■183 妖精の泉
「えーっと、あなたも『デイストラ』ってヤツでいいのかな?」
僕は首を垂れる翠竜にそう尋ねる。確か【龍眼】関係者はそう呼ばれているんだっけか?
『否。我は単なる「ストラ」にございます。「デイストラ」とは「継承候補者」のことを指します故に』
デイストラじゃなくて、ストラ。【龍眼】の継承候補者をデイストラと言うんだな。うん、覚えた。
『しかし御身がトゥストラとなられた以上、デイストラの称号はもはや意味を持ちませぬ。それを未だ理解できぬ愚か者が何匹かおりますが……』
あー、ミヤビさんからチラッと聞いたな。僕が【龍眼】を受け継いだのを認めないヤツが何匹かいるとか。
正直言ってこっちだって譲りたいくらいだけど、一応因幡家に先祖代々受け継がれてきたものだし、そう簡単に『あげる』とはいかないよなあ。
「銀竜もそうだったけど、竜ってのはみんなストラなのか?」
『全ての竜がストラなわけではございません。この世界に意識を飛ばせる者だけがストラでございます。意識なき竜はただの獣にございます故』
ふむ。どうやら『DWO』にいる全部の竜がストラってわけじゃないみたいだ。
そういえば、前に僕らが倒したグリーンドラゴンと翠竜では明らかに格が違う。こうして意思の疎通もできるしな。それがただの竜とストラの違いなのか。
「ちなみに僕のことを認めないと言っているデイストラってどれくらいいるの?」
『三匹ですね。この世界に来たデイストラは全部で七匹でしたが、四匹はすでにその座を下りています。銀竜もデイストラではありましたが、御身が継承したと聞いてすぐにその継承権を放棄しました。未だその座にしがみついているのは、赤、黒、金の三匹です』
三匹……赤竜、黒竜、金竜か。あれ? 赤竜と黒竜には僕会ってるけど?
確か【傲慢】の領国で、【スターライト】のみんなと見たぞ。赤竜には無視されたけど、黒竜には襲われたんだが。
『ストラとはいえ、この世界で【龍眼】の力を感じるのはなかなか難しいのです。私や銀竜に比べると、あの二匹はそういった察知能力が乏しい上に、トゥストラには戦闘能力だけが重要と勘違いしている馬鹿なので』
おっと、なかなかに辛辣ゥ。どうやら翠竜さん、赤と黒の竜とは仲が良くないみたい。
「つまり赤竜と黒竜は脳筋ってことか」
『脳筋?』
「脳味噌まで筋肉ってこと」
『なるほど、確かに。あいつらにはぴったりな言葉ですね。これからは脳筋竜と呼びましょう』
翠竜がおかしそうに声をあげて笑う。竜も笑うんだな。
「金竜の方はどうなんだ?」
『金はまあ、あの二匹に比べると少しは賢い方です。いや、賢しらと言った方がいいのですかね? 見栄っ張りで尊大な態度が鼻につくヤツです』
「そう聞くとなんかデイストラって、まともなヤツがいないな……」
『それはもう。トゥストラが現れたのに、まともな者ならデイストラなど名乗れませんよ。本来なら我々の手で懲らしめてやりたいところですが、先代に止められているので』
先代? ああ、先代トゥストラ……ミヤビさんのことか。ミヤビさんが放置しとけって言ったの? ストラ同士争うのは虚しいからやめなさい──なんて意味は微塵もないだろうな……。
あの人はトラブルの火種があったら、笑いながらさらに薪をくべるタイプだ。いや、火薬樽を置くね。周りに何個も。
なんなら煽ってるよな……。これ、僕が竜退治することにならない?
八岐大蛇に比べたらまだマシなのかもしれないけどさあ……。
『それで、【龍眼の君】はなぜ我が領地へ?』
「ああ、ちょっとお金が必要になってね。なにか換金できるような、希少なアイテムを手に入れようと思って」
『希少なアイテム……ですか。少々心当たりがあります。よろしければご案内致しますが』
お? そりゃありがたい。このフィールドの主が案内してくれるならさぞかしレアなお宝に出会えるかも。
すぐ近くにあるというので、翠竜に案内されるまま、後についていく。
さすがにこのフィールドの主なだけあって、道中、翠竜を恐れてか、モンスターがまったく現れなかった。おかげで素材がさっぱり手に入らない。
ううん、ありがたいようなありがたくないような……。
『着きました。ここです』
「おお……」
目の前の森が開けて、美しい泉が現れた。
森の緑の中にキラキラと水面が反射して、なんとも幻想的な光景が広がっている。
心なしか泉の周囲も虹色の光がキラキラと煌めいているような……。んん? 本当に光ってるな?
小さな蛍のような虹色の光の球が泉の周囲をふわふわと漂っている。なんだ、あれは?
『ここは【妖精の泉】。光りながら漂っているのが妖精たちです』
「妖精!?」
妖精って、あの妖精か!? フェアリーさんですね!? 羽のある小人! ティンカーベルだ!
……でも人型には見えんな。虹色に光る球としか……夜中に見たら人魂と勘違いしそうだ。
こちらに光の球がふわふわと寄ってきた。やっぱりスタンダードな妖精には見えない。
シャラシャラと薄い金属が鳴るような音がしているだけで、小さな人間の姿はやっぱり見えない。ただのぼんやりと光る球なだけだ。
まあ、幻想的な光景ではある。
『【妖精の泉】は、豊富な魔力と聖なる神気に満ちた場所ですから、貴重なアイテムが多く採取できるはずです。ほら、そこにある「フェアリードロップ」などはよい調合素材になるはずですが』
翠竜の言葉に従い、僕は泉のほとりに咲いていた白金色のスノードロップのような花を採取して鑑定してみた。
【フェアリードロップ】 Sランク
■妖精の祝福を受けた聖なる花
回復薬に混ぜると一段階上の回復量になる
□調合アイテム/素材
品質:F(標準品質)
ぶっ!? え、Sランクの素材キタ────ッ!?
回復薬に混ぜると一段階上の回復量に!?
それってポーションがハイポーション並みに、ハイポシーションがさらにその上のポーション並みになるってこと!?
とんでもない効果の花だ。これは是非とも採取しておかなければ!
『それとその泉の水も調合に使うと効果の高いものができるはずです』
「マジで……」
僕はインベントリからグラスを取り出して泉の水を汲んでみた。鑑定には『聖なる泉の水』と出ている。これでポーションを作ればさらにいいものができるのか……ん?
何か泉の浅いところにキラキラしたものが落ちている。畳半畳ほどのエメラルド色をした……って、まさか!
僕は泉の中に手を突っ込み、それを引き上げてみた。軽い。軽くて見覚えのあるものだ。銀竜のよりは小さいがこれって翠竜の鱗なんじゃないの!?
「これ……?」
『ぬ? それは泉で水浴びした時に取れた私の鱗ですが……。要りますか?』
「要ります!」
『ではどうぞ。そんなものでよければ向こうにバリバリ剥がしたやつがありますから』
バリバリ剥がしたやつが!?
翠竜の指し示す方に飛んでいくと、昼寝をする場所らしきところに鱗が何枚もボロボロと落ちていた。
若干欠けたり割れたりしているが、これはお宝だ! 高く売れるぞ、やっほう!
これでウェンディさんやミウラの装備なんかも作ればかなり防御力アップを見込めるんじゃないか?
鱗もあるが、稀に爪や牙もある。竜の爪や牙って抜けるのか? よくわからないがもちろんこれもいただいていこう。
その後も僕は目を皿のようにし、泉の周囲にあるレアなアイテムを取れるだけ取って、インベントリにぶち込んでいった。銀竜の鱗とは違って、小さいからなのか、翠竜の鱗や牙などはインベントリに入ったので助かったな。
これだけあれば装備素材と軍資金には充分だ。後はもう一つだけ貰いたいものがあるんだけど……。
『涙……ですか?』
「うん、そう。『竜の涙』が欲しいんだよ」
復活薬である『ネクタル』を作ったが、そのさらに上の復活薬である『アムリタ』に必要な素材が『竜の涙』なのだ。
銀竜に頼み込んで貰おうと思ってたけど、翠竜に貰えるならそれでも問題ない。
『涙くらい別に構いませんが、そう簡単に出せと言われて出るものでもなく……ああ、ちょっと待ってて下さい」
そう言うと翠竜は踵を返し、森の中へと再び消えていった。
手持ち無沙汰になった僕の周りに妖精たちがわらわらと寄ってくる。鬱陶しいから払いたいけど、これが妖精だと思うと邪険にもできない。変に恨みを買ってここに出禁になったら困るしな。
そのうち妖精のうちの一人(?)が、パラパラと虹色に光る粉のようなものを落としていることに気がついた。
なんとなしに手に取って鑑定してみると、『妖精の粉』というアイテムだった。マジか……!
慌ててインベントリからガラス瓶を出して、妖精の鱗粉を集めていく。
それを見た他の妖精たちも面白がってなのか、ガラス瓶の中に鱗粉を落としている。まるで瓶の上でおしくらまんじゅうをしているみたいだ。おかげで大きな瓶の半分くらい鱗粉が溜まってしまった。
これは調合アイテムにも、加工アイテムにもなるらしい。帰ったら試しに……。
とか、考えていると、森の奥からなんとも言えない爆発音(?)のようなものがして、鳥の群れが森から上空へと飛び立っていった。
なんだ、今の……?
しばらくすると森の奥から翠竜が戻ってきたのだが、その顔は涙をボロボロに流し、あまつさえ鼻水や涎まで流している始末だった。
「ちょっ、どうした!?」
『森の奥、にある、特殊な花の、花粉でくしゃみを、ビシュッ! これで涙を、グシュッ! 取れるかと、ブエックシュ!』
そこまでせんでもいいのに!
僕はインベントリから再びガラス瓶を出して、ボロボロと流れる翠竜の涙を採取していく。
僕が集めている間はくしゃみを堪えているようだ。五つの瓶に涙を集め、もう大丈夫と告げるや否や、翠竜は泉に顔を突っ込み、ブンブンと大きく水中で首を左右に揺らしていた。
やがて首を上げると、翠竜はブルルルッと顔を震わせて水を飛ばした。
『スッキリしました』
「なんかごめん……」
真面目というか、律儀過ぎるというか……。僕は翠竜の性格がよくわかったような気がした。
たくさんのお土産をもらった僕は、そろそろお暇しようかと腰を上げる。
『またいつでもいらして下さいませ』
「八岐大蛇を倒したら第六エリアにもプレイヤーたちが来ると思うけど、大丈夫かな?」
『森は通常の森ですが、この泉は禁断の地になっております。私が招待せねば辿り着くことはありませぬ』
禁断の地? ……ああ、ここシークレットエリアなのか。
マップを確認してみると、確かに森と泉は違うフィールド扱いになっていた。なら荒らされることもないか。
……ということは、ここに来れるのは僕だけってことなんじゃ……。こんな貴重なアイテムを独占していいのだろうか……。
『妖精の泉は他の場所にもあります。そこまで気にすることもないかと……』
あ、そうなの? なら大丈夫か……。それによくよく考えたら、【セーレの翼】を手に入れてから、人より先んじてアイテムをゲットして、ほぼ独占街道まっしぐらだったわ。今さらか。
「じゃあまた」
『お気をつけて』
【セーレの翼】を使って本拠地へと転移する。
さて、みんなに素材を提供して、余ったのを売りにいくか。
◇ ◇ ◇
「ちょっと目を離した隙に、とんでもない物を手に入れてくる。それがシロちゃんクオリティ……!」
「どういうことかな?」
「それはこっちのセリフ」
テーブルの上に並べた素材を見て、リンカさんが呆れたような声を漏らした。
「なにをどうしたら『竜の鱗』とか『妖精の粉』とかが手に入るのか、わけがわからない。実はシロちゃんは運営側の人間で、貴重なアイテムを横流ししているって言われた方が納得する」
「むちゃくちゃ言ってるな……」
本当に横流ししてたらアカウント消されるだろ……。
「でもシロさん、本当にこれはとんでもない素材ですよ。私、この妖精の粉を使って糸ができないかやってみたいです」
「え? これから糸を?」
竜の鱗から僕のマフラーを作ったレンがそんなことを口にする。粉から糸なんてできるのか? あ、でも加工アイテムってなってるからな。できないことはないのか……。
「もう日数があまりない。さっそく制作にかかる。ウェンディの盾と鎧、ミウラの鎧を優先して作る。シロちゃんの双銃剣はその後に。それまでにシロちゃんは弾丸カートリッジの金策を」
「私は糸作りに入ります。そこから【機織】で布を織って、シズカちゃんとリゼルさん、そして私の服を作りますね」
僕は金策してからポーション類を【調合】しないといけないな。【月見兎】の生産職がフル稼働だ。
【スターライト】や他のギルドに素材を売り付けても、八岐大蛇戦まで装備ができるかわからないからな。早いとこ売り付けてこよう。
妖精の粉とか、花や草類の調合アイテムは【カクテル】の『錬金術師』、キールさんに売り付けるか。なにか変わったアイテムを作ってくれそうだし。
僕たちはそれぞれ自分たちのやれることを行動に移すべく動き出した。
とりあえず僕はクラン【白銀】の主だったギルメンに連絡を取ることにする。つまりはまあ、お金を出してくれそうな人ってことだけども。
「おめーはよう! 次から次へとおめーはよう!」
クランの拠点である白銀城に呼び出して、手に入れたアイテムをみんなに見せたら、まずキールさんにキレられた。
「ここにきて新しいレアアイテムだあ!? おめーは俺を殺す気だな!? ログイン時間ギリギリまでゲーム漬けにして、俺を廃人にする気だな!?」
「じゃあキールさんは今回パスってことで……」
「ざけんな! 金のある限り買ってやるわ! 持ってけドロボー!」
散々な言い草だ。喜んでもらえるかと思ったのに。まあ、なんとなしに言いたいことはわかるが。
「いやもう、どこから突っ込んだらいいのかしら……?」
「諦め。シロちゃんやさかい、突っ込むだけ無駄や」
頭を押さえるエミーリアさんに、トーラスさんが大袈裟に肩をすくめてみせる。
「いやまあ、助かることは助かるんだけど……これで決戦の日までかなりハードな進行が決定したというか……」
「有給使うか……? いや待て、さすがにそれは……」
「あれ、ビートルズの『A Hard Day’s Night』が流れてきたぞ……?」
「出すならもっと早く出せよう……!」
なんかいろんな恨み言が聞こえてくる気がするけど、この際それはスルーだ。
「で、結局買うんですか?」
「「「買うに決まってんだろ!!」」」
へい、毎度あり。
そこからは適正な金額を決めるのに揉めに揉めたが、なんとか双方満足のいく取引をすることができた。
ちなみに『竜の涙』は売るのをやめた。復活薬である『ネクタル』、そのさらに上の『アムリタ』を作るには、『竜の涙』以外にも、他の領国に生息するモンスターの素材が必要だったりするから、『竜の涙』だけあっても、僕以外は作るのはかなり難しいと思う。
すでに他の領国のプレイヤーたちがちらほらと流れ込んではきているみたいなので、全く可能性がゼロというわけではないのだが……。八岐大蛇戦までに揃えるのは無理だと思う。
「一体どこでこんなの手に入れてきたのよ……?」
「企業秘密ってやつだ」
竜の鱗を手にしてそんなことを呟く【六花】のアイリスに僕はそう答える。
「そんなことより急がなくていいのか? 素材があっても作ってくれる人を確保しないと決戦日に間に合わないかもよ?」
「そうだ! こうしちゃいられない!」
僕の言葉にクランのみんなは蜘蛛の子を散らすように城下町へと下りていった。
実際、決戦日まで生産職はてんてこ舞いだと思う。そこに加えて新しいアイテムが手に入ったから、新作に取り掛かってくれ、ときたら、温厚な僕でも『きがるにいってくれるなあ』と殺しそうな目で睨みそうだ。
【スターライト】のみんなには悪いけど、今回ばかりはリンカさんにこれ以上の新作を頼むのは無しだ。
というか、まず無理。竜の鱗でのガルガドさんの鎧とかは野良の鍛治師か、クランに所属している鍛治師に頼んでもらうしかない。
さて、僕は僕でまだ売り付ける相手がいる。残しておいた素材を持って、僕は【セーレの翼】で【傲慢】の領国へと跳んだ。
◇ ◇ ◇
「おま……! なんちゅうもんを持ち込んでくれてんのよ……!」
「えええ……!? なにこれ、見たことのないものばっかり……」
ソウとハルがそんな声を漏らし、【銀影騎士団】と【フローレス】のギルメンが絶句している。ちょっとオモロい。
「え、【怠惰】の領国で竜討伐をしたなんて情報は入ってきてないんだが……」
「【傲慢】でもまだ竜が飛んでるのを確認しただけで、接触はしてないってのに……」
現物があるだけになにか勘違いをしているみたいだな。【怠惰】でもまだ竜は討伐していません。
「竜の寝ぐらみたいなところを見つけたんで、見つからないように落ちてた鱗を集めただけですよ」
「な、なるほど……。それなら討伐しないでも手に入れることはできるのか……」
真実にちょっとの嘘を混ぜるのがバレないコツだって誰かが言ってたっけ。
ふと気がつくと疑わしそうな目でソウとハルがこっちを見ていた。やべ、今の話この二人から聞いたんだった……。
「で、買います?」
「もちろんだ! 買わないわけがないだろう!」
そう大声を上げたのは【銀影騎士団】のギルマスであるレオンさんだ。【竜人族】であり、ジョブが【騎士】である彼は、うちのウェンディさんや【スターライト】のアレンさんと同じく、竜の鱗で全身鎧を作りたいのだろう。
「【フローレス】も買うからね!? 独り占めはダメよ!?」
【フローレス】のギルマス、メルティさんが割り込むように入ってくる。一応、馬鹿みたいに拾ってきたので、二人分の全身鎧くらいは作れると思うが。
あと一応、削った鱗の粉を【裁縫師】なら糸にでき、服を作ることもできると教えておく。
「そうと決まりゃグダグダしてられねえ。八岐大蛇退治までもう時間がないからな。さっそくだが俺は制作に入るぞ!」
【銀影騎士団】サブマスの【地精族】、バルトさんが、翠竜の鱗を掴んで部屋を飛び出そうとするのを、ソウたちが慌てて力づくで止めていた。
うん、まだお金もらってないからね? 盗賊行為になってオレンジネームになっちゃうよ?
レオンさんが慌ててトレードウィンドウに指定された金額を振り込む。
「毎度あり」
と同時に解放されたバルトさんがびゅうっと部屋を出ていった。
「つーかお前、なんだってそんなに金策に走ってんだよ?」
「僕の武器のパワーアップのためだ。金食い虫なんだ」
「わけがわからん」
わからなくてもいいよ。八岐大蛇戦で見せてやるからさ。驚くなよ?
不敵な笑いを浮かべる僕に、ソウが鼻白んでいたが、それをハルがとりなすようにポンと手を一つ打った。
「まあいいじゃない。どっちにもウィンウィンなわけだし。八岐大蛇戦楽しみだねえ」
「【傲慢】の方もそろそろエリアボスを特定したいんだけどなあ。たぶん赤竜がそうなんじゃないかと思うんだけど」
「いや? 赤竜はたぶん違うと思うぞ。あれは……」
言いかけてハッとなり口を噤む。しかし既に時は遅し。いくつもの疑わしそうな視線の矢がこちらへと飛んできていた。
「お前……。まだなにか隠してることがあるだろ! 吐け、この野郎!」
「それじゃお疲れ様でしたー! またのご利用をお待ちしております! 【神速】!」
僕はスローモーションになった世界をまさに脱兎のごとく駆け抜けていく。わはははは! さらばだ、明智君!




