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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■036 橙の月光石





 ガンガン岩場にいるメタルビートルが落とす『紫の月光石』。

 これはけっこう簡単に手に入れることができた。メタルビートル自体、けっこう出現率が多いし、リゼルの範囲魔法である【ファイアバースト】やミウラのハンマーで楽に倒せるからね。ま、ドロップしたのは僕が倒したやつだったけれども。

 問題はクレインの森にいる雷熊かみなりぐまだ。


「グルゴガアアアァァァッ!」


 雷を纏った大きな熊がこちらへと突進してくる。情けないことにその咆哮に一瞬、ほんの一瞬だけ、ビクッ、としてしまう。

 やっぱり追いかけ回された時の恐怖がまだ若干あるなぁ……。同じ熊のガイアベアは平気だったんだけど。


「【アクセルエッジ】」


 雷熊の一撃を躱しながら、戦技を放つ。熊系のモンスターは総じてタフなので、僕だと一撃では倒せない。【蹴撃】による回し蹴りを食らわせて雷熊をミウラの方へとよろめかす。


「【大切断】ッ!」


 振りかぶったミウラの大剣が雷熊の脳天から打ち下ろされる。

 雷熊は断末魔の悲鳴とともに光の粒へと変わっていった。


「落ちた? シロ兄ちゃん」


 ドロップアイテムを確認しながらミウラが尋ねてくる。僕もインベントリを開いて、今のドロップアイテムを確認する。


「ダメだな。『牙』と『毛皮』だけだ。そっちは?」

「あたしもダメ。『牙』と『肝』」


 『雷熊の肝』もなかなか出ないアイテムではあるんだがな。僕らの狙いは『橙の月光石』のみだからハズレである。まあ、『肝』はそれなりに高く売れるし、STスタミナを回復させる『スタミナポーション』の調合アイテムでもあるから無駄にはならないが。


「レンたちの方で出てるといいけど」

「どうかなー。LUK(幸運度)の平均は向こうの方が低いよ?」


 僕らはそんなことを話しながら、決めておいたクレインの森の合流地点へと向かう。

 今回の狩りは僕とミウラの二人、そしてレンとウェンディさんとリゼルの三人のパーティに分かれている。

 理由としてはその方が多く狩れるからだ。雷熊は基本的に群れない。五人で一匹見つけるよりも、二チームで二匹見つけた方がいい。

 防衛スキル持ちのウェンディさんは後衛二人と、一方僕らは前衛二人のコンビってわけだ。まあ僕は前衛というか中衛に近いんだが。

 そんな状態で狩りを続けて、今日で三日目だ。簡単に出ないとは思っていたけど、ここまでとは。


「LUKでドロップ率ってそんなに大きく変わるものかねえ」

「重点的に育てていけば大きく差が出るんじゃないの? 【強運】とか【豪運】ってスキルもあるんでしょ?」


 そう言われると確かに。どっちも★付きのスキルだが、LUKを中心に育てることも可能か。僕だってAGI(敏捷度)をメインにしてるしな。


「早くブレイドウルフに挑戦したいなー。明日からしばらくログインできなくなるし、できるだけ進めたいんだよね」

「旅行行くんだっけか? どこだっけ?」

「イタリア。フィレンツェ」


 おのれ、セレブめ。僕なんか島から本州に来ただけで精一杯なのに。

 

「だいたい旅行じゃないよ。お父様が仕事相手に会いに行くのに付き合わされるだけ。向こうにも同じくらいの子供がいるからって。学校休んでまでだよ?」


 ため息をつきながらミウラが答える。セレブにはセレブの付き合いがあるってことか。

 僕も父さんは世界中飛び回ってるんだけど、海外に連れて行ってもらったことはないなあ。変なお土産はいくつももらったけどな。


「向こうからログインすればいいんじゃないか?」


 VRドライブには簡易型のヘッドギアタイプとかもある。蘭堂グループのお嬢様なら一つぐらい買えるだろ。ヘッドギアタイプはあまり使い心地が良くないとか言うけど、高性能なものだってあるはずだ。それを使ってイタリアからログインするってのもアリだと思うんだが。


「シロ兄ちゃん、世界には時差ってもんがあるんだよ? あたしの都合いい時間にレンやウェンディ姉ちゃんを付き合わせるわけにもいかないじゃん」


 ぐ。そ、そうか、時差か。イタリアと日本だと八時間ほど違うらしい。今はサマータイムだから七時間なんだそうだが。…………サマータイム……?

 ま、まあ、よくわからんが、そんなにズレてたんじゃさすがに難しいかな。


「あ、そうだ、シロ兄ちゃん。今度ひょっとしたらもう一人仲間が増えるかもしれない。レンとあたしの友達がDWOデモンズやってたんだ」

「へえ。同じ学校の子?」

「うん。クラスメイト」


 ってことはその子もセレブか? レンたちの学校って、金持ちの子女が通う学校らしいし。また肩身が狭くなるなあ……。

 

「クラスメイトってことは保護者の人もパーティに入るのか?」


 DWOデモンズで13歳以下のプレイヤーがログインするためには保護者として20歳以上のプレイヤーによる同伴が必要になる。

 レンとミウラの場合、ウェンディさんがそれだ。レンとミウラの同い年なら保護者が必要なはずだけど。


「ううん。今までは従姉妹いとこのお姉ちゃんとプレイしてたみたいなんだけど、その人が結婚して時間が取れなくなったんだって。罪源が【怠惰】で同じだったから、それなら一緒にやろうってレンが誘ったんだよ」

「ウェンディさんも大変だな……」


 一人の保護者に付き、三人まで13歳以下のプレイヤーが登録できる。ミウラも含めて三人、ウェンディさんの保護下に入るってことか。

 まあ、あの人なら「さして問題もございません」とか言いそうだけど……。ミウラの時もそうだったし。


「その子はどこまで進んでるって?」

「レベル17って言ってたかなあ。第二エリアには来てるみたいだけど」


 僕らで一番レベルが低いミウラが17だから……あ、さっき18になったんだっけか。ならそんなに離れてもいないか。

 月光石を集めてはいるけど、ブレイドウルフに挑むには僕らもまだまだだし、一緒に強くなればいいよな。


「あ、そういやその子って男の子? 女の子?」

「? 女の子に決まってるじゃん。うちの学校、男の子いないし。あれ? レンから聞いてないの?」


 キョトンとした顔でミウラに返された。……聞いてないよ。小学校で女子校ってあるのか……。

 大丈夫かね、僕なんかいても。「男なんて不潔ですわ!」とか言われたりしなきゃいいけど。

 いくばくかの不安を僕が感じていると、それとともに感じるものがあった。


「ミウラ、一時の方角に気配がする。たぶん雷熊だ」


 【気配察知】が教えてくれた方向から、のそっと雷熊が現れる。やっぱりちょっと苦手意識があるなあ。姿を見ると少しドキッとする。

 ミウラの方は平然と大剣を構えて、戦闘準備に入った。


「こいつで今日はラストかな。『月光石』が出るといいけどっ!」


 ミウラが駆け出して、横薙ぎに大剣をぶん回す。

 巨体にそぐわぬ俊敏さで雷熊はそれを躱した。しかしそこに、僕が【投擲】で投げ放ったスローイングナイフが襲いかかる。

 腹に深々とナイフが刺さると、雷熊の動きが鈍くなった。


「【剛剣突き】!」


 ミウラの戦技による突きが雷熊に迫る。心臓をひと突きするその攻撃は、当たれば一撃で雷熊のHPを一気にレッドゾーンへと追いやる技だ。

 しかし切っ先は雷熊の心臓ではなく、逸れて肩口を切り裂いた。ミウラはDEX(器用度)が低いため、命中率が悪い。それでもかなりのダメージではあるのだが。

 ともかくミウラの作ったその隙を逃さず、今度は僕が雷熊の懐へと飛び込んだ。


「【風塵斬り】」


 雷熊の周囲を高速で移動しながら、手に持つ『双炎剣・白焔びゃくえん』と『双炎剣・黒焔こくえん』で斬り刻んでいく。

 巻き起こる風が双炎剣の付与効果発動により、炎を纏った竜巻となって雷熊を天高く吹き飛ばしながら、光の粒へと変えていった。

 【風塵斬り】はSTスタミナだけではなくMPマジックポイントも消費する戦技だ。僕の場合、あまりMPは高くないので乱発はできないが、それだけ威力は大きい。

 本来なら風だけの効果なのだが、『白焔』『黒焔』の付与効果により炎も追加される技になっている。

 戦闘が終わった僕らの関心は、もうすでにドロップアイテムの方に移っていた。今日だけで何回も繰り返してきた作業だ。


「『牙』、『牙』、『牙』……。全部『牙』か! 最後にハズレ引いたなあ」


 『雷熊の牙』は換金しても大してお金にならないし、素材としてもアクセサリーとか細工物でしか使い道がない。

 あ、レベル上がってら。20になった。


「ミウラは?」

「や……」

「や?」


 尋ねる僕の目の前で、ミウラの手の中にオレンジ色をしたゴルフボール大の宝石が現れる。


「やった────ッ!!」

「おお⁉︎ やったな!」


 出た。ブレイドウルフの所在を突き止めるアイテム、七つある『月光石』のうちの一つ、『橙の月光石』だ。

 これで残りは一つ、『銀の月光石』だけだ。


「早くレンたちと合流しよう! きっと驚くよ!」


 よほど嬉しいのか、ミウラが森の中を駆け出した。やれやれ、これでもう雷熊を狩る必要もないな。

 やがて合流地点である場所に辿り着き、しばらく待っていると、森の奥からレンとウェンディさん、リゼルの姿が見えてきた。

 レンがこちらに大きく手を振り、駆け足で向かってくる。ものすごく笑顔ではしゃいでいて、テンションがやたらと高い。

 あれ、なんかヤな予感。いや、嫌ではないんだけど、ひょっとして……。


「ミウラちゃん! シロさん! やりましたよ! ほらほら! 『橙の月光石』!」


 満面の笑みで差し出したレンの手のひらにはオレンジ色の宝石が握られていた。

 ────カブった。





「この展開は予想外だったねえ」


 苦笑しながらリゼルがつぶやく。僕もその気持ちには同感だ。あんだけ狩りまくって出なかったのに、こうもタイミングよくカブるかね?


「どうします、これ?」


 レンが『橙の月光石』を握りながら僕に聞いてくる。


「確か『月光石』はブレイドウルフの位置を示して、結界だかを越えたあと、無くなっちゃうんだっけ?」

「はい。砕け散ります。もしブレイドウルフに負けてしまうと、またその位置を探すために、再び七つの『月光石』を集める必要があります」


 うわ、めんどくさっ。ウェンディさんの説明を聞きながら、僕は顔をしかめる。そりゃ、みんなも一発で倒したいわ。


「なら売らずにとっとこう。負けたときの保険として。勝ったら売ればいい」


 ちなみにブレイドウルフを一回でも倒せば、次からはその位置を特定することも、結界を無効にすることもできるんだそうだ。そりゃそうだ。そのたびに月光石を集めていたんじゃ周回する気にもなれん。

 とりあえずこれで残りは『銀の月光石』のみ。

 ドロップするモンスターは【トリス平原】の先、【ギアラ高地】にいる鳥のモンスター、シルバード。

 ミウラが数日ログインできないので、シルバードを狩るのはミウラが帰ってきてからにしようと決まった。

 そのあとはいつものように『ミーティア』に行き、みんなはスイーツ三昧だ。

 今さらながらに思うが、この人たちって生活レベルからして、相当舌が肥えているはずだよな。

 それを満足させるってのは、VR技術による【料理】スキルがすごいのか、『ミーティア』のマスターの元々の腕前がすごいのか。

 ま、美味けりゃそれが正義だ。どうでもいいか。

 僕はマスター手製のクラブハウスサンドをつまみながら、そんなことを思った。














DWOデモンズ ちょこっと解説】


【夢魔族】サキュバス、インキュバス

妖艶なる魅力を持つ種族。幸運度が高く、アイテムドロップ率が高くなる。選択すると背中に蝙蝠の羽根と尻尾が生える。種族スキル【魅了】を持つ。


筋■■

耐■■■

知■■■■■■■

精■■■■■

敏■■■

器■■■■■

幸■■■■■■■■■■


種族スキル【魅了】

魔獣などをテイムしやすくなる。また、攻撃の対象になりにくくなり(ならないわけではない)、NPCの好感度も上がりやすく、交渉力が高くなる。





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
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