■180 運び屋・シロ
■修正しました。
白沢から放たれた眩しい光に僕は思わず目を庇う。光は一瞬で消え、周囲に特に変わった効果はない……まさか!?
僕はステータス画面を呼び出して自分のステータスを確認する。
【首狩り】が灰色表示になっているのはさっきと同じだが、そこにさらに追加の状態異常が加わっていた。
【戦技使用不可】
「嘘だろ!?」
戦技を封じられた!? 【十文字斬り】も【ダブルギロチン】も【双星斬】も、全部使えないってことか!?
「はあ!? 【アイテム使用不可】やとォ!?」
隣にいたトーラスさんが自分のステータス画面を見て驚愕している。
【アイテム使用不可】!? おいおい、いくらなんでもそれはないだろ……! これ以降、一切ポーション等での回復ができないってことか?
いや、味方に魔法やアイテムを使ってもらえば回復はできるだろうが……。
アレンさんもステータス画面を見ていたが、少しホッとした顔をしている。
「アレンさんは……?」
「僕は【魔法使用不可】だった。助かったよ」
状態異常は完全にランダムか。アレンさんは魔法スキル自体を持ってないから、無意味な状態異常だったが、これがリゼルみたいな魔法職なら詰んでたな……。
って、リゼルは?
「リゼル、魔法は使えるか?」
「大丈夫。私は【補助スキル使用不可】だったから」
【補助スキル使用不可】? そんなのもあるのか……。レンの【天の目】や、シズカの【カウンター】なんかが使えなくなるわけだ。僕だと【敏捷度UP】とかだな。確かリゼルは【MP最大値UP】とか持ってたな。多少は不利になるだろうが僕ほど致命的じゃない。
他にも毒や麻痺のような普通の状態異常を食らった者もいる。彼らの頭上には状態異常のアイコンがくるくると回っていた。
「うぐう……」
突然ミウラがインベントリからおにぎりを取り出してガツガツと食べ始めた。え? なにやってんの……?
「【空腹】くらった! お腹が減って力が出ない!」
「ああ……」
【空腹】状態になると、パラメータが低下し、放っておくと餓死してしまうからな。食べ物を食べて満腹状態にしておかないと。
「うわ、食べたのに空腹がちょっとしか回復しない!? しかもいつもより速く減ってる!? え、【飢餓】状態!?」
【飢餓】? 【空腹】じゃないのか? おいおい、このままだとミウラは常に食べ続けないと死んでしまうぞ……。
「セイルロットさん、【飢餓】って制限時間あります?」
「確か時間経過で治るはずですよ。十分くらいでしたかね?」
「十分も食べ続けるの!?」
セイルロットさんの言葉に、ミウラが『嘘ぉ!?』とばかりに悲鳴をあげる。そいつはなかなかしんどいな……。
付与された状態異常は時間経過で解除されるものとされないものがある。
僕の【戦技使用不可】は時間経過では解除されない。魔法スキルの【解呪】か、聖水による【解呪】を使わないといけないのだ。
しかしそれをしてしまうと僕のベルトの【呪い】も解けて、白沢戦が仕切り直しになってしまう。
【戦技】無しで戦うのか? それだとほとんど攻撃力が低いままでの攻撃になってしまう。
僕ら『双剣使い』の装備する『双剣』は、総じて武器単体の攻撃力は低い。だが、その攻撃力の低さは両手に二本装備できることと、手数の多さでカバーされる。
その手数の多さと、上乗せの攻撃力を繰り出せるのが双剣の【戦技】なのだが、それを封じられた今、僕は弱い武器を持つ剣士にすぎない。
いや、正確に言うなら【神速】でスローモーションの世界に入り、ギリギリまで全力で相手を滅多斬りにすれば、それなりの攻撃力を生み出せるのかもしれないが……。いや、どんだけハイコストなんだって話。
攻撃力が無くなった僕って、避ける囮にしか使えないんじゃないか……? キールさんの炸裂弾とかがまだ残ってればなあ!
「【土傀儡】」
白沢が地面を叩くとまたもクレイゴーレムが地面から這い出してきた。しかもさっきのより少し大きい。まさか白沢のパワーアップ効果か?
「くっ!」
襲いかかってくるクレイゴーレムの攻撃を躱し、隙を見て一撃を入れる。再び攻撃を躱し、再び一撃。さらに攻撃を躱し、さらに一撃。
あー、まどろっこしい! 攻撃力が戦技で上乗せされないから、ちまちま削って倒すしかない。
クレイゴーレムは動きが鈍いから攻撃を避けるのは難しくはないけど、一体に時間がかかりすぎる!
攻撃をする瞬間だけ【神速】を使い、一秒ほどの間に何撃か食らわせれば、ある程度のダメージはいくと思うが、それは燃費が悪すぎる。
やっぱり【戦技使用不可】はキツい……! いや、【スキル使用不可】よりはマシなのか……?
何よりもキツいのが、これらは時間制限がないってことだ。この戦い、戦技無しで戦わないといけないのか……。あれ? 僕って役立たずなんじゃ?
いやっ! 素早さを活かした囮の盾職としてはまだ価値があるはず! ……たぶん。
白沢が近くにいたプレイヤーに体当たりをかます。食らったプレイヤーは大きく吹っ飛び、地面をバウンドしてゴロゴロと転がった。……生きてるな、よかった。
どうやらパワーも増加したようだ。白沢は襲いかかってきた大剣使いの一撃を躱し、下から突き上げるように頭の角で串刺しにする。
「【放雷花】」
逆だった毛並みからバチバチとしたピンポン玉ほどの光の球が空中に散布される。またそれかよ!
串刺しにしたプレイヤーをぶん投げて白沢が後ろに退がる。
「キールさん!」
「わーってるよ!」
キールさんが節分のように塩をそこら中にばら撒き、麻痺する雷球に接触させて消滅させていく。なんともシュールな画だな……。
他のプレイヤーが水魔法をばら撒こうとして止められている。そうか、水で感電の麻痺効果が広まるかもしれないのか。
くそっ、やりたい放題やりやがって……!
「シロ君、ちょっと!」
僕を呼ぶ声に振り向くと、そこにはリゼルとセイルロットさんがいた。
クレイゴーレムを躱しながらなんとか二人のところにたどり着くと、セイルロットさんからとある作戦を聞かされた。
ええ……? それ、可能なのか? いや、やれと言われたらやりますけども……。
そして【スターライト】からガルガドさんとメイリンさん、【月見兎】からミウラ、【六花】からアイリス、【カクテル】からギムレットさん、【ゾディアック】がらレーヴェさんの六人が集められた。
それぞれのギルドの最大火力保持者だな。【ザナドゥ】はゴールディだけど、魔法使いなので遠慮してもらった。【月見兎】も本当なら最大火力はリゼルだからな。
六人が一列になり、目の前に浮かぶリゼルの『魔王の王笏』をそれぞれ握る。
そして『魔王の王笏』に取り付けられたベルトを僕が持った。
「絶対に離さないで下さいよ。んじゃ……【加速】!」
僕が【加速】を発動した瞬間にリゼルはさらに『魔王の王笏』を浮かせ、六人の足は地面を離れた。
「うおっ!?」
「ひいっ!?」
まるで凧揚げをするかのように僕のスピードに六人が掴まった『魔王の王笏』がついてくる。
浮いている以上、重さはほとんどない。僕がロケット台となり、この最大火力保持者たちを白沢のところまで運び、全員でぶちかまそうってわけだ。
【神速】のスローモーションの世界では空中に固定された『魔王の王笏】を動かせないが、【加速】なら問題ない。
クレイゴーレムの隙間を最短距離で擦り抜ける。後ろから『危なっ!?』『もうちょい気をつけてよ!』などといった声が聞こえてくるがあと少しだけ我慢してくれ!
白沢がこちらに気付き、僕へ向けて再び波のような音が聞こえてきた。
『【遅延鈍波】』
「そう来ると思ったよ!」
僕の足の動きが鈍くなる。しかしもう射程距離内だ。
「後は頼んだッ!」
僕はベルトに繋がっている『魔王の王笏』を、思い切り投槍器のごとく【投擲】でぶん投げた。
今までの【加速】の勢いも合わせて、空中をとんでもないスピードで六人が飛んでいく。
「【剛剣突き】!」
「【龍覇断】!」
「【双烈斬】!」
「【サザンクロス】ッ!」
「【メガインパクト】ォ!」
「【穿孔拳】ッ!」
六つの戦技が加速された勢いで同時に白沢を襲う。白沢は反射魔法を使おうとしたようだが到底間に合わない。
『ガァッ!?』
ドドドドドドンッ! と、全ての戦技が決まり、白沢のHPが大きく下がる。
勢いがつき過ぎた六人は、そのまま白沢の背後へと吹っ飛んでいった。
僕が投げた『魔王の王笏』は反転してリゼルの下へと戻っていく。
「今だ! 魔法で畳み掛けろ!」
アレンさんの指示に、僕の背後から魔法をチャージして待ち構えていた魔法使いたちが一斉にその魔法を放った。
「【ファイアストーム】!」
「【アイシクルランス】!」
「【テンペストエッジ】!」
「【トールハンマー】!」
炎が、氷が、風が、雷が、うねるように混ざり合いながら白沢を貫く。
『グフォッ……!?』
凄まじい魔法の衝撃で地面からおびただしい土煙が上がる。
「さす、むぐっ!?」
「言わせへんでえ!」
さすがの白沢もこれには、と言おうとした僕の口をトーラスさんが塞ぐ。なんなんだよ、もう!
土煙が晴れたあとに現れた白沢はまだ立っていた。しかしながら、角は一本折れて、全身は傷だらけ。かなりの大ダメージを食らったと見える。
HPも四分の一ほどまで減っていた。
「【翠玉の雫】」
翡翠色の玉が白沢の頭上に現れる。マズい! また回復する気か!
「させるかあっ!」
「させません!」
白沢へ向けて、アレンさんとウェンディさんが盾を構えて全力で突っ込む。
「「【シールドバッシュ】!!」」
『ぬぐ……!』
ドドン! と白沢が後方に突き飛ばされる。翡翠色の玉から滴り落ちた雫が地面に吸い込まれるように消えた。
「回復する隙を与えるな!」
アレンさんの怒号に、プレイヤーたちが一斉に白沢へと襲いかかる。
それを食い止めようとクレイゴーレムたちが立ち塞がり、場は混戦の様相を呈してきた。
「【翠玉の】……』
再び白沢が回復しようとすると、そうはさせないとばかりにレンの糸が操る多数の魔導銃がマシンガンのように魔弾を連射した。
くっ、攻撃力が無くなった僕にできることは……!
「ミウラ!」
ミウラを呼びながらインベントリからマナポーションとスタミナポーションを取り出して一気に飲んで回復する。
「なに? シロ兄ちゃん」
「もう一回僕が白沢のところまで運ぶ。全力でぶちかませ」
「っ、わかった!」
ミウラが僕の背中に乗っかる。よし、いくぞ!
【加速】を発動し、立ちはだかるクレイゴーレムの間を高速で抜けていく。クレイゴーレムは動きが鈍いから避けるのはさほど難しくはない。
あっという間に僕らは他のプレイヤーと向かい合っている白沢の下へと辿り着いた。
「今だ、行け!」
「まかせて! 【狂化】!」
僕の背を踏み台にしてミウラが天高く飛ぶ。【鬼神族】の種族スキル【狂化】を発動したミウラの全身が、赤いオーラに包まれた。
「【大っ、回転斬り】!」
ギュルッとまるで回転ノコギリのように縦回転しながらミウラが白沢へと急降下する。
ミウラの【呪い】の指輪は、基本ステータスの攻撃力と防御力を逆転させるもので、【狂化】の効果は対象にはならない。今のミウラは基本防御力の数値が攻撃力になり、それに【狂化】の効果が上乗せされている状態だ。
「【因果の鏡】」
避けるそぶりも見せず、白沢は自らの目の前に薄い鏡を作り出す。
くっ、ミウラの攻撃を跳ね返すつもりか!? そうはさせるか!
僕は【加速】から【神速】に切り替えて、一瞬にして、反射魔法の鏡の前まで辿り着くと、全力の一撃を鏡に向けて放って【神速】を解除した。
スローモーションの世界が終わった瞬間、ドン! と鋭い一撃が鏡から自分に返ってきて、僕は後方へと大きく吹っ飛んでしまった。
吹っ飛びながらも、鏡が砕け散り、目を見開いて焦っている白沢の顔が見えた。ざまぁ……!
「ぶちかませ、ミウラ」
「だあぁぁぁぁぁぁっ!」
【狂化】で攻撃力が限界まで上がったミウラの【大回転斬り】が白沢の脳天に炸裂する。
次の瞬間、【Critical Hit】の文字がポップアップし、白沢のHPが大幅に減っていった。
『がっ……!』
このタイミングでクリティカルを出すとは、持ってるなあ……。
跳ね返された自分の攻撃にぶっ飛ばされた僕がなんとか立ち上がると、白沢も残りの角が折れ、満身創痍の姿を晒していた。
そこへギムレットさんとリンカさんが白沢の左右から駆け寄り、同じタイミングで金鎚を横に振るう。
「「【スイングハンマー】!!」」
『ギャフ!?』
二つのハンマーを挟まれるように食らった白沢がよろめいて倒れる。
HPがとうとう瀕死状態に突入した。やった!
僕らが喜んだのも束の間、小さな地鳴りのようなものが起こり、白沢がゆらりと立ち上がる。その身からは赤いオーラがほのかに揺らめいて漂っていた。
『よくぞ、ここまで……。最後の試練ぞ、超えてみせろ!』
白沢から静かだが、重い声が響き渡る。
次の瞬間、白沢の持つ九つの眼からレーザービームのような光線が放たれた。
「ぐはっ!」
「ちょっ……!」
「うぐっ!?」
そのレーザーは確実に周囲にいた九人のプレイヤーを貫き、貫かれたプレイヤーたちはその場でパタリと倒れてしまう。おい待て、HPが0になってる!?
「まさか……【即死】か!?」
白沢の白かった毛が金色に輝いている。あれじゃ白沢じゃなくて金沢……いや、それじゃ金沢になるな……。
そんなどうでもいいことを考えていたら、すぐさま二発目のレーザーが飛んできた。げっ、こっちに……! ターゲットは僕か!?
「くっ……【神速】!」
僕へ目掛けて飛んできた【即死】のレーザーを、スローモーションの中ギリギリで躱す。
危っぶな!? これ、ほとんど避けられないだろ!
おそらくこのレーザーって、白沢が『見た』相手を即死させるものなんだろう。くそっ、反則すぎる!
「あっ!?」
僕が【即死】のレーザーを躱し、ひと安心していると、視線の先にレーザーを受けて倒れるアレンさんの姿が。
盾を構えていても【即死】レーザーは関係ないのか!?
倒れたアレンさんの全身から色彩が消え、灰色になってカウントダウンが始まる。くっ、間に合え!
僕はインベントリから『ネクタル』を取り出し、【投擲】で死んでいるアレンさんへとそれを全力で投げる。
パァン! と音がして、霧状になった『ネクタル』が死んでいるアレンさんを包んた。
「……ぷはっ!?」
色彩の戻ったアレンさんが目を見開き、大きく息を吐き出した。よし! さらに投擲ハイポーションを投げ、HP1状態から回復させる。
「た、助かったよ! ありがとう!」
起き上がり、そう言いながらアレンさんはインベントリからポーションを取り出してがぶ飲みしていた。
死ぬとHPどころか、MPもSTも1になるからな……。
「立ち止まらないように! 動いていれば簡単には捕捉されません!」
セイルロットさんの声にみんなが動き出す。レーザーが来た、と思ってから動いたのではどうしても躱すのに間に合わない。常に動き、捕捉されないことが肝心だ。
だが、AGIが低かったり、STが減るとどうしても動きが鈍る。
三度目の【即死】レーザーでまた何人かの犠牲者が出た。
復活薬のレシピを公開していたのが幸いし、それを所持していた何人かのプレイヤーは死んだ仲間を復活させていた。
といっても復活薬にも限界がある。あの【即死】レーザーをなんとかしないと……!
『グッ!?』
突然、白沢の横腹にある三つの眼のあたりに何か球のようなものが当たる。それは白沢に当たると、パン! と弾け、中から飛び出した粘液のようなものが白沢の身体にまとわりついた。
三つの眼がベトッとしたもので見えなくなっている。
「どや! フォレストスパイダーの粘着糸から作ったトリモチ弾やで! これで【即死】の邪眼は使えんやろ!」
振り返るとパチンコを構えたレンの横に、般若の面のトーラスさんがいた。そうか、トーラスさんは【アイテム使用不可】だけど、他のプレイヤーに譲渡するのは問題ないのか。
白沢の左腹の三つの眼は、蜘蛛の粘着糸で塞がれて機能していないようだ。
「シロちゃん! こいつを!」
トーラスさんから今飛ばしたのと同じ球を投げ渡される。っ……! よし、任せろ!
「【神速】!」
トーラスさんの意図を理解した僕は、白沢へ向けてスローモーションになった世界の中を全力で走り抜ける。
そして白沢の前までたどり着くと、トーラスさんからもらった粘着糸の球を、逆サイドの胴体へと力一杯叩きつけた。
離脱の際に後ろ脚の一つを斬りつけるだけ斬りつけて、その場を離れる。
【神速】を解除すると、白沢の右側の胴体にあった三つの眼も粘着糸で塞がれ、右後ろ脚に斬撃がいくつか入る。
『ギッ……! 猪口才な!』
僕目掛けて両眼と額の第三の眼から【即死】ビームが放たれる。ヤバい、至近距離……! 【神速】でもこれは……!
ドン! と撃たれたような衝撃が来たかと思ったら、目の前が真っ赤になり、HPが一瞬で0になってしまった。くそ、食らってしまったか……!
そのまま倒れた僕の視界は灰色の世界となり、目の前に三十秒のカウントダウンが始まった。
が、すぐに、パン! という、なにかが割れる音とともに灰色の世界もカウントダウンが消え、真っ赤な世界ではあるが、HPが1の状態で復活する。
動けない身体の状態でなんとか確認すると、アレンさんが復活薬を投げてくれたようだった。
「借りは返したよ」
「返すの早いっすねえ……」
続けて、パンパンパン! とアレンさんを含め、トーラスさん、ウェンディさんの三人から投擲ポーションが飛んできた。ありがたい……!
白沢の方はメイリンさんやレーヴェさん、ミヤコさんなどの敏捷度メインのアタッカーたちが、【即死】レーザーに当たらないように動きまくって攻撃を加えていた。
今のうちにとマナポーションとスタミナポーションをがぶ飲みする。
九つから三つまで減ったが、未だ健在の【即死】レーザーでまた一人、また一人とプレイヤーがやられていく。何人かはネクタルで復活していたが、それももう尽きるだろう。
白沢のHPは確実に減っている。瀕死状態に突入して防御力が少しは上がったのかもしれないが、両面宿儺や酒呑童子に比べると、あいつはそこまで硬くはない。
あともう少しなんだ。絶対に倒す!
「シロさん!」
「レン?」
呼びかけられて振り向くと、後方に控えていたレンがこちらへと走ってくる。
「私を白沢の近くまで連れて行って下さい! そうすれば……!」
レンの説明を聞き、僕はすぐにレンを背中に背負って走り出した。すっかり運び屋になってしまったな……!
「しっかり掴まってろ!」
「はい!」
クレイゴーレムと戦うプレイヤーたちを横目に白沢の下へと【加速】する。
途中、白沢から【即死】レーザーが飛んできたが、ギリギリでなんとか躱した。
僕らが何かを狙っていると感じたのか、向こうからミヤコさんが【縮地】を使って同じように白沢に向かっている。
もう少し……! よし、この距離なら────!
「今だ、レン!」
「【操糸】!」
『なっ!? ぐうっ!?』
白沢の両腹にへばりついた粘着糸から、しゅるると細い糸が動き出し、あっという間にその四肢をぐるぐるに巻いて動けなくしてしまった。
『裁縫師』であるレンのジョブスキル、糸を自由に操る【操糸】だ。
能力の射程距離は短いが、こうして相手を拘束させることもできるんだ。
「ミヤコさん!」
「【】!」
『ぐうぅぅぅっ!?』
動けなくなった白沢へ向けて、【呪い】で沈黙状態のミヤコさんが刀術の戦技を繰り出した。
前脚後脚を縛られて倒れた白沢が、首をミヤコさんの方へと向け、その三つの眼から【即死】レーザーを放とうとする。
ミヤコさんの愛刀、『千歳桜』から桜の花びらのような火の粉が辺り一面に舞い、眩いばかりの閃光と桜吹雪が僕らの視界を奪った。