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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■033 Aランク鉱石




「さあ、どういうことか吐いてもらおうか?」


 目の前に虎の獣人族セリアンスロープの少年が腕を組み、ふんぞり返っている。

 腰掛けた喫茶店の椅子の横には壁に立てかけられた大剣があり、虎耳がぴょこんと飛び出した髪は金色の短髪だが、後ろだけは伸ばして一本に縛っていた。

 髪型は違うがこいつも妹同様あまり顔をいじってないので一目でわかった。霧宮きりみやの兄、奏汰かなただ。

 やっぱり顔がそのままってのは、個人情報のセキュリティ的に問題あるよなあ。人のこと言えないし、変えなかった自己責任だけど。

 自分の顔をいじるってのはけっこう抵抗あるし、僕らと同じような人はけっこう多いような気もする。


「はっくん、源罪は【怠惰】って言ってたけど、ホントは【傲慢】だったの?」

「いんや。【怠惰】だよ」


 奏汰かなた……アバター名「ソウ」の横に座っていた双子の妹、遥花はるか……「ハル」の質問に正直に答える。

 すると食い気味にソウが次の疑問をぶつけてきた。


「じゃあなんで【怠惰】のプレイヤーであるお前が【傲慢ここ】にいるんだ?」


 もっともな疑問である。

 こうなってしまったら隠していても仕方ないか。いや、別に隠していたわけでもないんだが。二人が疑問に思うのも当たり前だし。

 僕は二人に【セーレの翼】のことを説明した。もちろん、口外しないと約束させた上でだが。


「ええーっ、なにそれ、羨ましいー! じゃあ、はっ……シロくんは好きなところに自由に行けるの⁉︎」

「いや、自由に行けるわけじゃないよ。完全ランダムだし。それに行けたってランクの高いエリアだと強力なモンスターがいてなにもできないぞ?」

「その【セーレの翼】のランダム転移ってのはお前だけなのか? パーティに入っていると一緒に転移されたりは……」

「しない。少なくとも今のところは。ただ【セーレの翼】にはまだ解放されていない能力があるからな。のちのちできるようになるのかもしれない」


 たぶん、なにかの解放条件があると思うんだが。レベルか熟練度なんじゃないかなとは思ってるんだけど。

 しかしパーティで転移できるようになってもあんまり意味がないような。結局みんなも僕と同じレベルなんだから、高レベルのエリアに行ったところでやられるだけじゃないのかね。


「まあ、そういうわけで。ちょっと僕はこれからやることがあるから」

「またどっかにスキル転移するのか?」

「まあね。Aランクの鉱石を探してる。見つかるかわからないけど」

「「Aランク鉱石⁉︎」」


 双子だからなのか、二人とも同時に声を上げ、同時に自分で口を塞いだ。キョロキョロと店内を窺うのまで同じだ。

 幸い店内には僕ら以外おらず、店員も奥に引っ込んでいた。


「Aランク鉱石ってどういうこと⁉︎ あたしたちだってAどころかBランクの鉱石も見たことないよ⁉︎」

「【セーレの翼】を使えば先のエリアに飛べるんだよ。運良くポータルエリアの近くに採掘ポイントがあれば手に入れることもできるんだ」

「マジか! いいなあ! 羨ましい!」


 心底羨ましそうに奏汰かなた……ソウが吠える。妹と同じ反応だな。ここまで羨ましがられると逆に清々しい。


「転売しないって約束してくれるなら、いくらかBランクの鉱石を売ってもいいけど……」

「「買います!」」


 二人にはリンカさんたちに売る値段より多少安く売ることにした。【セーレの翼】の口止め料というわけではないけど、知り合いだしね。

 インベントリにある残りのBランク鉱石を全部二人に売ることにする。そんなに数はないけど、大剣二本分くらいは作れるだろう。

 一応入手先は秘密にしてもらう。武器は口の固い【鍛冶】スキル持ちにでも頼んで作ってもらえと伝えると、どちらもギルドメンバーに【鍛冶】スキル持ちがいるんだそうだ。なら大丈夫か。

 二人とフレンド登録をすると、どちらも所属しているギルド名が表示された。ソウの方は『銀影騎士団』、ハルの方は『フローレス』か。

 ギルドに所属してないと参加できないイベントなんかもあるようだし、僕らも考えないとな。


「これでかなりいい大剣が作れるぜ! ありがとうな、シロ!」

「あたしも新しい剣が作れるー。ありがとうね!」

 

 ソウは大剣使いだけど、ハルは細剣使いのようだ。どちらも同じ【剣の心得】から派生したスキル、【大剣術】、【細剣術】を持ってないと扱えない。

 確か【剣の心得】は【剣術】【大剣術】【細剣術】【刀術】に分かれるんだっけかな?


「じゃ、明日また学校で」

「おう!」

「またね!」


 ホクホク顔の二人と別れて僕はまたポータルエリアへと入った。【セーレの翼】によるランダム転移が始まり、再び僕を未知の領域へといざなう。

 移動した先はどこかの洞窟の入り口にあるポータルエリアだった。

 マップで位置を確認すると【憤怒】の第五エリア、『輝岩窟きがんくつ』とある。


「雰囲気的には鉱石を掘れそうな場所だけど……」


 周りを注意しながら洞窟の奥へと進んでいく。何しろ第五エリアだ。おそらくここの雑魚敵でさえ、出会ったら僕は瞬殺されるだろう。

 しばらく進むと洞窟のやや広い場所に出た。


「お?」


 岩壁の中ほどに採掘ポイントが見える。よし、あそこなら掘れそうだぞ。

 どうにか登れそうな場所を見つけた僕は、苔で滑りそうになりながらもそこを登り、その上に畳二畳ほどの休めるようなスペースを見つけた。

 下を覗き込むと三階くらいの高さである。逆に上を見上げると、さらに十メートルほど登らないと向こう側へは行けないようだ。

 岩壁面には【採掘】のスキルによって採掘ポイントが光って見えるが、その範囲がいつもより大きい。

 これは【採掘】の熟練度が低いからか、それとも掘り出そうとしている鉱石のランクが高いからか。

 とにかく掘ってみよう。

 リンカさんに渡されたパワーピッケルを取り出し、ポイントに突き立ててみる。

 いつもならゴロリとすぐに鉱石が落ちてくるのだが、なにも落ちない。石片が飛び散るエフェクトが出て終わりだ。ハズレってこと?

 ポイント範囲内であちこちピッケルを突き立ててみたがなかなか出ない。やはりAランク鉱石を掘るには熟練度が低いからだろうか。


「こりゃ時間がかかるか……?」


 そう思ったタイミングでゴロンと足下にキラキラとした鉱石が落ちてきた。大きさは野球ボールほど。

 【鑑定】してみる。当然ながら細かいところまではわからなかったが、アイテム名とランクくらいはわかった。


────────────────────

【星鉱石】 Aランク


■unknown

□精製アイテム/素材

品質:S(標準品質スタンダード

────────────────────


 よっしゃ! Aランク鉱石ゲット!

 これだけでは足りないと思うのでもう少し別のポイントにもピッケルを突き立てていく。Aランクの鉱石に混じってBランクの鉱石もいくつか取れた。

 運のいいことにその岩壁面からは合計八つのAランク鉱石が採掘できた。もらった五本のピッケルのうち、三本が使えなくなってしまったが。

 これなら自分の武器を作っても剣一本くらいはまだ余るぞ。欲を出し、もう一個採掘しようとした時に、ズ……、ズ……、となにか重いものを引きずるような音が聞こえてきた。

 【気配察知】が敵の接近を知らせる。マズい! 慌てて僕はその場に伏せる。おそらく戦って勝てる相手じゃない。

 僕が来た入口の方からなにやら臭ってきた。くさっ! 鼻が曲がりそうに臭い!

 ドブ水の臭いを凝縮したような臭いが漂ってくる。僕は鼻をつまみながら首をのばして、眼下を進む敵の姿を確認した。

 全身を苔のようなもので覆われた蛇だ。太さが大型バスくらいはある。まるで電車だ。赤いネームプレートがポップするが【unknown】としか見えない。

 ゆっくりとした動きで地面を這い、僕の下を進んでいく。

 額から流れる汗を感じながら、僕は息を潜めてそれをただ見守っていた。【隠密】スキルをつけてはいるが、この状況でどれだけの効果があるのかわからない。

 あんな化け物と戦って勝てるわけがない。おそらくあっさりと飲み込まれて死に戻るだろう。蛇に飲み込まれて死ぬ体験なんかしたくはない。

 巨体をくねらせながら苔の大蛇は洞窟の奥へと消えていった。

 大蛇が消えても念のため三分ほどその場に伏せて留まり、辺りを窺いながら岩壁を下りて、一気に洞窟入口のポータルエリアまで駆け抜けた。

 【セーレの翼】を外し、リンカさんのいるフライハイトへと跳ぶ。

 無事に転移が終了し、見慣れた光景が目の前に広がると、ドッと疲れが押し寄せてきた。

 よろよろとベンチに座り、深く息を吐く。


「なんかわからんが、助かった……」


 【隠密】スキルのおかげだろうか。ステータスを呼び出して確認してみると、熟練度がけっこう上がっている。これはレベル差がある敵から隠れ切ったからかね? 

 戦闘もしていないのに重たい身体を引きずるようにして、なんとかリンカさんのいる共同工房へとたどり着く。


「戻りました〜……」

「っ、おかえりっ」


 工房にいたリンカさんが僕を見つけると、小走りでこちらにやってきて、期待を込めた瞳を向ける。その姿に苦笑しそうになりながらも、僕はインベントリから採掘してきたばかりの星鉱石八個を取り出して作業机の上に並べた。


「ッ! すごい! やった!」


 黙っていれば長身の美人が子供のようにはしゃぐ姿はなかなかくるものがあるな。微笑ましいというかなんというか。


「これで新しい双剣を作ってもらえますかね?」

「もちろん。約束通り半額にする。だけどこの量だと少し多いと思う。残りはどうする?」


 僕は鎧を着ないのでそっちには必要ないしな。ミウラの大剣を作るには少ないし……ウェンディさんの剣ならできるか?

 ウェンディさんに連絡を取ると、彼女はしばらくしてリンカさんの工房へとやってきた。レンはブルーメンの宿屋にこもって僕の装備を製作中らしい。


「Aランクの鉱石ですか……。またとんでもないものを取ってきましたね」


 呆れるような視線でウェンディさんが星鉱石と僕の顔を見やる。

 僕は半額にしてもらったが、ウェンディさんは据え置きの金額だ。鉱石を僕が持ち込んだ形にはなっているので、いくらかは安くしてもらえるとは思うが。

 ウェンディさん的に金額には問題ないらしい。ただ剣ではなく、盾を作ってほしいという話になったが。


「残りの量だと盾は中型になる。大盾を作るのなら他の鉱石と混ぜて合金製にすればできなくもないけど」

「その場合どういったメリット、デメリットが?」

「ん。単純に重くなる。防御力も若干下がる。だけど耐久性はそのまま作るより少し上がるはず」

「では大盾でお願いします」


 ウェンディさんは合金製の大盾にすることに決めたようだ。


「あ、そうだ」


 リンカさんが作業机の下からなにか箱のようなものを取り出してきた。


「シロちゃんにお礼。試しに作ってみた」


 リンカさんに手渡された小さな箱は、けっこう重く、なにか小さいものがたくさん入っている感じがした。

 開けてみると、中にはジャラッと三角錐の塊がたくさん入っていた。


「……なにコレ?」

撒菱まきびし。忍者には必須アイテム。ちなみに踏んでもDWOデモンズだとあんまり痛くなく、ほとんどダメージにならない」

「役立たないじゃん……」


 いや、プレイヤーには痛覚を大幅にカットされてるから効かないだけで、モンスターには効くのかもしれないが。

 実際自分で踏んでみたが、石ころを踏んだような感覚があるだけで、10回踏んで1ダメージしか受けなかった。しょぼい。たくさん撒けばそれなりのダメージを与えられるかな?

 まあ、何かに使えるかもしれないし、とりあえずもらっておく。

 武器の完成には数日かかるとリンカさんに言われた。初めての鉱石なので特性を見極めてから作るらしい。

 今から楽しみだな。












DWOデモンズ ちょこっと解説】


■アイテムについて②

アイテムにはその貴重さを示す『ランク』が存在する。

最上級はSSS、SS、S、AA、A、B、C、D、E、F、ときて最下級にGが存在する。

Gランクはいわゆる「欠陥品」で、基本的には売ることができない。(というか、ほとんどのNPCは買い取ってくれない)





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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