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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第一章:DWO:第一エリア
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■017 図鑑入手

やっとタイトル通りになりました。




 

 始まりの町、フライハイトは噴水広場を中心として、四つの区画に分けられている。北区にはポータルエリアがあり、南区には職人たちの共同工房がある。西区には素材屋などの商店街が並び、東区には住宅街が多い。

 僕がいつも常宿にしている宿屋は東区にある。そして、バラムさんの本屋も東区に建っていた。

 こじんまりとした店が、通りから少し外れた場所にひっそりと建っている。パッと見、本屋とは思えない感じに地味な店構えだ。

 扉を開けると、控えめなドアベルが鳴って、奥のカウンターにいた【竜人族ドラゴニュート】のバラムさんが顔を上げた。


「いらっしゃい。ああ、お前さんかい。よく来たね」

「どうも。こんにちは、バラムさん」


 僕が挨拶すると同時に、ポーン、という音と共にウィンドウが開いた。


─────────────────

★クエストを達成しました。


■個人クエスト

【本屋へ行ってみよう】

 ■達成

 ■報酬 1000G

─────────────────


 あれ、もうクエスト達成か。まあ、「行ってみよう」としか書いてないしな。少しだけどお金が入った。


「何か入り用かね?」

「あ、はい。実は図鑑を探してまして。ありますかね?」

「ああ、あるよ。ほら、そこの本棚じゃ」


 バラムさんの指し示した本棚に分厚い本が何冊か並んでいた。近寄って見てみると、背表紙に「魔獣図鑑」「植物図鑑」「鉱石図鑑」「薬品図鑑」とか、いろいろなタイトルが並ぶ。どれもこれも一巻しかないが。どうやら第一巻は第一、第二エリアに関しての図鑑のようだった。

 価格は、っと……一冊10000Gかよ! けっこうするなあ……。でも必要っちゃ必要だし……。仕方ない。原木を売ってお金ならけっこうある。全部買ってしまえ。

 必要と思える図鑑を何冊か持って、カウンターにいるバラムさんのところへ持っていく。


「ずいぶんと買うんじゃな。お前さん学者にでもなる気かい?」

「まあ、いろいろと必要に駆られましてね」


 学者になる気はないが、一応ひと通りは読まねばなるまい。覚えなくても一度読みさえすれば、【鑑定】が教えてくれるだろう。


「ああ、そうだ。お前さんに頼みがあるんだが、いいかね? もし聞いてくれるのなら、少し安くするし、もう一冊図鑑をおまけするが」

「なんです? 僕にできることならいいんですけど」

「なに、難しいことじゃない。手紙を届けてほしいのさ。ブルーメンの町にいる知り合いにね」


 再びポーン、という音と共にウィンドウが開く。


─────────────────────

★クエストが発生しました。承認しますか?


【YES】【NO】


■個人クエスト

【バラムの手紙をブルーメンへ届けよう】

 □未達成

 □報酬 ???

 □期限/無期限


─────────────────────


 またか。連鎖式のクエストなのかな?

 まあ、手紙を届けることぐらいなんでもないし、どうせ今週末にはエリアボスと戦うんだ。運がよけりゃ、その足で第二の町・ブルーメンへと辿り着ける。僕は迷わず【YES】を選んだ。


「構いませんよ。近々ブルーメンには行こうと思ってましたから」

「そうかね。ありがとう。これが手紙じゃ。よろしく頼むよ。それと……」


 バラムさんは机の中から一枚の手紙を取り出し、それからカウンターの奥にあった古そうな本を引っ張り出してきた。


「これがお礼の本じゃ。珍しい魔獣を集めた図鑑……らしいぞ。うちには一冊しかないもんじゃが、持っていくといい」

「いいんですか? 貴重な本なんじゃ……」

「ははは。貴重かどうかはわからんのう。その本に載っている魔獣は聞いたこともないからの。存在してるかどうかさえわからんし」


 ふむ。これはレアモンスターの図鑑なのかもしれない。単なる偽書って可能性もあるが、ありがたくいただいておこう。

 手紙と図鑑を受け取り、お金を払ってインベントリへと収納する。おまけで渡された図鑑は「幻獣図鑑」となっていた。こっちは全一巻なんだな。

 バラムさんの店を出て、一旦ポータルエリアのある北広場へと向かう。

 広場に設置してあるベンチに腰掛けて、買った「魔獣図鑑」を取り出した。

 独特のタッチで描かれた絵に、名前と簡単な習性、生息地域などが書かれている。


「なるほど、それぞれの領国ごとに分類されているのか」


 僕の買った【怠惰】編は、っと……ふむふむ、【一角兎】、【グレイウルフ】、【水晶鹿】、【フォレストスパイダー】、【ブラックウルフ】、【デストリッチ】、【ステルスシルクワーム】……ここらは戦ったことのあるヤツだな。

 この【レインキャット】って大型の猫みたいなのは見たことがないな。

 雨の日によく現れる……か。そりゃ見たことないはずだ。僕はまだゲームの中で雨の日にあたったことがないし。


「おっと、これが第一エリアのボス、【ガイアベア】か」


 本のページをめくる手を止める。熊の魔獣である。体の所々に岩で作られた鎧のようなものをまとい、長い爪とモヒカンのような毛が頭頂部から尻尾にかけて走っている。

 性格は極めて凶暴。動きはそれほど素早くはないが、強烈な一撃を繰り出してくる……アレンさんの情報通りだな。

 その後も、おそらく第二エリアにいるだろう魔獣を1ページ1ページ確認していった。あ、【雷熊かみなりぐま】がいる。こいつにはリベンジしたいなあ。第二エリアでもかなり強い方らしいが、いつかきっと……。

 本を読んでいるうちにいつの間にかデスペナが消えていた。あ、もう一時間経ったのか。

 と、その時、レンから個人チャットが送られてきた。


『シロさん、今どこですか?』

『今? ポータルエリア広場のベンチにいるけど』

『あ、じゃあ今から行くんで待ってて下さい』


 なんだろ? 今日はミウラがログインできないんで、服飾生産の方をやるとか昨日言ってたのに。素材が足りなくなったのかな?

 ベンチに腰掛けてしばらく待っていると、向こうからレンとウェンディさんがやってきた。


「すみません、お待たせして……。わ、素敵なバッジですね」

「ああ、これ? さっき知り合いのプレイヤーから買ったんだよ。AGI(敏捷度)とDEX(器用度)が上がるんだ」

「へえー。私も欲しいなぁ」


 目ざとく胸元のバッジを見つけたレンがいろんな角度からこちらを見上げてくる。


「お嬢様、本題の方を」

「はっ、そうでした。ええとシロさん、これを受け取って下さい!」


 僕とレンの間にトレードウィンドウが開く。その項目には『レンのロングマフラー』と表示されていた。


「マフラー?」

「わ、私が一人で作ったんです。シロさんに似合うかなあって思って。付与効果も少し付いたんですよ。品質を上げるために何回も作り直したりしたんで時間がかかっちゃいましたけど……」

「へえ」


 もじもじと照れるレンのトレードウィンドウからマフラーを受け取り、さっそく装備してみる。アクセサリー扱いなんだな、これ。


────────────────────

【レンのロングマフラー】 Xランク

 AGI(敏捷度)+9


■レンのお手製マフラー。

わずかだが気配を隠す効果がある。

□装備アイテム/アクセサリー

□複数効果無し/

品質:HQ(高品質ハイクオリティ

────────────────────


 気配を隠す効果? ああ、ひょっとしてこのマフラー、ステルスシルクワームの糸から作ったのか。なるほどな。しかし……。


「これ、ずいぶんと長いね……」

「あう」


 ロングマフラーなんだから仕方ないかもしれないが、ふくらはぎあたりまである。そして白地のマフラーの端の方には、兎の横顔が描かれていた。なんとも可愛らしいが、少し恥ずかしいかもしれない。

 だけどあくまでゲームの装備なのだからどんなに激しい動きをしてもずり落ちたりしないし、さほど邪魔にはなるまい。それになかなかの効果だし。

 何よりわざわざ僕のために頑張って作ってくれたのは普通に嬉しいしな。さすがの僕でもこれはプレゼントだとわかるので、「いくら?」などと聞く気はなかった。


「頑張って作ってくれてありがとう。大事に使わせてもらうよ」

「あ、はい! 熟練度が上がったらまた改良していきますんで!」


 嬉しそうに笑うレンの頭を撫でる。いい子だな。

 買ったばかりのバッジもマフラーの首元につけ直す。うん、意外と馴染むな。それを見ていたレンが嬉しそうに微笑む。

 しかし、ほんわかしていた僕の気持ちをぶち壊すかのように、そこへ無粋な笑い声が聞こえてきた。


「おい、見ろよあれ。笑える」

「長っ。なにあれ?」

「ウサギのマークが付いてるぜ? ダサっ」


 三人組の男たちがこっちを見て笑っていた。【竜人族ドラゴニュート】、【獣人族セリアンスロープ】、【夜魔族ヴァンパイア】のパーティだ。しっかりとした装備をしているところを見ると、そこそこのレベルらしい。


「ネタ装備にしちゃ、芸がねえな。もっと『痛マフラー』な感じにしねえと」

「バカ、あの子供が作ったのだろ? そこまでの熟練度がないんだって」

「いやいやなかなかのセンスだって。あんなの作ろうと思っても作れねえよ」


 わざとなのか無意識なのか、そいつらの耳障りな声はここまで聞こえてくる。話から察するに、僕がレンに渡されたところから見てたんだろう。

 可哀想に目の前のレンが俯いて、黙り込んでしまった。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。子供相手に恥ずかしくないのか、あいつらは。

 ウェンディさんがそいつらに一歩踏み出そうとするのを僕が制し、レンの涙を指で拭いてあげた。


「ちょっと行ってくる」

「え……?」


 顔を上げたレンに背を向けて、僕は未だに笑っている三人の方へ向かう。

 僕に気付いた三人は声を出して笑うのをやめたが、ニヤニヤとした薄ら笑いはやめていなかった。やっぱりわかってやってたな、こいつら。僕らに喧嘩を売ってたわけか。

 【竜人族ドラゴニュート】の金髪男が僕の前に立つ。


「なんだよ。なにか用かよ」

「謝れ」

「はァ? なに言っちゃってんの、お前?」


 金髪男は眉間に皺を寄せてこちらを睨んでくる。わざとらしく僕はため息をついてから口を開いた。


「あの子に謝れって言ったんだよ。耳が遠いのか? それとも言葉を理解できない猿か? どっちだ?」

「なんだと、この野郎!」


 金髪男だけじゃなく、茶髪の【獣人族セリアンスロープ】も、黒髪の【夜魔族ヴァンパイア】も、青筋立ててこちらを睨んできた。


「おい、ウサギ野郎。お前、俺たちに喧嘩売ってんのか?」

「売ったのはどっちが先か怪しいが、お前たちに腹を立てているのは事実だな。で、謝るのか謝らないのか?」

「うるせえ! 文句あんなら勝負してやんよ!」


 僕と金髪男の間にウィンドウが開く。


──────────────────────

【ラゴン】から決闘デュエルの申請があります。


時間:無制限

モード:デスマッチ(ハード)

スキル:使用可

戦技:使用可

アイテム:使用不可


勝利条件:相手プレイヤーの死亡


参加プレイヤー

【ラゴン】


受託しますか?

──────────────────────


 これは【PvP】というDWOデモンズにおける決闘のシステムだ。デスマッチモードってのは、どっちかが死ぬことで決着がつく勝負方法。

 デスマッチ(ハード)の場合、負けても通常のデスペナルティはないが、二時間ログインできなくなるという、それ以上のペナルティを受ける。さらに所持金も半額奪われるが、デスマッチの場合、それが勝ったプレイヤーに流れるのだ。しかも金庫は関係無いらしい。

 だから腕試しのような場合、普通はデスマッチモードではなく、HPダメージが半分を超えたら戦闘終了のハーフモード、一撃を与えたら戦闘終了のショートモード、HPが1Pだけ残るダイイングモードなどで対戦する。

 どうやら金髪男は僕を合法的に殺す気満々らしい。


「オラ、どうした! ビビったのかよ、あ!?」

「デスマッチじゃない。モードを変えろ」


 僕の言葉に【竜人族ドラゴニュート】の金髪男が口の端を吊り上げる。そして馬鹿にした口調で、いつの間にか周りにできていたギャラリーに向けて叫んだ。


「はっ! チキン野郎が。金が惜しいってか! 情けねえなあ!」


 僕は何か勘違いをしてニヤついている、目の前の馬鹿にハッキリと言ってやった。


「モードを【乱戦デスマッチ】にしろ。三人同時に相手をしてやる」















DWOデモンズ ちょこっと解説】


■PvPについて

プレイヤー同士、またはパーティ同士による決闘は両者の同意のもと成立される。勝負の判定は様々なルールに設定できる。(死ぬまで、HPが半分以下、一割を切るまで、魔法禁止、武器禁止、アイテム禁止、時間制限あり、等々)どちらかが死ぬまでのデスマッチモードもあるが、この場合、負けた方に通常より厳しめのデスペナルティをつけることも選択できる。






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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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