■179 状態異常オンパレード
「【】!」
「【】!」
白沢に空中に飛び上がったミウラが攻撃を仕掛ける。
それと同時に後方からレンの魔導銃が放たれた。タイミングバッチリの見事なコンビネーションである。
が、白沢はそれに気付くと、大きく横へと跳んで、どちらの攻撃も躱す。躱したところへさらに他のプレイヤーに攻められて、さらに後方へと跳び退いた。
「あっ」
「どうやら解除されたみたいだね」
その瞬間、アレンさんと僕の周囲に音が戻った。さっきまで全く何も聞こえない無音の状態だったのに、白沢が遠ざかったことにより解除されたらしい。あの無音攻撃は地味に厄介だな。また食らったらすぐに白沢から離れた方がいいと思う。
『ゴ』
「おっと」
襲ってくるクレイゴーレムの攻撃を躱し、一撃を入れてその横をすり抜ける。繋がるようにアレンさんがさらに一撃を加え、クレイゴーレムは粉々に砕け散った。音が戻った以上、もう不意打ちはきかないぞ。
どうやらさっきの氷の針の雨で、クレイゴーレムもダメージを受けていたらしい。最初のやつより脆い感じだ。
僕が白沢の方へ視線を向けると、ヤツの周囲にいたプレイヤーがパタパタと倒れている。今度はなんだ!?
「【睡眠】の状態異常だ! 叩き起こせ!」
どこからか聞こえた声に、倒れているプレイヤーに他のプレイヤーたちが遠慮のない一撃を入れていく。
【睡眠】はその場で眠ってしまう状態異常だが、これがけっこうVRで体験するとなかなかに怖い。なにせ画面がブラックアウトして、声が遠くからうっすらと聞こえるような感じになるのだ。一瞬、VRドライブが故障したかと思っちゃうよね。
【睡眠】の効果は比較的、治すのが簡単である。一定の数値を超えるダメージを入れればいいだけだ。それで相手は覚醒する。
ところがこの一定の数値というのがクセ物で、弱い一撃だと効果はない。そこそこ強い一撃が必要なのだ。
このため、【睡眠】の状態異常を持っている弱いモンスターなんかにやられると、寝ている間に弱い攻撃を繰り返し受け、起きることなく死んでしまうこともある。
だから寝てしまったプレイヤーを起こすには、あのように容赦ない一撃を食らわせる必要があるのだ。おお怖わ……。
ちなみにこれは同じギルメンじゃないとPK扱いされてしまうので注意が必要だ。
もしも今、僕が寝てしまってプレイヤーから一撃をもらうと、ベルトの呪いの効果でさらに追加ダメージが来る。それは勘弁してもらいたいところである。
さらに言うなら十五歳以下のプレイヤーには同じギルメンでも攻撃はできないから、レンたち年少組が寝てしまうととてもマズいことになる。
一応【睡眠】は時間経過でも解除はするけど、そのためにはずっと守り続けないといけないからなあ……。
「うっ!?」
「がっ!?」
寝てしまったプレイヤーたちを他のプレイヤーたちが攻撃して叩き起こしている。
いや、絵面がまるでトドメを刺しているみたいなんだが……。寝ている人にバトルアックスを叩き込むなんて、ちょっと夢に見そうな残酷シーンだ。
え? あっちの人はサッカーボールみたいに蹴り飛ばしているんですけど……。ああ、毒とかの付与武器持ちだから、【蹴脚】でダメージを与えているのか。やっぱり絵面が悪すぎる。
「やっぱり状態異常が面倒ですね」
「耐性スキルがある者はなんとかなるけど、それでも全ての状態異常を防ぐことはできないからね」
状態異常を防ぐ耐性スキルなら、【月見兎】ではシズカの持っている【壮健】が一番汎用性が高い。
とはいえ、【壮健】でも状態異常にかかりにくくなる、というだけで、全く無効にできるわけじゃない。
そもそも『状態異常無効』なんてスキルがあったら、呪いの装備も身につけられないし。
通常、モンスターが使ってくる状態異常はせいぜい一つか二つだ。
これがボスモンスターになると三つ四つと増えてはいくが、あきらかに白沢はそれの上をいっている。
【失明】、【毒】、【燃焼】、【睡眠】の他に、スキル封印や広範囲の音を消す状態異常まで操る。
「うあっ!?」
「マズい! 【石化】だ!」
一人のプレイヤーが足下から石に変わっていく。あいつ、【石化】まで使うのか!
【石化】はマズい。なにがマズいかって、治す方法が『神聖魔法(中級)』の【解呪】しかないのがマズい。あれは【呪い】のカテゴリーなのだ。
僕の双銃剣ディアボロスのランダム付与でも発動することがあるが、【石化】してしまうと、【解呪】スキルか『聖水』などで呪いを解くかしかない。
大抵のプレイヤーは諦めて、石化したままゆっくりとHPが減って死ぬのを待つか、わざと仲間に壊してもらって死に戻りしたりする。
だけど死に戻りしてもデスペナ状態ではここに再び戻ってきても戦力にはならないだろう。
あれ? ひょっとしてデスペナ状態って、状態異常になるのか……?
すべてのステータスが半減している状態ってかなりキツい状態異常だけれども。
石化したプレイヤーはそのままでいることを選んだようだ。こうなると後は完全にただの観客である。【解呪】してしまうと白沢戦がリセットされてしまうからな……。
白沢が第三の眼から青白いビームを放ち、それを受けてしまったプレイヤーが足下から石になっていく。また一つ石像のできあがりだ。
どうやら【石化】は乱発できないようだが、確実に一人は消される。
複数同時に発動もできないっぽいが……。そりゃそうか。あんなの同時に全員にやられたらどうやっても勝てないだろ。
あの石化ビームに当たりさえしなきゃいいなら、まだなんとかなるか?
『【放雷花】』
白沢が真っ白な毛を逆立てて、周囲にピンポン玉ほどの光球を無数に放出した。
風に漂うようにふわふわと空中に浮かぶそれにプレイヤーが触れた瞬間、パチリと小さな音がしたかと思ったら、その場に盛大にぶっ倒れた。くっ、今度はなんだよ!?
「【麻痺】だ! その光球に触るなよ! 動けなくなるぞ!」
今度は【麻痺】かよ! ホントに状態異常のオンパレードだな……!
「くそっ、こいつが邪魔で近寄れねえ!」
ガルガドさんが漂っている光球を避けながら、白沢を追いかけている。
追尾してくるわけでも、進んでくるわけでもないが、その場にとどまっているだけでもかなり行動が制限される。
漂う高さも地上三十センチくらいの低いものから一メートルくらいの高いものまで様々で、避けて進むのが難しい。
なにげにこれは僕のような素早さ重視のプレイヤーには厳しいと思う。移動範囲を狭められてしまうからな。
幸い、麻痺の光球は接触すれば消えるっぽいので、なにかを投げ当てて消滅させることはできるようだ。
武器などを手に持って斬りつけても麻痺してしまうのがいやらしいところだ。
小石などをぶつければいいのだけれども、わずか四、五センチほどの球に当てるのは、【投擲】スキルでも持っていないと難しい。
「くそっ、めんどくせぇことしやがって!」
【カクテル】のキールさんが、インベントリから何か白い粉のような物を撒き散らかして、光の球を消していた。
「なんですか、それ?」
「塩だよ! 【錬金術】には必須アイテムだから、山ほど持ってる!」
錬金術師のキールさんがまるで除霊するかのように塩を撒き散らかしている。
おかげで光の球がだいぶ減った。あんな小さな粒にでも反応して消えるのか。
白沢は再びクレイゴーレムを喚び出し、プレイヤーの一人に石化ビームを放っていた。
くそっ、このままじゃジリ貧だぞ……!
「キールさん、いつもの炸裂弾とかないんですか?」
「あるか! 酒呑童子戦で使い切っちまったのを補充するつもりだったのに、その暇もなく白沢戦を持ってきたお前が言うなってんだ、この野郎!」
怒られた。えー、見つけたくて見つけたわけでもないし、早く討伐しないと先に取られるからって言い出したのも僕じゃないぞ。
『【紅蓮炎】』
「うおっ!?」
「危なっ!?」
言い争いをしていた僕ら目掛けて白沢の吐いた火炎の息が襲ってきた。
僕らは互いに弾かれたように左右に分かれ、その直撃を避ける。
くそっ、やられっぱなしじゃいないぞ!
「【加速】!」
【神速】まではギアを上げず、【加速】のスピードで白沢へと迫る。攻撃が届くところまで来たその時、
『【遅延鈍波】』
白沢から波のような音が響いたと思ったら、その瞬間に急に足が重くなった。
【加速】の効果が消されている!? これは……【速度低下】の状態異常か!
【加速】を使っているため、それでも普通のスピードで走れてはいる。走れてはいるが……!
「じ、【十文字斬り】!」
僕の放った左右縦横の斬撃を、白沢は軽いステップでひらりと躱し、一旦溜めてから弾けるように体当たりをかましてきた。
「ぐっ!?」
吹っ飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。その間にも呪いのベルトがぎゅうぎゅうと僕を締め付け、さらにダメージを加えてきた。
ベルトの効果で僕の防御力は半分になっている。ただの体当たりでこのザマだ。ヤバい……。瀕死状態に入った……!
「シロさん!」
レンが駆け寄ってきて、【回復魔法】のヒールをかけてくれた。
レンは【回復魔法】を持ってはいるが、初級のみで、熟練度も高くない。どちらかというと生産職の方にスキルが傾いているからな。
なんとか瀕死状態を脱した僕は起き上がって、自前のポーションをぐいっとひと飲みする。
正面では白沢の追撃を警戒して、ウェンディさんが大盾を構えていてくれていた。
「【トールハンマー】!」
【ザナドゥ】のゴールディの雷撃に、白沢は僕への追撃を諦め、後ろへと跳び下がった。
そこへ【スターライト】のメイリンさんが白沢へ向けて肉薄する。
「【螺旋掌】!」
『【遅延鈍波】』
まただ……! 僕の時と同じように、メイリンさんの動きが急に鈍くなり、その攻撃は白沢にあっさりと躱されてしまった。
そして僕と同じように溜めからの体当たりでメイリンさんが吹っ飛ばされる。
さっきは見えなかったが、メイリンさんが遅くなる前に、白沢から光る波のようなものが放たれていた。あれに当たると速度が落ちるのか?
「「「【アイスウォール】!」」」
【スターライト】のジェシカさんを含めた三人の魔法使い職から魔法が放たれる。生み出された氷の壁が、トライアングルの形に白沢を囲い込んだ。
突然の魔法に白沢を攻撃しようとしていた前衛職の足が一瞬止まったが、ある方向を見てすぐに状況を察し、蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。
視線をそちらに向ける僕の目に飛び込んできたのは、『魔王の王笏』を天に構え、バチバチと弾ける無数の光の球を呼び出しているリゼルの姿だった。
「最大出力の……! 【スターフレア】!」
キュオッ、とガラスを擦るような音がしたと同時に、氷の壁で囲まれた白沢目掛けて無数の光の球が降り注ぐ。
そして連鎖して響き渡るいくつもの爆発音。時間にすれば五秒足らずの時間だが、とてつもない小爆発の嵐が白沢を襲った。
もうもうと土煙が巻き上がり、爆心地の様子はまだ見えない。
「……やったか?」
「シロちゃん、それ言うたらあかん!」
トーラスさんからわけのわからないツッコミが入る。え? なんの話?
『【風刃乱舞】』
突然、土煙を斬り裂いて、いくつもの風の刃が周囲に放たれる。
「ぐっ!?」
「うあっ……!」
距離を取っていた僕は何とか避けることができたが、近距離にいた前衛職の何人かはまともに攻撃を食らってしまった。
「シロちゃんが余計なこと言うから!」
「なんで僕のせい!?」
トーラスさんになじられるが、意味がわからん。
立ち込めていた土煙が消えた中から、光の球体に包まれた白沢が現れる。よく見ると球体の表面には連なった六角形の模様が浮き出ていた。ハニカム構造のような模様だ。ひょっとしてあれってバリアのようなものか? あれで【スターフレア】の攻撃をしのいだのだろうか。
HPを見る限り完全には防げなかったようだ。多少は削ったようで、HPの残量は、半分近くにまで迫っている。
『【翠宝の雫】』
白沢の頭上に綺麗な翡翠色をした球が現れ、そこから大きな雫が一滴滴り落ちる。
ぴちょん、とその液体が白沢の頭に落ちると、みるみる間にヤツのHPが回復していく。
「回復した! ズルい!」
ミウラが白沢に向けて文句をつけるが、やめろって。僕らにそれを言う資格はないだろ。散々回復しまくってるわけだし。
白沢のHPは、結局四分の三ほどまで回復してしまった。リゼルの【スターフレア】も無駄になってしまったな。
この白沢ってモンスターは多彩な魔法を操る。まさか回復魔法のようなものまで使うとは。酒呑童子の金の瓢箪の時のように、アイテムによる回復ならまだなんとかなるが、個体の能力となるとな。
魔法を封じるか、回復させる隙を与えないほどの攻撃を続けるか、あとはMPを空にさせる、とかか?
いくら中ボスモンスターだとはいっても、無限に魔法を使えるわけじゃないと思う。どこかに限界はあるはず。その限界が見えないってのが問題なんだが……。
『【霧氷雨】』
な、また氷の雨か!? マズい! あれは躱しきれない上に、ベルトの【呪い】効果でさらに追加ダメージが来る!
ウェンディさんはレンを抱えて盾を上に構えているし、近くに傘になってくれそうなアレンさんや盾職もいない。……くそっ、仕方ない!
「【神速】!」
スローモーションになった世界で、氷の針がゆっくりと降ってくる。
間隔が狭すぎて避けることはできないが、これなら弾くことはできそうだ。
左右に持った双銃剣ディアボロスで落ちてくる氷の針を弾き飛ばして方向を変える。
【飛び道具自動防御】が付与されたマフラーも一緒になって、ペチペチと氷の針を叩き落としていた。全ての針の方向が逸れたところで【神速】を解除すると、氷の針はまるで僕を避けるかのように落ちていった。
危なかった。……あれ? 【神速】中にインベントリからなにか盾になるような物を出してしのげばもっと楽だったかもしれん。まあ、ノーダメだから結果オーライだろ……。
いや、【神速】のせいでHP、MP、STが減ってるんだからノーダメじゃないわ。
【神速】を使わなければ、MPとSTは減らなかったんだから、そっちの方が被害は少なかった可能性まである。
自分の判断ミスに自己嫌悪しながらも各種ポーションを飲んでステータスを元に戻す。
その間に【雷帝】ユウが放った雷の槍が、白沢を守るクレイゴーレムを吹き飛ばした。
そしてそのゴーレムが吹き飛んだ道を【縮地】を使ってパッパッパッ、と突き進んだミヤコさんが、火属性の刀である『千歳桜』を白沢へと振り下ろした。
突然の襲撃に白沢は身を躱そうとするが、一歩間に合わず、焔を纏った斬撃をまともに食らう。
おっ、クリティカルヒットが出た! けっこう削れたぞ。さすがミヤコさんだな。
『【鬼岩壁】』
さらに追撃をかけようとするミヤコさんの前に突如として岩の壁が盛り上がり、『千歳桜』の斬撃を防ぐ。その間に白沢は後方へと逃げてしまった。
さらにそこから白沢が石化ビームを放つ。それをプレイヤーの一人が受けてしまって、石化が始まってしまった。
『【風刃乱舞】』
再び風の刃が僕らを襲う。こいつは数が多いが、ダメージはそこまででもないようだ。って、僕が受けたら大ダメージになるので、アレンさんのようにダメージ覚悟で突っ込んでいく事はできない。
「【ソニックブーム】!」
アレンさんの放った【ソニックブーム】を、白沢が余裕を持ってジャンプして躱す。
しかしそのジャンプした空中には同じ【スターライト】の【拳闘士】、メイリンさんが待ち構えていた。
「そう避けると思ってたよ! 【鷲爪脚】!」
メイリンさんの足から放たれた真空の刃が白沢を捉え、地面へと叩き落とす。
アレンさんの【ソニックブーム】は誘いだったのか。
地面に落とされた白沢へ、再びアレンさんが攻撃を仕掛ける。
「【ラッシュスパイク】!」
【剣術】スキルの戦技、【ラッシュスパイク】。突きによる連続攻撃だ。倒れている白沢ではこれは躱せまい。
『【因果の鏡】』
「がっ……!?」
っ!?
攻撃を仕掛けたアレンさんの方がなにかの攻撃を受けてその場にくずおれる。
白沢の前にはいつの間にか薄い水のような膜が張られていた。
まるで鏡のような……。っ、まさか、アレンさんの攻撃を跳ね返したのか!?
パリンと薄い鏡が砕け散る。
「反射魔法まで使うとは……! 白沢はいったいどれだけの技を持っているのか……!」
セイルロットさんが白沢を睨みながらそんなことを漏らした。
確かに白沢は今までの八魔将に比べて圧倒的に攻撃方法が多い。
酒呑童子や両面宿儺のように一撃がでかい攻撃はそれほどないが、それよりも攻撃を受けると付与される状態異常が厄介過ぎる。
【呪い】以外を解除・回復するアイテムはそれなりに用意してきたが、このままではそれも尽きてしまいそうだ。
みんなもそう考えたのか、毒や失明など、時間とともに自然に治る状態異常は、戦線離脱してしばらく放置しているため、どうにも攻撃の手が緩くなる。
しかもあいつ、相手によって与える状態異常を使い分けてないか?
素早い僕に遅延効果を付与したように、魔法使い系には呪文阻害、一撃がでかい大剣使いや斧使いには命中率低下、物理防御力の高い盾職には毒、といったように。
やっぱりあいつって中身がAIとかじゃなくて、宇宙人なんじゃ……。いや、AIでもそれくらいはやるか? 真紅さんだってほとんど人間と変わらないような思考してるしな……。
そもそもこの『DWO』自体が宇宙人の力を借りて作られたゲームなんだから、そこを気にしても仕方ないか。
「【ライトニングアロー】!」
「【爆雷】」
「【サンダーレイン】!」
【六花】のリリーさんと【雷帝】のユウ、そして【ザナドゥ】のゴールディが、立て続けに雷撃系の攻撃を白沢へ向けて放つ。
リリーさんとユウの攻撃はなんとか躱した白沢であったが、ゴールディの【サンダーレイン】を躱し切れず、ダメージを受ける。
その時、一瞬だけ【麻痺】のアイコンが浮かび、白沢の動きが止まる。だが、それもすぐに消えてしまった。
やはり白沢は状態異常にかかってもすぐに回復するらしい。
しかし僕はその一瞬の行動停止を見逃さずに攻撃に入った。
「【一文字斬り】」
『【因果の鏡】』
白沢が僕の前に反射魔法を展開する。そう来ると思ってたよ!
「【神速】!」
【一文字斬り】をキャンセル、【神速】を発動し、ゆっくりとなった世界で僕の前に現れた水のような膜を迂回する。
白沢は反射魔法で防御したと、完全に油断していたことだろう。これは滅多にないチャンスだ。だからここで────!
「【分身】! からの……!」
余力を残し、六人に分かれる。反射魔法を展開している場所を除いて、六人の僕が白沢を取り囲んだ。
「【双星斬】!」
六人の僕が左右五連撃、計六十もの斬撃を加える。
ピロリロ、と双銃剣の追加効果で、【呪い】が付与され、状態異常のアイコンが三つ浮かんだ。
【燃焼】、【失明】、【石化】。【神速】を解除すればすぐに消えるだろうが、一瞬でも動けなくなれば御の字だ。
【分身】を解除、【神速】によってその場を離脱する。
視線の先には魔法をチャージしたままのリゼルの姿。
ユウたちに続けとばかりに放とうとしたが、僕が飛び出したので止めたのだろう。
【神速】を解除し、ダメージを受けて一瞬だけ状態異常となった白沢が動きを止める。
「やれっ、リゼル!」
「っ! 【フレアインパクト】!」
【スターフレア】と【エアインパクト】の合成魔法が『魔王の王笏』から放たれる。
いくつもの流星のような火の球が白沢目掛けて集中し、まるでハンマーのようになって炸裂する。
【スターフレア】は小さな爆発の連続、という感じだったが、こっちはそれらが同時に爆発した一点集中の一撃、と言った感じだ。
轟音とともに地面が爆発したかのように吹き飛び、土煙が舞い上がる。
「さすがの白沢もこれなら……」
「だから、そういうの言うたらあかーん!」
ええー……? トーラスさんのわけのわからないツッコミに辟易しながらも晴れていく土煙を注視する。
あの攻撃で倒せるとは思わないが、けっこうなダメージを与えたんじゃないか?
だが、またあのハニカム模様のバリアで防がれている可能性もある。
土煙が晴れていくと、意外なことに白沢はバリアを張ってはいなかった。HPも僅かに半分以下にはなっている。まさか……!
『くく……。我をここまで追い詰めたことは褒めてやろうぞ』
そう言い放った白沢の頭部からニョキニョキと牛のような角が伸び始め、胴体の左右にさらに三つづつ、計六つの眼が出現していた。両眼と額の眼を合わせて九つの眼が僕らを見据える。
酒呑童子とかと同じHP半減によるパワーアップか……!
こいつ、ひょっとしてそのために今の攻撃をわざと喰らったのか?
そんな疑問を僕が脳裏に浮かべた次の瞬間、白沢の九つの眼から周囲へ向けて、眩いばかりの光が放たれた。