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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■027 風に立つライオン





 ライオンだ。おはようからおやすみまで暮らしを見つめるようなライオンの着ぐるみだ。

 茶色いボディにフサフサのたてがみ、ゆるキャラのような、それでいて部分的にはリアルなライオンの着ぐるみを着たプレイヤーが、岩場を吹き抜ける風の中に立っている。【獣化】したセリアンスロープ……じゃないよな?

 僕らのパーティメンバーの中に、『レーヴェ』というプレイヤーが加入していた。これはパーティリーダーであるレンが、この戦闘の助っ人を許可したということだ。

 レベル22だから僕らより高い。僕らで一番高いのがウェンディさんのレベル17だからな。

 そのライオンさん、いや、レーヴェさんがなんであの姿なのかがわからない。あれって、装備なの!? 『ライオンの着ぐるみ』って装備があるの!?


「来るよ」


 レーヴェさんはそう言うと、振り下ろされるストーンゴーレムの拳を躱し、その懐へ入ってガラ空きのボディに重い正拳突きを叩き込む。

 そのまま拳による連打を浴びせ、くるりと回転して鋭い回し蹴りを放つ。

 よろめいて片足を上げたゴーレムの横へそのままするりと移動し、今度は身体を半回転させて背中からショートレンジの体当たりをぶちかます。流れるような連続攻撃だ。

 さすがにゴーレムもバランスを崩し、地面に倒れた。

 今の技……【格闘術】スキル持ちか? いや、それに加えてあれはリアルでもなにか武術をやっている動きだった。最初の正拳突きは【チャージ】を使っていたようだったけど。

 伯父さんの流派の動きと似てるけど、どこか違うな。なんにしろレーヴェさんは無手の格闘家タイプらしい。……ライオンだけど。


「【ファイアアロー】!」


 倒れたゴーレムへ向けてリゼルの魔法が炸裂する。そのチャンスを逃さないとばかりに、動けるようになっていたミウラが、種族スキル【狂化】を使い、防御力を削って攻撃力を倍加させた。


「りゃあああああぁぁ!!」


 飛び込んだミウラの戦鎚ウォーハンマーが、倒れているゴーレムの胸部に叩きつけられる。【狂化】により高められた、まさに乾坤一擲けんこんいってきの一撃だ。

 インパクトの瞬間、まばゆい輝きとともにゴーレムの上に【Criticalクリティカル Hitヒット!】の文字が浮かび上がった。おおっ!


『ゴォォォォン……!』


 低い断末魔の悲鳴を上げてストーンゴーレムがガラガラと崩れ、ゆっくりと光の粒になっていく。倒した、か。


「ふえぇぇぇ。しんどかったー」


 リゼルがその場でへたり込む。ウェンディさんもレンも無事なようだ。最後なにもしなかったな、僕。


「あっ、あの、ありがとうございました!」

「なに、気にしないでくれたまえ。たまたま通りかかっただけだよ。参加させてもらってこちらこそ感謝する」


 レンがレーヴェさんに駆け寄り、頭を下げていた。レーヴェさんの声は、落ち着いた男の人のような、女の人のような不思議な声だ。これもなんかのスキルか? 性別不明……いや、見た目はオスライオンだけれども。

 僕らもレーヴェさんにお礼を言ってから、インベントリの中の手に入れたアイテムをチェックする。おっと、レベルも上がってるな。15になった。

 称号も増えてる。『ゴーレムバスター』か。ちょっとかっこいいな。

 ドロップしたのは、と。『魔硬岩』『古びた破片』『鉄鉱石(上質)』……。『古びた破片』ってのはなんだろ? 詳細が【unknown】だ。【鑑定】してみるか。


────────────────────

【古びた破片】 Eランク


■古びた何かの破片。

このままでは使えないが……。

□??アイテム/素材

品質:LQ(低品質ロークオリティ

────────────────────


 なんだよ、「このままでは使えないが……」の先を教えろよ! アイテムの種類もわからないし! まあそれは僕の【鑑定】の熟練度が低いからだが。

 手に入れたアイテムを見て僕がなんともモヤッとした気持ちになっていると、レーヴェさんに近寄ったミウラがみんなが思っている疑問をストレートにぶつけた。


「ってか、その着ぐるみってなに? コスプレ?」


 うん、もうちょっと言葉を選べ、お嬢様。


「これかい? これは趣味のようなものだよ。知り合いにこういったものを作るのが好きなプレイヤーがいてね。吾輩も嫌いではないのでこうして着ている。他に何着もあるが、今日はライオンの気分だったのさ。深い意味はない」


 レンと同じような【裁縫】とか【機織】系のスキル持ちだろうか。ていうか、こんなのまで作れるのかよ。


「それって防具なんですか?」

「うむ、カテゴリ的には『衣類』になる。この下にはそれなりの装備をしているよ。鎧の上から着るコートと同じ扱いさ」


 服なのか、それ……。間違っちゃいないような、間違っているような。


「レーヴェさんもトトス村に行かれるんですか?」

「いや、吾輩はトトス村からブルーメンに帰る途中さ。向こうを拠点として素材を集めていたのでな。君たちのおかげで最後にいい素材を手に入れられた」


 レーヴェさんはパーティに参加したといっても途中からだし、それほど貢献度は高くはないはず。よくて一個くらいだと思うが、なにかいいアイテムがドロップしたみたいだな。


「では吾輩はこれで。機会があればまた会おう。さらばだ」


 最後に僕らとフレンド登録をして、ライオンの着ぐるみは去っていった。……変なプレイヤーだったな。いや、このゲームをどう楽しむかは人それぞれで、僕らが口を挟むことじゃないか。


「はぁ……。私もあれぐらいのものを作れるくらいになりたいですねぇ」

「お嬢様なら必ずできますよ」

「ウサギの着ぐるみ作ってシロ兄ちゃんに着せようよ!」

「いいね! シロ君ぴょんぴょん跳ねるし似合いそう!」

「ちょっと待て、お前ら」


 あんな着ぐるみ着て戦えるか。いろんな意味で。断固反対するぞ。

 ストーンゴーレムを倒した僕らは【ガンガン岩場】のフィールドをやっと抜けて、トトス村へと向かう街道へと辿り着いた。けっこうかかったなあ。村まで行けば次はポータルエリアから跳べるから楽だけれども。

 あれ? じゃあレーヴェさんはなんで岩場を通って帰ろうとしてたんだろう? なにかの熟練度上げでもしようとしてたのだろうか?

 街道をしばらく行くと、遠目に小さな村が見えてきた。


「あれがトトス村ですね!」

「やっと着いたー!」


 年少組が我先にと駆けていく。元気だなあ。


「お嬢様、あんまり慌てますと転びますよ」


 保護者であるウェンディさんもレンとミウラに付いていく。僕とリゼルはそれを見て笑いながら村へと足を踏み入れた。





 トトス村はいかにも「村」って感じだった。

 高い建物なんてまったくないし、家も木造のものばかり。そこらへんに畑や田んぼがあって、柵の中には豚や鶏が飼われている。

 さっそく村の名物だという干し芋を買って食べてみたが、確かに美味い。この芋もあの畑で作っているのかな?


「干し芋ってこんな味なんだね~」

「けっこう美味いよね」

「初めて食べました」

「私もです、お嬢様」


 なん……だと……。まさかの僕以外が全員干し芋を食べたことがないという事実……。そういやリゼルも含めてこいつらセレブな人たちだった。リゼルは貴族の家系らしいし、レンとミウラは財閥のお嬢様、ウェンディさんもそこそこの家柄っぽいし。くそう。

 まあ今の時代、干し芋を食べたことがある方が少数派なのか……? そんなことはないと思いたい。

 村の真ん中には井戸を中心とした広場があって、その北には小さいながらもポータルエリアがあった。

 広場にはブルーメンやフライハイトほどではないが、やはりプレイヤーたちの露店が並んでいた。人があまり集まらないと聞いたが、それでも僕らのようにやってくる変わり者はいるのだろう。

 それに都会の街並みより、この長閑のどかな田舎の方が落ち着くという人たちも多いんじゃないかと思われる。

 こういったところにギルドホームを建てるのもアリだよなぁ。


「おろ? シロちゃんやないか」

「え? あれっ、トーラスさん!?」


 広場の露店前に、妖精族アールヴの商人であるトーラスさんがいた。商人と言ってもそういう職業ジョブがあるわけではないので、勝手に僕がそう認識しているだけなのだが。


「人が少ないこっちの方じゃ店を出さないと思ってましたが」

「そやな、売りに来たというより素材を探しに来たというところや。たまにこういうとこで掘り出し物があんねん。このゲーム、よくわからん素材が多いやろ? 使い道がわからんでも、とりあえず取っておくって奴が大半なんやけど、中には放出するプレイヤーもおんねん」


 相変わらずのエセ関西弁でトーラスさんがそう語る。

 確かに鑑定しても何に使うんだろう? と首を傾げる素材もかなりある。さっき手に入れた『古びた破片』なんかがいい例だ。

 加工するのか、合成するのか、はたまた錬成するのか。一つじゃ役に立たず、他の物と組み合わせて初めて効果を生み出す物なんてのもありえる。

 そもそもそれは自分にとって本当に必要なものなのか? という判断が難しい。必要がなければ売って、その金で必要な物を買った方が建設的だ。それはみんなわかっているが、そのきっかけがないだけなのだ。

 故に使い道がわからなくても珍しい素材は出回らない。だけど中にはお金の方が、という人もいる。トーラスさんもそんな掘り出し物を探しに来たのだろう。

 まあぼくも『古びた破片』なんてわけのわからない物がお金になるなら換金したい方だが。


「生産系はなにが必要になるかわからんからな。持ってない素材はなるべくないようにしときたいんや。……っと、そっちのお嬢さんらは初対面やな。シロちゃんとこのパーティメンバーか?」


 トーラスさんは僕の後ろにいたリゼルとミウラに声をかけた。リゼルが慌ててぺこりと頭を下げる。


「あ、はい。リゼルって言います」

「あたしはミウラ」

「リゼちゃんとミウラの嬢ちゃんか。わいはトーラス。商売人や。よろしゅうな」


 ただでさえ細い糸目を細くして、トーラスさんがチャラい挨拶をする。


「んで、なんでシロちゃんはこっちに来たん? レベル上げか?」

「まあ、村を見たかったってのもありますけど。せっかくなんだからいろんなところに行ってみたいじゃないですか」

「さよか。まあわからんでもないけどなあ。どこに隠しクエストのトリガーがあるかわからんし」

「隠しクエストなんてものまであるんですか?」


 僕の言葉にトーラスさんは苦笑しながら教えてくれる。


「なんやシロちゃん、攻略サイトとか見ないタイプか。通常のクエストはアナウンスが流れたり、選択画面がポップするやろ? 隠しクエストっちゅうのはそういったものが一切なく進んでいくんや。大概がちょっとしたイベントに発展するらしい。そういった意味じゃこの村はかなり怪しい。……妙な噂もあるしな」

「妙な噂?」


 神妙な顔をしているトーラスさんの話を、僕らは詳しく聞くことにした。














DWOデモンズ ちょこっと解説】


■クエストについて

DWOデモンズには様々なクエストが用意されている。NPCからによる個人クエスト、ギルドに依頼されるギルドクエスト、多人数参加によるレイドクエストなどである。また、隠しクエストと呼ばれる大きなイベントのトリガーとなるクエストも存在する。





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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