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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第一章:DWO:第一エリア
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【デモンズワールド・オンライン】


 通称、DWOデモンズ。魔族たちの暮らす大地、「ヘルガイア」を冒険の舞台とした、一週間ほど前に発売したばかりの最新VRMMOだ。初回ロット分はすでに完売し、次回生産分は予約でいっぱいだとか。

 プレイヤーは「魔族」としてゲームの世界、魔界「デモンズワールド」に降り立つ。魔界というと、殺伐、陰鬱、グロいなど、退廃的なイメージがあるが、世界観としてはそれほど他のVRMMOとかけ離れてはいない……らしい。

 らしいというのは、僕、因幡いなば白兎はくとは、このDWOデモンズどころか、VRMMOというものをプレイしたことがまったくなかったからである。

 VRMMO(バーチャル・リアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインゲーム)とは、要するにリアルな世界と変わらないような仮想空間で行われる、多人数によるゲームだ。それくらいは僕にもわかる。テレビで扱うほど有名だからな。

 VRドライブというバーチャル空間にダイブするための機器(これは用途によってベッド型やシート型、ヘルメット型、ヘッドギア型といろいろある)を使い、電脳空間へと旅立てるのだ。

 ここ数年でVR技術は驚異的な革新を遂げたとか、その期待の新作ソフトが【デモンズワールド・オンライン】だとか、あとはそんなテレビや雑誌などで見る一般的な知識しか知らないが。

 というか、ゲーム自体をあまりやったこともないし。それでもVRゲームというものが世の中に浸透してきていることは知っている。

 世間的には【ファンタジーソード・オンライン】とか【スターブリンガー・オンライン】というゲームが大人気らしい。【デモンズワールド・オンライン】は新規参入のゲームメーカーが作った作品だが、かなり期待できる作品との噂だ。よくわからないが。

 僕が今まで住んでいたところはいわゆる離島で、ゲームセンターのようなものなどは身近にはなかった。ゲームのハードを持っている友達なら数人いたが、それだって携帯ゲーム機が大半で、VR技術を使用したゲームなど誰一人持ってはいなかった。子供が持つには高価だしね。

 インターネットでのゲームをするという手もあったが、僕の家(正確には伯父の家、母方の実家)のPCでは性能が低くて、とても快適にできる環境じゃなかった。

 その僕が最新のVRドライブ(リクライニングシート型)と「DWOデモンズ」のパッケージを手にしている。これはまったくの偶然から、というか、お礼としてある人からもらったものだ。でなければこんな最新型のVRドライブと人気のゲームを僕が買えるはずがない。


「これってプレイしろってことだよなあ……」


 今度引っ越してきた新しい家には、ネット環境も伯父の家より整っていて、プレイするには問題はない。ちなみにもらったVRドライブの値段をネットで調べてみると、通常のリクライニングシート型よりも五倍近い金額だった。さすが最新型。というか、本当にもらっていいのだろうか……。

 なぜこんな高価なものをもらえたかというと、話は高校の入学初日に遡る。





 その日、僕は入学式を終えて、これから始まる新しい生活に期待と不安を半々ずつ抱きながら帰り道を急いでいた。

 新しく引っ越してきた家には現在、僕以外に誰も住んでいない。この春から住み始めた家は、古い洋館のような趣きのある家で、元々は父方の祖父が持っていた別宅である。

 父は海外での仕事が多かったため、僕は亡くなった母の兄である伯父のところで育てられた。

 しかし今年から父が国内勤務になり、僕の中学卒業に合わせて親子共々こちらへと引っ越してきたのだ。

 父はまだしばらく海外と国内の地方を飛び回っていて、家に落ち着いてはいないが、それもあと数ヶ月だという。

 どうせ伯父のいた島から高校に行くには、学校近くに下宿でもしないと不便だったし、特に行きたい高校があるというわけでもなかったので、離島から都会(といっても地方の一都市だが)へのこの引っ越しは正直嬉しかった。友達との別れは寂しかったけれども。

 こっちに来て深夜にコンビニに行ったときは感動したものだ。島の商店は夜七時には閉まってしまうからなあ。

 ま、その日は引っ越しの荷物を片付けるべく、家に急いでいたわけで。なにせ僕一人だから、まだ開けてもいないダンボールが山ほどある。

 隣町の大きな本屋で買い忘れていた本を何冊か買い、家に帰るため駅へと向かう。

 大通りを避けて、細い裏道を行くことにした。そっちの方が近道なのだ。少なくともスマホのマップはそう示している。

 その道すがらに小さな公園を通り抜けようとしたとき、信じられないものを見た。公園の横に止めてあったライトバンから、二人の外人と思われる男たちが飛び出してきて、道路を歩いていた小さな女の子を連れ去ろうとしたのだ。

 小さな女の子は驚きながらも、なんとか公園の金網にしがみつき抵抗をしていたが、男の力には敵わない。引き剥がされて連れ去られそうになったそのとき、僕は持っていたバッグを思いっきり片方の男に投げつけた。バッグが男の顔面に見事命中する。


「ガフッ!?」


 バッグの中にはさっき買ったばかりの英和辞典、国語辞典、漢和辞典が入っている。鼻から血を流して倒れる仲間に驚いてか、もう一人の男が女の子の手を離した。

 その瞬間、弾けるように女の子が僕の方へと駆け寄ってきて、がしっとしがみついた。


「お巡りさん、こっちです! 誘拐犯がここにいます!」


 さすがに相手がナイフでも持ってたらヤバいので、僕は居もしないお巡りさんを呼ぶように大声を上げる。それが功を奏したのか、男たちは慌ててライトバンに駆け戻り、車を急発進させて逃げて行った。

 走り去る車のナンバープレートをしっかりと覚える。


「大丈夫?」


 僕はしがみついている女の子に声をかけたが、女の子はよほど怖かったのか、僕の制服を掴んで離さなかった。

 よく見ると外国人の子供だ。白い肌に金髪碧眼、黒いゴシック調の服を着込んでいるが、ずいぶんと高そうに見える。歳は十歳くらいか?


「君、名前は? 家はどこ?」

「……こわ、かタ……」


 こわかた? ああ、怖かった、か。あれ、ひょっとして日本語あんまり喋れないのかな、この子。少し震えている女の子を安心させるため、目線を彼女と同じくらいに低くする。


「名前、わかる? 僕、白兎はくと因幡白兎いなばはくと


 って、僕の方が片言になってどうする。


「ハクト……わ、たし、レンシア、でス」


 おずおずとその子は声を紡ぎ、自らの名を告げた。レンシア、か。

 やはり外国人の子だな。金色の髪を黒いリボンでツインテールに結び、僕のことを青い瞳で見上げていた。

 これが僕とこの少女、レンシア・レンフィールドとの出会いであった。





 その後、僕は警察に通報し、結果、犯人は捕らえられた。レンシアは大財閥のお嬢様で、ここへは知人の家に親子共々遊びに来ていたという。両親が知らない間にレンシアはその家を抜け出していて、あの事件が起こった。

 後で知ったのだが犯人は別の人物に依頼されてレンシアの誘拐を計画していたらしい。

 あの日、監視していたレンシアが一人になったため、犯人たちはそのチャンスを逃すまいと突発的な行動に移った。まあ、それを僕が邪魔したわけだけど。

 当然、周到な用意などまだしてなかったようで、海外に逃げる前にあっさりと逮捕できたらしい。

 海外のことなので詳しくはわからなかったけれど、後にその黒幕も逮捕されたとのことだ。

 警察で状況説明をしている間、レンシアは僕から離れようとはしなかった。知らない土地でこんなことになって不安なんだろうと、気を紛らわせるためにいろいろと話しかけたりした。おかげでだいぶ打ち解けられたと思う。

 やがて彼女のご両親がやって来て、レンシアは二人の胸へと飛び込んでいった。

 ホッとしている僕に、警察に事情を聞いていたレンシアの父親が、僕の両手をがしっと握ってきた。何かをずっと外国語で繰り返していたが、おそらくは感謝の言葉であったと思う。たぶん。

 一回は断ったのだけれども、(通訳してくれた警察の人が言うには)どうしてもお礼をしたいと言うので、とりあえず携帯の番号と住所を教えて、僕は警察から引き上げることにした。別れるときにレンシアが駆け寄ってきて、頬にキスされたのはびっくりしたけど。

 後日、携帯にレンシアから連絡があって、あらためて感謝の言葉を述べられた。たどたどしい日本語ではあったが、気持ちは充分に伝わった。

 電話の相手が秘書の男性に替わり、お礼の品をうちに送ったというから、てっきり商品券とかお歳暮レベルの物が来るんだと思っていたんだけど……。


「まさかこんなのが来るとはなあ……」


 僕は届いたVRドライブを空き部屋の中央に置いて、あらためて眺める。

 高級そうに黒光りするシートは本革造り、頭の部分には半筒型のモニター部分がついていた。これはVRダイブしなくても普通に視認型PCと同じように使える。つまりこのリクライニングシート自体が高性能なPCパソコンでもあるのだ。もちろん寝心地もよさそうである。

 こういうものをポンとくれてしまうところが、僕ら庶民とは金銭感覚が違う気がする。しかしなんでゲームも?

 確かに欲しかったけど……まあ、気にしても仕方ないか。

 いささか気が引けるが、ゲームには興味があるし、ありがたくもらっておこう。

 VRドライブと「DWOデモンズ」の他に、レンシアからの手紙も添えられていて、あまり上手ではない日本語で、「できれば、かいしえりあは『たいだ』でしてください」と書かれていた。

 たいだ? 「かいしえりあ」ってのは「開始エリア」、スタート地点ってことかな?

 ネットで「DWOデモンズ」のことをちょっと調べてみると、「デモンズワールド」には七つの領国があり、それぞれ【傲慢】【嫉妬】【強欲】【色欲】【怠惰】【憤怒】【暴食】からひとつを選び、その領国に呼び出された者としてスタートするらしい。

 やっぱりレンシアもこのゲームをやっているのかな。同じ領国内にしとけばゲームの中ですぐ会えるかもしれないか。

 彼女とは何度か電話とメールでやりとりしたくらいで、あれからは一度も会ってないし、一緒にゲームできたら面白いかもしれない。ゲームでは僕の方が後輩かもしれないけれど。

 とりあえずVRドライブの分厚い説明書を読み、設定をこなしていく。さすがに最新型なだけあって多機能だな。

 年齢登録に証明がいるらしい。財布の中から学生証の識別カードを取り出し、VRドライブに読み込ませる。これで僕の正しいデータと虹彩認証が登録されたはずだ。

 最後に「DWOデモンズ」をインストールして、一応ゲームは開始できるようになった、はず。

 今日は日曜日で、まだ午前中だけど特に予定はない。ちょっとやってみるか。

 リクライニングシートを倒して半円筒モニターの中に頭を突っ込み、VRドライブに横たわる。

 電源を入れると目の前のモニターにVRドライブの設定画面が広がった。チチッと小さな音と赤い光が点滅する。


因幡いなば白兎はくと様と確認されました。個人設定をお願いします】


 登録しておいた虹彩認証で本人だと確認されたんだろう。おお、すごい。思ったところにカーソルが動くぞ。これは僕の思考や視線を読み取っているんだろうか。

 設定画面を操作し、IDや【DMOデモンズ】でのユーザー登録、パスワード、携帯番号など登録し、わからないところはヘルプ機能とやらを使って、なんとか設定していく。……よし、準備完了。


【デモンズワールド・オンラインを起動しますか?】


 視覚認識による操作で、迷わず【はい】を選んだ僕は、一瞬にして深い闇の中へと落ちていった。







 







【DWO ちょこっと解説】


■【デモンズ・ワールド・オンライン】。通称DWO(デモンズ)。レンフィルコーポレーションが発売したVRMMO(バーチャル・リアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインゲーム)。プレイヤーの降り立つ世界は、悪魔や魔物、魔人、魔獣が存在する魔界【デモンズワールド】の大地、【ヘルガイア】。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] こういうのを御礼として貰ったと考えて。 真っ先に使用電力、ひいては月々の電気代のことが頭をよぎる私は、随分と所帯染みたものだなぁ、と少し自分に呆れました。
[良い点] とても読みやすいので面白かったです! [気になる点] 「インターネットでのゲームをするという手もあったが、僕の家(正確には伯父の家、母方の実家)のPCでは性能が低くて、とても快適にできる環…
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