■042 ティータイム
■本日もう一話投稿します。
ドウメキたちPKギルド『バロール』を撃退した僕たちには、奴らの全所持金の他に嬉しい報酬があった。
先に倒したPKの三人がばら撒いたアイテムを戻って回収すると、その中に『銀の月光石』があったのだ。しかも二つ。
これで面倒なシルバードと戦わなくても全ての月光石が揃ったのである。ラッキーだったな。
そういえば僕とシズカが察知していたドウメキたち以外の謎の人物の気配は、いつの間にか消えていた。単なる観戦者だったのだろうか。
ま、なんにしろ大事に至らなくてよかった。まさかリンカさんにもらった撒菱が役に立つとは思わなかったけど。
とりあえずPKたちは死に戻りではなく強制ログアウトなので、二時間もすればまたここに現れるかもしれない。さっさとこの場から離れよう。
僕たちは【ギアラ高地】をあとにし、ブルーメンへと戻ってきた。
ここまで来てやっと一息つける。あー、疲れた……。
「シズカには大変なパーティデビューになっちゃったなあ」
「いいえ。とても勉強になりましたわ。決して諦めないシロさんの前向きな姿勢。見習いたいと思います」
前向きって、毒使って相手をハメたことを言ってるんだろうか。嫌味を言う子じゃないとは思うけど、ちょっと後ろめたい。
とりあえず僕らはいつも通りに喫茶店『ミーティア』に向かう。いつの間にかこれが習慣になってしまった。
「こんちわー」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませー!」
店内に入るとドアベルの音とともに、マスターとシャノアさんの声が飛んできた。
店には相変わらず誰もいない。店に来るマスターの知り合いのプレイヤーとかは社会人が多く、ログインするのは深夜とかが多いため、あまり僕たちとは時間帯が被らないんだそうだ。
夕方とか早めにログインして来てみたりすると、マスター自身がいなくて準備中になっている時もある。だから僕らがこの店に来るのは、大概なにか終わったあとに習慣づいてしまった。
「おや、初めてのお客様ですね。新しいパーティメンバーですか?」
「はい。シズカと申します。よろしくお願いしますわ」
「これはご丁寧に。喫茶『ミーティア』を営んでおります、メテオと申します」
巫女姿のシズカに突っ込むこともなく、マスターが挨拶を交わす。
いつものように僕はカウンター席、みんなは窓際の定位置のテーブル席に座る。
「あたしアップルパイー」
「私はマシュマロフォンダントで」
「私はガトーショコラを」
「私はフォンダンショコラ」
「私は錦玉羹を」
背後の席から飛んでくるスィーツ注文の嵐。ここって和菓子系もあったのか。メニューをよく見たら飲み物に緑茶もある。
こんなにいろいろ作れるなんてマスターはすごいなと思ったが、これはゲームだった。現実世界よりはるかに楽に作れるはずだ。
僕はお腹が減ったのでナポリタンとコーヒーを頼んだ。
「うわ、かなりお金が増えてるな」
注文したものが届くまでなにげにステータスウィンドウを見てみると、所持金がかなり増えているのが確認できた。
そりゃそうか。賞金首を二人倒して(もう一人はリゼルが倒した)、さらにあいつら四人分の所持金全額の六分の一が入っているのだ。今回の【PvP】は金庫無効のルールだったからな。
あ、称号も増えてる。【PKK】ってプレイヤーキラーキラー、か? まんまだな。リゼルも同じ称号を取ったみたいだ。僕の場合、二人倒したからか、【賞金稼ぎ】ってのも増えてるが。
「私たちの方もけっこう入ってます。これだけあればギルド設立の資金には充分ですね」
「となるとあとは誰かがレベルを25にするだけか」
現在の僕らのレベルはレンが21、ウェンディさんが22、ミウラが18、リゼルが21、シズカが17、そして僕が20。
僕らの中で一番レベルの高いウェンディさんでも22。だけどウェンディさんはギルドマスターになる気はないからな。
やはりギルド設立は第三エリアに突入してからか。
今回のドウメキとの戦いで、正直、もっと強くなりたいと思った。もう少し積極的に熟練度やレベルを上げないといけないな。本来ならあの戦いは僕の負けだ。
「それよりブレイドウルフっていつ挑戦する? 狩り損ねたらまた月光石集めになっちゃうんだよね?」
「そうですね。できれば一回で討伐したいところですけど」
ミウラの質問にレンが答える。
「確かブレイドウルフを討伐したパーティの平均レベルって23だっけ?」
「あまりレベルは参考になりませんが目安としてはそれくらいでしたね。我々ではまだ討伐は無理かもしれません」
リゼルとウェンディさんの言う通り、僕らの中では誰もレベル23を超えてはいない。確かにこのレベルでは無理かもしれないなあ。
「レベルで判断するのもどうかと思いますが、用心にこしたことはありませんわ。慌てることはないのではないでしょうか」
「僕もそう思う。しばらくレベルアップ、スキルアップに専念するって方向でどうだろう」
シズカの意見に賛同する。今回のこともあって、しばらくは強さの方を高めていきたい。正直、僕だってあの勝ち方はどうだろうと思ってはいるのだ。
「ではその方向で。単にレベル上げをするなら、経験値が高いモンスターが効率よく湧くところで狩りをすればいいと思いますけど、それだけじゃなく、各自得意とするスキルを高めることを重視した方がいいように思います」
レンの言葉に全員が頷く。
僕の場合、AGI(敏捷度)をメインとして、【見切り】や【蹴撃】、【短剣術】あたりか。【猿飛】とか【索敵】のスキルも欲しいが、アレらは初級スキルじゃないからな。簡単には手に入るまい。
それにスキルスロットにも余裕がないし。
基本的に初級スキルは店で『スキルオーブ』という形で売っている。
初級スキルのオーブを全部買っておけば便利だろ、と思うかもしれないが、スキルスロットは使用スキル、予備スキルと限りがある。
『スキルオーブ』はスキルスロットに設置した段階で使用できるスキルとなり、スキルスロットからスキルを外せば元のオーブ状態になってインベントリに戻る。が、一度スロットから外してしまうと、そのスキルの熟練度がリセットされてしまうのだ。
熟練度0のスキルなどほとんど役に立たない。そんなオーブをインベントリに山ほど抱えてどうするのか、と。
もし使用スキル、予備スキルが一杯になってしまった状態で、新しいスキルをスロットに登録しようとすると、なにか登録されているスキルをオーブ状態に戻すしかなくなってしまう。つまりそのスキルの熟練度を捨てることになるのだ。
ではどうすればいいか。方法は二つ。一つはスキルスロットを増やすこと。これはイベントなどで増やすことができる。僕らも第一エリアのボス、ガイアベアを倒したら使用スキルのスロットが増えた。
もう一つはスキルの熟練度をMAXにすること。熟練度がMAXになると☆がつく。これが付いているスキルはオーブに戻しても熟練度がリセットされないのだ。
つまりDWOでは、基本的に一度スキルスロットに設置したら、それが熟練度MAXになるまで「外せない」のだ。
正確には「外したくても今までの熟練度がもったいなくて外せない」のだ。
ちなみに今の僕のスキルスロットはこう。
■使用スキル(8/8)
【順応性】【短剣術】
【敏捷度UP(小)】
【見切り】【気配察知】
【蹴撃】【投擲】【隠密】
■予備スキル(8/10)
【調合】【セーレの翼】
【採掘】【採取】【鑑定】
【伐採】【暗視】【毒耐性(小)】
ご覧の通り二つしか空きがない。
それ以上になってしまったらなにかスキルを外さなければならない。熟練度MAXになっているスキルはないから、適当な初級スキルなんか入れたくないわけで。
あ、☆がついたスキルをオーブ状態でインベントリに入れてたら、PKされて取られる可能性もあったんだな……。
他人に取られてもそのスキルオーブの熟練度は0ってところが救いだけど。
他人が上げた熟練度MAXのスキルオーブが使えたら、熟練度を金で買えるってことになるもんな。
「そういやマスターは第三エリアには行かないんですか?」
「いえ、もう行きましたよ。まだほとんどのプレイヤーが第二エリアにいるのでこのブルーメンにいますが、夏あたりに店を湾岸都市へ移転させようかと思っています」
「えっ! じゃあマスター、ブレイドウルフを倒したのっ⁉︎」
僕のなにげない質問にさらりと答えたマスターに、今度はミウラが食いつく。
「友人と一緒に、ですけどね。私の場合、支援系タイプなので、後ろで補助魔法を連発していただけですが」
「ねえねえ、やっぱり強かった?」
「そうですね、動きが素早い上に【ハウリング】でこちらの動きを邪魔してきますからね。体毛を剣化して飛ばしても来るので、まず近づくのが大変です」
【ハウリング】で硬直されて、大ダメージを受けたとか、魔法詠唱を邪魔されたとかよく聞くな。
「【ハウリング】はどういう対策をしたのですか?」
「こちらも行動阻害系の魔法やアイテムで対抗したのですよ。拘束系の魔法で足止めしたり、【ハウリング】を放つ瞬間に『閃光弾』を食らわせたりですね。ほとんど嫌がらせのような支援を連発しました」
ウェンディさんの質問にマスターが答える。なるほど、そういう方法もあるか。
僕は【投擲】を持っているから『閃光弾』は使えるかもしれない。
マスターから『閃光弾』が【調合】で作れると聞いたので、レシピを教えてもらった。僕の熟練度では品質のよいものが作れるかはわからないが。
火炎蛍が落とす『閃光石』と、『爆弾石』、『ガラス球』らしい。『閃光石』以外は店で売ってるから素材集めは難しくはないな。
火炎蛍ってモンスターには会ったことがなかったが、夜にしか出現しないモンスターらしい。
あんまり夜に狩りにはいかないからなあ、僕ら。
『閃光石』自体はレアでもなんでもないらしいので、プレイヤーの露店でも買えるだろ。
しばらくはスキルアップとレベルアップだなあ。あんまりテンションは上がらないけど、PKに絡まれるよりははるかにマシか。
ん?
「────やられましたわ」
ウィンドウを開き、さっきから何かを見ていたシズカがそうつぶやく。それを横から覗き込んだミウラも「えっ、なにこれ?」と驚いた声を上げた。なんだ、どうした?
「あの場にいた別の人物が気になって、もしやと思ったのですけれど……。ドウメキとシロさんの【PvP】が【怠惰】のプレイヤー専用動画にアップされてますわ。もちろん全員顔にはボカシが入ってますけど。どうやら隠し撮りされてたみたいですわね」
「え⁉︎」
シズカに僕もそれを見せてもらうと確かに僕とドウメキが戦っているさっきの映像だった。顔はわからないけど、これ、僕って丸わかりじゃん! ウサギマフラーしてるし!
あの場にいたのはパパラッチだったのか……。ん? 写真じゃなく動画でもパパラッチっていうんだろうか。
DWOの面白い事件や絶景スポット、珍しいモンスターなんかを撮影して専用動画に投稿するプレイヤーも多いと聞く。あるギルドなんかはニュース番組みたいな動画を作ってるとか。
「ものすごい勢いで再生回数が上がってますね。コメントも次々と……」
「ちっとも嬉しくない」
はあ、と僕はため息をひとつついた。
【DWO ちょこっと解説】
【夜魔族】ヴァンパイア
吸血鬼。攻撃力、俊敏さは共に高いが、幸運と防御力が低い。選択すると牙が生える。種族スキル【再生】を持っている。
筋■■■■■■■
耐■■
知■■■■■■
精■■■■
敏■■■■■■■
器■■■■■■
幸■■■
種族スキル【再生】
一度だけ死んでも瀕死の状態(HP1)で生き残ることができる。その際、黒霧化して本拠地へと撤退することも可能。この場合、死に戻りにならないのでデスペナルティを受ける事はない。ただし、聖属性の武器でトドメを刺されると発動しない。【PvP】では適用されない。