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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■024 喫茶ミーティア




───────────────────────

■個人クエスト

【バラムの手紙をブルーメンへ届けよう】

 □未達成

 □報酬 ???


※このクエストはいつでも行うことができます。

───────────────────────



 始まりの町・フライハイトにいる本屋のお爺さんから託された手紙。それをここ、第二エリアの町・ブルーメンにいる知り合いの人に届けるのがこのクエストの内容だ。

 ブルーメンに着いたのに、町巡りやリゼルの加入で後回しになっていた。いかんいかん、すでにお爺さんから報酬(レアモンスター図鑑)を貰っているのだから、ちゃんと届けないと。期限無しのクエストとはいえ、そこらへんはきちんとしないとな。クエスト報酬は別にもらえるみたいだけど。

 今日はみんなそれぞれ自由行動をしている。リゼルとミウラは狩りに、レンは服飾系の生産、ウェンディさんは料理スキルの熟練度を上げるとか言ってた。


「確か東区三番街の角って……ここか?」


 僕はブルーメンの地図を頼りに、大きな通りから外れた場所に目的のその家、いや、その店を見つけた。

 喫茶店……だよな。『ミーティア』って小さいティーカップの描かれた看板が出ているし。確か『ミーティア』って、「流星」とか「隕石」のことだっけか。看板に流れ星みたいなマークも付いてるし、間違いないだろう。

 扉を開くと、カランコロン、とドアに取り付けられたベルが鳴る。中はそれなりに広いスペースを取った作りで、そこに四つの椅子がセットになったテーブルが四つ、窓際に六人掛けのテーブルが二つ。そしてカウンターには席が八つあった。

 アールヌーヴォー調の店内はなかなか落ち着いた雰囲気である。漂うコーヒーの香りがなんともいい匂いだ。


「いらっしゃいませ」


 カウンターの奥にいたこの店のマスターらしき人が話しかけてきた。白いシャツにネクタイ、黒のズボンにサスペンダー。ちょっと癖毛が入った天然パーマの頭と、高い身長、優しそうな糸目。年の頃は二十代後半か?

 天パの頭からは動物の耳が、ズボンからは尻尾が伸びている。「獣人族セリアンスロープ」だ。なんの獣人かはちょっとわからないな。猫系なのは確かだが……豹か? にしては耳や尻尾が白っぽいけど……。雪豹?

 視線をマスターに向けていると、その天パ頭の上に青いネームプレートがポップした。「メテオ」と書いてある。


「あれっ? プレイヤーなんですか!?」

「そうですよ。貴方と同じ『DWOデモンズ』のプレイヤーです」


 なんでもないことのように、マスターのメテオさんが微笑んで答える。青いプレートだから間違いないだろうが、てっきりNPCかと思った……。っていうか、そもそもこの人、この店のマスターなのか? プレイヤーが喫茶店を持つなんてできたのか?


「できますよ。きちんと手続きをしてお金を払えば店も買えますし、営業許可も下ります。もちろん、飲食店の場合は【料理】スキルが必須ですけど」

「そうなんだ……。というか、店って高いんじゃないですか?」

「そうですね。私の場合、レアスキルオーブを手に入れたので、それを売りました。私には必要のないスキルでしたので。それを元手に少々商売をして、まとまったお金ができたのでここを買い取ったんですよ」


 レアスキルのオーブを売ったのか……。レアオーブは、たまに露店なんかでとても買えない金額で売ってたりもする。しかし、あれは持ってるレアオーブをプレイヤーが自慢したいだけの行為で、実際には売る気がないらしいと聞いたが。

 この店長さんが何を売って、誰が買ったかは知らないが、お金があるところにはあるんだなあ。


「それで、ご注文は?」

「あ、えっと僕は客じゃなくてですね。フライハイトから手紙を届けに来ました。本屋のバラムさんからです」

「おや、そうでしたか」


 インベントリからバラムさんの手紙を取り出して、マスターに渡す。マスターはそれを受け取ると、軽く読み流して懐にその手紙をしまった。


「ありがとうございます。お礼に一杯奢りますよ」


 マスターの言葉と同時に、ポーン、という音と共にウィンドウが開いた。


─────────────────────

★クエストを達成しました。


■個人クエスト

【バラムの手紙をブルーメンへ届けよう】

 ■達成

 ■報酬 スターコイン五枚

─────────────────────


 クエスト達成か。しかし、報酬の「スターコイン」ってのはなんだ?

 インベントリから手に入れたばかりのそれを取り出してみる。

 大きさは五百円玉ほど。銀色の金属製で、表には中央に大きく一つ、裏には縁に沿って周囲に多くの小さい金色の星が並んでいる。


───────────────────────

【スターコイン】 Eランク


■星の力が込められたコイン。

 個数によって、特定のアイテムやスキルと交換できる。

□収集アイテム

品質:S(標準品質スタンダード

───────────────────────


 収集アイテム? 集めるとなにかと交換できるのか。ポイントカードのポイントみたいなものかな。あんまり興味はないけど、とりあえず取っとこ。

 待ってる間メニューなどを眺めていたが、けっこう凝っているな。いろんなものがある。あ、クラブハウスサンドは食べたいかも。ハニートーストとかパフェとか女の子向けなのも多いな。


「お待たせしました」


 マスターがコーヒーを運んでくる。いい香りだ。ブラックは苦手なんで、ミルクと砂糖を入れて飲む。美味い。これってマスターが高い【料理】スキル持ちだからなのかな。


「第二エリアへは最近来たばかりですか?」

「あ、はい。まだいろいろと回ってないのでこれからです」

「えっとお名前は……」

「あ、すいません。シロです」


 僕の場合、ネーム非表示にしているので、マスターにはプレートがポップしても見えなかったのだろう。


「シロさんですか。通り名の方は知ってたんですけど」

「あー……。そこらへんは触れないでいただけると……」


 くっ、知られていたか。「忍者さん」とか通り名じゃないし。つうか忍者じゃないっつうの。

 あの動画は顔とかを加工されてあったけど、マフラーでバレるんだよな……。かといってレンからもらったこれを装備しないってのはなんか違う気もするし。

 いかん、話題を変えよう。


「この辺だとやっぱり東の【トリス平原】が狩場なんですかね?」

「そうですね。だいたいの人はそっちに向かいます。南東にある【ガンガン岩場】の方にも行く人はいるんですが、こちらのモンスターは硬いヤツが多いんですよ。魔法か打撃系じゃないと苦戦するかもしれません」


 硬いモンスターか。ウチのパーティだとリゼルの魔法しか対抗できないかもしれないな。ミウラのパワーなら少しはダメージが通るかもしれないけど……あ、竜人族であるウェンディさんの【ブレス】もあったか。


「【ガンガン岩場】を越えると、その先には【トトス村】があります。なにも特徴のない村ですけど、干し芋が美味いですよ」


 へえ、村があるのか。第一エリアは始まりの町フライハイトだけだったからな。

 【怠惰】の領国だけじゃなく、各第一エリアは、いわばチュートリアルのようなもので、DWOデモンズに慣れてもらうためのステージといったものらしいし、ここからが本当の冒険なのかもしれない。

 

「ただ、【ガンガン岩場】を抜けるにはそれなりにレベルや熟練度が高くないとキツいですよ。動画で見ましたが、シロさんの武器は双剣でしょう? 相性が悪いですね」


 確かに。今の装備では硬い相手には不向きだ。サブウェポンというわけではないが、なにか他の武器も考えた方がいいのかな。刺突武器的な物で弱点をピンポイントで狙うとか? それとも魔法を覚えるか?


「マスター、【ガンガン岩場】のことを教えてもらえますか?」

「いいですよ。攻略サイトに書かれているものに毛が生えたくらいの情報しかありませんが」

 

 僕はコーヒーをもう一杯注文し、マスターの情報に耳を傾けた。





「村?」

「うん」


 みんなと合流した僕は、マスターから聞いた情報をみんなに話した。次の目的地、というわけでもないが、その村まで今度みんなで行ってみないかと。


「確かにそんな村がありましたね。ですが先行したプレイヤーの情報だと、何もないただの小さな村ということでしたが」

「まあ、そうらしいんだけど。別に僕らは攻略組でもないし、一度行ってみるのも面白いかなって思ってさ」


 ウェンディさんの言うこともわかるが、ひょっとしたら何かあるかもしれないじゃないか。


「いかがいたしますか、お嬢様」

「私は行ってみたいです。せっかくのDWOデモンズですもん、いろんな所を見てみたいですし」

「お嬢様がそう仰るのであれば、私に否はありません」


 レンは行く気になってくれたようだ。ウェンディさんもレンが行くなら来ないわけはないよな。


「私も行ってみたいかなー。干し芋って食べてみたいし。それにあの村って変な噂があるんだよね。ネットの噂だから当てにならないけどさ」


 リゼルも付いてきてくれるようだ。外国人のリゼルは干し芋を食べたことがないらしい。僕もあまり食べたことはないけど。

 彼女の魔法は【ガンガン岩場】を抜けるのにとても役立つ。僕らじゃあまりダメージを与えられないからな。

 それにしても噂ってなんだろう?

 残るミウラにレンが視線を向ける。


「ミウラちゃんは?」

「んー、行ってもいいけど、その前にあたしちょっと武器を換えたいんだよね」

「新しい大剣を買うのか?」

「違うよー。ハンマーだよ。予備武器サブウェポンに欲しいかなって。【ガンガン岩場】って硬いやつらばかりなんだろ? ハンマーの方がダメージ通るんじゃないかなって」


 なるほど。確かに大剣を操るミウラの筋力があれば、ある程度のハンマーは装備できるだろう。だけどハンマーの力を活かすには、やっぱりそれなりのスキルが必要になってくる。


「【棍棒の心得】を取るのか?」

「【心得】のスキルオーブなら町で売ってるしね。あとはいいハンマーをリンカ姉ちゃんに作ってもらえばなんとかいけんじゃない?」

「リンカ?」


 知らない名前が出てきたのでリゼルが首を傾げる。そうだな、僕らとパーティを組むんだから教えておいた方がいいか。


「リンカさんは知り合いの生産職プレイヤーだよ。【鍛冶】のスキルを持ってる。僕らの武器や防具を作ってもらったりしてるんだ」

「へえ。私の杖も作ってもらえるかな?」

「杖は【鍛冶】じゃなく【木工】になるから難しいんじゃないかな?」

「ですが、シロ様。金属製の杖なら【鍛冶】で作れますよ。もっとも装備するにはある程度の筋力が要りますが……」

「あー、ダメダメ。私、筋力サッパリだから」


 苦笑しながらリゼルが手を振る。魔法特化だもんなぁ。種族も【妖精族アールヴ】だし。軽くて硬いと言われるミスリルの杖とかなら装備できるかもしれないが、あいにくとミスリルはまだ見つかってないしな。


「じゃあみんなでリンカさんの所に行ってみようか」


 第一エリア、フライハイトの町に行くため、僕らはブルーメンのポータルエリアへと歩き始めた。












DWOデモンズ ちょこっと解説】


■ハウジングシステムについて

土地を手に入れることができれば、家を建てることもできる。NPCに頼むこともできるが、【建築】スキルでプレイヤーが建てることもできる。ギルドホームとは違い、普通の家である。

役所に許可をもらえば店舗を構えることも可能。

また、建築した建物は簡単に他の土地(もちろん別途に用意しなければならないが)に転移させることができる。費用はかかるが。第二エリアから第三エリアへといった転移もできる。




■メテオのイメージはなんとなく大泉洋さん。

性格は全く違いますが。

夏野菜や皿まで自分で作ったりはしません。





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― 新着の感想 ―
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