■026 ガンガン岩場
【怠惰】の領国、第二エリアの町ブルーメン。
そこから南東にあるのが【ガンガン岩場】。その名が示す通り、大小様々な岩が転がる荒地で、そこらに枯れ草などが生えていた。大きなものになると家一軒ほどの岩が転がっていたりする。
その大きな岩を【採掘】スキルで確認すると、いくつかの採掘ポイントを発見したので、みんなに一言断ってからピッケルで掘ってみた。
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【輝鋼鉱石】 Dランク
■輝鋼を多く含んだ石
□精製アイテム/素材
品質:S(標準品質)
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【暗鋼鉱石】 Dランク
■暗鋼を多く含んだ石
□精製アイテム/素材
品質:S(標準品質)
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ふむ。Dランクだからそれほど珍しい鉱石ってわけでもなさそうだ。
もっと掘っていきたいところだが、今日の目的は採掘ではないので諦める。
「出たよ!」
ミウラの言葉に正面を向くと、岩場の陰から二匹の蠍が這い出してきた。
蠍と言っても大きさが大型犬くらいある。鉄のように黒光りした甲殻に、巨大な鋏、そして毒針のついた長い尻尾。こいつがリンカさんの言っていたアーマースコーピオンか。
先手必勝とばかりにミウラが買ったばかりの戦鎚を振りかぶる。
まだ慣れていないのか、DEX(器用度)が低いのか、ミウラの振り下ろしたハンマーはアーマースコーピオンに躱され、その下にあった岩石を粉々に砕く。うわ、さすがに威力は凄いな。
「【ファイアアロー】!」
後方からリゼルの魔法が飛んでくる。飛来した炎の矢はアーマースコーピオンに命中し、あっという間に火ダルマになる。
「ギギギギッ!」
「っらあッ!」
動きが一瞬止まった隙を狙って、ミウラが再びハンマーを振り下ろし、今度は見事に火ダルマの蠍に命中した。
「グギャッ!?」
さすがに硬いと言われるモンスターなだけあって、まだ死なない。ミウラのハンマーでその鎧のような甲殻に無数のヒビが入っていても、鋭い動きで僕らに鋏を向けてくる。
ふと横を見ると、もう一匹のアーマースコーピオンの攻撃をウェンディさんが盾で受け止め、その隙を突いて炎の【ブレス】で牽制していた。
僕も手に入れたばかりの「突剣・鬼爪」を手にし、ブスブスと煙を上げながら向かってくるヒビだらけのアーマースコーピオンの攻撃を躱す。そして躱したタイミングで思い切り腕の付け根に鬼爪を突き立てて、反撃が来る前にすぐさま離脱した。いけるな。
「やっ!」
弱ってきたアーマースコーピオンにミウラが放つトドメの一撃。それが決め手となって、アーマースコーピオンの片割れは光の粒となって消えていった。
「【ウィンドカッター】!」
今度は風の刃がウェンディさんの対峙する残りのアーマースコーピオンに襲いかかる。それを追うようにレンの放った矢も蠍に突き刺さった。特殊な鏃と【チャージ】スキルがあれば、ダメージは小さいが矢も通るんだな。
「【ファイアアロー】!」
「ギギギギッ……!」
再び飛んできた魔法の矢により、こちらのアーマースコーピオンも光の粒となって消えていく。
うん、倒せないことはない、な。
「アーマースコーピオンには風属性より火属性の方がダメージを与えられるね」
リゼルが杖を下ろしながら口を開く。彼女は今のところ火属性と風属性しか取ってないから他の属性の効果はわからないが、スコーピオン相手には次から火属性メインでいくことに決めたようだ。
ちなみに僕のアーマースコーピオンのドロップアイテムは『鎧蠍の甲殻』だった。ミウラは『鎧蠍の鋏』、リゼルは『鎧蠍の毒針』。毒針は毒効果のある武器を作れそうだな。
【ガンガン岩場】で初勝利をあげた僕らの前に、その後も硬いモンスターが次々と現れる。
ロックスライム、メタルビートル、シールドタートル、アイアンクラブ、などなど……。カメやカニが岩場にいることにはツッコんではいけないのだろうか。
「確かにここは硬い敵ばかりでしんどいな……。抜けるのにけっこうかかりそうだ」
「その分、ドロップアイテムは武器や防具の素材にいろいろと使えそうなモノが多いですよね」
まあ、それは言えてる。いろんな鉱石も採れるしな。お金を稼ぐにはうってつけかもしれない。
ただしそれはブルーメン側のポータルエリア付近で、と注意書きがつく。
僕らのようにその先の先にあるトトス村まで行こうとすると、それなりに厳しくなるし、ヤバくなったらすぐ町に戻る、といったこともできない。
町へ一瞬にして戻れるアイテムもないことはないんだが、いささか値段が高いしな。
僕らはひたすらゴツゴツとした岩場を歩いて進んでいく。上ったり下ったり、なかなか平坦な場所がない。その上でモンスターが次々と襲ってくるのだ。気の休まる時もない。
たまに巨大な岩が進路を塞いでいて、周り道をする場所もあった。セーフティエリアのひとつぐらいあればいいのに。
半分くらいはこえたかとマップを見ると、すでに三分の二はきていた。思ったより進んでいたんだな。
もうちょっとだ、頑張ろう。と、みんなに声をかけようとしたとき、【気配察知】がそれを捉えた。
「ッ!?」
巨大な岩かと思っていたものが突然立ち上がりこちらを振り向く。窪んだ中にある赤い目が僕らを見た。そいつの頭上にモンスター名がポップする。
「ストーンゴーレム……!」
四メートル近い身長の、全身が岩でできた魔法生物。動きは鈍いがその一撃は絶大な威力を持つ。そのレアモンスターが僕らの前に立ちはだかった。
「えええ!? このエリアってこんなモンスター出たっけ!?」
「出たって話は聞いたことがない……出てもおかしくない場所だけど」
ストーンゴーレムの出現に驚くリゼル。
存在しているのは確かだ。レアモンスター図鑑にも載ってたし。
前にアレンさんも遭遇したことがあるとか言ってたけど、出現場所までは聞いてなかった。図鑑にもそれは載ってなかったぞ! ……「山岳地帯などに棲息する」とは書いてあったけど。「など」にどうやら岩場は入るみたいだ。
『ゴ』
ストーンゴーレムが問答無用とばかりにその大きな拳を振り下ろす。僕らはそれぞれ散開してそれを躱した。
ズドンッ! と、殴られた地面が拳の形にめり込む。なんてパワーだ。
「んにゃろッ!」
回り込んだミウラが戦鎚をストーンゴーレムの足に打ち込む。ゴーレムはわずかに揺らいだが、すぐさまミウラへその足を突き出した。
「がふっ!?」
直撃は避けたが、それでもゴーレムの足を避け切れなかったミウラが何メートルも吹っ飛ぶ。すぐさまレンが駆け寄り、回復魔法をかけていた。
「【ファイアアロー】!」
リゼルの放った炎の矢がゴーレムの顔面を焼く。ある程度のダメージが通ったが、それでもさっきのミウラの一撃と合わせたって、まだ十分の一も減ってない。
僕も背後から襲いかかり、「突剣・鬼爪」を突き立てるが、ほんのわずかしかダメージが通らない。硬すぎるぞ、こいつ!
今度は比較的隙間が多い膝裏の部分に「突剣・鬼爪」を突き入れる。岩の隙間に深々と突き刺さった「鬼爪」により、やっとゴーレムが膝をついた。
攻撃をした僕に対し、大きな腕を振り下ろしてくるが、基本的に動きは鈍いので向こうの攻撃は避けられる。これはかなりの長期戦になりそうだ。
「僕がなるべく引き付けるから、リゼルは魔法で攻撃を!」
「わかった!」
あえて囮の役を引き受ける。このパワーじゃ盾役のウェンディさんだってタダじゃすまない。僕が担当するのが一番効率がいい。
レンに回復してもらったミウラも立ち上がり、再びハンマーを振りかざしてゴーレムに向かっていく。
ミウラの種族であるオーガの種族スキル【狂化】はまだ使わない方がいい。
僕と違ってミウラはAGI(敏捷度)が高くない。さっきのようにダメージを受けるときは受ける。
その代わりオーガは耐久度が高く、ミウラならストーンゴーレムの攻撃を一、二発は耐えられるだろう。しかし【狂化】を使うと攻撃力が増す代わりに、その防御力が大幅に下がってしまう。
こんな序盤で使ってしまうと、さっきのような攻撃を受けた場合、間違いなく即死だ。
だから僕が引き付け、遠距離でリゼルの魔法、中距離でウェンディさんの炎の【ブレス】、近距離でミウラのハンマーでダメージを稼ぐしかない。
ウェンディさんやミウラの方にゴーレムが向かおうとしたら、僕が「鬼爪」を連続で突き入れて敵意をこちらに向けさせる。なるべく戦技を使い、ゴーレムを引き寄せるのだ。
あいにくと攻撃力が僕はあまり高くないので、なかなかゴーレムの注意を引くのが難しい。【挑発】でも手に入れておけばよかったな……。
レンはいざというときに回復魔法と、余裕があれば【チャージ】を使った弓矢での援護射撃だ。
少しずつだが、削れていってはいる。しかし地味な戦いだな……。
と、そんな僕の油断を突くようにストーンゴーレムが口から岩を飛ばしてきた。危なっ!? ギリギリなんとか躱したけど、今のはヤバかった!
いかんいかん、僕の防御力じゃ一発受けたらおしまいなんだ。もっと緊張感を持って動かないと。
躱して躱して躱しまくる。その合間に何度も岩の継ぎ目に「突剣・鬼爪」を突き刺してダメージと敵愾心を稼ぎつつ、注意をこちらへ向けさせる。
そうやって残り体力が三分の一以下になった時、突然ストーンゴーレムが大きく吠え、全身を覆っていた岩を四方八方に飛ばしてきた。
「な、にっ!?」
これは躱しきれない。大半は避けたが、二、三発食らってしまった。
岩自体の基本ダメージはそれほど大きくはない。だけど防御力の低い僕は、全体力の六分の五を持っていかれた。
あっという間にレッドゾーンだ。いわゆる瀕死状態。こうなると動きに支障が出てくる。マズい。
そのままストーンゴーレムは今までの動きとは違う速さで突進し、僕を庇いに入ったミウラとウェンディさんに向けて腕を振り回した。
「がっ!?」
「くっ……!」
先ほどと同じようにミウラが吹っ飛ばされる。ウェンディさんは【不動】のスキルを持っているので吹き飛ばされはしなかったが、かなりのダメージを受けただろう。
僕はインベントリの中から回復ポーションを取り出して一気に飲む。苦っ。
体力が半分ほどまで回復して、レッドゾーンから脱出した。これでなんとか普通に動ける。
だがストーンゴーレムは吹き飛ばされなかったウェンディさんにさらに追撃をかけようと、その大きな拳を振り上げた。
マズい! ウェンディさんがやられる!
そう思った時、どこからか影が飛び込んできて、ストーンゴーレムに重い一撃を食らわせた。
よろめいたストーンゴーレムが少し後退する。誰だ!? ミウラ……じゃない?
『パーティリーダーの【レン】さんが【レーヴェ】さんの戦闘参加を許可しました』
不意に僕の耳にアナウンスが響く。レーヴェ? え? 誰それ?
「大丈夫か、少年。立てるかな?」
「え? あ、は……い?」
声をかけてきた飛び込みの助っ人プレイヤーは、どう見てもライオンの着ぐるみだった。
【DWO ちょこっと解説】
■アバターについて①
プレイヤーのアバター(分身)は通常複数作ることはできない。新しくアバターを作る場合、元のアバターを消去する必要がある。一部の貴重アイテムは引き継がれる。登録には虹彩身分証が必要。つまり両目の虹彩で一人のアバター分となる。