■175 キーモンスター
「ほぉん……。やっぱりあの男が黒幕で、勘違いで『帝国』の皇太子殿下に刺客を送ったと。くっくっく、こりゃあ『同盟』を揺さぶるいいネタが転がり込んできましたなぁ……」
「わかったからその悪人面やめろ」
「いたっ」
悪い顔になっているリーゼの頭にチョップをかます。
「このことは『なかったこと』になってるんだから口外無用だ。そもそも僕が『帝国』関係者だって話した時点でお前もミヤビさんにコレだぞ?」
コレ、のところで首を掻っ切る真似をする。まあ、さすがにそれはないと思うけど。ミヤビさんだって、僕が今の生活を望むから秘密にしてくれているだけなんだし。
「わかってるよぉ……。というか、その『白』の一族? そういう人たちがいるってのは噂で聞いてたけど、まさか白兎君のおばあちゃんだったなんてねえ……」
「僕のおばあちゃんじゃないよ。遥花と奏汰のおばあちゃんだ。叔祖母、になるのかな?」
祖父の妹なんだから確かそのはず。
「たぶん、『連合』でも私より上の人と繋がっていると思うけど……ああ、それでか」
「どうした?」
「私がここに赴任した理由。地球の、日本の、首都でもない一地方の都市に降ろされた理由だよ。『白』の一族がいるなら、ある程度の便宜を図ってもらえるし、情報も手に入りやすいだろうからね。……これはちょっと上司と話をしないといけないかも」
「おい、僕のことは……」
「もちろん白兎君のことは一切言わないよ。それはそれとして、その百花さんと『連合』の一人として話しておいた方がいいかなって」
ううん、百花おばあちゃんが『連合』でも重要人物になっちゃってる件について。
リーゼが『連合』の一員として、百花おばあちゃんに近づく分には問題ないとは思うけど……。……問題、ない、のか?
リーゼの話によると、『白』の一族のような組織は地球上にいくつかあるんだそうだ。
いわゆる地球上において、宇宙人たちの便宜を図ってくれる組織だ。もちろん地球人の迷惑にならない範囲において、ということだけど。
「現在は規制が敷かれて、地球に密入星するのは難しいけど、それ以前に地球に流れてきた宇宙人、及びその子孫ってのがいるからね。そんな彼らと長年付き合ってきた組織だから、【連合】も【同盟】も無視はできないんだよ」
地球側における宇宙人の専門家みたいなものだからな。【連合】【同盟】の人たちもさぞやりにくかろう。
地球側としても、『実はすでに多くの宇宙人が地球に帰化しています』なんて世間には言えないだろうしな。間違いなく大パニックになる。
それだけじゃない。下手すると地球にいる宇宙人を狙った『宇宙人狩り』なんてのが起こる可能性だってある。昔の『魔女狩り』みたいな……。
人は未知のものを恐れる。自分の理解できないもの、納得できないものを排除しようする。
もしもそんなことが起きてしまったら、間違いなく【連合】も【同盟】も地球人を見放すだろう。
そして【連合】【同盟】がいなくなった地球に次に起こるのは、無秩序な宇宙人の襲来だ。
降りるのが違法じゃなくなった地球へ、無法者の宇宙人が次から次へとやってきて、地球を好き放題に荒らすかもしれない。
最悪、本当にそうなるのなら、その前にミヤビさんに頼んで地球を守ってもらうが……。だけどそれは地球が【帝国】に帰属することを意味する。【帝国】無しでは自らを守ることもできないのだから当たり前だ。
『宇宙人狩り』なんて馬鹿なことをした地球人の、ある意味自業自得ともいえるが……。
まあまだ、そんな未来の可能性もあるってだけだ。今から悲観的に考えても仕方ない。
そこまで人類は愚かではないと信じたい……。
◇ ◇ ◇
「『土蜘蛛』が討伐されたそうです」
「えっ?」
『DWO』にログインするや否やシズカに告げられた言葉に僕は一瞬呆然としてしまう。
『土蜘蛛』が討伐された? 全く情報もなかったのに? というか、一体どこが?
「【オデッセイ】か?」
「いいえ、違います。【エスピオン】というクランです」
【エスピオン】……聞いたことないな。というか、クラン? じゃあいくつかのギルドが所属しているってことか。うちの【白銀】と同じように。
「そうですね。めぼしいところだと【陰の軍団】【ラーニング】【瓦版屋】が所属しています」
「あれ? そのギルドって……」
【陰の軍団】って、確か色違い【忍者】五人のギルドだったよな。やたらと比較されたから覚えてる。
【ラーニング】は確か攻略サイトを作ってるギルドだ。メンバーもそれなりに多かったはず。【瓦版屋】もゴシップ記事のようなサイトをやってたような……。
「情報収集に長けたギルドが手を組んだ攻略クランのようです。人数は【オデッセイ】には及ばず、【白銀】と同じくらいです」
となると、結構な人数だな……。『土蜘蛛』を倒せても不思議はない……のか?
ミウラが不機嫌そうにギルドホームのソファーにどかっと倒れ込む。
「また先を越された〜!」
「『両面宿儺』、『雷獣』、『鉄鼠』、『酒呑童子』、『土蜘蛛』は討伐された。残りは『火車』、『白沢』、『大天狗』か」
情報収集を得意とするギルドが協力してクランを立ち上げたとなると……これはヤバいかもなあ。
まあ別に僕らは攻略一番乗りを目指しているわけじゃないけれども、クラン『白銀』としては無視できない問題だろう。
「八魔将相手だとどうしてもレイドバトルになるから、クランを組んだ方がいいんですよね。【オデッセイ】みたいに単独で人数がいるギルドなら問題ないんでしょうけど……」
確かにシズカの言う通り、僕らが戦った『両面宿儺』や『雷獣』は単独ではとても無理な相手だった。『酒呑童子』の場合は鬼ヶ島に馬鹿みたいな軍勢がいたから、【オデッセイ】と共闘という形になったけどな。
「やっぱ情報収集に長けた知り合いがいないってのは不利なのかなあ。自分の足で探さなきゃなんないし。シロ兄ちゃん、そういったのに詳しい人知らない?」
「あのな、そう都合よく知り合いがいるわけ……」
いや? いるな……。いるけども、あの人たちの力を借りるのはどうなのか……?
頭に浮かんだのは桜閣殿にいるウルスラさんたちの力を借りたらどうかということだ。
なんてったって本職の諜報部員だ。自分たちがいるエリアのことならすでに調べ尽くしている可能性さえある。
そんな人たちに尋ねるのはズルをしている気がして、ちょっと気が咎めるのだが……。
だけど前に銀竜の住んでいる場所も聞いてるし、そもそも【両面宿儺】の霧骸城の情報もウルスラさんたちから聞いたんだっけ。なら今更か……?
聞いてみるだけ、聞いてみようかな。あの人たちも一応NPCって役柄なわけだし、プレイヤーがNPCから情報を得るのは間違ってはいない……よね?
◇ ◇ ◇
「お話にあった『火車』『白沢』『大天狗』の出現条件はこれになります。うちの者が確認しましたのでまず間違いはないかと」
「マジか」
桜閣殿でウルスラさんに会って相談をしたところ、すぐに三つの巻物を手渡された。
それぞれ『火車』『白沢』『大天狗』の出現条件が書いてあるという。
ええ……。ちょっと待って、さすがにこれはどうなんだろうか。僕としては、ちょっとしたヒントをもらえたら、くらいな気持ちだったんだけど、答えが出てきちゃったよ……。
「いいんだろうか、これ……」
「ふふふ、お気になさらず。なにもNPCの協力を受けてはいけないわけではないですし、情報を渡す渡さないはこちらの判断です。他のNPCに扮している者たちもその判断で地球人に情報を渡しているのですから」
ウルスラさんの話によると、八魔将の情報を持っているNPCはそれなりにいるのだそうだ。彼らがプレイヤーにその情報を渡すか渡さないか、それはその相手との信頼にあるという。
そういう部分でも地球人を観察しているのだろう。ただ僕の場合、ミヤビさんのおかげでウルスラさんの信頼度は初めからMAXだったからなあ……。
「本当に気にしないでいいと思いますよ? そもそも運が良ければ、殿下が『両面宿儺』を倒した時点で、この第五エリアのエリアボスである『八岐大蛇』が出現していたのですから」
「え!?」
それってどういうことだ!? 『両面宿儺』を倒した時点で『八岐大蛇』が出現していたかもしれないってのか!?
「あの八体のモンスターを全て倒す必要はないのです。毎回ランダムでその中の一体……その中の一体だけ、『八岐大蛇』を呼び寄せるドロップアイテムを持っているのです」
「そういうことか……」
八体の中ボスの中に、『八岐大蛇』を呼び寄せるアイテムをドロップする奴がいるのか。
「ひょっとして『土蜘蛛』を倒した奴らが、もうそれを手に入れてしまってたり……」
「いえ、『八岐大蛇』を呼び寄せるアイテム……『八塩折之酒』は倒したその場にドロップします。その時点で『八岐大蛇』は動き出しますから、本当に出現していたらすぐにわかります」
入手アイテムじゃないのか。
その場にドロップするってことは、『八岐大蛇』もその場にすぐに出現するのか? いや、呼び寄せる、っていうから、どこからかやってくるんだろうな。
しかし、酒に誘われて現れるって……。よっぽど呑兵衛なエリアボスのようだ。
八体中、五体はハズレだった。けっこうハズレを引いてるな……。残りの確率は三分の一。
放っておいてもどこかのギルドかクランが当たりを引いて、『八岐大蛇』を呼び寄せるかもしれないが……。
「『八岐大蛇』は途方もない超大型レイドボスですが、その戦闘に参加できるメンバーは、『八塩折之酒』を出現させたギルド、及びクランに参加権が委ねられます」
それって出現アイテムを持っていた中ボスを倒したギルドかクランが、エリアボス討伐に参加できるプレイヤーを選べるってこと?
そうなってくると話は変わってくるな……。先にその権利を奪われてしまうと、最悪僕らは『八岐大蛇』に挑めなくなってしまう。
いやそいつらが失敗すれば、僕らにもまたチャンスがやってくるのかもしれないけど、また八魔将ルーレットをやらなきゃならないのは正直しんどい。
こういったらなんだがクラン【白銀】は、【怠惰】の領国では上位に位置するクランだ。エリアボス討伐に誘われないってことはないと思いたいが……。
やっぱり確実に参加するなら僕らが当たりを引くしかない。これはアレンさんたちと相談だな。
◇ ◇ ◇
「いやみんな、もう驚くのはやめよう。シロ君なんだから仕方ない」
「そうね、シロ君だものね……」
「シロだからな……」
アレンさん、エミーリアさん、ギムレットさんがなにか諦めたような表情で話している。なんか腑に落ちんな。こっちは貴重な情報を持ってきたってのに。
「ですが八魔将を全て倒す必要がないってのは朗報ですよ」
「ただ【エスピオン】のやつらが不安だな。あいつらの情報力だ、もう一つくらい目星がついている可能性があるぜ」
【スターライト】のセイルロットさんとガルガドさんがそんな話をしている。確かにそれは僕も考えていた。
一体の中ボスの情報を集める過程で、他の中ボスの情報もある程度得ているのではないだろうか。
いや、もうすでに目星をつけているのかもしれない。ただ単に、今は『土蜘蛛』戦で受けたダメージや物資補充に時間がかかるってだけなのかもな。
となるとこちらに余裕はないな。次に【エスピオン】が倒す中ボスが、『八岐大蛇』を呼び寄せるアイテムをドロップするキーモンスターだったらマズい。
「ここはやはり先手を打つべきね」
「となると、どれを狙うか、だが……」
【六花】のリリーさんと【ゾディアック】のレーヴェさん(ちなみに今日はワニの着ぐるみだった)が、目の前のホワイトボードに書かれた三体の中ボス名に視線を向けた。
『火車』
『白沢』
『大天狗』
この三体のどれかが『八岐大蛇』を呼び寄せるキーモンスターなのだ。
「シロの話だと完全にランダムなんだろ? ならどれを選んでも同じってことだ。結局運でしかない。なら、俺たちにとって有利な相手を選んだ方がいいんじゃないか?」
「せやな。被害少なく倒せたら二体目も行けるかもしれへんし」
【カクテル】のキールさんと【ゾディアック】のトーラスさんの言葉にみんなも異論はないようだった。
セイルロットさんが前に出て、三体の中ボスについて説明を始める。
「まず『火車』ですが、だいたい二つの説がありまして、一つはこの世をさまよう悪しき魂を迎えに来る地獄の使者。もう一つは死者の遺体を略奪する化け猫と言われています」
「地獄に死者、ねえ。アンデッド系のモンスターかもしれんな」
「その名の通り火属性っぽいけど、アンデッドって火に弱くなかったっけ?」
アンデッドは第三エリアのボス戦で、幽霊船の上で嫌ってほど戦ったな。鬱陶しかった思い出しかない。というか、エリアボスで喋ってたのあいつくらいじゃないか?
「次に『白沢』ですが、これは妖怪というより、どちらかというと瑞獣、聖獣の類だと言われています。人の言葉を話し、さまざまな病魔を防ぐと言われていて、昔の人はお守り代わりにその絵姿を持っていたりしたそうですよ。除災の神獣とも呼ばれるとか」
「聖獣……ユニコーンみたいなもんか」
「そんなの倒してバチとか当たらない?」
話だけ聞くとモンスターというのとはちょっと違う感じだなあ。……本当に倒していいのかね?
「そして『大天狗』。まんまですが、天狗の親分ですね。空を飛び、風を巻き起こし、強力な神通力を持つ。善悪両方の質を兼ね備え、人々の守護者でもあり、また大魔王などとも呼ばれる日本妖怪の頂点と言われる妖怪です」
「おいおい、一番ヤバそうじゃねぇか、そいつ……」
「空を飛んでるってだけでかなり不利よね……」
天狗か……。天から降ってきた凶事を報せる星を、昔は『天狗』って言ってたって百花おばあちゃんに聞いたな。
なんとなくだけど、この大天狗は酒呑童子クラスにヤバそうな気がする……。
「で、この三体だけど、どれにする?」
アレンさんが昼御飯のメニューを決めるような軽さで尋ねてきた。
「『大天狗』はないやろ。空を飛んでいる相手なんぞ、一番後回しや」
「だよねー。討伐準備にも時間がかかるだろうし」
トーラスさんの言葉にメイリンさんも深々と頷く。ま、そうだよな。僕も空を飛ぶモンスターは遠慮したい。第二エリアでシルバードを狩るのにどんだけ面倒くさかったか。
「『火車』もちょっと遠慮したいかな……。絶対アンデッドを操るタイプのモンスターでしょ。しかもその名から火に耐性のある可能性もあるわ。そうなると神聖魔法が鍵になってくる。今からそれ系の武器を揃えるのは時間がかかるわよ?」
アンデッドは神聖魔法か火魔法に弱い。エミーリアさんの言う通り、火に耐性があるとなると、神聖魔法一択となる。
僕も第三エリアのアンデッドボスに使った、『双天剣・シャイニングエッジ』を持ってはいるが、第五エリアの中ボス相手には少し心許ない。
となると、新しく作ってもらうか、強化してもらうことになるのだが、今から素材などを集めるにも時間かかるし、それをギルドメンバー全員分となると……。
「ってことは『白沢』一択か」
「ハクタクイッタク」
ガルガドさんのセリフにメイリンさんがぷっと吹き出す。面白いか……?
「『白沢』は人の言葉を話せるって言ってたけど、『DWO』ではどうなんでしょう?」
「うーん……コボルトやケット・シーなんかは喋るらしいけど、彼らはNPC枠だからなあ……」
リリーさんとアレンさんが話す横で、銀竜は普通に話してましたけどね……と、心の中で思う。
まあ、アレは僕にしか聞き取れない言葉だったが。
「話せるモンスターって逆にやりにくくない?」
「だなあ。万が一、変に友好的だったりしたら、討伐なんてできんぞ」
アイリスとギムレットさんが難しい顔で話してる。
『プレイヤーたちよ。話し合おう』、『うるさい! 絶対に討伐してやる!』……なんてな。完全にこっちが悪者パターンじゃないか。
アレンさんがセイルロットさんに向き直る。
「『白沢』と戦うとして……注意すべきことはなんだろう?」
「病魔を退ける能力がある……ということは、逆に言えば、毒や麻痺など、ステータスダウンの能力を持っている、あるいはステータスダウン無効を持っている可能性がありますね」
ステータスダウン無効……。うーむ、そうなると僕の双銃剣・ディアボロスの特殊効果、【呪い】が通じないのか……。
双剣の手数の多さとこの特殊効果は相性が良く、けっこう発動するため、助かっていたのだが。
「で、シロ君、『白沢』の生息エリアは?」
「確か『言霊の森』ですね」
「『言霊の森』というと……」
セイルロットさんが第五エリアのマップをウィンドウ表示して、一点にマーカーを置いた。
第五エリアのだいたい南東、【暴食】の第四エリアと繋がるあたり。確かに小さな森がポツンとあった。ここが『言霊の森』か。
「ここは一度、僕らも訪れたことがあるけど……。それらしき痕跡はなかったけどな……。何か出現条件かあるのかい?」
アレンさんの言葉に、僕はウルスラさんから託された『白沢』の巻物に目を走らせる。
「ええっと……『森にいる全員が状態異常であること』らしいです」
「おいおい、見つからねえはずだぜ……! なんだその条件! ノーヒントじゃ無理だろ!」
ガルガドさんが怒鳴るが、僕に言われても知らんて。ギルメン全員が状態異常になることなんてほとんどないよな。いや、ないわけじゃないけど。毒の息とか吐いてくるモンスターもいるし。
アレンさんの話だと、『言霊の森』に生息するモンスターは、そういった状態異常にする能力を持っていないらしい。
まあ、いたら白沢の存在がバレるからな……。あれ?
「えーっとですね、他にも条件がありまして……」
僕は巻物に書いてあった文章を読み、ちょっとひくついた口でみんなにその説明をする。
「一人でも状態異常でない者が出た場合、『白沢』は消えて、一からやり直しだそうです……」
僕の言葉にその場にいた全員が『嘘だろ……?』という顔を向けた。
これって常に状態異常で戦わないといけないってことか? いや、キツいだろ、それ……。
「毒を受けた状態で、解毒はせず、ひたすら回復で凌ぎながら戦う……か?」
「いや、毒だって時間がきたら回復するわよ? それより前にまた毒を飲んで自分から状態異常にならないと」
「状態異常って他になにあった?」
「【眠り】【麻痺】【燃焼】【凍結】【魅了】【混乱】【石化】【沈黙】【失明】【恐怖】【昏睡】……とかですかね?」
「その中なら【沈黙】かしら……。前衛職には大したデメリットはないんじゃない?」
「いやいや、言葉を話せないってのはけっこうなデメリットだと思うよ。味方と連携が取れないってことだからね」
「ハンドサインでなんとかなるんやないか?」
「パン、2、◯、見え……って、やめんか!」
「あのう……」
話が脱線しかけたところに、レンがおずおずと手を挙げた。みんなの視線が彼女に向き、彼女がちょっとビクッとしてる。
「【呪い】のついた装備なら、ずっと状態異常が続きますし、軽いのであれば、それほどデメリットはないんじゃないか、と……」
『────それだ!』
「ひゃう!?」
なるほど、呪われたアイテムか。確かにあれも状態異常だわ。こいつは盲点だった。『呪われている』こと自体が状態異常なわけだから、なるべくデメリットの低いやつを装備すりゃいいわけか。
「本当にいいアイディアですよ。白沢には状態異常が効かないか、回復させる能力を持っている可能性が高い。それは僕らの状態異常も回復させることができるということです」
「一人でも治されてしまったら白沢は消えちゃうものね。その点、呪われた装備なら解呪しない限り回復できないわ」
「確か『鈍足の脚環』ってのがあったで。AGIが下がる【呪い】やが、後衛職や魔法使いにはあまり関係ないやろ」
「『愚者の冠』ってのもあったわよ。こっちはINTが下がるけど、脳筋前衛職には関係ないわよね?」
どのギルドも一個か二個は呪いの装備を持っているようで、どういう装備なのかを話し合っている。
「さすがに全員分は揃いませんよね?」
「いや、【呪い】の装備なんて使い道がないから、コレクションしてる奴以外はけっこう放出しているはずだ。各エリアの露店を回れば全員分くらい揃うんじゃないかな。ほら第二エリアとかで『黒兎の足』とかけっこう落ちたりしたろう?」
アレンさんの言葉に、僕はああ、と思い出していた。
LUKが上がる効果のある『兎の足』の逆バージョンで、LUKが下がる『黒兎の足』。あれも呪われたアイテムだった。確か僕も一個持ってる。
LUKが下がるとアイテムドロップがなかなかしなくなるし、全ての確率が低下するから、本来なら装備したくないところだが……。白沢戦だけは仕方がないか。
しかし、全員が呪われた状態で戦いにいくってのは、逆の立場からしたら怖いよな……。
『呪われた軍団』が襲いかかってくる……ちょっとしたホラーだな、と僕は益体もないことを考えていた。
【DWO ちょこっと解説】
■呪われた装備について
基本的にデメリットが多い装備である。この場合の【呪い】とは、一度装備したら、教会や神聖魔法などで【解呪】しない限り、装備を外すことができない物を指す。【鑑定】などをすれば呪われているかどうかはすぐにわかるが、中には大きなステータスダウンを犠牲に、強力な能力を備えている装備もある。ちなみに【解呪】しても装備が壊れたり、【呪い】が消えたりはしない。




