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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■031 飴





「また失敗かー……」


 僕は目の前の出来上がったポーションを見てため息をつく。

 ポーションに様々な飲み物を混ぜてマイルドにする方法はけっこうある。しかし大抵は飲みやすくなる代わりに効果が落ちてしまって、ポーションとしてはあまり役に立たない。

 飲みやすく、かつ効果も落ちないポーションがあったら売れるんじゃないかと思ったんだが、そううまくはいかないようだ。

 クインビーの【蜂蜜】とかも混ぜてみたんだけどなあ。効果は落ちなかったんだけど、ドロリとして飲みにくいったら。戦闘中にあんなの飲めんぞ。


「や、待てよ? パンとかに塗ったら体力回復のサンドイッチとかができるんじゃないか……? って、だから戦闘中にのんびりサンドイッチなんか食えるかっての!」

 

 自分で自分にセルフツッコミ。戦闘中じゃなけりゃ普通にポーション飲めばいいだけだもんなあ。

 苦くてもガマンして飲めってことなのかねぇ。

 とりあえず、【調合】の熟練度も上がってきたし、ハイポーションも作ってみるか。失敗するともったいないからあんまり作らなかったんだけど。

 インベントリから霊薬草を出して調合を始める。


 ゴリゴリゴリ、トポポポ、ポンッ!

 【ハイポーション(粗悪品)】。

 ゴリゴリゴリ、トポポポ、ポンッ!

 【ハイポーション】。


 お、二回目でできた。いいぞいいぞ。この調子でどんどん作っておくか。

 インベントリにあるだけの霊薬草を使ってハイポーションを作る。七割の確率でできるようになってきたな。


「ついでだし解毒系のポーションも何種類か作っておくか」


 【解毒薬】、【麻痺回復薬】、【睡眠回復薬】などを作っていく。こちらの方はあまり素材がないので数は作れなかったが。

 かなりの量を作ってしまったな。まあ、熟練度も上がったし良しとしとくか。

 作ったポーション類をインベントリに収めていたとき、ふと【フィエリアの樹液】というアイテムが目に留まった。

 これは確かトーラスさんに弓の素材を伐採してきてほしいと頼まれた時に手に入れたんだっけ。そういや、こいつも調合アイテムだったな。

 乾くと固まるから接着剤とかになるのかなとも思ったが、これもポーションの材料になる……か?

 メープルシロップって確かカエデかなんかの樹液が原料だよな。

 おそるおそる匙で【フィエリアの樹液】をひと掬いし、ペロリと舐めてみる。

 …………味気もなんもない。

 甘くもないし、しょっぱくもない。なんだこれ。

 蓋をしている瓶の方はなんともないが、匙で掬った方はもうすでに固まってきている。歯で噛むとパキッと割れた。まるで飴みたいだ。甘くないけどな。


「あ」


 思いついた。

 ポーションの小瓶の中に、【フィエリアの樹液】とクインビーの【蜂蜜】を入れて混ぜ合わせ、【調合】を発動させる。


 ポンッ! カラン。


 小さな煙を残し、黄金色のビー玉のような丸い球体が完成する。


─────────────────

【蜂蜜飴】 Fランク


■蜂蜜味の飴。甘い。

□食品アイテム/

□複数効果なし/

品質:S(標準品質スタンダード

─────────────────


 やったー、飴完成。

 ポイ、と口に入れて舐めてみると、蜂蜜の味がした。甘い。

 まあ飴なんか普通にNPCの店で売ってるんですがね。キチンとした材料があれば【料理】スキルでも作れるんじゃないかな。

 【調合】で作れるこっちの方がおかしいんだよ。お菓子なだけに! ……つまらん。

 【フィエリアの樹液】を使えば飴が作れるのか。飴なんか作ったって売れないよなあ。


 ………………ちょっと待てよ。


 僕はインベントリの中に死蔵していた「あるもの」に目を奪われていた。





「およ。シロちゃんやないか。らっしゃい」

「ども」


 ブルーメン教会下の広場に露店を広げていたトーラスさんを見つけた。やっぱりここにいたか。


「ちょっとトーラスさんに頼みがあるんですけどいいですか?」

「お、なんやなんや、儲け話か?」

「ひょっとしたらそうなるかもしれません」

「え? ホンマに?」


 目を丸くしたトーラスさんの前に、インベントリからさっき【調合】したばっかりのブツを取り出す。


「これを【鑑定】してほしいんです。僕の熟練度じゃ鑑定できないんで」

「なんや、そんなことか。ええで、貸してみ」


 小瓶に入った深緑色のその飴玉をトーラスさんに小瓶ごと渡す。

 このゲームには貸与システムがある。戦闘中以外で短時間だけ他人にアイテムの所有権を渡せるのだ。

 もちろん、その間に消費アイテムを使うことなんかはできない。あくまで貸しているだけだ。時間がくればアイテムは本来の所有者に戻る。

 【鑑定】スキルを持ってない人なんかが、スキル持ちにアイテムを【鑑定済】にしてもらうために使ったり、武器や防具の試着なんかに使われたりもする。

 僕もこのアイテムを【鑑定済】にしてもらうためにトーラスさんに渡したのだ。しかし、小瓶に入った飴玉を見たトーラスさんの動きがピタリと止まった。


「…………フォアッ!?」


 トーラスさんから驚きの声が漏れる。


「【鑑定】できました?」

「あ、いや、できた、できたけれどもやな。なんなん? これなんなん⁉︎」


 【鑑定済】にしてもらったアイテムをトーラスさんから返してもらう。


─────────────────────

【薬草飴(濃縮)】 Xランク


■薬草味の飴。

 舐めている間、一定量の体力を持続回復。

 回復量は濃縮具合による。

□回復アイテム/体力回復

□複数効果なし/

品質:S(標準品質スタンダード

 【鑑定済】

─────────────────────


 よし! 思った通りの効果だ!

 この飴は舐めている間、体力を徐々に回復し続ける効果がある。戦闘中でも口に含んでいればある程度の回復が見込めるわけだ。


「シロちゃん、こ、これ、マジでどないしたん⁉︎」

「【調合】で作りました」

「作ったぁ⁉︎」


 すっとんきょうな声を出し、トーラスさんが周りから注目を浴びる。引きつった笑いを浮かべ、周りに謝りながらトーラスさんはそそくさと露店を片付けると、僕を連れて教会の階段を駆け上がった。


「……作ったって、マジでか? いや、Xランクなんやからそうなんやろうけども」

「マジです」


 僕の目を睨んでいたトーラスさんが、はあぁ、と長いため息をついた。


「調合レシピは……って、聞くのはマナー違反やな……。量産はできるんか?」

「あまり大量には無理ですね。調合材料を取ってくるのが大変なんで」

「ふーむ、数に制限がある、か」


 もう一度薬草飴を見ながらトーラスさんがそうつぶやく。作れないことはないんだけどね。

 あそこはバイコーンがいるからさあ。あいつの攻撃は素早くて僕でさえ躱すのも一回が限度っぽいんだよ……。つまり見つかったら確実に死ぬんですよ。

 そんなに何回も死に戻りはしたくない。


「ちなみに、もしこの飴ちゃんのレシピを公開したら誰でも作れるようになるんか?」

「……今は無理だと思います。いつかはできると思いますけど」


 うむむむむ、とトーラスさんは腕組みして考え込んでいる。


「売らん方がいいかもしれんなぁ、これ……」

「えっ? なんでです?」

「売るとしてどうやって売るつもりや? 露店で売ったら絶対に騒ぎになるで。わいが売ったところで同じことやし、どこで手に入れた、っちゅう話に絶対なるやろ。揉め事になるんは目に見えてるで?」


 うっ、確かに。


「売るとしたら、信頼できる知り合いに転売しないことを条件にして売るしかないなぁ……。おっと、わいは無理やで。商人やさかいな。売れんもんは買わん主義や。個人用でいくつかは持っといてもええと思うけど」


 いや、知り合いったってなあ。そんなにいないし。こいつを必要としてる人ってーと……。


「アレンさんあたり……ですかね」

「ま、妥当なところやなぁ。金はそれなりに持ってるやろうし」


 仮にも【怠惰】の攻略組だ。金は持ってるだろう。それ以外だとあのライオンの着ぐるみを着たレーヴェさんぐらいしか知り合いがいない。

 他の人に売ることを禁じた上で取引するしかないか……。アレンさんなら信頼できる。僕のソロモンスキルのことも黙ってくれているしな。

 しかし、なんか闇売買みたいになってきてないか? 売ってやるから黙ってろよ、みたいな。


「ちなみにコレって味はどうなん?」

「めっちゃ苦いです。クインビーの【蜂蜜】も混ぜてみたんですけど、あんまり消えなくて。『回復量は濃縮具合による』ってありましたけど、確かに濃縮していけば回復量も増えるんですよ。でも無理です。少なくとも僕は無理です。あるレベルを超えると口になんか含んでられません。吐きます」

「うわあ……」


 それでも濃縮された原液よりははるかにマイルドだけどな。カレーとかの辛さを一(から)、二辛、とか言うのなら、この飴玉は五(にが)、ってとこか?

 六苦になったら僕は無理だ。顔が歪んで舌がおかしくなる。なんの罰ゲームかと。

 六(にが)の飴玉を口に入れたまま戦ったりなんかできないと思う。戦える奴がいたら間違いなく舌馬鹿だ。

 実は濃縮しないでも飴は作れるんだけど、口に入れるとまるで和三盆の砂糖菓子みたいにすぐになくなってしまうのだ。

 それだと普通のポーションと変わらないからあまり意味がない。いや、ポーションよりも効果は落ちるからそれ以下か。

 とりあえずアレンさんに連絡してみよう。僕はフレンドリストを開いて、アレンさんがログインしているのを確認した。





「いやもう、なんと言ったらいいやら……」

「さすが『調達屋』だね。こんなものまで調達してくるなんて」


 いや、今回のは調達したんじゃなくて作ったんだけどな。

 連絡を取り、ブルーメンにある喫茶店「ミーティア」にやってきたアレンさんと、付き添いできたという弓使いのベルクレアさんが、お互いにそんな感想を漏らした。

 二人とも装備に星を象ったデザインのエンブレムがある。二人の所属するギルド『スターライト』のエンブレムだ。


「確かにこれは大した代物だ。苦いという欠点はあるが、戦闘中に回復補助が自分でできるのは大きいな」

「ふっふっふ。それだけやないんやで。これも見てみいや」


 トーラスさんがテーブルに別の飴玉が入った小瓶を置く。トーラスさんに【鑑定済】にしてもらったから他のみんなにも見えるはずだ。


「これは……」


─────────────────────

【毒消し飴(濃縮)】 Xランク


■毒消し草味の飴。

 舐めている間、毒を解毒。

 効果時間は濃縮具合による。

□回復アイテム/状態異常回復

□複数効果なし/

品質:S(標準品質スタンダード

 【鑑定済】

─────────────────────


 薬草の代わりに毒消し草を濃縮させて作った飴玉だ。こいつの凄いところは舐めている間は毒を受けない(正確には受けてもすぐに解毒する)という効果だ。


「さらに!」


 ドン! と、トーラスさんがもうひと瓶机に置く。


─────────────────────

【麻痺消し飴(濃縮)】 Xランク


■麻痺消し草味の飴。

 舐めている間、麻痺を解消。

 効果時間は濃縮具合による。

□回復アイテム/状態異常回復

□複数効果なし/

品質:S(標準品質スタンダード

 【鑑定済】

─────────────────────


 麻痺用の飴もある。

 毒よりも麻痺の方が厄介だ。なぜなら麻痺になると身体の動きが不自由になり、回復アイテムを使うのでさえ難しくなる。基本は仲間に解除してもらうのが一般的だが、ソロだとそうもいかない。

 しかし、この飴があればそんな心配は無用なのだ。


「ねえ、アレン。これって……」

「うん、使える。これがあればかなり有利に戦えるぞ」


 ベルクレアさんの言葉にアレンさんが頷く。キョトンとしていた僕にアレンさんが説明してくれた。


「今、僕らは第三エリアの港町からその先の島に渡ろうとしているんだけどね。だけど海岸には『ポイズンジェリー』っていう大きな毒クラゲが大量に占拠していて、漁師さんたちが船を出せないっていうんだよ。一回戦ったんだけど、毒攻撃が厄介でさ。恥ずかしながら撤退してしまってね。こいつの毒は特殊で、猛毒の上に麻痺効果もあるんだ」


 なんていやらしい攻撃をするクラゲだ。

 確かにこの飴があればそんな毒や麻痺の攻撃も対処できるな。片っ端から解毒するわけだし。ちなみにこの毒消し飴も麻痺消し飴きっちりと苦い。薬草飴よりはマシな四(にが)といったところか。


「この飴玉はシロちゃんにしか作れへん。今んとこはな。転売しないという条件を呑んでくれるなら、定期的に一定量を売ってもいいっちゅう話になっとる。さあ、いくらの値を付ける?」

「なんであんたが仕切ってんのよ」


 呆れた顔をしてベルクレアさんが突っ込む。


「ええやんか。シロちゃんの交渉代理人や。さあ、いくらや?」


 トーラスさんの言葉に思わず苦笑いしてしまう。商人の血が騒いだのだろうか。いや、あれは楽しんでいるだけだな。

 頼んでないけど、実際そういった交渉は苦手なのでこの際任せてしまおう。

 そこから壮絶(?)なトーラスさんとアレンさんの交渉が始まった。

 僕はどこか他人事のように、呆れているベルクレアさんとその光景を見守っている。


「飴食べます? 蜂蜜味」

「……いただくわ」


 コロコロと口の中で転がる飴は甘かった。














DWOデモンズ ちょこっと解説】


■貸与システムについて

DWOデモンズでは戦闘中以外で短時間だけ他人にアイテムを手渡せるが、所有権までは移せない。消費アイテムも渡すことはできるが使用することはできない。当然ながら両者の承諾が必要である。





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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