■002 キャラメイク
気が付くと白い空間に立っていた。
目の前には自分と同じ姿をした人物が、質素な服を着て浮かんでいる。これって僕のゲーム内での分身、「アバター」ってやつか?
辺りをキョロキョロと見回していると、ポンッという音と共に、目の前にミニサイズの悪魔っ子キャラが現れる。角と蝙蝠の羽根、そして尻尾を生やした女の子だ。三頭身のミニキャラみたいなナリをしている。
この女の子は確か公式ガイドキャラクターのデモ子さんとかいうキャラだったか。
『【デモンズワールド・オンライン】へようこそですの! まずは貴方の分身となるアバターを設定して下さいですの! わからないことがあれば、なんでも聞いて下さいですの!』
すごいな。本当に生きているみたいだ。テレビで言ってたけど、最新のAIってここまできてるのか。
デモ子さんの指示に従って、そのキャラメイクとやらを進めていく。えーっと、名前はハクト……じゃまずいのかな。
基本、「DWO」では、アバターの名前と容姿はなるべく変化させることを推奨しているという。リアルの名前、リアルの顔ではゲーム中に何かトラブルに巻き込まれた場合、リアルでもその被害に合うことも考えられるからだそうだ。
そういや確かリアルネームリアルアバターでプレイしていた女性が、VRゲームで知り合った男にストーカー被害を受けたなんて事件がニュースであったな。
強制ではないけれど、ちょっとは変えておこう。
プレイヤーネームは「シロ」でいいか。捻りがないけど、まあいいや。
性別は変えることができない。VR世界で間違っても女になることなんかない。まあ、女装や男装をすること自体は可能かもしれないが。
容姿は……自分の顔をベースにして、用意されたパーツから選んだり、細かく設定することができるのか。
うーん、ゲームの中だけ男前になっても虚しいし、あっちでレンシアと会ったときイケメンだったらなんか恥ずかしいぞ……目とか髪型をいじるだけでいいよね。ちょっとだけ目元がキリッとなった気がする。
髪は白がいいか。本名が「白兎」ですから。目の色はそのままでいいや。
それ以外は髪型を少し伸ばした程度で終わらせた。ベースが自分なので、さほど変わってもいない気もするが、種族特性がつけばまた変わるらしいし、とりあえず進めよう。
さて種族選択だが……。
【魔人族】デモンズ
【夜魔族】ヴァンパイア
【獣人族】セリアンスロープ
【鬼神族】オーガ
【夢魔族】インキュバス・サキュバス
【竜人族】ドラゴニュート
【妖精族】アールヴ
【地精族】ドヴェルグ
うむむ、悩むな。【獣人族】の種族スキル【獣化】とか惹かれるんだが……。
選択する獣人の数も多いから悩むなあ。ワーラビットとかもあるし。ワーウルフとかは狼男化するんだろうけど、ワーラビットは兎男化するってことなんだろうか? 顔が兎の男……少し不気味かな……。
【鬼神族】とか【妖精族】【地精族】は、種族特性が特化され過ぎているから却下。
【夢魔族】、僕の場合、男だからインキュバス……幸運度が高く、アイテムドロップ率が高いのか。種族スキル【魅了】は、魔獣とかを従えるスキルがあると、成功しやすくなるらしい。お供の動物を連れて歩けるのは魅力だな。もふもふしたい。
【夜魔族】はお決まりって感じがしてどうもなあ。種族スキルの【再生】は戦闘で一回だけ死を免れる、か。
デモ子さんにもいろいろと種族のメリット、デメリットを聞いて参考にする。
うーん……やっぱり【魔人族】にするか。能力的には平均でつまらないけど、自分自身初心者だしな。【獣人族】のワーラビットも捨てがたいんだが、クセのない種族の方がいろいろとできそうな気がするし。素人考えだけど。
それに種族スキル【順応性】ってのも使えるんじゃないかな。
「あらゆるスキルの熟練度が多少早く上昇する」ってのは、かなりありがたいと思うんだ。他種族より成長が早いってことだし。
よし、種族は【魔人族】で決定。
種族を選択すると、目の前の僕のアバターの耳が少し尖った。どうやらデモンズはあまり身体変化はしないらしいな。
『次は初期装備の武器と初期スキルを決めるですの!』
なるほど、次は武器とスキルの取得か。
種族スキル【順応性】は、すでにスロットに埋まっている。全部で七つだから残りは六つか。
初期スキルと呼ばれるものがズラリとリストに並んでいる。うわあ。この中から選ぶのか? これも悩むな……。
『ちなみにそのリストに載っているスキルはゲーム中、後からでも比較的容易に入手可能ですの! ですから気楽に選ぶといいですの!』
あ、そうなの? じゃあ深く考えずに……ってそうもいかんよな。一応は考えないと。入手可能=確実に手に入るってわけじゃないんだし。
まずはなんの武器を使うかでスキルも変わってくるよな。
えーっと初期武器は、剣、斧、槍、弓、棍棒、杖、短剣、手甲か。
「デモ子さん、手甲ってのは?」
『殴り武器ですの』
格闘家とかが装備するようなグローブか。
伯父さんとの稽古で慣れてるし、無手も悪くはないんけど……。
短剣は両手に二本装備できるのか。それも捨てがたい……うーむ、どうするか。
『初期武器も店で買えますから、今は適当に気に入ったものでもいいと思いますの。でもでも、「剣」を選んでおいて、スキルが【槍術の心得】を取るとかは無駄ですのでオススメしませんの』
確かに。んー、じゃあとりあえず短剣にしとこうかね。ってことは、初期スキルのひとつは【短剣の心得】で決まりだな。
両手が塞がると盾を装備できないから、相手の攻撃をなるべく躱す方向でいくとなると、素早さを重視だよな。えーっと……【敏捷度UP(小)】と【見切り】かな。
あとは敵に不意打ちされないように【気配察知】と、自分で回復アイテムを作れるように【調合】、あとは……あ、【鑑定】があると便利かな。あれ、もういっぱいか? 【筋力UP(小)】も欲しかったけど……ま、あとで手に入るならいいか。
種族によっては能力値が足りないために、習得できないスキルもあるらしい。【魔人族】は平均的なのでそういった心配はない。
■シロ レベル1
【魔人族】
■称号
【駆け出しの若者】
■装備
・武器
安物の短剣×2
・防具
安物の服(上下)
安物の靴
・アクセサリー
なし
■使用スキル(7/7)
【順応性】【短剣の心得】
【敏捷度UP(小)】
【見切り】【気配察知】
【調合】【鑑定】
■予備スキル(0/10)
なし
■所持アイテム
ポーション×3 安物弁当×3
■所持金
1000G
よし、こんな感じでいいか。しかし、初期装備だけあって「安物」ってつくのが多いなあ。なるべく早くお金を稼いで買い換えたいもんだ。
よし、とりあえずこれで決定っと。
『最後に【罪源】を決めて下さいですの。これは一度決めるとあとあとまで変更できないので、気をつけて選ぶですの。開始エリアもこれで決まるので注意が必要ですの』
デモ子さんがそう言うと、目の前に空中に浮かんだマップが現れた。
海に浮かぶひとつの大陸。その大陸の中央部には空白地帯があって、それをぐるりと囲むように七つの領国が色別に存在していた。
それぞれ【傲慢】【憤怒】【強欲】【色欲】【暴食】【怠惰】【嫉妬】と書かれていて、それが点滅している。この中から選ぶわけか。
レンシアが手紙に書いていた「開始エリア」ってのはこれかな? 開始エリアによって出てくる敵や町が違うらしい。ひょっとして攻略しやすいエリアもあるのかもしれないな。
取り立ててこだわりもないので、迷うことなく僕は【怠惰】を選ぶ。その瞬間、熊のような紋章が浮かび上がり、僕のキャラデータの背景に、まるでハンコを押すようにプリントされた。
その後、『【怠惰】の開始エリアに決定しました。キャラメイクを終了します』というメッセージが流れる。
これでキャラメイクは終了か。
そのあと軽くチュートリアルを受けて、いろんな設定やバトル方法、スキルの使い方などを教わった。そして、そのチュートリアルも無事終了。いよいよ「デモンズワールド」へと向かう。
『「デモンズワールド」に旅立つ前に、ひとつお願いですの。「デモンズワールド」にはプレイヤーの皆さんだけではなく、様々なNPCが暮らしてますの』
「あの、えぬぴーしー、って何?」
『ノン・プレイヤー・キャラクター。ゲームにおけるプレイヤーの管理下にないキャラクターのことですの。「デモンズワールド」においては、このNPCも生きているということを忘れないでほしいですの。楽しければ笑い、悲しければ泣く。どうか別世界の友人として接して下さいですの』
「うん、まあよくわからないけど、そうするよ」
要は普通に接しろってことだよね。なら難しいことじゃない。
『では「デモンズワールド」へ行ってらっしゃいですの。困ったことがあればいつでもお呼び下さいですの!』
「ありがとう。じゃ、行ってくるよ」
眩い光が辺りを包み、視界がさらに真っ白になっていく。ログインしたときと同じような感覚がして、僕は再び意識を失った。
【DWO ちょこっと解説】
■プレイヤーは【デモンズワールド】の『外』から来た住人」とNPCに認識される。【デモンズワールド】には七つの領国があり、それぞれ【傲慢】【嫉妬】【強欲】【色欲】【怠惰】【憤怒】【暴食】からひとつを選び、その領国の住人としてスタートする。
【DWO 無関係ちょこっと解説】
■『因幡の白兎』に登場する兎は、目が赤い『ジャパニーズホワイト』と呼ばれる種ではなく、冬毛のノウサギだと考えられている。ノウサギの目は黒目か褐色である。