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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■040 パーティデスマッチ




 個人で決闘などに使われる、【PvP】にはいろいろなモードがある。一撃を入れるだけで勝敗が決まるものや、バトルロイヤルのようなモードまで様々だ。

 さて、その中で『パーティデスマッチ』というモードがある。

 これはバトルロイヤルの乱戦デスマッチと似たようなものだが、乱戦デスマッチは個人戦闘であるのに対して、パーティVSパーティのデスマッチモードと言えるものだ。

 味方同士はダメージを受けないし、勝敗設定もいろいろと変えられる。

 誰か一人でもHPが0になったら負けとか、相手を全滅させたら勝ちとか、そして特定のリーダーを倒したら勝ちとか、だ。

 しかし『パーティデスマッチ』の最大の特徴は、勝敗の結果が連帯責任である、ということだ。

 つまり、負けたパーティの方は全員がペナルティを受ける。

 全員が最初に決めたペナルティを受けて、強制ログアウトになるのだ。再開場所はログアウトした場所か復活地点を選べる。ま、奴らはPKだから町の復活地点は選ばないだろうが。


「パーティデスマッチだと?」

「はい。そちらはシロさんと一対一で戦いたいのでしょう? 我々はパーティデスマッチでシロさんを、そちらはあなたを代表にし、二人で戦ってもらいます。シロさんが負けたら私たち全員がペナルティを受けましょう」


 ドウメキの睨みにも臆せず、レンがそう言い切った。度胸あるな、この子……。


「PKに【PvP】をしろってか」

「悪い話じゃないはずです。討伐したことにはなりませんから、負けてもあなたたちはPKの重いペナルティを受けずに済みますよ」

「それでお前らにどういったメリットがある?」

「ペナルティ設定は『パーティの金庫も含めた全金額と二時間のログイン禁止』です。これは周りにいるあなたの仲間たちも含めてしてもらいます」


 あれ? レンも周りの奴らに気がついていたのか? レンは【気配察知】を持ってなかったはずだけど……。ああ、シズカが教えたのか。


「くくく……ウサギマフラーが勝てば俺たちを一掃できるってか? 面白ぇ。嬢ちゃんの提案に乗ってやるよ」

「ギルマス⁉︎」


 ドウメキが笑いながらレンの提案を許諾すると、剣使いが驚いたように声を上げた。

 まあ実際は「パーティデスマッチ」と言いつつ内容はタイマンなのだから、その反応もわかる。


「いいじゃねぇか。俺様はあいつと戦えりゃそれでいい。ぶちのめして、更にこいつらの金を全部いただけるわけだ。PKしても金庫から溢れた分の半額とランダムでのアイテム三つだぜ? それよりはうまい話だろうが」


 ドウメキの言葉を聞きながら、僕は今更ながらレンの考えを知った。確かにこれはうまい手かもしれない。なぜならたとえ負けても僕らの損失はお金だけで済むからだ。

 貴重なアイテムを何一つこいつらに渡す必要がない。確かに全金額は痛いが、お金はまた稼ぐことができる。それに勝てば何一つ失わないで済むのだ。勝てれば、だが。

 ドウメキがピィッと指笛を鳴らす。

 それに応じて茂みの中から二人の男女が姿を現した。

 男性の方は黒いローブに身を包んだ夢魔族インキュバスだ。手には黒い杖を持ち、長い髪も黒く、まさに黒魔道師といったところだな。背中の小さな羽根や尻尾も含めて黒ずくめだ。

 もう一人は弓を背負い、革鎧を装備した妖精族アールヴの女性。銀髪のショートカットに褐色の肌……ダークエルフ、いやダークアールヴとでも言うのだろうか。

 名前は男がグラス、女がアイラ。どちらもレッドプレートで間違いなくPKだ。


「あんたねぇ、勝手に決められても困るんだけど」

「よせ、アイラ。いつものことだろ。この対戦馬鹿には言うだけ無駄だ」

「くっくっく。さすがグラス。わかってるじゃねぇか」


 やたら気安い関係の三人に少し不思議な感じがした。ひょっとしたらこの三人、リアルでの知り合いなのかもしれない。


「それで全員か?」

「おう。この場にいるのはな。で、どうするよ。ここでやるかい?」

「……いや、向こうに開けた場所があったはずだ。移動しよう」


 互いに距離を置いて横並びに歩き始めた。

 森の中の方が身を隠しやすいし、大剣を振り回すには不利なはずだが、ドウメキの自信を見てると、隠れた木々ごと斬られそうな気がする。

 僕の特性を活かすなら開けた動きやすい場所で戦った方がいい。大剣持ちだし、相手は重装備のパワータイプだろう。そうそう食らったりはしないはずだ。

 そんな考えを巡らせていると、ミウラが後ろから声をかけてきた。


「シロ兄ちゃん、勝てそう?」

「どうかな。簡単には負けないつもりだけど。どういったスキルを持っているかもわからないからなんとも言えない」


 だから勝つためにやれることはやっておく。僕はインベントリから使えそうな物を物色し、スキル構成を考えていた。

 普通に考えてドウメキのレベル自体は高いはずだ。おそらく第三エリアに行けるくらいにはなっていると思う。でなければPKなんて続けられないだろう。

 レベルが強さに比例しないとはいえ、それだけ何かしらの熟練度が高いともいえるわけだし。外見からは【大剣術】を持っているぐらいしかわからないが。

 森を抜け、開けた場所に出ると、ドウメキに【PvP】の確認を求める。


「……アイテムは使用『可』か? 僕のスタイルだと投擲物も使うんだが」

「構わねえぜ。アイテム使用『可』にしてやるよ。ただし回復アイテムはダメだ。ちまちま回復されたんじゃつまらねぇからな。もちろん回復魔法も却下だ」


 ち。こっそり『薬草飴』を舐めて戦おうとしたのに。

 ドウメキからみんなに申請が送られてきた。


─────────────────────

【ドウメキ】から決闘デュエルの申請があります。


時間:無制限

モード:パーティデスマッチ(カスタム)

スキル:使用可

戦技・魔法:使用可(回復魔法は不可)

アイテム:使用可(回復アイテムは不可)


勝利条件:相手代表プレイヤーの死亡。


参加プレイヤー

Aパーティ:代表プレイヤー【ドウメキ】

メンバー:【グラス】【アイラ】【ラジル】


Bパーティ:代表プレイヤー【】

メンバー:【レン】【ウェンディ】【ミウラ】【シズカ】【リゼル】


受託しますか?

─────────────────────


 自分の名前を代表プレイヤーに設定し、YESを押すと、【PvP】への僕の参加が承認された。

 ポンッ、と、三頭身のデモ子さんが宙に現れ、説明を始める。


『【PvP】が成立しましたですの。カスタム設定により、負けたパーティは全金額を相手パーティに譲渡、二時間のログイン停止になりますの。よろしいですの?』

「いいぜ。それとこっちの【グラス】【アイラ】【ラジル】は棄権だ」

「こっちの【レン】【ウェンディ】【ミウラ】【シズカ】【リゼル】も棄権で」


 僕とドウメキ以外のメンバーの名前が灰色になっていく。これで僕ら二人の勝敗により、パーティメンバーの勝敗が決まる。勝利の報酬も、敗北のペナルティも一連托生だ。


『ではカウントダウンを始めますの』


 デモ子さんの頭上に数字が現れ、カウントダウンが始まる。

 僕ら二人を残し、みんなが離れていく。棄権したみんなには、この【PvP】が終わるまで僕らには手出しできない。

 ドウメキが大剣を肩に背負う。

 出し惜しみはしない。初めから全力でいこう。


決闘開始デュエルスタート!』


 デモ子さんの声と同時にスローイングナイフを三本ドウメキに投げつけ、それを追うように一気に距離を詰める。

 大剣の腹を翳し、スローイングナイフを全て弾いたドウメキの懐へと辿り着いた僕は、腰から双炎剣『白焔』と『黒焔』を抜き放ち、そのまま戦技を発動させた。


「【風塵斬り】」


 発動した竜巻の中、左右の双剣による乱撃をドウメキに向けて放つ。大剣を残し、竜巻に飛ばされて空高く放り出されたドウメキだったが、空中でくるりと回転すると、地面に軽やかに着地した。

 ドウメキのHPを見ると大して減っていない。不発……いや、防がれた?


「なかなか速えな。全部防いだと思ったんだが、何発か食らったか」


 ドウメキが両手のガントレットを翳しながら不敵に笑う。まさかあのガントレットで僕の斬撃を受け止めたのか?


「じゃあ次はこっちからいくぜ。楽しませろよ、ウサギマフラー!」


 ファイティングポーズをとったドウメキが一瞬で接近し、強烈な右ストレートが僕の顔面目掛けて放たれる。


「くっ⁉︎」


 紙一重でそれを躱すと、耳のすぐ横を拳が掠めていった。速い! 【見切り】がなかったら確実に食らってたぞ。こいつ……大剣使いじゃない!


「オラオラオラオラオラァッ!」


 ボクサースタイルの連撃が次々と放たれる。それをなんとか躱していくが、このままでは捌き切れない。

 まずいぞ、こいつ……僕と同じタイプだ!


「オラァッ! 【正拳突き】!」

「ぐっ……!」


 腰の入った戦技の一撃をクロスさせた両腕で受ける。ダメージを減らすためにわざと後方へと飛び、さらにドウメキとの距離を取った。


「……【格闘術】と素早さがメインなのか。大剣なんか持ってたから騙されたな」

「別に騙したわけじゃねえ。あれもメイン武器だ。打撃系に強いモンスター用さ」


 まあ、百歩譲ってそれが本当だとしても、こいつのおかしいところはそこじゃない。

 大剣持ちだとすれば、こいつの装備は何もおかしいところはない。だが、【格闘術】メインの装備としたらおかしすぎる。

 なんであんな重鎧を着ているんだ?

 普通ならあんな金属製の鎧を身に付けたら、確実にAGI(敏捷度)にマイナス補正がつく。

 自慢じゃないが、僕はAGIだけは高い。その僕に迫るほどの速さをドウメキはあの鎧を着た状態で持っている。軽鎧にすれば確実に僕より速いはずだ。

 ひょっとしてあの鎧にそのデメリットを上回るなにか特殊効果でもあるのか? スタミナ軽減効果、とか。

 大剣を装備できるってだけで、かなりの筋力も持っているだろうし、パワーもスピードも高いって最悪だろ……。

 あれ? でもパワーが高いその割にはそこまでのダメージは食らってないような……?

 先程の攻撃で僕のHPは十分の一ほど減っている。バックステップで減らしたからと思っていたが、もっと減っててもおかしくない気がした。まさか【大剣術】を持ってない……わけはないよな。

 ドウメキが地面に刺さっていた大剣を引き抜く。軽々と黒い大剣を振り回し、僕へとその切っ先を向けた。


「それじゃあ今度はこっちでやらせてもらうぜ。オラァッ!」


 素早い踏み込みで接近してきたドウメキが、大剣を振るう。それはまるで暴風のように、剣筋が縦横無尽に動く、無茶苦茶な動きだった。

 僕は大剣を持つ同じパーティメンバーのミウラとは何度か手合わせをしたこともある。そのミウラの動きとはまったく違う剣の軌道に僕は戸惑っていた。別人だから違うのは当たり前だが、それとは違う何か別の違和感を感じる。

 躱し、捌き、弾くが、防戦一方で小さいダメージが蓄積されていく。マズいぞ、このままじゃ負ける!


「くらいなッ!」


 野球バッターのようなスイングが正面からくる。一か八か、僕はわざと双炎剣二本でガードしてみた。

 両腕に衝撃がくる。受けたその勢いで身体が後ろへと下がってしまった。防御したが、幾分かのダメージバックはある。

 ────……おかしい。それなりの威力ではあるが、思ってたよりも弱い。同じようにミウラの一撃をガードしたら、少なくとも身体が後ろに吹っ飛ぶ。それぐらいのパワーがあるはずだ。

 やはりこいつには何か秘密がある。大剣持ちのミウラと戦ってなかったら気付かなかったかもしれないわずかな違和感。

 おぼろげながらだけど、それが見えてきた気がする。よし、反撃開始だ。












DWOデモンズ ちょこっと解説】


■年齢制限について②

15歳以下のプレイヤーには残酷描写の軽減のため、規制フィルターがかけられている。

モンスター、NPC、プレイヤーに対する視覚保護がされており、手足を切断された場面でも、欠損部がグレー表示になるだけで、切断されたようには見えない。(フィルターがないと欠損して見える)また血液が飛び散るようなエフェクトもない。






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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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