■020 ガイアベア
週末まで僕らは地道にレベル上げをしながらも、それぞれのスキルを成長させていった。
おかげで僕のレベルは13、レンは14、ウェンディさんは15、ミウラは11まで上がっていた。
DWOでは六人までパーティを組めるが、とりあえず最初は四人で挑戦することに決めた。負けたら誰か二人を誘って、また挑戦したらいい。
「ミウラのレベルが若干不安だけど、なんとかなるかな」
「大丈夫だって! あたしも大剣装備できるようになったし、鎧も強化したし!」
ミウラはリンカさんに作ってもらった大剣を片手で担ぎ上げ、金属の軽鎧を軽く叩く。
【鬼神族】はその筋力と耐久力がズバ抜けている。その代わり魔法防御力などが低いが、エリアボスの『ガイアベア』は魔法を使ってこないし、多少レベルが低くてもカバーできるだろう。
防御力が著しく下がり、代わりに攻撃力が跳ね上がる【狂化】を乱発しなければ大丈夫なんじゃなかろうか。
とりあえず僕も作れるだけのポーションは作っておいたし。だけどハイポーションは未だにできない。ハイポーション(粗悪品)を量産している。
「ウェンディさんはどう思います?」
「大丈夫ではないかと。初めての相手ですが、攻略法はかなり情報公開されておりますし、四人でもいけると思います」
ミウラが攻撃、ウェンディさんが防御、レンが援護、僕が遊撃と、それぞれの役割をきちんとこなせば倒せるだろう。
三人パーティで倒したってプレイヤーもいるらしいし。
「行きましょう、シロさん!」
「よし、行こう」
レンの言葉に僕が頷く。一応パーティリーダーはレンになってるからな。リーダーの決定には従わないと。
僕らは準備万端整えて、ポータルエリアからまずは『南の平原』の先にある、『大地の洞窟』入口へと転移する。
『南の平原』を越えて南東へ進み、僕らはここまでは辿り着いていた。
でも洞窟に入るのは初めてである。
といっても、中には光苔と呼ばれる天然の照明があり、さらにボスへの道も一本道なので迷うことはない。
洞窟をうろつく魔獣たちを倒しながら、目的のボスがいるエリアまで進む。
さすがにボスのいる洞窟だけあって、なかなか強い敵が多かった。しかし、落ち着いて対処すれば勝てない敵ではない。
しかしこの場合、いかにボスの前まで戦力を温存するかにかかっている。回復手段だって限りがある。無駄な戦いで減らしたくはない。
なので、逃げられる敵からはなるべく逃げるようにし、慎重に洞窟を進んでいった。
やがて僕らは少し広めの場所に出た。目の前にはエリアボスの場所へ行ける転移陣がある。ここが終着点か。
ここは休憩できる安全なセーフティエリアになっていて、転移陣の前には六人のパーティが座り込んでいた。どうやら体力の自然回復待ちらしい。
「よし。僕らもここで減ったHP(体力)やSTを回復させておこう」
僕の体力はあまり減ってない。セーフティエリアに五分もいれば自然回復するレベルだ。
スタミナの方は回復効果のあるサンドイッチを取り出して食べておく。
サンドイッチを食べている間、向こうのパーティがこちらをチラチラと見ているような気がした。なんだ?
悪意のこもった視線ではないんだけれど、気になった僕がそっちを向くと、彼らは急に視線を逸らす。
「最近、なんか妙に視線を感じるんだが……」
町中でもこういった視線を感じることがある。自意識過剰かとも思っていたのだが、やっぱりそうではないらしい。
「まあ、仕方ないでしょうね。目立ってしまいましたから」
「ああ、あの『忍者さん』ってやつ?」
忍者さん? なんだそりゃ?
ウェンディさんとミウラの話がわからず、首を捻っていると、レンがウィンドウである動画を見せてくれた。
んん? これってあのポータルエリア前での【PvP】か? 顔に加工が入っているけど、すぐ僕ってわかるだろ、これ! マフラーしてるし!
そして今度はある掲示板をミウラがウィンドウに投影してくる。
……ちょっとまて、なんで僕が暗殺者みたいな扱いにされてんの!?
「……それでか」
「それでです」
引きつった笑みを浮かべてウィンドウから顔を上げた僕に、ウェンディさんが頷く。
知らん間に暗殺者にされてたわけかい。いや、ネームプレートを見ればPKなんかをしてないのはわかるだろうから、嫌われたり怖がられているわけじゃないんだろうけど。
「いいじゃん、忍者さん。リンカさんに鎖帷子、レンに忍者装束を作ってもらったら?」
「そんなロールプレイをする予定はないっつうの」
無責任にそんなことを言ってくるミウラにズバッと断言しておく。そういうプレイを楽しむのもアリなんだろうが、僕は普通に楽しみたい。
「あ、向こうが突入しましたよ」
体力が回復したのか、こちらをチラチラと見ていたパーティがボスへの転移陣に入っていった。
このゲームは基本的に一つの世界で構成されているが、エリアボス戦だけはパーティやギルドごとに個別に設定されているらしい。
だから前のパーティがボス戦をしていても、僕らも問題なくボスと戦える。
転移陣の前まで移動し、僕らはスキルやアイテムの最終チェックを始めた。
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■使用スキル(7/7)
【順応性】【短剣の心得】
【敏捷度UP(小)】
【見切り】【気配察知】
【蹴撃】【投擲】
■予備スキル(7/10)
【セーレの翼】【調合】
【採掘】【採取】【伐採】
【隠密】【鑑定】
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スキル構成はこれでいいか。エリアボスに【隠密】は効果が薄いだろうし、そもそも隠れるようなところもないっていうし。
もう少しで【短剣の心得】がMAXになるなあ。【短剣の心得】がMAXになると、上位スキルに変化させることができるんだよな。
確か【短剣術】【小剣術】【小太刀術】だったか?
まあ言ってみれば【短剣術】は今まで使っていた『短剣』を極めるもの、【小剣術】はそれより長い、『ショートソード』系の二刀流ってわけだ。【小太刀術】はその派生のようなもので、その名の通り、『小太刀』を極められる。しかしこちらは剣が一本になってしまうのがな……。
『ショートソード』や『小太刀』は威力が上がるが手数が減る。AGI(敏捷度)重視の僕からすれば、【短剣術】の方がいい気がするな。
「そういえば【ガイアベア】といえば……」
僕はインベントリの中から「幻獣図鑑」を取り出し、あるページを開く。
そこに描かれていたのは「魔獣図鑑」に載っている【ガイアベア】と同じのイラスト。
しかし色がちがう。【ガイアベア】は緑がかった毛で、こちらのは赤い。そこにはこう書かれていた。【ガイアベア:亜種】と。
「亜種、ですか。攻略サイトの方で噂にはなっていましたね。何が条件なのかはわかりませんが、稀に出現すると」
ウェンディさんが図鑑を見ながら説明してくれる。やはり存在するのか。
「やっぱり通常種より強いのかな?」
「そのようですね。といっても、かけ離れて強いわけではなく、なんとか倒せるレベルだとか。実際に倒しているパーティも何組かいますし」
なるほど。もしも亜種が出てしまっても倒せないわけではないのか。まあ、通常種よりは手こずるだろうが。
「亜種の方がレアアイテムとか出そうですよねっ」
「でも負けちゃったらなんにもならないだろー? 通常種の方が安全じゃん」
レンとミウラがきゃいきゃいと話す。まあ、通常種だとは思うけど、万が一があるからな。一応、亜種の特性も読んでおくか。
通常種より力も強く、防御力も高いが、素早さは少し下がるのか。クインビーの蜂蜜が好物……って、クインビーは第二エリアにいるモンスターじゃなかったか?
確かアレンさんがそんなことを言ってたような。先のエリアのアイテムをどうやって手に入れろってんだろ。
NPCの店じゃなくプレイヤーからなら買えるのかもしれないけど……蜂蜜があれば注意を逸らすことができたりするのかな。よくわからん。
種族特性だけじゃなく、攻撃方法まで書いてあると助かるんだがなあ。トーラスさんによると、この図鑑シリーズの詳細は遭遇したプレイヤーの数によって変わるとか。亜種はまだそれほど遭遇されてないってことか。
レアモンスターなんだから当たり前といえば当たり前か。
攻略サイトになら書いてあると思うけど、初めてで何もかも調べて行くのもつまらないかな?
ま、最初は全力でぶつかってみよう。
「では準備はいいですか?」
ウェンディさんの声にみんなが頷く。転移陣の中に全員踏み込み、パーティリーダーであるレンが、開いた転移先のウィンドウをタッチする。
燐光に包まれた僕らが転移した先は、大洞窟とも言うべき広い場所だった。ちょっとした広場ぐらいの広さはあるんじゃないか?
天井も高く、周りには光苔が相変わらず生えているので暗くはない。
正面にさらに奥へと続く洞窟があったが、そこからのそりと緑がかった毛色の大きな熊が現れた。
体長は五メートルはあるか。肩、胸、肘から先の四本の足にゴツゴツとした岩のようなものが付いている。爪は鋭く、目は赤く、その全身で僕らに対し殺気を放っていた。
こいつが【ガイアベア】か。
どうやら通常種のようだな。まあその方が安心して……。
次の瞬間、驚きのあまり、僕らは動きを止めてしまった。
通常種のガイアベアの後ろから、もう一匹、同じ熊が現れたのだ。毛色が赤い、ガイアベアの亜種が。
【DWOちょこっと解説】
■スキルについて②
スキルを取得するには、スキルオーブと呼ばれるアイテムを使用する。
オーブの入手には店舗販売、ドロップ、宝箱、イベント報酬などと様々な方法があり、隠されたレアスキルオーブも世界中に存在する。
また、複数のスキルを熟練度MAXにすることで取得できるスキルもある。
スキルを解放し、スロットにセットしたあとでも、再びオーブ状態に戻すことができる。が、熟練度がリセットされるため注意。熟練度がMAXになり、☆がついていればオーブ状態に戻してもリセットはされない。
☆のついたオーブを他人に売っても熟練度は譲渡されず、普通のオーブになる。




