■171 鬼ヶ島の財宝
酒呑童子を倒したら鬼ヶ島にいた鬼たちが全て消えるかと思っていたが、そんなことはなかった。
よくよく考えてみたらあいつはエリアボスじゃない。集団でいたモンスター軍団の一人でしかないわけだ。
そういえば両面宿儺の時もスケルトンアーチャーとか城に残ったのを駆逐するの面倒だったっけ。
なので僕らは残りの鬼を根切りにしてます。まあ、もう数はそこまでいないし、別に全滅させる必要はまったくないのだけれども。
「っていうか、初回討伐特典ってないの?」
「それな」
ミウラの呟きに【カクテル】のキールさんがぴっ、と指を差す。
インベントリにはなんのアイテムも入ってない。酒呑童子を倒したのにだ。
「まさかと思うけど……あの酒呑童子って影武者とかで、本当の酒呑童子はまだ健在とか……」
「ちょっと、ソニア! 縁起でもないこと言わないでよ!」
そんな言葉を口にしたソニアを、アイリスがドン! と突き飛ばす。
本当に縁起でもない。もう一度アレと戦えと言われても無理だぞ……。
「おそらくお宝はあそこだろう」
「だろうね」
ガイアさんとアレンさんが見つめる先には、酒呑童子と茨木童子が出てきた洞窟の入口があった。なるほど、地下に溜め込んでいるってわけか。
「斥候職、何人か集まってくれ」
ガイアさんの指示にぞろぞろと斥候職が集まる。罠がないとも限らないからだろうが……まさかそこダンジョンになってたりしないよね……?
はっきり言って酒呑童子倒した後にダンジョン探索は無理だぞ……。日を改めるべきだ。
とりあえず斥候職のみんなとガイアさんやアレンさんに連れられて、前衛の何人かが洞窟に入って行った。
残った僕らは休憩だ。遠くで残りの鬼たちと戦っているプレイヤーが見える。まあ、数の差からしてもう負けることはないだろう。
「にしても……けっこう減ったな……」
「残ったのは全体の半分……いや、四割くらいか? 前衛職のほとんどがやられてるからなあ」
【カクテル】のキールさんとギムレットさんがそんな話をしている。生き残ったのは全体の四割っていうと、三百人近くいたわけだから、百八十人もやられたのか……。五百匹以上の鬼と戦ったと考えるとまあ、健闘したよな……。
そのうち百人くらいは酒呑童子と茨木童子にやられた感じがするが。
「一応、酒呑童子は倒したってチャットは送ってるから、死に戻りした奴らもここに来るかもな」
「いや、船がないだろ。それに来たところで、デスペナあるんだし、下手したら来る途中でもやられるぞ?」
だねえ。クリア報酬は後々話し合いで分配と決まっているんだし、焦って来ることもないと思う。
というか、お宝があるなら今日中に運び出さないと、明日にはまた鬼が五百匹リポップするわけで。
さすがに酒呑童子と茨木童子もまた鬼ヶ島にリポップするんじゃないかな。
霧骸城とは違って、このフィールド自体はそのままだろうし。まさか鬼ヶ島が手に入るなんてことはないと思う。
というか、手に入ってもこんな岩だらけの炎が噴き出す地獄のような島、使いようがないわ。いらんよ。
ゴツゴツとした岩場に座りながら溜め息をついていると、なにやらプレイヤーたちがざわざわと騒ぎ始めた。なんだ?
「おっ、おい、あれ……!」
「まさか……! 竜!? 銀竜か!?」
「えっ!?」
その声にびっくりして、慌てて僕は空を見上げる。
いつの間にか曇天模様の天気はすっかりと青空に変わっていた。ひょっとしてあの雲もフィールド効果の一つだったのかもしれない。
その青空の中に白銀に輝く竜がこちらを睥睨していた。あれって、あの銀竜だよな? なんでここにいんの!?
「おい、冗談だろ……! 竜となんか連戦できる状態じゃねぇぞ……!」
「ポーション! 体力回復しなきゃ……!」
「ブレスを吐かれたらヤバい! みんな散開しろ!」
地上はパニックだ。そりゃそうなるわ。ただ一人、僕だけは、なんでここに? という疑問だけを胸に見上げていたが。あ、目が合ったぞ、いま。
『ゴ、ゴガァ! ゴガッ、ゴガァァァァァァ! グアァァァァァァッ!』
銀竜の突然の咆哮に、地上のプレイヤーたちはビクッと慄く。しかし僕の耳には違う言葉になって届いていた。
《ち、違います! その、空を飛んでいたら急に晴れたので、下でなにかあったのかと! 【龍眼の君】の邪魔をするつもりはこれっぽっちもなく!』
どうやら単なる偶然らしい。銀竜はジタバタとものすごく焦っているようだ。まあ、この前みたいにウルスラさんたちが出てきて、また捕縛されたらたまったもんじゃないよね……。
「わかったから、今は帰りなさい」
《御意!》
みんなに聞こえないほどの小さな声で僕がそう言うと、銀竜はバビュン! とものすごいスピードで空の彼方へと消えていく。ちょっとビビり過ぎじゃないですかね……。まあ、僕というか、そのバックにいるミヤビさんに対する畏怖なんだろうけども。
「ん?」
空でなにかキラッと光ったと思ったら、なにかがこっちに落ちてくる。
ズドン! ズドン! と、僕らの目の前に、畳二畳ほどもある、白銀に輝く菱形の鱗が二枚、地面に突き刺さった。
あいつ……! ジタバタした時に自分の爪で引っ掻いたな……!?
「り、竜の鱗……!」
「竜の鱗っ!?」
「嘘だろ!? すげぇ!」
プレイヤー、特に生産職の者が一斉に銀竜の鱗の下へと走り出す。【月見兎】のリンカさんも目の色を変えてダッシュしていった。
「なんだこりゃ、全部は【鑑定】できねえ!」
「【分析】でもダメだわ!」
「でも間違いなく今まで見たどの金属よりも硬い……!」
あいつ……とんでもないお宝を落としていったな……。どうすんだよ、これ……。
全てを【鑑定】できなかったらしいが、ある程度はわかったらしい。【鑑定】によると、なんとこれ【収納不可】という付与がついていて、インベントリに収納できないとか。
「ってことはなにか? もしもこの鱗を使って、たとえば盾や鎧なんかを作っても、インベントリには収納できない?」
「その可能性は大。だから現実の鎧と同じく、手動で脱がないといけない。盾なら常に持ち歩く羽目になる」
僕の質問にリンカさんが答えてくれた。それはそれで面倒な……。でもそれを補って余りある装備ができるだろうなあ。
問題はどう分配するかで……。この鱗は誰のものか? ってところで揉めそうだ。
『初めに触ったのは俺だから俺のもの!』なんて抜かしたら、間違いなくそいつは総スカンを食らうだろう。そもそもそんなルールないしな。個人の物にする気ならば、ここにいる全員を敵に回すつもりで発言する覚悟がいるぞ。
正直言うと、僕は頼めばもう一枚くらい貰えそうな気がするので、そこまで争奪戦に参加するつもりはない。
いくつかに分けて、それぞれのギルドに一つずつ……というわけにもいかないか。ソロのプレイヤーもいるし、そこまで分けてしまうと何も作れなくなる。いや、小型ナイフくらいならできるかもしれないが。
うーむ、と唸っていると、ポーン、とメールが届く。洞窟に入って行ったアレンさんからだ。なんだ?
メールを開くと洞窟に来てくれとのこと。なにか問題が起こったのかな?
兎にも角にも洞窟の方に戻って中に入ると、意外と快適な空間が広がっていた。野球場のように広い入り口は、奥に行くにつれて狭くなっていき、やがてちょっとしたアーケード街ほどの広さをキープしたまま、下へと下っていった。
広めの通路の端には藁草が敷かれていたりしたのだが、これってここで鬼たちが休んでたりしたのだろうか。
ゲームだし、そもそも敵モブが休憩したりするのか疑問だが、雰囲気作りのオブジェクトかね? 人がいない島なのに骸骨とか転がってるし。
「おっ」
通路を抜けると広めの空間に出た。奥の方が高い台のようになっており、椅子のような岩が見える。まるで玉座だな。酒呑童子はあそこにいたのだろうか。
「シロ君、こっちだ」
アレンさんの声がして横に視線を向けると、洞窟に入っていったプレイヤーたちが一箇所に集まっていた。
そこへ向かうと、目の前に大きな亀裂があり、向こう側にさらに続く通路が見える。うわ、幅が百メートル以上はあるぞ。飛び越えるのは絶対に無理だ。
「なんとか向こうに渡ろうとしたんだけど、どうやらこの洞窟の壁は【登攀】でもしがみつけないみたいでね。壁伝いに行くのは無理のようだ」
矢にロープとか結んであっちに……は無理か。岩だしな。刺さらないか。
「たぶん地属性魔法を使って橋を作ればいけるとは思うんだけど、時間がかかり過ぎるでしょ? それならシロちゃんの瞬間移動でパッと行けるんじゃないかって」
そんな話をメイリンさんがしてくる。瞬間移動て……。まあ、そう見えても仕方ないけども。
もうクランの人たちには完全にバレてるよな……。何度も使ってるし。スキル名とか【セーレの翼】の詳細まではわからないだろうけど、瞬間的に短距離を移動するスキルってのは予想がついているだろう。
だけども百メートル以上となると、ビーコンが届くかな……。【投擲】スキルがあるから大丈夫か?
「よっ!」
大遠投もかくやという勢いで投げたビーコンの羽根は向こう側の通路の手前に突き刺さった。お、届いた届いた。
「なにやってるんだ?」
「さあ……」
たぶん【オデッセイ】のギルメンがいきなり投球モーションを始めた僕に首を捻る。ビーコンは他の人には見えないからな……。そりゃ変に思うわ。
微妙な空気から逃げるように、僕は【セーレの翼】を発動。一瞬にして向こう側へと辿り着く。
「おおっ!?」
「うあっ!?」
転移した僕を見て、向こう側のみんながわーわーと騒いでいる。ちょっと騒ぎすぎ。え? 後ろ?
振り向くと、そこには金棒を振りかぶった黒鬼が立っていた。
「うおわああぁぁぁぁ!? し、【神速】!」
スローモーションになった黒鬼の横を全速力で駆け抜ける。そして急ブレーキで反転、背中を見せていた黒鬼を、ドン! と突き飛ばした。
前のめりになっていたところを押された黒鬼は、悲鳴をあげて亀裂の底へと落ちていった。あ、危なかった……。
脳内になぜかサスペンスドラマの音楽が流れているが、これは正当防衛である。うん……。
「シロちゃん、大丈夫ぅー!?」
「ああ、うん、大丈夫……」
向こう側から届くメイリンさんの声になんとか答える。届いたかどうかわからないが。
こちら側の通路のすぐ先には分厚い鉄でできた両開きの扉があった。
さっきの黒鬼はここの門番だったのかもしれない。
というか、いま気がついたんだが、僕じゃなくてリゼルを呼んでくれば、『魔王の王笏』でスーッと飛んでいけたんじゃない?
……いや、『魔王の王笏』だと、地上から数メートル浮く感じになるから、谷底に落ちていってしまうのか? 谷底の数メートル上で止まるだろうけども。
「鍵がかかってるな……。まあ当たり前か」
扉の取手を押しても引いても開かない。鍵穴があるから鍵があるんだろうが、誰が持っているんだ? 酒呑童子や茨木童子からは何もドロップしなかったが……。
とにかく【開錠】スキルを持っている斥候職のプレイヤーに来てもらおう。
矢に縛りつけたロープをこちら側へ飛ばしてもらい、それを扉の取手に結びつける。ピン、と張られたロープを伝って、斥候職の何人かがこちら側へと渡ってきた。
さっそく鍵穴に何やら棒のようなものを突っ込んでいる。正面に立たないのは鍵穴からなにかが飛び出してくるかもしれないからだってさ。
しばらくガチャガチャと鍵穴をいじっていると、カチャリとなにかが外れるような音がした。
「おわあ!?」
観音扉が急に前に開き、ロープを伝っていたプレイヤーたちがガクンと下がったことに悲鳴を上げる。全員渡ってから開けるべきだったな……。
幸い、誰も落ちた者はいなくて、全員無事に渡ることができた。
「うおっ……!」
「すげえ……!」
開いた扉を通り、奥へと進むと、そこには光り輝く金銀財宝の山があった。
金貨や銀貨といった硬貨から、宝石のついた指輪やネックレスなどのアクセサリー、剣や槍のような武器や鎧、王冠なんてものもある。ランクの高そうな鉱石とか、宝箱らしき物もけっこうあるな。
「まるで桃太郎の気分だね……」
アレンさんがぼそりと呟く。鬼退治をして金銀財宝を持ち帰った桃太郎もこんな気持ちだったのかね?
「これはどう分配するか悩むな……」
「全部の売却金額を出して、一人当たりで割る……ですかね? その金額内でこの中に欲しいものがあれば交換とか」
僕の背後でガイアさんとアレンさんがお宝の分配を話し合っている。
これが酒呑童子撃破の初回特典なのかな? 普通と言えば普通のお宝だが。いや、武器とかアクセサリーは特殊な効果や付与があるかもしれない。まずは全てを鑑定してからだな、これは。
「よし、【鑑定】持ちが来るまでここでみんな待機だ。ちょろまかしたと疑われたくなきゃ、財宝には触るなよ」
「了解ー。動画は撮っておいてもいいっすか?」
「ライブじゃなきゃ構わんぞ。だが、投稿するのは分配が終わってからな」
ガイアさんが【オデッセイ】のギルメンにそう伝えると、何人かが財宝の撮影を始めた。
「揉めるかもしれないから、【鑑定】が終わったらGMコールして運営に一時保管してもらった方がいいか」
「そうですね。僕らは違うギルドですし、その方が後で揉めないで済むかと」
ギルド管理センターに申請すれば、取得アイテムの一時保管をしてくれる。これはプレイヤー同士が共闘したりして、揉めそうな時によく使われるそうだ。
二人のプレイヤーが一緒に倒したモンスターから使える剣が一本ドロップした、なんて時に、どちらも所有権を主張したりすると、それが解決するまで預かってくれるのだ。
もちろん一旦預けると、どちらからもOKが出なければ、引き渡すことはできないので、どうにか折り合いをつけるしかなくなる。
さっきみたいな場合だと、片方が折れて、同価値の物と交換に引き渡すか、お金でなんとか解決ってパターンが多いとか。あるいはもう一本剣がドロップするまで共闘を続けるってのもある。
あ、銀竜の鱗も預かって貰えばいいんじゃないかな。インベントリに入らなくても預けることはできるよね? たぶん。
僕はキラキラと光る財宝を前にそんなことを考えていた。
◇ ◇ ◇
全ての財宝と銀竜の鱗をギルド管理センターに預けたあと、ギルマスとソロプレイヤー数人とで話し合いが行われた。
【オデッセイ】はガイアさんが代表なだけだが、【白銀】は、クランであるため、それぞれのギルドで欲しいものが違う。そのため、どうしても取り合いになってしまう物が多かったそうだ。
とはいえ、【白銀】として、絶対に譲れない物があの銀竜の鱗である。
クラン【白銀】ときて、『銀竜』の鱗である。もしもその鱗で武器防具を作ったなら、そのクランを象徴するものになること間違いない。
これに強いこだわりを見せたのが【スターライト】である。やっぱりアレンさんの鎧と盾を銀竜の鱗で作りたいらしく、その分が得られるなら、他の財宝の権利は放棄するとまで言っていた。
【月見兎】のギルマスはレンなので、お付きのウェンディさんと共にギルマス会議に参加していたのだが、やっぱり少し揉めたらしい。
だが、結果的に銀竜の鱗一枚は【スターライト】が手に入れることになった。その代わり、いくつかの素材やお金を提供することになったらしいが。
そうなると、今度は残りの一枚をどう分配するかである。
まず手放してもいいという者には頭人数で割ったお金が支払われた。これは鱗を欲しいというプレイヤー側から出すことになる。
ちなみに【月見兎】は辞退した。これは一枚全部貰えないなら全身鎧も盾も作れないし、あまり意味がないと判断したからである。【スターライト】のようにお金を出してまでウェンディさん用に手に入れる気はなかった。
おそらく【スターライト】から製作依頼が来ると踏んでいたっぽいリンカさんは、それを聞いても動揺してはいなかったな。
結局、ソロプレイヤーも含めて八組が希望したため、鱗は八等分されることになった。
あの大きさだと小型の盾か胸当てがせいぜいだろうなあ。武器にすることも不可能ではないとは思うけども。
そして残りの財宝であるが、これがまた難航した。
まず全ての財宝を【鑑定】して、適切な金額を出し、それをリストにした。
そして討伐における貢献度などを考慮し、それぞれ分配金に当たる金額から欲しいものを選んでいく、という流れになったらしい。
もちろん欲しいものが被ったなら、そこはそのプレイヤーたち同士で交渉してもらう。
中にはレアなスキルオーブもあって、かなり揉めたとか。
ちなみに【スターライト】が銀竜の鱗で辞退したため、貢献度から最優先に選べたのは【カクテル】と【月見兎】だったとか。
【カクテル】はキースさんのチェーンマインや炸裂弾など、かなりお金をかけてしまっているので、珍しい素材やオークションにかけられるような物を中心に選んだらしい。
僕としては特に希望もなかったので、レンに全部任せて、僕らが使えそうな物があればそれで、無ければ高く売れそうな物でいいと言っておいたのだけれども。
「なんでこんなにランダムボックスがあるんだろうねぇ……」
本拠地の前にズラリと並んでいる、レンが持ち帰ったランダムボックス。第五エリアのは千両箱みたいなんだな。
「シロさんがいるならこちらの方が価値が高いかと思いまして」
ニコニコしてレンがそんなことを言う。ランダムボックスは中身が何かわからないため、数は少ないけどそこまで価値は高くはない。だからこれだけの数をせしめることができたのだろう。
もちろん価値は高くないとはいえ、それなりの値段はする。なにせまだ発見されていないレアアイテムが手に入る可能性があるものだからな。
Sランク鉱石なんかもこれから出たわけだし。まあ、大抵そういったものはオークション行きになるのだけれども。
「何度も言うように、僕が開けたところでいいものが出るとは限らないんだよ?」
実際、『平べったい石』とかハズレっぽいのも何度か引いてるし。僕がそう言うと、シズカが首を横にふるふると振った。
「ですが他の方と比べると、レアアイテムが出る確率が圧倒的に高いのも事実です。シロさんにとっては使えない物でも、他の方にはとてつもないレアな物も何度か出てますよね?」
いや、まあそれは……。僕にとっては必要のないブレイドウルフのフィギュアなんかは、一部のマニアにとってはものすごく欲しい物だったりしたけども。
確かに高く売れたよ? だけど結局は僕に来るのってお金だけなんだよな……。
ちなみにランダムボックスは全部で三十五個。一人あたま五個の分配らしい。っていうか、君らのも全員分かい!?
え!? 【月見兎】の今回の報酬って、これで全部!? いいのか、それで!? なんか良さげな鎧とか刀とか、アクセサリーとかあったじゃん!?
「大丈夫。シロちゃんならランダムボックスの相場より高い金額で売れる物が出るはず」
リンカさんが根拠のない自信に満ちた言葉を放つ。どこからその自信が……?
「ささ、シロさん。開けちゃって下さい。まずは私のから……」
「みんなの開けた後に自分の開けると、あんまりいいのが出ない気がするんだけども」
「そういえば前もそんなこと言ってましたね」
「運が吸い取られる気がするんだよ……」
まあ、先に開けても大して変わんなかった気がするけど……。結局自分じゃなくて、ギルメンの誰かに必要な物が出たりさあ。
ともかく、自分のから開けることにする。あんだけ苦労したんだから、いいのが出ろよ……! 頼むぜ、神様
、仏様、帝国女皇帝様。
祈るだけ祈って、僕は千両箱の蓋を開けた。
「っ、これは……」
【DWO ちょこっと解説】
■ギルドセンターの保管について
ギルドセンターに申し込み、保管料を払えばアイテムを一時的に預けることができる。が、決められた期間を超えた場合、一回目は催促、二回目は警告のメールが送られ、三回目は保管アイテムの消去通知が送られる。ちなみに警告メールを受けた時点で、その後半年間は預けることができなくなり、保管期間も短くなる。基本的にギルドを設立しているならばギルドインベントリを使うので、ギルドセンターの預かりは、主にソロプレイヤー、もしくは分配で揉めた際の一時預かり所として使われる。