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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■028 シークレットエリア

■本日もう一話投稿します。




「何人かのプレイヤーがな、この村の周辺で奇妙なモノを見とるんや」

「奇妙なモノ?」

「ちょい待ち、確かサイトにSSスクリーンショットがあったはず……ほら、コレや」


 トーラスさんが空中に浮かび上がらせた情報サイトには、一枚のSSが貼られていた。そしてそこに写っていたのは……。


「猫……?」


 猫だよな、これ。猫だけど……。


「よく見てみい。ただの猫やない。二本足で立っているやろ。これを撮ったプレイヤーの話だと、撮った瞬間にものすごい速さで走って逃げていったそうや。もちろん二本足でやで?」

「これ、猫の【セリアンスロープ】のプレイヤーが【獣化】スキルを使った姿なんじゃ……」

「身長が五、六十センチのプレイヤーか? 言っとくけど、DWOデモンズの年齢制限は保護者付きで十歳以上やで? 一歳児がログインできるとは思えんし、そもそもまだ走るどころか歩けんやろ」


 確かに。全力疾走する一歳児とかちょっとしたホラーだ。


「ネットじゃ新しい種族の発見なんやないかと騒がれとる。【猫精族ケット・シー】説が今んとこ有力やな」


 猫精族ケット・シー。長靴を履いた猫的なアレか。そんなものまでいるのか。


「ただ、普通の猫と見分けがつかんのが難点やなあ。プレイヤーが村の猫を片っ端から捕まえて話しかけたりしとるから、村人たちに変な警戒されとる。わからんでもないけど」


 まあ……そりゃなあ。猫をいじめているようにしか見えないかもしれない。印象は良くないだろう。


「そもそもこれは本物なのでしょうか。どうも眉唾ものなのですが」


 ウェンディさんが画面に映る猫のSSを見ながらトーラスさんに尋ねる。うん、このSS自体が作り物で、全部デマって可能性もあるよね。


「何人かの目撃者がおるから本当だと思いたいところやけどな。グルになってる奴らもおるかもしれんし、面白がって尻馬に乗ったアホもおるかもしれん。ま、そのうちハッキリするんやないかな」

「本当なら会ってみたいですねえ」

「あたしは犬の方が好きだけどなあ」


 レンとミウラがそれぞれの反応を示す。ミウラの方はあまり興味がないみたいだ。

 そういや村の中には牛とか馬とか鶏に豚、犬などは見かけたが、猫は見なかった気がする。あまりにもプレイヤーが無茶するからどこかに逃げてしまったのかな?


「村の子にイジメられとった猫を助けたら、ケット・シーの村に案内してくれるとか、そんなレアイベントが起きるかも知れへんで?」

「んなアホな」


 思わず関西弁でツッこんでしまった。そんなベタベタなイベントなら、すぐに発生しているだろうに。

 まあ、今のところ僕らにはどうしようもない。とりあえず今日の目的は達したわけだし、これからどうしようか。


「一旦ブルーメンに戻りますか? ここにはポータルエリアでいつでも来れるようになりましたし」


 ウェンディさんの言う通りポータルエリアのある場所なら、一度来ればそのあとは自由に転移できるようになる。

 一応村の中にある店も回ってみたが、ブルーメンよりもやはり質や品揃えは悪い。食事をするにもあっちの方がいいだろう。


「それじゃあ、僕らはブルーメンの方に戻ります」

「さよか。ほな、またな」


 トーラスさんと別れ、村の北にあるポータルエリアからブルーメンへと転移する。

 トトス村とはやっぱり違う、活気のある賑わいがポータルエリアのある教会の階段下から聞こえてきた。

 とりあえずお茶でもということになったので、みんなを喫茶『ミーティア』に案内した。あそこなら軽食もけっこうあるし、値段もお手ごろだしな。


「こんちはー」

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませ。おや、シロさんじゃないですか」


 『ミーティア』の扉を開けると、マスターと見たことのないウェイトレスさんが声をかけてきた。店内に客はいない。大通りから少し離れているからなのか、あまり流行ってはいないようだ。

 まあ、実際の店経営のように生活に困るようなことはないんだろうけど。お金に困ったら狩りに行けばいいんだからな。


「そちらのお嬢さん方はシロさんのお仲間ですか?」

「はい。トトス村に行ってきた帰りです。あの、こちらは……」


 僕は銀盆を持つウェイトレスさんに目を向ける。年齢は僕らと同じくらい。黒髪のショートカットで活発な印象を受ける。白と黒のエプロンドレスのような服に身を包んでいるが、お尻の辺りから黒い尻尾が伸びていた。よく見ると頭にも猫耳があった。黒猫の獣人族セリアンスロープだ。


「この子はシャノアと言います。ウチのウェイトレスですよ」

「シャノアです。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げたシャノアさんに緑のネームプレートがポップする。緑ってことはこの子、NPCなのか。

 店舗を持つと、NPCを店員に雇うこともできるんだな。

 とりあえずマスターに勧められるままに、みんなはテーブル席に、僕はカウンターに座った。さすがにガールズトークに入る勇気はない。

 きゃっきゃっとはしゃぎながらメニューを見て、テーブル席の四人が注文を決めていく。や、ウェンディさんはいつも通り落ち着いた感じだったけれども。





「ガンガン岩場を抜けられたんですね」

「はい。途中でストーンゴーレムが出てきて大変でしたけど」

「ほう、それは珍しい。レアモンスターじゃないですか」


 僕らが注文した品を全て出してから、マスターがコーヒーを淹れてくれた。これはサービスらしい。

 ハニートーストやら苺のタルトやら甘い匂いが漂ってくる女性陣を背に、僕はトトス村までの出来事や、村で聞いた噂話をマスターに話す。


「ケット・シーですか。なるほど……」

「隠れ里みたいなものがあるんですかね?」

「可能性はありますね。DWOデモンズにはいわゆる『シークレットエリア』と呼ばれる場所があるそうで……」


 『シークレットエリア』? なんだそりゃ?


「これも噂話の類になりますが、ある一定の条件を満たしていると入れるようになる場所があるそうです。しっかりとした確認はされてないんですけど」


 このゲームにはいろんな種族たちがいる。プレイヤーが選ぶことのできる種族の他に、【蜥蜴族リザードマン】、【妖鳥族ハーピィ】、【人馬族ケンタウロス】、【単眼族サイクロプス】、【牛頭族ミノタウロス】、【蛇妖族ラミア】、【妖花族アルラウネ】そして【猫精族ケット・シー】など。

 それぞれ彼ら固有の村や集落が存在するらしい。そしてそここそが『シークレットエリア』と言われる場所のひとつだと。


「誰か行ったことのある人っているんですか?」

「それがですねえ。行ったことはあるけれど追い出されたとか、二度と行けなかったとか、誰かに話したら二度と行けなくなるとか。やっぱり隠れ里の存在を知られるのは嫌なようでして。知っていても自分だけにメリットがある場合、黙っている人もいるでしょうし」


 うーん……まあ、わからんでもないか。僕も見つけたとしても、その隠れ里の人たちが知られることを望まないなら発見したことはともかく、行き方は黙っているかな。

 もし行き方をサイトなんかで公開したりしたら、その隠れ里が滅茶苦茶になるかもしれないし。


「いや、実際にあったらしいんですよ。【怠惰】の領国ではありませんが、【蛇妖族ラミア】の集落にたまたま迷い込んだプレイヤーがそのことを吹聴しまくったんです。しばらくするとその集落への道が閉ざされてしまい、二度と開くことはなかったと。『シークレットエリア』はこことは違う次元にあって、その入口を自由に繋げられるんじゃないですかね」


 だとすると、トトス村の近くにあるらしい【ケット・シー】の集落が消えるのも時間の問題かもしれないな。あれだけ噂になってたらもうダメだろう。

 そしてまた別のところへ入口を繋ぐのかもしれない。

 

「『シークレットエリア』ってのは、隠れ里だけなんですかね?」

「いえ、特定の鉱石が沢山取れる場所とか、通り抜けられる隠された近道なんかもこれに当たるみたいですよ。なんでも【強欲】の領国じゃ、密林の中に古代遺跡のようなダンジョンが見つかったとか。きちんとした手順を踏まないとそこへは行けないそうです」

「へえ。ずいぶんと詳しいですね、マスター」

「ははは。店が閑古鳥なもので、ついそういった情報サイトを覗いてしまって。店に来てくれる仲間からもいろいろ聞きますしね」


 『シークレットエリア』か。探してみるのも面白そうだけど、静かに暮らしている種族に迷惑をかけるのもな。ゲームなんだからそんなことを気にしなくてもいいんじゃないかとは思うんだけど。

 このゲームを始めたときにデモ子さんに言われたことが引っかかってるのかな。



『「デモンズワールド」においては、このNPCも生きているということを忘れないでほしいですの。楽しければ笑い、悲しければ泣く。どうか別世界の友人として接して下さいですの』



 確かにこのゲームのNPCとやらはプレイヤーと見分けがつかない。ポップしたネームプレート色の違いがなければプレイヤーだと思ってしまうだろう。

 ちら、と女性陣と話しているウェイトレスのシャノアさんを見る。その仕草は人間そのもので、機械的なところは全くない。


「僕は今までVRゲームをしてこなかったんですけど、NPCってのはみんなあんなに表情や表現が豊かなんですか?」

「いえ、DWOデモンズは他のVRゲームに比べて格段に優れています。他のVRゲームではどこか機械的なところがあったり、なにか制限があったりするものなのですがね。噂じゃレンフィルの全社員がNPCを操作してるんじゃないかって話もあるくらいで」

「まさか」


 さすがにそれはないだろう。リアルさを出すためとはいえ、いくらなんでも。


「このゲーム、技術的にもですけど謎の部分がけっこうあるんですよね。例えば普通、こういったMMOにはβテスト的な物があるはずなんですが、βテスターの話を聞いたことがありません。よほど完成度に自信があったのが、それとも別の……」

「βテスターはレンフィルの社員全員だったとか?」

「それこそ、まさか。仕事になりませんよ」


 マスターが苦笑しながらそんなことを話す。レンフィル……DWOデモンズを製作したレンフィルコーポレーションか。

 レンのお父さんの会社だ。レンフィールド家はかなりの大財閥らしく、いろんな会社を持っているようだけれど、さすがに全NPCやβテストプレイヤーを社員が操作するってのはありえないだろう。

 よほど高性能なVR技術を開発したか、それとも……ま、どうでもいいか。僕はゲームを楽しめればそれでいいや。

 僕はコーヒーを飲みながら、マスターと再びゲーム談義を始めた。














DWOデモンズ ちょこっと解説】


■シークレットエリアについて

DWOデモンズにはシークレットエリアと呼ばれるエリア外のフィールドが存在する。

特殊なアイテム、ルート、案内などがなければ辿り着けないこのエリアは、見つけることが困難ではあるが、それによる恩恵も多い。

また、条件によっては再び辿り着くことが不可能になることもある。





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