■034 新装備
「【アクセルエッジ】」
発動した戦技によって、目の前のキラーマンティスが細切れにされ、光の粒と化していく。
うん、使いやすい。しっくりと手に馴染む新しい双剣。さすがリンカさんといったところか。
─────────────────────
【双炎剣・白焔】 Xランク
ATK(攻撃力)+78
耐久性23/23
■炎の力を宿した片刃の短剣。
□装備アイテム/短剣
□複数効果あり/二本まで
品質:S(標準品質)
■特殊効果:
10%の確率で炎による一定時間の追加ダメージ。
【鑑定済】
─────────────────────
─────────────────────
【双炎剣・黒焔】 Xランク
ATK(攻撃力)+78
耐久性23/23
■炎の力を宿した片刃の短剣。
□装備アイテム/短剣
□複数効果あり/二本まで
品質:S(標準品質)
■特殊効果:
10%の確率で炎による一定時間の追加ダメージ。
【鑑定済】
─────────────────────
双炎剣・白焔と双炎剣・黒焔。
以前使っていた双雷剣・紫電一閃、電光石火と同じようにこの剣にも特殊効果がある。相手を燃やし、その炎による追加ダメージを与えるのだ。
これはリンカさんのサービスで付けてもらった能力である。ランダム付与なのでこの能力を狙って付けたわけではないらしいが。
大型モンスターなどには地味だが効果があると思う。それに火属性に弱いモンスターは多いしな。
「【シールドバッシュ】」
大盾を構えたウェンディさんが放つ戦技により、吹き飛ばされたもう一匹のキラーマンティスが宙を舞っていた。
「よっと!」
地面に叩きつけられたキラーマンティスにミウラが大剣でとどめを刺す。
ウェンディさんの盾も新しくなり、大きな物になった。逆三角形を上下に伸ばしたような形状の盾で、カイトシールドと言われるものの一つだとか。
「おっ?」
「どしたの、シロ兄ちゃん?」
キラーマンティスのドロップ品に、珍しいアイテムが落ちた。インベントリに入ったそのアイテムを取り出して、ミウラに見せてやる。
「わ。『緑の月光石』ですね!」
僕の手のひらに乗せられたゴルフボールほどの緑の宝石を見てレンが驚く。
『月光石』は【怠惰】の領国における第二エリアのボス、ブレイドウルフに会うための必須アイテムだ。
正確には『月光石』には七つの色があって、それらを全てを集めた時にブレイドウルフのいる場所がわかるようになるらしい。
また、ブレイドウルフは自分のテリトリーに結界を張り、侵入者を阻む。七つの『月光石』はそれを通り抜けるためのアイテムでもあるのだ。
七つの『月光石』は全て第二エリアのモンスターからドロップする。ドロップ確率もいろいろあって、緑はそこそこ高かったはずだ。
僕らのパーティだと、レンが赤、リゼルが青の月光石を持っていたはずだ。僕の緑を入れて三つ。残るは黄、紫、橙、銀の月光石である。
正直に言うと、プレイヤーの露店を回ればおそらく全色をあっさりと揃えられると思う。もちろんお金があれば、だが。
「月光石を揃えたところで我々の熟練度ではまだブレイドウルフを倒せません。熟練度を上げていれば、その途中で手に入るかもしれませんし、急がなくてもいいと思います」
確かにウェンディさんの言う通りだな。まだ焦らなくてもいいだろう。その時になっても揃ってなかったら買うことを考えればいい。
ブレイドウルフを倒すにはだいたいレベル23以上は必要とか聞く。これは取得しているスキルによって大きく変わるから、あんまりアテにはならない。
ちなみに現在の僕らのレベルは僕が18、ウェンディさんが21、ミウラが17、レンが19、リゼルが20。えーっと平均レベル19か。
これに加え、僕らのパーティはフルパーティではないから、さらに強さが必要になるような気がする。
まだまだ第二エリアを抜けるには時間がかかりそうだ。月光石を集めつつレベルアップにスキルアップだな。
「防具の方はどうですか?」
「動きやすいし、大丈夫だよ」
作ってくれたレンにそう答える。防具も一式作ってもらって、先ほど新調していた。白いコートに白いマフラーと白ずくめだが。
─────────────────────
【レンのロングコート】 Xランク
DEF(防御力)+31
AGI(敏捷度)+22
耐久性18/18
■レンの作ったコート。
わずかだが気配を隠す効果がある。
□装備アイテム/上着
□複数効果なし/
品質:HQ(高品質)
【鑑定済】
─────────────────────
コートの方には敏捷度補正が付いていた。敏捷度が上がるのはありがたい。僕の生命線だからな。気配を隠す効果はステルスシルクワームの糸を素材としているからだろう。
コートの方はまあそんな感じなんだけれど……。
マフラーは以前使っていたものと素材は同じだが、作り直されて強化されている。ワンポイントの兎もなんだかカッコよくなっていた。
それはいいんだが、このマフラーの効果がちょっと問題で。
─────────────────────
【レンのロングマフラー】 Xランク
STR(攻撃力)+14
AGI(敏捷度)+37
MND(精神力)+12
LUK(幸運度)+26
■レンのお手製マフラー。
わずかだが気配を隠す効果がある。
□装備アイテム/アクセサリー
□複数効果無し/
品質:F(最高品質)
【鑑定済】
─────────────────────
なんかいろいろ付き過ぎだろう、コレ。品質も最高品質だし。ものすごい値をつけても露店で売れそうだ。もちろんそんなことはしませんが。
これはレンの持つソロモンスキル【ヴァプラの加護】の効果らしい。
生産する際にいろんな付与が付きやすくなるとか。今のところそれはまったくのランダムで、なにも付かないこともあるそうだが。
つまりはこのマフラーは偶然の産物、ラッキーだったとしか言いようがない。この場合、レンが幸運だったのか、僕が幸運だったのか判断が難しいが。
あとは靴とか上着とかズボンを新調した。こちらはそれほど高性能というほどではなく、いたって普通の軽さだけが売りの装備だ。だからデザイン重視で選んでいる。
「そろそろ戻らない? 『ミーティア』でお茶しようよー」
そう言いだしたリゼルの言葉に誰も反対はしなかった。確かに僕もちょっと空腹状態になりかけている。空腹状態になると攻撃力低下や敏捷度低下などが起こるからな。
ちなみに空腹状態が一定時間を超えると餓死となり、死に戻る。
街の近くや森になら木の実や果物がなっていて、それで空腹を満たすこともできるのだが。腹持ちしないけど。
餓死で死に戻るとなぜか空腹状態が半分くらい回復するため、食べずにわざと死に戻る人もいるようだ。しかし自分的にはあの感覚はツラい。きちんと食べ物を食べて回復したい。
僕らは狩りに出ていた【トリス平原】から、ポータルエリアを使って【ブルーメン】の町へと戻った。
いつもの通りを歩き、『ミーティア』へと向かう。
途中、装備の肩に揃いのエンブレムをした集団とすれ違った。赤い蠍のようなエンブレムだ。
「ギルドを設立する人たちが増えてきましたね」
レンの言う通り、【ブルーメン】にいてもギルドのエンブレムを最近よく目にする。しかしこれはいろんなギルドが設立したと言うより、設立したギルドに入ったプレイヤーが増えたということだろう。
ギルドマスターになるにはレベル25にならないとダメだが、ギルドメンバーにはレベル1からでもなれるからな。
ギルドに所属していればいろんな恩恵を受けることができる。普通なら入らない手はない。
一応僕らはパーティを組んではいるが、誰かが他のギルドに入りたいというなら止める気はない。それも自由だし、空いた時間にまたパーティを組んで遊ぶのもアリだろう。
しかし保護者同伴ということで、ウェンディさん、レン、ミウラは一緒にログインしなくてはならないから、一人だけがどこか別のギルドに入るということはない。
僕はといえば、【セーレの翼】のこともあるからあまり知らないギルドに入りたいとは思わないし、リゼルもその気はないようだ。
「このままいくとウェンディさんが一番早くレベル25になりそうだけど……」
「お嬢様を差し置いてギルドマスターになる気は毛頭ございません」
「ですよねー」
うん、わかってた。
まあ、どっちにしろブレイドウルフを倒して第三エリアに行ってからだよなぁ。
『ミーティア』の扉を開けるといつもの心地よいドアベルが僕らを出迎える。
「ちわー」
「いらっしゃいませー」
あれ? 店内にいたのは猫耳のウェイトレスのシャノアさんだけだ。マスターは?
「マスターはちょっとお手伝いに出かけてます。もう少ししたら戻ると思いますけど」
そうなのか。店長が居なくても店を開けていられるってのはすごいな。
「あたし苺のタルトー」
「私はプリンアラモードをお願いします」
「私はモンブランを」
「私はミルフィーユにしようかなー」
「かしこまりました」
テーブル席に座った女子軍のスイーツ注文をシャノアさんが書きとめていく。
カウンター席に座った僕もシャノアさんにコーヒーとクラブハウスサンドを注文したのだけれど。
「申し訳ありません。コーヒーだけはマスターが作ることになってまして、現在注文受けることができません」
あらら。なんかこだわりでもあるのかな。確かにマスターの淹れるコーヒーは他とは違う気がするけど。
まあ、そろそろ帰ってくるらしいし、後でもいいか。とりあえずクラブハウスサンドだけでも先に出してもらうことにした。
明日から何をするか話し合っている女性陣を背にしながら、僕はインベントリから魔獣図鑑を取り出した。
「ブレイドウルフ、ブレイドウルフ……っと、あったあった。これか」
刃狼ブレイドウルフ。全身が刃物のような毛で覆われた巨狼。その動きは素早く、刃と化した体毛を一斉に放射することもできるという。第二エリアを放浪しており、七つの月光石がなければ場所を特定し、その結界内に侵入することは不可能。また、その咆哮が生み出す【ハウリング】は、威圧による行動制限を生み出す……か。
エリアボスなだけあってそれなりに詳しく書かれているな。たくさんのプレイヤーが挑戦しているからだろうけど。
しかし威圧による行動制限か。確か【威圧耐性】とかいうスキルがあれば無効にできるとか聞いたな。
しかし【威圧耐性】は★付きのレアスキルでほとんど出回らないらしいしなあ……。【ハウリング】が効かなかったプレイヤーもいるって噂もあるけど。MND(精神力)が高さとかも関係してくるのかなあ。
だとしたら僕の場合、かなり低いから無理っぽいな……。
そんな考えを巡らせていると、カランコロンとドアベルが鳴り、『ミーティア』のマスターが戻ってきた。
「おや、いらっしゃいませ。来てらしたんですね」
「ええ、新装備の試し斬りに……」
返事をしかけた僕だったが、マスターの後ろから、のそっと現れた影に言葉が止まった。
身長二メートルほどの緑色の物体。黄色い嘴、水掻きの付いた手。そして頭に見える丸い皿。
「河童……」
【DWO ちょこっと解説】
■ギルドについて②
ギルドを設立すると、本拠地を建設できるようになり、ギルドホームを作ると様々な恩恵を受けることができる。
・個人インベントリの拡大。
・個人金庫の設置。
・ギルド金庫の設置。
・共有倉庫の設置。
・ギルドポータルエリアの設置。
・宿泊による一時的な能力値上昇。
等々。また、これらを強化することも可能。ギルドシンボルも設定できる。