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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■037 日曜日よりの使者




 朝。けたたましいチャイムの音で目覚める。

 日曜の朝にこの非常識なチャイムの鳴らし方で、僕はドアの前にいる相手が誰かだいたいわかった。

 ボサボサの頭をかきながら、階段を下り、半開きの目で玄関の扉を開ける。


「はっくん、おはよう! これから、」

「間に合ってます」


 満面の笑顔で立っていた遥花はるかにイラッとした僕は、そう言って扉を閉めてやった。


「ちょっとーッ! なんで閉めんのさーッ!」

「ニュースはテレビとネットで充分なんで。あ、あと仏教徒ですから」

「新聞でも宗教の勧誘でもないよ⁉︎」


 ドンドンドンと遥花が扉を叩いてくる。まったく、こんな朝っぱらからなんの用だ?


「だから電話してからの方がいいって言ったろーが」

「それじゃあサプライズにならないじゃん!」


 サプライズである必要はないと思うが。常識的な双子の兄の方の声が聞こえたので、ドアを開けてやる。


「よう、白兎はくと。おはようさん」

「おはよう。奏汰かなた。ついでに遥花はるかもおはよう」

「あたしはついでだ⁉︎」


 ショックを受けたような遥花を無視して、奏汰かなたに突然の訪問の意図を尋ねる。


「隣町にさ、行きつけのゲーセンがあるんだ。実は今日、新作の稼働日なんだよ。で、白兎もどうかなって。あんまりゲーセンとかに行ったことないって言ってたろ。一緒に行かないか?」

「ゲーセンか……」


 確かに島にはゲームセンターなんかなかったからな……。駄菓子屋に置いてある古びた筐体が唯一のゲームだったし。基盤の入れ替えなんてなくて、ずっとそれしか置いてなかったけど。


「わかった。着替えるから入って待っててよ」

「おっじゃまっしまーす!」


 遥花がさっさと靴を脱いで玄関に上がり、リビングへと歩いていく。勝手知ったる人の家ってか。まだ二回しか入ったことないはずだが。

 リビングのテーブルには電気ポットとお茶のセットが置いてあるので、二人に自由に飲んで待っててもらう。

 腹ペコのまま行くのもなんなので、食パンを二枚トースターに入れて、焼いている間に自分の部屋へと戻り、着替えをすませることにした。

 無難でシックな服に着替え、洗面所に行って寝癖を直す。僕は髪質が柔らかいので、水で湿らせて櫛を通せばすぐに直るので楽だ。

 階段を下りてリビングへ向かうと、明るい話し声が聞こえてきた。んん? 遥花じゃない女の子の声が聞こえるような。


「あ、おはよう。白兎君。お邪魔してます」

「リーゼ?」


 リビングのソファには霧宮兄妹の他に、DWOデモンズでのパーティ仲間・リゼルこと、お隣に住むリーゼが座っていた。

 当然いつもの制服などではなく私服である。レースの襟が付いたカーディガンと黒いニーソックスの上にティアードスカートといった、完全によそ行きの格好だ。


「なんでリーゼがここに?」

「あたしが誘ったの。リーゼもゲーセン行きたがってたから」


 遥花がにぱっと笑みを浮かべて答えた。そうか、リーゼもゲーム好きだったな。誘うのは当たり前か。


「ゲーセンの場所ってどこだ?」

月瀬つくのせの駅前にある『コペルニクス』ってとこだよ」


 すでにこんがりと焼けていたトーストにジャムを塗り、口に運びながら奏汰にゲーセンの場所を聞く。駅前か。なら電車で行けるな。

 ちなみに僕やリーゼが住んでいて、学校がある町が星宮ほしみや町で、その西隣が霧宮兄妹が住む日向ひなた町、東隣が月瀬つくのせ町だ。

 日向、星宮、月瀬と、二十分おきくらいに電車が運行している。日向や月瀬からウチの学校にこの電車で通っている生徒も多い。


「あ、ここからでも『おやま』が見えるんだねえ」


 遥花が窓から見える小さな山を見てつぶやく。『おやま』とは日向町と星宮町の間にある名前もない小さな山のことだ。

 ふもとに神社があって、縁日にはかなり賑わうらしい。その昔、都を追われた神狐たちがそこの神社に匿われて住み着いたとかいう伝説も残ってるとか。


「ああ、白兎。そういやウチの婆ちゃんが会いたがってたぞ。今度家に連れてこいってさ」

「婆ちゃんって、あの『おやま』にある武家屋敷のか?」

「そう。百花ももか婆ちゃん」


 百花ももかおばあちゃん。霧宮兄妹の祖母にして、僕の祖父の妹に当たる。

 僕と父がこちらに引っ越してきた時に挨拶したきりだ。ニコニコとした品のいいお婆さんだったけど。

 でっかい武家屋敷にお手伝いさんと二人で住んでいた。僕を見て、祖父じいさんの若い頃にそっくりだと言っていたな。一回しか会ってないが、あんな頑固そうな祖父さんに僕もなるんだろうか。


「まあ、そのうちな。夏祭りに行くときにでも寄ってみるよ」


 パンを食べ終えて、皿をキッチンに戻す。よし、行くか。

 スマホと財布を持って、電車の時間を調べる。歩いていけばちょうどいいタイミングで乗れるな。


「よーし、じゃあレッツ・ゴー!」


 むやみにテンションの高い遥花の先導で、僕らは足早に家を出た。

 




 奏汰と遥花が目当てにしていたゲームは、異世界を舞台にして、魔法工学で作られた巨大ロボットに乗り込んで戦うという、いわゆるVR技術を使った対戦ゲームであった。

 単なる対戦ゲームかというとそうでもない。登録したプレイヤーカードに自分のカスタマイズした機体を保存して、相手からパーツを奪ったり、戦績ボーナスで手に入れた装備などを手に入れて、自分独自の機体を造りあげていく。そんな育成ゲーム的な要素もあるという。

 ゲームセンターというもの自体がほとんど初めてだったので、新作ゲームに夢中な二人を置いて、僕はリーゼといろんなコーナーを見て回った。

 月瀬つくのせ駅前にあったゲームセンター『コペルニクス』は、かなり大きなアミューズメント施設である。

 ゲームメーカーでもあるアースムーバー社が直営する『コペルニクス』は、全国に展開しているらしく、ここは月瀬つくのせ駅前店というわけだ。体感ゲームからビデオゲーム、プライズゲームからメダルゲームまで幅広く揃っている。

 やったことがなかったので、あまりない小遣いを使い、クレーンゲームなどにも初挑戦してみたが、うまくいかなかった。あんなにアームがプラプラで本当に取れるのか? と疑いそうになったが、隣の人があっさりと取っているのを見て考えを改めた。

 何事にも技術があるんだなあ。

 そんなことに感心しながら奏汰たちのところに戻ると、二人ともモニターを見上げて観戦しているところだった。

 ちょうどいい時間になったので、お昼を食べに『コペルニクス』を出る。行き先は駅前のハンバーガーチェーン店だ。二階の見晴らしがいい窓際の席に僕らは陣取った。


「やっぱりアースムーバーの新作だけあってすごかったな。『スターブリンガー』も初めてやった時はすごかったけど」

「ああ、そうか。アースムーバーって『スターブリンガー』を作ったとこか」


 奏汰の言葉に僕はやっと思い出した。【スターブリンガー・オンライン】。DWOデモンズと同じくVRMMOの有名な作品だ。奏汰はスターブリンガーもやっていたのか。


「『スターブリンガー』はなかなかレベルキャップが解放しなくてなー。そのうち俺も遥花も受験勉強しなきゃならなくなったから、そのまま引退みたいになっちまった」

「お母さんが勉強しろ、勉強しろってうるさかったよねー。まあ、おかげで無事に今の高校に入れて、『スターブリンガー』で組んでた人たちと今はDWOデモンズをやってるから結果オーライかもしれないけど」


 ケラケラと笑いながらフライドポテトをパクつく遥花。霧宮のおばさん厳しいからな。僕にも生活態度を注意してくるし。主に食事関係だけど。


「あれ? っていうか、二人とも大丈夫なのか?」

「え?」

「何が?」


 対面席に座っている双子が同じように首を傾げキョトンとしている。


「いや、だってもうすぐ中間テストだろ? 悪い点取ったらおばさん、DWOデモンズ禁止とか言い出すんじゃないの?」


 奏汰の手からチーズバーガーが、遥花の手からはフライドポテトがテーブルに落ちる。


「「忘れてた……」」


 中間テストを忘れてたのか、おばさんのそんな性格を忘れてたのかどっちだよ。


「マズい! 白兎の言う通り、赤点なんか取った日にゃあ、その場でVRドライブを封印される!」

「ちゅ、中間テストっていつだっけ⁉︎」


 二人が青い顔をして焦り始める。どうやらどっちも忘れていたらしい。


「えっと……確か来週の水曜日からだったよね?」

「うん、そう。水、木、金の三日間」

「「時間がないッ!」」


 ガタンッ!と立ち上がる霧宮兄妹。うん、いいから座れ。他の客の迷惑になるだろ。

 霧宮の兄妹はいつもの授業態度から察するに、あまり成績がおよろしくないと見た。まあ、これだけ焦ってりゃ、誰でもわかるだろうけど。

 赤点を一教科でも取ったらヤバいだろうなぁ。


「そう言う白兎おまえはどうなんだよ⁉︎」

「入学してから小テストで70点以下は取ったことがありませんが、なにか?」

「ええッ⁉︎ はっくん、こっち側じゃないの⁉︎」


 しつれーな。島にいた時は叔父さんに文武両道を叩き込まれていたんだぞ。こっちに来てからも予習復習の習慣がなかなか抜けないんだよ。

 正確に言うとDWOデモンズのせいで少し成績が下がってはいるんだけど。授業中寝ちゃったりしたしな……。


「リ、リーゼは? 現国とか古典とか、日本史とか苦手だよね⁉︎ あ、問題自体あまり読めない?」


 遥花はなんとか仲間を探したいのか、僕の隣に座るリーゼに視線を向けた。


「転校したころはそうだったけど、今はなんとか文字も読めるようになったよ。古典とか日本史は、伯父さん伯母さんが教えてくれるし」

「そういや、リーゼの伯父さん伯母さんって元大学教授だっけ」

「がーん……」


 妙なショックを受けている遥花。いやいや。リーゼはゲームしつつもちゃんと勉強をしていた。お前らはゲームしかしてない。わかりきった差だろうに。


「明日からゲームを休んで勉強だな」

「くっ、やっと第二エリアを突破できるかと思ったのに……」

「あれ? 奏汰たちまだ第二エリアだったっけ? 僕らももうちょっとでエリアボスに挑戦できるところだけど」

「あたしたちは先にギルド設立の方を優先したからねー。今月中に第三エリアに行けると思ったんだけどなぁ……」


 がっくりと肩を落とす二人。どのみち赤点なんか取ろうものなら、補習なんかになってゲームができなくなると思うがな。

 結局、二人に泣き付かれたので、テストまでの間、一緒に勉強をすることになった。

 僕もちょっと油断できないしな。僕の場合、成績は小遣いに直結する。多いに越したことはないのだ。

 そうと決まれば早い方がいい。昼食を食べた後、もう一度ゲーセンに行こうとしていた二人を引っ張って、僕の家で試験勉強をすることにした。やるなら明日と言わず、今日からだ。

 結果、二人は赤点を回避することになるのだが、かなりギリギリであったことをここに記しておく。












DWOデモンズ無関係 ちょこっと解説】


■中間試験について

学期初めから一、二ヶ月で行われる定期テスト。三学期は短いため行われる学校は少ない。

毎日の予習復習がモノを言う。息抜きに小説を読むのもいいが、ほどほどに。

大抵の学生が【一夜漬け】というスキルを持つ。




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