんからちゃんと貰っている。自炊すればそれだけ安上がりになるし、僕が自由に使えるお金も増えるのだ。しない手はない。

 だからと言ってカップ麺とかは許されない。たまにだが、霧宮きりみやの小母さん……つまり奏汰かなた遥花はるかのお母さんがやってきてチェックするのだ。カップ麺三昧などと父さんに連絡されたら、家政婦さんでも雇いかねないからな。


「それだけ料理するなら【料理】スキル取ればいいのに」

「ゲームの中まで料理とか勘弁してほしい。それに今はスキルスロットが空いてないから取れないよ」

「ブレイドウルフを倒したら拡張するでしょ? そのあとで取ったらいいじゃない」

「自分で作るくらいなら『ミーティア』でマスターの料理を食べるね。そういうリーゼこそ家で料理はしないのか?」

「うっ」


 リーゼは大袈裟に胸を押さえる小芝居をして顔を逸らす。


「ははん。さては遥花と同じ、料理できないタイプだな?」

「ち、違うよ! その肉じゃがだって私も手伝ったんだから! ……ピーラーで皮を剥いただけだけど」

「……そうか」

 

 ま、リーゼは生まれが貴族様だしな。料理なんかさせてもらえなかったに違いない。あまりからかうのもよくないな。

 肉じゃがのお礼というわけじゃないが、父さんが出張先から送ってきたお菓子をリーゼに持たせた。カスタードクリームをカステラ生地で包んだ仙台銘菓だ。

 リーゼの伯母さんが作った肉じゃがは美味かった。ご飯が進み、いつもより食べ過ぎた気がする。

 食べ終わったら少しテレビを見ながらお茶を飲み、いつもの時間にVRドライブが置いてある部屋に行く。

 さて、今日も頑張りますか、と。





 ログインするといつもの宿屋で目覚める。早いとこギルドホームを手に入れて、仮宿暮らしにピリオドを打ちたいのう。

 宿屋のカウンターにいる女将さんにいつものように挨拶をして外に出ようとしたら、急にザーッという雨音に襲われた。

 雨が降っている。DWOデモンズで初めての雨だ。現実世界での雨はジメジメと鬱陶しいだけだが、VR世界の雨は初体験だからかなんとなくウキウキしてしまう。

 女将さんが傘を貸してくれるというので、番傘のような物を借りた。柄は木製だが傘は布製で、ところどころ虫が食ったのか穴が空いている。

 傘を差してブルーメンの町を歩く。いつもの町とは違う雰囲気がして、なんとも面白い。

 普段通らない道を歩き、ウロウロとしているといつの間にか知らない道に出てしまった。

 まあ、町のマップがあるから迷ったりはしないけど。

 知らぬ通りを歩いていると、雨の中、馬車が停まっているのが見えた。どうも片方の車輪が軸ごと折れたらしく、動けないでいるらしい。

 フードの付いた、防水加工がされているマントを羽織った人が車輪を外して立ち上がった。


「どうかしましたか?」

「ん? ああ、車輪が外れちまってね。すぐそこがウチの店なんだが……こりゃあ荷物を手作業で運ぶしかなさそうだ」


 商人風のおじさんが苦笑気味に笑う。幌がかかった荷台の中には、何やら麻袋が何個も積まれていた。


「手伝いますよ」

「え? いいのかい? こっちは助かるけど……」

「かまいませんよ」


 おじさんにそう答えると、ポーン、という音と共にウィンドウが開く。


─────────────────────

★クエストが発生しました。


■個人クエスト

【雨の日の手伝い】

 □未達成

 □報酬 ???


─────────────────────


 ありゃ。クエストが始まった。そんなつもりはなかったんだけと。


「じゃあ、この袋をあそこの看板が出ている店の中まで頼むよ。後でお礼はするから」

「はい」


 クエストの方からも報酬が出るんだけどな。まあいいや、パパッとやってしまおう。

 傘を荷台の中に置き、代わりに袋を取り出して担ぐ。けっこう重いな。何が入ってるんだろ。米とか小麦かな。

 とりあえず袋を担いでおじさんと雨の中を店まで走る。一分とかからずに店につき、ドアを開けたおじさんに続いて店の中に袋を下ろした。

 それを十回以上繰り返し、全部の袋を店の中へと運び終えた。当然びしょ濡れである。


「いや、助かったよ。ありがとう」

「いえいえ。これくらいなんでもないですよ」


 僕が返事をすると同時に、ポーン、という音と共にまたウィンドウが開いた。


─────────────────────

★クエストを達成しました。


■個人クエスト

【雨の日の手伝い】

 ■達成

 ■報酬 スターコイン五枚

─────────────────────


 ありゃ、またスターコインか。

 町中でクエストが発生することは多々あるんだけど、けっこう報酬がスターコインってのが僕の場合多いな。もうすでに五十枚以上持っているんだが、使い道がまだわからない。

 説明にはアイテムやスキルと交換できるってあるけど、どこで交換すんだよって話だ。まだ未実装なんだろうか。


「手伝ってくれたお礼にこれをあげるよ」


 おじさんはジャラッとしたものが入った小袋を僕に手渡してくれた。


「なんですか、これ?」

「コーヒー豆だよ。なかなか手に入らない一級ものなんだとさ。取引先でもらったんだが、私も妻もコーヒーは苦手でね。よかったらもらってくれ」

「コーヒー豆ですか。ありがとうございます」


 正直、僕もそれほどコーヒーを飲む方じゃないんだが。『ミーティア』に行く時に飲むくらいで、普段は煎茶だしな。

 ま、『ミーティア』のマスターにあげれば喜んでくれるだろ。

 おじさんにお礼を言って別れ、傘をさして外に出る。すっかり濡れてしまったが、寒くはない。こんな豆が手に入った以上、『ミーティア』に行かないって選択はないよな。

 雨の降る中でも喫茶『ミーティア』は営業していた。


「ちわー」

「おや、いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませー」


 いつものように豹耳マスターと猫耳ウェイトレスのシャノアさんが出迎えてくれる。雨が降っているからか、他に客の姿はなかった。


「今日はマスターにお土産を持ってきましたよ」

「お土産ですか? なんでしょう?」

「コーヒー豆です。なんでも一級品らしいですよ」


 おじさんにもらった豆を袋ごとマスターに手渡す。マスターはそれを手に取り出し、匂いを嗅いでから「まさか」と小さく呟いた。


「こっ、これは『コピ・ルアク』じゃないですか! なんてことだ、DWOデモンズにも存在していたのか⁉︎」


 え、なに? ものすごく驚いているけど。


「あ、ああ、すいません。取り乱しました。この『コピ・ルアク』は世界で最も高価なコーヒーとして知られる豆でして。まさかDWOデモンズでも再現されてたとは思わなくて」

「そんなに高いんですか?」

「そりゃあもう。『コピ・ルアク』にもピンキリがありますけど、ちゃんとしたところならコーヒー一杯五千円から八千円はすると思います」

「ぶっ⁉︎」


 なにそれ⁉︎ そんなに高いの⁉︎ やべ、あのおじさん価値がわからないでくれたんじゃないのか? コーヒー苦手だって言ってたし。


「この香り……以前嗅いだ香りと同じです。ここまで再現できるとは……。これをどこで?」


 僕はコーヒー豆をもらった経緯を話し、もし手に入れたければおじさんに聞いてくれと、店の場所をマスターに教えた。おじさんから取引先の相手を教えてもらえば、定期的にこの豆が手に入るかもしれない。


「『コピ・ルアク』があるなら他の豆もある可能性が高いですね。『ブラック・アイボリー』もあるかもしれないな……」


 なにやらブツブツと言い始めたマスターをよそに、僕はもらった豆を見つめる。


「しかしそんなに高いコーヒー豆があるんですねえ。びっくりした」

「『コピ・ルアク』はインドネシアで作られているコーヒー豆で、『コピ』はコーヒー、『ルアク』はマレージャコウネコを意味します。コーヒーの実を食べたジャコウネコのフンから取れる、未消化のものを使ってできる特殊なコーヒー豆で、」


 はい?


「……すいません。いま何と?」

「ですからジャコウネコのフンから取れる、」

「あ、もういいです。マスター、『いつもの』! コーヒー下さい」

「え? 『コピ・ルアク』は」

「『いつもの』がいいです。『いつもの』コーヒーが僕は好きなので。『いつもの』にして下さい」

 

 有無を言わさず、マスターに注文する。あいにくと僕はそこまでコーヒー好きではないのだ。あいにくと。

 一杯何千円もするコーヒーを飲まなくても、安物のコーヒーで満足できる安い舌なのだ。

 マスターの淹れてくれた『いつもの』コーヒーを飲む。うん、うまいね!

 『いつもの』味にホッとする僕であった。














DWOデモンズ無関係 ちょこっと解説】


■コピ・ルアク

コピ・ルアックとも。コーヒー豆を食べたジャコウネコのフンから採れる、体内で発酵されたコーヒー豆。独特の香りを持つのが特徴。産出量が少ない高級品である。

ちなみに「ブラック・アイボリー」とはゾウのフンから……以下同文。

ちなみに作者は胃痛持ちのため、コーヒーをほぼ飲まない。





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
コーヒーを筆頭に食べ物・飲み物にはどういうものか知らないほうがいいものがあるよね……
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