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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第二章:DWO:第二エリア
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■023 リゼル





 スーパーで買った弁当という侘しい晩ごはんを食べたあと、すぐさまDWOデモンズへと僕はログインする。

 視界を開くとそこは第二エリアの町、ブルーメン。

 【怠惰】エリア始まりの町、フライハイトと同じくらいの大きさの町である。町の中央に復活地点があって、北にポータルエリアが設置してあるのはフライハイトと同じだった。復活地点がフライハイトは噴水広場だったが、ブルーメンは教会になっている。

 教会は長い階段の上に建っていて、階段の下は人が集まる広場になっていた。フライハイトの中央広場のように、そこにプレイヤーたちの露店が所狭しと並んでいる。

 死に戻りしたプレイヤーが教会から出てくると、嫌でもこの露店の前を通らなければならないってわけだ。

 シュテルンさ……リーゼのプレイヤーネームである「リゼル」で呼び出してみたが応答はなかった。まだログインしていないらしい。

 彼女のログインを待つ間に、僕はチャットで他のみんなに呼びかけることにした。ミウラとウェンディさんは近くの平原で狩りをしていて、レンは宿屋で生産スキルを上げていたようだ。

 宿屋へレンを迎えに行って、教会の階段前まで戻ってくると、そこにはすでにミウラとウェンディさんが待っていた。

 と、そのタイミングで「リゼル」から連絡が入る。


『ログインしたよー。今どこにいる?』

『教会前の階段だよ。みんなも来てる』

『わかった。すぐに行くね』


 しばらく待っていると教会前の通りから一人の少女がやってきた。

 妖精族アールヴの少女だ。耳が長く、魔法に長けた種族。知り合いだとトーラスさんと同じだな。

 髪は薄い桜色のロングヘアで、前髪が切り揃えられている。

 装備は杖。魔法使いなら定番だ。上は清楚な白いブラウスに、下は黒いティアードスカート。そこから伸びる足には黒いニーソックス。そして白衣のようなローブを装備していた。

 顔はあまりいじってないらしく、僕はひと目で彼女が「リゼル」だと確信した。


「『シロ』くん?」

「ああ。そっちは『リゼル』だね」

「うん。待たせてゴメンね」


 ぺこりと頭を下げるリゼル。礼儀正しい子だな。そう言えば貴族様の家系の出なんだっけか。


「みんな、この子はリゼル。リアルでの僕の知り合いだ。今ソロらしいんで今回パーティに誘ったんだけど、いいかな?」


 一応、さっき話は通しておいたけど、もう一度確認のためにみんなにお伺いを立てる。


「シロさんのお知り合いなら構いませんよ。私はOKです」

「お嬢様がそうおっしゃるのでしたら、わたくしからは何もございません」

「あたしもいいよー」


 みんなから承諾を得て、リゼルがレンのパーティに加わった。


「リゼルさんは魔法使いなんですか?」


 リゼルの杖を見ながらレンが尋ねる。大抵、杖を装備するのは魔法スキルを重点的に取っているプレイヤーだからだ。杖にはINT(知力)の上昇効果がついているからな。


「そうだよ。【火属性魔法(初級)】、【風属性魔法(初級)】を持ってるの」

「レベルと熟練度はどれくらいなのですか?」

「レベルは15で、熟練度はどっちも七割くらい? 中級までもう少しかかりそう」


 ウェンディさんにリゼルが答える。魔法の熟練度は伸びるのが遅いって言うしな。その分多くの呪文を覚えていくわけだが。

 なんでも同じ火属性の魔法でも、よく使う魔法の方が威力が上がるとか。それぞれの魔法にも熟練度があるのかもしれない。


「それよりも、さっきから気になってたんだけど……」


 ちら、と僕の方を見るリゼル。ん? なんだ?


「そのマフラー……ひょっとして、シロくんって、『忍者さん』?」

「くっ、その名で呼ばないでくれ……。不本意だ」

「わ、やっぱり!? 見たよ、乱戦デスマッチの動画! 凄かった! 全然攻撃が当たらないんだもん! どんだけAGI(敏捷度)高いの!?」


 瞳をキラキラさせてリゼルがそんなことを言ってくるが、あれはたまたま相手が組みやすい奴らだったってだけだ。

 もし、僕とリゼルが【PvP】をしたならば、先手でリゼルを倒しきれなかった場合、広範囲の初級魔法一発で間違いなく僕がやられる。魔法防御力なんてさっぱりだからな。いや、物理防御力もさっぱりだけど……。

 そう考えると、広範囲の物理攻撃とかもダメだな……いや、広範囲の物理攻撃ってなんだ? ……爆弾?

 爆弾って作れるんだっけ? 確か【錬金】ってスキルがあったはずだが。


「じゃあとりあえず、慣らし運転ってことで、みんなで【トリス平原】に行きましょう!」


 レンが今日の方針を決める。【トリス平原】はここブルーメンの東に広がるだだっ広い平原だ。

 初めて第二エリアに来た大抵の人たちはまずそこで狩りをする。モンスターのレベルもそれほど高くなく、安心して狩れるからだ。もちろん、夜になれば手強い相手も出没するので、昼限定だが。

 まあ、僕らの連携を試すにはうってつけだな。よし、じゃあ【トリス平原】に向けて出発だ。





「【ファイアバースト】!」

「ギャルァァァァァ!」


 リゼルの唱えた火属性魔法で、三体のゴブリンが一気に黒焦げになる。

 魔法は戦技と同じく、そのスキルを持っていれば熟練度によって使える、いわゆる「必殺技」のようなものだ。戦技と違い、消費するのはSTスタミナではなくMPマジックポイントだが。


「やっぱり広範囲魔法はいいなあ」

「まだ初級魔法だから範囲が狭いけどね。それに威力も落ちちゃうし」


 リゼルの言うとおり、範囲魔法よりも単体魔法の方が威力がある。しかし、こんなときのように雑魚の殲滅にはうってつけだ。戦闘がかなり楽になる。

 しかもリゼルは種族が魔法の得意な妖精族アールヴなので、種族スキル『高速詠唱』を持っている。魔法は使用時に、詠唱時間と言われるいわゆる「溜め」の時間があり、強力な魔法ほどこれが長い。『高速詠唱』はそれを短縮するスキルである。


「むーん……」


 ふと横を見ると、レンが何やら難しい顔で考え込んでいた。


「どうしたの?」

「自分の立ち位置をちょっと考えてまして。ウェンディさんが盾役タンク、ミウラちゃんが近距離、リゼルさんが遠距離の攻撃役アタッカー、そしてシロさんが遊撃、あるいは回避型の盾役タンクと考えたとき、私は回復役ヒーラー強化役バファー寄りにスキルを取った方がいいのかなあ、と」


 まあ、確かに回復役とかがいてくれると助かるが。レンも【回復魔法(初級)】を持ってはいるが、そこまで熟練度は高くしてない。それを伸ばそうと考えているってことか。


「別に縛られることはないさ。自由に好きなスキルを伸ばして、いろいろ試すのもこのゲームの楽しみ方だと思うよ。僕らは別に攻略メインってわけじゃないんだし、みんながみんな役割を決められてプレイするってのも窮屈だろ?」

「うーん。確かに生産とかもしたいし、いろいろやりたいことはあるんですけど……」

「やってみればいいさ。それで楽しめりゃ御の字だ。僕らは楽しむためにゲームをしてるんだから」


 「こうしなきゃいけない」とか、そんな考えに縛られてもつまんないだろう。効率とかそんなものにとらわれることなく、思うようにやればいいと思う。

 レンはせっかく【ヴァプラの加護】とかいうレアスキルを手に入れたんだし、そっちを伸ばさない手はないだろう。

 このゲーム、けっこう手に入れたスキルに左右されるよな……。

 そんな僕らの会話にミウラがひょこっと入り込む。


「レンは考え過ぎなんだよねー。もっと簡単に考えればいいのに。そっちの方が楽じゃん」

「ミウラちゃんは考え無さ過ぎ! こないだの学校のお掃除でも……」

「お嬢様、敵です」


 なにやら言い争いになりそうだった二人に、ウェンディさんが注意を促す。僕らの前に現れたのは、『クインビー』という、中型犬ほどはありそうな大きな蜂であった。それが四匹。ちょっと面倒かな。こいつ毒も持ってるし。

 僕は腰の双剣、双雷剣『紫電一閃』と『電光石火』を構え、クインビーと対峙する。

 こないだのガイアベアとの戦いで、【短剣の心得】の熟練度がMAXになり、その先の上位スキルが派生した。派生したのは【短剣術】【小剣術】【小太刀術】の三つだ。

 このうち、【短剣術】は読んで字のごとく、そのまま短剣を扱うスキルである。短剣を使ったさらに多くの戦技を扱えるようになる。

 【小剣術】の小剣はいわゆるショートソードのことだ。短剣より長く、剣よりは短い。わかりやすく言えばショートソード二刀流になれるということである。【短剣術】より一撃の威力は上がるが、その分重く、当然手数も減る。

 【小太刀術】は、扱える剣が一本になってしまうが、切れ味鋭い「小太刀」を使えるようになり、さらに体術と組み合わせた戦技を覚えることができる。一撃の威力を考えるなら、三つのうちこれが一番上だろう。また、「受け流す」防御系の戦技が多いことも特徴である。

 この三つのスキルの中から僕が選んだのは、定番の【短剣術】だ。

 やはり手数を活かした方が自分のスタイルに合っていると思ったし、変に奇をてらわなくてもいいだろうということで。

 すでに【☆短剣の心得】を【短剣術】に変え、スロットに入れている。

 あいにくと熟練度が10%にも満たないので、【短剣術】での新たな戦技は会得していないが、【短剣の心得】は100%になったので、そっちでは新たな戦技を会得した。

 【短剣の心得】の上級スキルである【短剣術】は、【短剣の心得】の戦技も受け継いでいる。

 ちょうどいいし、このクインビーで試してみよう。


「【ファイアアロー】!」

「【ストライクショット】!」

「ギギギィ!」


 リゼルの魔法とレンの戦技が一番遠い一匹に同時に炸裂、クインビーが光の粒となる。

 残りの三匹が、僕、ウェンディさん、ミウラへとそれぞれ襲ってきた。

 クインビーは空を飛ぶモンスターなだけあって素早い。しかもこちらからは攻撃がしにくいときている。倒すには向こうが攻撃してきたときにカウンターでダメージを与えるか、飛び道具を投げるかだ。

 正直、クインビーにスローイングナイフを消費するのはもったいない。そこらの石を投げてもいいが、当たったところでほとんどダメージはないだろう。

 クインビーの攻撃を待ち構える。耳障りな羽音を立てて空を飛んでいたクインビーが、突然僕の方へ急降下してきた。今だ!


「【アクセルエッジ】」


 僕が放った連続攻撃の戦技で、あっという間にクインビーが細切れとなり、光となって消えた。うん、使えるな。威力も申し分ない。硬い相手には効きにくいと思うけど。

 横を見ると、ウェンディさんとミウラもそれぞれクインビーを戦技で倒していた。ミウラは少し手こずったみたいだが。クインビーは素早いから、命中率が低いミウラとは相性が悪い。

 えーっと、ドロップは『クインビーの針』か。これは確か強力な矢の素材になるんだっけ? 後でレンに渡そう。それと『蜂蜜』。まんまだな。

 その日、【トリス平原】で僕らは狩りまくり、それからブルーメンの町へ戻って、新しく仲間になったリゼルの歓迎会を開いた。

 リゼルもみんなと馴染んだようで、よかったな。

 ……あ、そういや、レアモンスター図鑑を貰ったバラムさんの手紙。知り合いの人に渡すクエストを終わらせてないや。明日にでも届けなきゃ。















DWOデモンズ ちょこっと解説】


■魔法について

魔法も戦技と同じく魔法スキルの熟練度によって獲得する「必殺技」である。

戦技と違うのは消費するのはSTではなくMPであるところと、一定のINTがあれば、スキルをセットした時点で最下級の魔法を使えるようになることである。

これは火属性魔法(初級)でも、火属性魔法(上級)でも、使えるようになるのは火属性の最下級魔法である。もちろん、すでに使えるようになっていたなら何も起こらない。

戦技と同じく、スキルをスロットから外すと魔法は使えなくなるので注意。






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