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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第五章:DWO:第五エリア
188/189

■185 消えた調査員

■いつもより長めです。





「寒っ」


 外に出た瞬間、凍えるような風が僕を襲った。すでに秋は終わり、季節は冬になりつつある。

 もはやコートを着ててもおかしくない時期だ。学校指定のダッフルコートを着て、寒さに耐えながら登校する。


「おはようさん、白兎」

「おはよう、はっくん」

「二人ともおはよう」


 再従兄妹はとこである奏汰かなた遥花はるかの双子に挨拶をし、教室へと入った僕はいつもの自分の席へと座る。

 隣の席のリーゼはまだ登校していない。僕らは住んでいる家もお隣さんだが、特に待ち合わせて登校したりはしない。もちろん、バッタリと時間が合ったら一緒に登校したりはするが、合わなければそのまま普通に登校している。

 だからリーゼが登校していなくても、別におかしなことではないのだが、彼女の裏の顔を知っている僕としては、そこはかとない不安を感じる。

 またなにか宇宙うえで問題が起こっているのでは……? と。

 ウルスラさんもなんか不穏なこと言ってたしなあ……。

 うちのご先祖様が動くと宇宙規模で迷惑がかかるってのが、ホント申し訳ない……。

 その日、そのままリーゼは学校に来ることなく、担任から『風邪でお休み』という連絡を受けた。

 本当に風邪か……? と、不安が増してきたので休み時間に電話してみたのだけども、まったく繋がらなかった。また何か宇宙でのトラブルが起こっているんじゃなかろうな?

 いや、本当に風邪であるなら、寝ていて出れないってのもあると思うけど。

 ちょい心配だし、帰りにお見舞いでも行ってみるか……。



          ◇ ◇ ◇



「あらー。白兎君、久しぶりねえー」

「あ、お久しぶりです」


 放課後、家に帰ってからお見舞いを持ってお隣のリーゼの家の呼び鈴を鳴らすと、ここのご主人の奥さんが出てきた。

 この家は七十過ぎの老夫婦が住んでいて、旦那さんは外国人であり、奥さんともども元大学教授である。

 今までも何度か顔を合わせて挨拶くらいはしていたが、ちゃんと話すのは確かに久しぶりである。


「どうしたの、急に? なにかあった?」

「あ、いえ、リーゼが風邪をひいたらしいから大丈夫かなとお見舞いに」

「リーゼ?」


 奥さんはキョトンとした顔で僕を見ている。


「リーゼって誰?」

 

 その言葉に僕は、ガン! と頭を殴られたようなショックを受けた。誰って……? ちょっと待て、これって……!


「あの、リーゼ……リーゼロッテ・シュテルンという名前に聞き覚えはないですか? 姪御さんとかいませんでしたっけ?」

「リーゼロッテ……知り合いにはいないわねえ。主人の教え子かしら……? 私たちに姪っ子はいませんけど……」


 これは……! リーゼの記憶操作が解除されている!?

 僕は実際にリーゼと奥さんが一緒にいるところを何回か見ている。その記憶ごとリセットされているということか!?


「いや、こちらの勘違いだったようです。あ、これ果物ですけどお裾分けです。どうぞ」

「あらあら、わざわざありがとうねぇ」


 リーゼに渡すはずだったフルーツ詰め合わせのバスケットを奥さんに渡して僕は家へと戻る。


「どういうことだ……?」


 玄関の鍵をかけて、僕は一人考え込む。

 リーゼはもともと【連合】の調査員だ。地球人になりすまして、地上での調査をしていた。地球に密入星している異星人や、【連合】と対立する【同盟】の動向を探ったりしていたらしい。

 そのためにお隣さんの姪っ子という仮の立場を得て、学校にも通っていたのだが、なぜかそれが全てリセットされている。いったいなにがあった?

 リーゼの身になにか起こったのだろうか? もしなにかあれば、僕に連絡の一つくらいよこしそうなものだけど、それもないとなると……。連絡できる状況にない、ということか?

 事情を知りたくても他の【連合】の知り合いはいないしな……。

 とりあえずミヤビさんか真紅さんに聞いてみるか? 【帝国】の方になにか情報が入ってるかも……。

 と、考えたところで僕のスマホに着信があった。誰だろうと取り出してみると、百花ももかおばあちゃんからだ。珍しい。


「はい、もしもし」

『ああ、白兎君? 久しぶりね、元気してたかしら。えっとね……ああ、代わるわね』

「代わる……?」

『白兎君!? 私! リーゼ!』

「リーゼ!?」


 耳に飛び込んできたのは先ほどまで心配していたお隣さんの声だった。


「リーゼ、なんで百花おばあちゃんのところに……!? ていうか、いったいなにがどうなってるんだ!?」

『えっと、ちょっとややこしいことになっていて……簡単に言えば、チクられた……』

「チクられた……? は? なにを?」

『【帝国】のスパイだって疑われて、捕まりそうになって……!』


 その時、電話口から、ガチャン! となにかが壊れるような音がした。なんだ!?


『ああ、もう! とにかく一度こっちに来て!』


 リーゼがそう言い残し、通話がプツリと切れた。

 よくわからんが、リーゼは百花おばあちゃんのところにいるらしい。

 さらになにか切羽詰まったことが起こっているようだ。百花おばあちゃんのところへ急がねば……!


「真紅さん! 聞こえてますか!?」

『はい。状況は把握しております』


 僕が家の天井へ向けて叫ぶと、目の前に赤髪のメイドさん……皇帝旗艦である真紅さんが操るガイノイドが一瞬にして現れた。


「因幡邸へと転送致します。動かないで下さいませ」

「はい!」


 こんなことになるのなら百花おばあちゃんのところにも転移できるようにビーコンを置いておくんだった。

 直立不動のまま立っていると、足元がフッと無くなる感覚がして、すぐに数センチ上から落ちたような衝撃が足に来る。

 見回すと、百花おばあちゃんちの門の前に立っていた。正確に言うとこの屋敷の権利はうちの父さんの物らしいから、僕の実家と言えなくもない。表札は因幡のままだしな。

 大きな門をくぐって玄関へと急ぐと、その途中に信じられない物が横たわっていた。

 ロボットだ。金属的メタリックな色をした、手足のついたロボット。

 大きさは二メートルほどで、頭がなく、太い胴体から手足が伸びたロボットである。ボディには二つの大きな穴が空いていて、機能を停止しているようだ。これって……!?


「暴動鎮圧用のメタルロイドですね。製造ナンバーが消されています。【連合】のものか、【同盟】のものか……どちらにせよ、身元がバレてはまずいものなのでしょう」


 真紅さんが倒れているロボットの首(?)の辺りを確認しながらそんなことを口にする。

 いや、それよりもなんで百花おばあちゃんちにロボットが!?


「あっ、白兎君! と、皇帝旗艦さん! よかったー! 助かった!」


 本邸の玄関からリーゼが姿を現した。そしてその後ろには百花おばあちゃんが立っている。


「リーゼ、いったい何が起こってるんだ? このロボットは?」

「えーっと、何から話せばいいのか……」

「リーゼさん。私から説明させてちょうだいな。どうやら白兎君の方にもなにか秘密があるようだし。そちらのメイドさんも一緒に、ね」


 まだ少しパニックになっているリーゼを押し退けて、百花おばあちゃんが前に出る。

 というか、やっぱり百花おばあちゃんは宇宙人たちと面識があったってことだな。

 こんなロボットが倒れているのになんの反応もないし。

 『白』の一族、だったか。平安の時代から宇宙人たちと密かに交流を持ち、歴史の裏側から世界に影響を与えてきた一族……。

 なんなんだ、うちの家系は。いや、ご先祖様がご先祖様だから、致し方ないところもあるような気もするんだけども。


「白兎君も知っているらしいから今さら隠すことでもないでしょうけど……リーゼさんは【連合】の調査局員なの。だけど上層部に【帝国】のスパイだって疑われてしまって、地球側へと亡命してきたのよ」

「亡命? だからってなんだって百花おばあちゃんちに……」

「ここは一応、亡命宇宙人たちの駆け込み寺になっていますからね。本当なら【連合】も【同盟】も手を出してはこないんですけど、向こうさんはどうしてもリーゼさんを連れ戻そうとしているらしく、あんなロボットまで持ち出してきたみたいね。【連合】全体というか、一部の者が暴走したっぽいけれども」


 ああ、だから製造ナンバーとかが消されていたのか。そうすれば知らぬ存ぜぬで通せるもんな。


「というか、スパイってバレたって……」

「バレたとか言わないでよ! 元からスパイじゃないから! それは白兎君が一番知ってるでしょう!?」


 おっと言葉を間違えたか。違うんだ、なんでそんなことになったのかってのを知りたかっただけなんだよ。


「ほら、例の【同盟】の奴らが襲ってきた時があったでしょう? あの時、私の通信は繋がらなかったんだけど、白兎君のは繋がったじゃん。【帝国】に」

「ああ、廃工場での」

「あの時、私が故意に通信障害ジャミングを起こして、その隙に【帝国】と連絡を取っていたって思われちゃって……。しかも皇帝旗艦に」

「んん……?」


 アレ? これってばもしかして、いやもしかしなくても、僕のせいでリーゼは疑われたのか……?


「しっかりとそこから通信がされた記録はあるし、私じゃない! って言っても、じゃあ誰が? ってなるから、何も言えないし!」

「とんだご迷惑を……!」


 これは平謝りするしかない。僕のことを言えないばかりにリーゼは追われる羽目になってしまったのだ。僕のことを話すなとミヤビさんに釘を刺されていたからな。


「はー……。もういいよ、どのみち遅かれ早かれこんな状況にはなると思ってたから。────というわけで」


 ガシッとリーゼが僕の首に片腕を回し、切羽詰まったような必死な顔で迫ってきた。


「私が【帝国】に亡命するのに口きいてくれるよねぇ……? 君のせいでこんな目にあってるんだしぃ……? 白兎君はそんな薄情な人じゃないもんねェ……? ねぇ? ネェ? ソウダヨネェ……?」

「ま、前向きに努力していきたい所存であります……」


 地球から【帝国】にさらに亡命か。いやまあ、【帝国】の方が安全なんだろうけども。【連合】もおいそれとは手を出せないだろうからな。


「内緒話は終わったかしら? そろそろこっちの疑問にも答えて欲しいのだけれども」

「あっと、すみません。えーっとなにを話せば……」

「そうね、まずは……白兎君は【帝国】との繋がりがあるのかしら?」


 ズバン! と百花おばあちゃんから豪速球のドストレートが飛んできた。まあ、そう考えるよなあ……。【帝国】と通信してたとか言っちゃったし。しかも皇帝旗艦と。

 さて、どう答えたものか……。誤魔化すか? いや、もうここまでバレたら誤魔化しようもないよな……。


「うーん、どこまで話していいものか自分では判断ができないんですけど……」

「ひょっとして、【龍眼】に関係があるのかしら?」


 鋭い。あれがなかったらミヤビさんとの関係も深くなることはなかった。

 逆に言えばこういった宇宙人とのトラブルに巻き込まれることもなかったわけだが……。


「それに関しては私からご説明致しましょう」


 どうしたもんかと悩んでいる僕の背後から真紅さんが声をかけてきた。


「貴女は?」

「申し遅れました。私は【銀河帝国】皇帝旗艦『真紅』。この身体ボディはその端末となります。『白』の一族当主、因幡百花いなばももか様でいらっしゃいますね?」


 百花おばあちゃんは正式には嫁入りしていないので、名字はそのまま『因幡』である。

 一応、因幡家の当主は僕の父さんとなってはいるが、因幡家の長老となると、百花おばあちゃんになるんだよな。

 ……あれ? ひょっとして父さんも『白』の一族のことを知ってる……? 

 因幡家が代々その当主を務めてきたなら、次の『白』の一族当主は父さんってことになる。何も知らないってことがあるのか?

 いや、父さんは昔、祖父じいさんと大ゲンカして家を飛び出したそうだ。それから母さんと出会って僕が生まれた。

 それから祖父じいさんが死ぬ直前まで、まったく連絡を取っていなかったっていうから、宇宙人関連のことは知らないって可能性もあり得るな。後で百花おばあちゃんに聞いてみよう。


「皇帝旗艦……? それはかなりの権限を持っている方……と見ていいのかしら?」

「はい。【銀河帝国】の皇帝陛下に仕える身としては、機械知性体、メタルロイド、機人族などを纏める立場におります。交渉において皇帝陛下の代理人を務めることもあります」

「あら、思ったよりもかなりの大物でしたね……。それで真紅さん、白兎君とはどのようなご関係なのかしら?」

「それを含めてご説明させていただきます」



          ◇ ◇ ◇



「【帝国】の皇帝が……。私たちの御先祖様……!?」


 屋敷に入ってから、真紅さんから告げられた真実は百花おばあちゃんにしても大きな衝撃だったようだ。

 漠然と自分たちが宇宙人の子孫であることは認識していたようだが、まさか【帝国】を築き上げた女皇帝だとは想像もしなかったのだろう。


「誤解しないでいただきたいのは、貴女がたはあくまで子孫というだけで、皇帝陛下の一族には入りません。陛下の一族、さらに後継者と唯一認められる【龍眼】の持ち主はこちらの白兎様だけになります。陛下もすでに自らの子息として扱っております」


 うーむ、この点はやはり一線を引いているようだ。子孫として認めるが、一族ではない。家族ではないと言い切っている。

 感覚としては遠い遠い聞いたこともない親戚がやってきて、『今日から俺ら家族な。よろしく』と言われても、知らんわ、って感じなんだろうか。

 血の繋がりだけが家族ではないってことなのかね? 一族でもないってのはかなり苛烈な気もするけど……。

 まあ地球でも本家とか分家とか、変な一線を引いてるところもあるしなあ。


「もちろん陛下の子孫である以上、【帝国】としては丁重に対応させていただきますが。ご希望であれば、【帝国】にお迎えすることも可能ですよ?」

「え、ええっと……それはどうもありがとうございます……?」


 さすがの百花おばあちゃんも軽くパニックになっているな。さっきから真紅さんに主導権を握られっぱなしだ。


「ですが今は、この話は百花様お一人の心の内に留めておいた方がよろしいかと思われます。皇帝陛下の縁者と知られると良からぬ考えを起こす短慮な者もおりますゆえ」

「あ……。そ、そうね、このことが知られると地球は【帝国】側と取られかねない。【連合】と【同盟】にとっては面白くないことになるでしょう。両者が手を組んで地球の支配に乗り出してもおかしくない状況にもなり得ますからね……」


 百花おばあちゃんが考え込むようにそんな言葉を口にする。

 まあ、向こうさんからすれば、今まで『関係ないよ』という顔をしていたのに、実は誰よりも強いコネがありました、と横槍を入れられた感じだもんなあ。

 そういう疑いを持たれても仕方がない状況になってしまうのは確かだ。

 とはいえ……。


「リーゼが前に言ってたけど、【連合】と【同盟】が手を組んで戦っても、一週間と持たずに【帝国】に負けるらしいよ?」

「いえ、それは純粋に艦隊戦力だけを考えた場合ですね。皇帝陛下が直接動くのならば三日も持たないかと。いえ、たぶん二日ですね。【連合】と【同盟】の本星を潰して終わりだと思います」

「え!? そこまで戦力差があるの!?」


 僕の言葉に訂正を入れてきた真紅さんに、驚いたように百花おばあちゃんが声を上げる。

 どうやら【帝国】の圧倒的な強さとかそういった情報までは地球側には伝わっていなかったようだ。

 まあ、【帝国】側の人間と直接コンタクトを取ったことがないならあり得るか?

 【連合】も【同盟】も自分に都合の悪いことは話さないだろうし。実際、リーゼみたいに内部の人間じゃなければそこまでわからないだろうからな。

 そのリーゼはさっきからなにかそわそわと落ち着かない感じでお茶を飲んでいるが。なんだ? あ。


「真紅さん、リーゼを【帝国】に受け入れることってできます?」

「可能ですが、それはどのような立ち位置で? 奥方、愛妾、愛人と、与えられる地位によって扱いも変わってきますが?」


 真紅さんの説明を聞いて、ブ──ッとリーゼがお茶を吹き、そのままげっほげっほと咳き込む。


「いや、そういうんじゃないんで……。友達枠で」

「で、あるならば、それなりの席はございます。特に問題はないかと。【連合】で調査局の仕事をしていたならば、回せる仕事もあるかと思います」

「ごほっ、あ、ありがどお、ございまずぅ……」


 咳き込みながらリーゼが真紅さんに礼を述べる。……おい、鼻水出てるぞ……。


「学校はどうする?」

「うーん、関係者全員の記憶を改竄をするわけにもいかないから、親の急な都合により転校……とするしかないかな……」

「というか、本当に【帝国】に亡命していいのか? 向こうに家族とか友人とかいるんじゃないの?」

「ああ、向こうに家族はいないし、仲のいい同僚はたぶん喜んでくれるよ。こんなブラックなとこ辞めてよかったね、ってさ」


 ハハハ、と笑うリーゼの目が死んでいる。どんだけキツかったんだよ、前の職場……。学生と社畜の二足の草鞋が大変だったのか?


「なんなら誘えば喜んで【帝国】側に来てくれる人たちだよ。誘ってみる?」

「ふむ。それは面白いかもしれませんね。リーゼ様、後で詳しいお話を」


 なんか【連合】側が大ダメージを食らいそうな悪だくみが進行しそうだが、僕は聞いていないスタンスを貫いて、静かにお茶を飲む。うむ、美味い。


「ならばリーゼ様の地球での立場はそのままにしておきましょう。管理が【帝国】に変わるだけです。今まで通り学校に通われても問題ありません。しばらくは宇宙うえから私が監視していますので、【連合】側に手出しはさせませんよ」

貴女あなたが神か……!」


 リーゼが真紅さんを崇めるように五体投地をする。そんなにか。

 なんにしろ、これまで通りリーゼが学校に通えるのはありがたい。奏汰や遥花に寂しい思いをさせないですむ。


「リーゼさんの方はそれでいいとして、うちにあんなガラクタを送り込んできたやからはどうしようかしら。こちらから抗議することもできるけど……」

「ああ、それならもう解決していますよ。首謀者は捕まりました」

「「「え?」」」


 真紅さんの言葉に思わず僕とリーゼ、百花おばあちゃんの声がハモる。は? さっきの今でもう解決したの!?


「製造ナンバーを消しただけで、持ち主の痕跡が消えると思っているのなら、甘いと言うしかありません。すでに命令者を突き止め、の者の今までの汚点を全て調べ上げて、全宇宙のネットワークへ向けて公開しました。すでに逮捕されています」


 犯人はリーゼと同じ部署の上司だったらしい。真紅さんが見せてくれた空中投影の画像には、項垂れて逮捕された青い肌の男の宇宙人が映っていた。


「あはははは! あのセクハラ嫌味課長、収賄で捕まってやんの! ざまあ! ざまあ! あー! 何年かぶりにすごいいい気分! 爽快だね!」


 リーゼがなにかのタガが外れたように高笑う。よっぽど鬱屈した気持ちがあったんだろうな。不憫な……。


「リーゼ様のスパイ疑惑を確かな物にして、自分の手柄とするつもりだったようです。【連合】上層部からはしばらく監視に留めるように、と言われていましたが、独断で動いたようですね」

「ある意味、上が本気で動く前に逃げ出せたわけか……。悪運が強いな……」

「いや、私本当にスパイじゃないからね!? 捕まる理由はないから!」


 掴んだ情報を上司に報告しないのは、けっこうな背信行為なのでは……と思ったが、言わぬが花か。あれはミヤビさんに脅されてたわけだし。

 しかしこれでリーゼが本当に【帝国】に鞍替えするとなると、スパイ疑惑は疑惑じゃなくなるよなあ……。


「まあ実際、【連合】にはすでに何人もの【帝国】側の間者が入り込んでいますからね。リーゼ様がいた調査局にも三人いますよ。ある意味、いい隠れ蓑になってくれました」

「ええっ!?」


 真紅さんから明かされた真実にリーゼが驚愕の表情で振り向いた。

 大丈夫なのか、【惑星連合】……。これたぶん【宇宙同盟】の方にもスパイがいるんだろうな……。

 おそらく諜報部長官のウルスラさん配下の人たちだろうが……。


「どうやら【帝国】は思った以上に力を持っているようですね……。それで、【帝国】の皇帝陛下は地球をどうしようとお考えなのかしら?」


 百花おばあちゃんがおそらく一番聞きたかったことをぶっ込んできた。


「ついこないだまでは現状維持、【連合】と【同盟】の争いにも関わらない……と仰られていらしたのですが……。ちょっと思うところがあるようで、多少の干渉をする気になったようです。今ここでは話せませんが、悪いようにはならないと思います」


 悪いようには、って、ミヤビさんなだけに全く安心できない言葉だ。いったいなにをしようとしてるんだよ……?

 百花おばあちゃんが、はあ、と大きくため息をつく。


「以前【同盟】の方に、【帝国】の方は変わり者が多いと聞いていましたが、どうやら当たらずとも遠からずのようですね……」

「不本意ではありますが、的を射た表現と言わざるを得ないかもしれません。皇帝陛下が気に入った者たちを次々と仲間にしてできあがったのが【帝国】でありますから」


 類は友を呼ぶ、朱に交われば赤くなる、といった言葉が僕の頭をよぎったが、口にはしない。なぜならその仲間に自分も含まれている可能性があったからだ。


「皇帝陛下がなにを考えているのかはわかりませんが、『白』の一族としては、宇宙の方々と平和的なお付き合いをしたいと思っております」

「陛下にはそうお伝え致します」


 どうやら地球側は【帝国】とも付かず離れずの関係維持のようだ。状況がどう転ぶかわからないからな……。

 と、不意に百花おばあちゃんが居住まいを正し、真紅さんへと真っ直ぐな視線を向ける。


「ここで出会えたのもなにかの縁。真紅さんにひとつ見てもらいたいものがあるのですが……」

「見てもらいたいもの?」

「皇帝陛下の残した、我ら『白』の一族に伝わるいくつかの遺産です」


 おっとぉ……? またなにか話が大きくなりそうな予感……。

 






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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
ある意味やっと話が動いた感じがする ずっと全員が独立しながら話が進んでたもんな
友人とおもっていた同僚がスパイだったのかー!ってなったら面白いな 誰も信じられなくなりそう
> 可能ですが、それはどのような立ち位置で? 奥方、愛妾、愛人と、与えられる地位によって扱いも変わってきますが? 危うくとあるJSの瞳からハイライトが消える案件になるところであった(笑)
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