■164 鬼ヶ島
「私は【鷹の目】を【天の目】にしてもらいました!」
嬉しそうにレンがそう報告してくる。
どうやらみんな白猫を見つけて、クロの店へと行けたようだ。
みんなもスターコインでスキルのランクアップをしてきたみたいだ。僕の時のように、セブンフィッシュが欲しい、みたいなイベントは無かったようだが。初回のみのクエストなのかな。
レンと同じく、ミウラは【剛腕】を【百人力】に、シズカは【健康】を【壮健】に、ウェンディさんは【挑発】を【挑発・咆哮】に、リゼルは【合成魔法(初級)】を【合成魔法(中級)】に、リンカさんは【解体】を【高速解体】にそれぞれランクアップさせたらしい。
「おかげでスターコインがすっからかんになっちゃった。またなにかイベントで手に入れるしかないね」
「今、スターコインが高騰しているからなあ……。『DWO』を始めたばかりのプレイヤーにとってはいい小遣い稼ぎになるんだろうけど……」
リゼルの言葉に僕は小さく頷く。
初期クエストでも手に入るスターコインは『DWO』を始めた初心者プレイヤーにとっては、すぐに大金を手に入れることができる、ありがたいアイテムだ。
しかしながらクエストやイベントは基本的に一回きり。手に入るスターコインの数も限られてくる。
しかももらえるスターコインの枚数はどうもランダムっぽいのだ。
同じクエストでも数枚もらえるプレイヤーもいれば、一枚ももらえないプレイヤーもいる。これはNPCとかの好感度や討伐の際の貢献度の差ではないかと僕は思っている。
そのクエストのクリア評価点というか。だから雑にクリアすると全くもらえないことだってある。ゲームを始めた初心者が、スターコインをそれほど多くゲットできないのはそこらへんの理由もあるんじゃないかな。
まあゲームが進むほど、スターコインを売ったことを後悔する初心者も多い。後から欲しいと思っても、その値段の高さに躊躇してしまう。
スターコインは(今のところ)ネタ武器や特殊な効果のあるアイテムを作る素材に交換できる。それはどんなに強いモンスターを倒しても、課金しても手に入らないアイテムであるため、その取引金額は右肩上がりなのだ。
戦闘などでは役に立たなくても、目立ったり、派手だったり、カッコいい、かわいい系の武器防具、アイテムを作ることができるからね。欲しい人は欲しいだろう。
クロの店の存在がバレた場合、スターコインの価値はさらに跳ね上がると思う。跳ね上がる前の今のうちに買いまくっておけば大儲けできるかもしれないが、一枚、二枚ならまだしも、何十枚ものスターコインを買い求めるというのはちょっと資金的にキツい。下手すれば破産してしまう。
まあ、そこまでお金が欲しいわけでもないし、どうせなら売るより僕は使いたい。
やはり地道にクエストやイベントをこなして、少しずつ増やしていくのが近道な気がする。結局、『急がば回れ』ってことなのかなぁ。
僕の時と同じく、みんなも新しいスキルを試したいみたいで、さっそくモンスターを狩りに行こうと言い始めた。
スキルにどんな効果があるかまだわからないので、なるべく簡単なエリアで試したほうがいいと僕が提案すると、背後で翼を生やしたウサギが『ぷひっ』と小さく鳴いた。
あいつ……。僕が【神速】の検証に失敗して、命からがら逃げ帰ってきたのをまだ小馬鹿にしているのか……?
「そういえばクロさんに聞いたんですけど……」
僕が後ろのスノウに疑惑の念を送っていると、そんな前置きをしてレンが話し始めた。
「第五エリアの東の海に小さな島があるそうなんですけど、その島って鬼がたくさん棲んでいるそうなんですよ」
「鬼がたくさん? まるで『鬼ヶ島』ですわね」
レンの話にシズカがふむふむ、と頷く。一方、リゼルはきょとんとして、なんの話? と首を傾げていた。宇宙人のリゼルじゃわからないのも仕方ないか。
「日本の御伽話に出てくる鬼の住んでいる島だよ」
「ああ、架空の島なのね。鬼しかいないの?」
「御伽話ではね」
確かそうだったと思うが。鬼の本拠地で要塞のようなものなんだから、普通の人間はいないはずだ。いや、攫われてきた人間とかはいたかもしれないけども。
あらためて考えるとそんな鬼の本拠地に、犬、猿、雉の三匹だけをお供によく特攻したな、桃太郎は。どう考えても負け戦なんだが。
鬼の数が十人くらいだったのか、桃太郎がチート級の強さだったのか……。まあ、御伽話にそんなことを言ったところで無粋なだけだけどさ。
「その鬼ヶ島には、とんでもなく強くて大きな鬼がいるんだそうです。ひょっとしてそれが【酒呑童子】じゃないかと……」
酒呑童子。第五エリアのボス(だと思われる)八岐大蛇を出現させる鍵となる八匹のキーモンスターの一匹。
まあ八匹のキーモンスターを倒せば八岐大蛇が出現するなんて話も予想でしかないのだが。
「でも酒呑童子ってのは確か山にいるんじゃなかった?」
ミウラの言う通り、酒呑童子は大江山を根城にしていた鬼だ。だけどそこは別に重要な部分ではないと思う。それを言ったらなんで両面宿儺は城にいたんだって話になるしな。
そもそもタペストリーに描かれていた八匹のモンスターから『そうじゃないか?』と予想しただけで、あの鬼が酒呑童子だとは何一つ確証がないわけだし。なにか別の鬼かもしれない。
「鬼ヶ島か……。本当にあるなら、酒呑童子かはわからないけど鬼のボスがいそうだな」
「クランで東ってどこのギルドが担当してたっけ?」
「えっと、確か【ゾディアック】と【カクテル】ですね。鬼ヶ島がある東南の方は【ゾディアック】の方だったかと……」
【ゾディアック】……トーラスさんやレーヴェさんのギルドか。
【怠惰】の第五エリアは左右に広い。第四エリアからの入り口が北にあるので、基本的には北の方はあらかた探索されている。
残るは東西と南だが、南は【暴食】の第四エリアに繋がっているため、そちらへ向かうプレイヤーも多く、こっちもそれなりに探索されていた。
今のところ、あまり探索が進んでいないのは東と西で、僕らが所属するクラン【白銀】は、探索をするギルドでそれぞれ担当を決めていた。
むろんこれは強制ではない。だから僕ら【月見兎】は、探索には参加していない。
同じ東方面でも鬼ヶ島があるあたりは【ゾディアック】が調べているようだ。
一応、トーラスさんたちに情報を提供しておこうか。
強制ではないとはいえ、非協力過ぎるのもなんだしな。
僕が代表してレンがクロから聞いた鬼ヶ島の話を、トーラスさんにメールで送っておく。
さて、見つかるかどうか。見つかっても酒呑童子がいるかどうかわからないけどさ。
◇ ◇ ◇
「それでどうだったんだい、トーラス?」
「いやー……。シロちゃんのことやさかい、たぶんあるんやろうなぁ……とは思っていたんやけど、実際に目にしたら度肝を抜かれたで」
クラン【白銀】の本拠地、白銀城。その天守閣兼会議室で、ギルド【スターライト】のギルマス・アレンが報告に来たトーラスの言葉を促していた。
会議室には【カクテル】のギルマス・ギムレット、【六花】のギルマス・リリー、【ザナドゥ】のギルマス・エミーリア、そして探索から帰ってきた【ゾディアック】のレーヴェ、トーラス、キャンサがいた。そしてその横にもう一人。
「ま、見てもらった方が早いわな。これや」
ピッ、とトーラスは空中に出したウィンドウに一枚のスクリーンショットを映し出した。
「これは……!」
「まんま『鬼ヶ島』ね……!」
その映像を見た面々からなんともいえない声が漏れる。
遠目に映されたその島は、中央部に大きな岩山がそびえ立ち、その両端がまるで角のように天に向かって伸びていた。そう、まるで鬼の角のように……。
「もうちょい短めやったら『猫耳島』っぽくなったのになぁ」
トーラスが場の空気を和ませようと軽口を叩くが、どうやらすべったようである。
「相変わらずシロ君はどこから情報を掴んで来るんだ……?」
「今回はシロちゃんやのうて、レン嬢ちゃんからの情報らしいで」
「類は友を呼ぶってやつなのかしらね……」
【月見兎】の非常識さは今に始まったことではないので皆、情報源などそのこと自体にはそれほど驚いてはいない。ただ呆れているだけだ。
「それで? この映像を撮っただけで帰ってきたわけじゃないんだろう?」
「もちろんや。アクエリア」
「はい」
キャンサと後ろに控えていた少女が前に出る。青いローブと短めのワンドを持っているところから、アレンは魔法使いか、と当たりをつけた。
「【ゾディアック】所属のアクエリアと申します。これまであまりログインできなかったので、ご挨拶が遅れました」
「アクエリアは『召喚師』でな。召喚したモンスターと意識を共有することもできるんや」
召喚師だったか、とアレンは自分の予想が外れたことをおくびにも出さず、小さく頷いた。
「こちらが鳥の召喚獣で見た視点の『鬼ヶ島』になります」
「おお……!」
「これは……!」
ウィンドウに動画が映し出される。それは空を飛ぶ鳥の目から見た『鬼ヶ島』で、地形が手に取るようにわかるものだった。
海からすぐの海岸は砂浜もなく、まるで洗濯板のような岩場が続く。
「ほとんど岩山じゃねぇか……。ここにいる鬼たちはどうやって生活してるんだ?」
「いや、ギムレットさん。これゲームだから……」
ギムレットが画面を見ながら溢した言葉に【六花】のリリーが突っ込みを入れる。
本来なら草木もない岩山だらけの島で、生物が生きていけるわけはないのだが、ゲームである以上、それは大した問題じゃないのだろう。問題は……。
「多いな……」
「本当に『鬼ヶ島』なのね……」
上空から見える島中の至る所に鬼たちがたむろしている。
それぞれ肌の色が違い、赤、青、黄、緑、黒の五色の鬼がいた。その身体には虎縞の腰巻きだけの、『いかにも』な鬼もいれば、下半身だけ具足をつけた鬼、完全に武者鎧を身に纏う鬼の姿も見えた。
手には大きな金棒や棘の付いた鉄球を持っている者もおり、信じられないことにそれを使って鬼同士で戦っている者もいる。じゃれあいではない、本気の殺し合いだ。
しかし周りはそれに無関心で、その横で何やら話し込んでいたりする。
まるで日常的に殺し合いが行われている殺伐とした世界に、映像を見ていたアレンたちは言葉を失った。
「鬼ヶ島ってか、ちょっとした地獄だな……」
「ここに乗り込むのはちょっと勇気がいるわねー……」
たとえゲームとはいえ、それとは別に人間である以上、暴力への恐怖は付きまとう。この光景を見て怖気付くようであるなら、参加を見合わせるのもアリだとアレンは思った。嫌がる者を無理に参加させて、トラウマを作る必要はない。
召喚獣の鳥は洗濯板のような岩場を抜けて、島の中心にそびえ立つ岩山の方へと向かう。
岩山の中腹には大きく横に裂けたような洞窟があり、遠目にはそれが鬼の口のようにも見える。
その洞窟からのそりと一匹の鬼が外へと出てきた。
ゴツゴツとした鎧を身に纏った青い肌の鬼武者だ。他の鬼よりも一回り身体が大きく、右上の肘から先が無かった。
左手には大きな出刃包丁のような大剣を持っている。どうみても片手で持てるような大きさではないのに、その鬼は軽々とそれを肩に担いでいた。
「あれが酒呑童子か……?」
「いえ、おそらくあれは茨木童子じゃないかしら……」
「茨木童子?」
ギムレットの疑問に答えたエミーリアにアレンが尋ねる。
「酒呑童子の腹心の部下よ。茨木童子は酒呑童子を退治に来た源頼光の家臣、渡辺綱に腕を切り落とされているの」
「確かに右腕がねえな……」
「これがその茨木童子だとしたら、やはり酒呑童子もここにいる可能性が高いな……」
「あ、ほら!」
茨木童子に続いて洞窟の奥からもう一匹の鬼が姿を現す。
それは茨木童子よりもさらに大きく、筋骨隆々とした鋼の鬼のようだった。
赤銅色の身体の上半身には禍々しい肩当てと小手だけがあり、ざんばらな長く赤い髪からは大きな角が二本伸びている。腰には幅広の大きな太刀と赤い瓢箪が吊るされていた。
まさに『鬼』を体現した存在に、見ていたアレンたちが息を呑む。
ふと、その赤い鬼の視線がこちらへと向いた。おもむろに赤い鬼は足下の石を拾うと、何気ない仕草でこちらへと向けてその石を投擲する。
次の瞬間、ブツッと映像が途切れ、真っ暗な画面がその場に提供された。
「ここで召喚獣がやられました。かなり目が良く、投擲のコントロールもいいようです」
「いや、あの距離を当てるのかよ……」
「地元の球団にスカウトしたいくらいの腕やな」
召喚獣はHPが0になったとしてもクールタイムさえ過ぎればまた喚び出すことができるが、この時点で気付かれたと判断した【ゾディアック】の面々はすぐに撤退を決めた。
下手にひと当てしようなどと考えると、強制的にイベントが始まってしまうかもしれないからだ。
何度も挑戦できるイベントならいい。だが、一回限りのイベントだった場合、【ゾディアック】の彼らにはもうチャンスがなくなってしまう。
それをこんな準備不足の状態でふいにするなど馬鹿らしい、というわけだ。やるなら準備万端整えてからだ。
「みんなどう思う?」
「当たり、なんじゃないかな?」
「私もそう思います。あれが酒呑童子かと」
「鬼ヶ島で鬼退治か。なかなか骨が折れそうだな」
アレンの問いかけに、リリー、エミーリア、ギムレットが答える。
「よし、じゃあ攻略に向けて予定を立てようか」
クラン【白銀】の幹部たちが、これからのスケジュールと鬼ヶ島攻略への作戦を話し始めた。
◇ ◇ ◇
「【神速】。……うわっ、気持ち悪っ」
帝国皇帝旗艦内にあるホロデッキの中で、僕は『龍眼』の力を使い、現実世界でシロとなって【神速】を試してみた。
付き添いは真紅さんのみ。ミヤビさんはいない。なんか重要な会議があるとかなんとか。真面目に皇帝陛下やってる時もあるんだな……。
ノドカとマドカも健康診断だとかでどっかに行った。
【神速】を使うとやはりゲームと同じように全ての物体がスローモーションに見え、その中を僕だけが自由に動くことができる。
ゲームの世界と違うところは、そのゆっくりとした感覚が五感で感じられるところだ。
動くと明らかに肌に違和感を感じる。痛いとか重いとかそういった感覚ではない。なんというか、身体の周囲に不思議なバリアのようなものが張られているような感じ?
「ふむ。惑星ヴィルドに住むネオラ人の瞬間移動に似てますね。『転移』ではなく、あくまで『移動』ですか」
僕の動きを見て、メイド姿の真紅さんが一人納得したように頷く。
確かに【セーレの翼】のようにA地点からB地点へ『跳ぶ』ような転移とは違い、【神速】はどんなに速く動いても、A地点からB地点までの中間を『移動』していることになる。
「ですから、このように」
「うわっ!?」
真紅さんがパチンと指を鳴らすと、目の前の地面にポッカリと穴が空き、驚いた僕はその場で急停止した。
「移動する手段を止めてしまえば必然的に動きを止められます。石壁を作る、なんて方法も有効ですね」
ううむ、確かにそうだけど、それをされる前に接近してしまえばいいんじゃないかな。
「試してみますか?」
「お願いします」
僕は再び【神速】を発動させて真紅さんへと向かっていった。
ゆっくりとした時間の中で、真紅さんが指を鳴らそうとする。だが、僕の方が速……。
次の瞬間、目の前が真っ赤になり、爆発音とともに僕の身体は宙に吹き飛ばされていた。
「あいてっ!?」
そのまま地面に背中から落ちる。シロに【変化】していると紙装甲とはいえ防御力が上がり、加えてHP分、ダメージが直接肉体にいかないようになる。軽い痛みや衝撃、少しの熱さはあったが、おかげで怪我一つしていないようだった。
というかなにがあった!?
「地雷を踏んだんですよ」
「怖いな!?」
地雷って! ホロデッキの中だから簡単にセットできるんだろうけど、生身の状態だったら死んでたんじゃないか!?
「極力威力を抑えた地雷ですので。このように、移動する場所にトラップを仕掛けられるといくら速く動いてもくらってしまいます。さっきの場合、地雷を踏んだと判断したらすぐにそのまま【セーレの翼】で転移するのが正解でしたね」
「いや、そんな判断すぐにはできないって……。踏んだって感覚もよくわからなかったし」
「ああ、地球製の地雷にするべきでしたね。それなら踏んだ感覚がわかったかもしれません。ではもう一度……」
「やらないよ!?」
また吹き飛ばされるのは御免だ。だいたい僕を狙ってくるとしたら宇宙人なんだから、そっちの方はやらなくてもいいだろ!
「そうでしょうか? 地球人の中にも個人で異星人と繋がっている者はいます。情報がそちらに漏れれば、地球人にも狙われる可能性は充分にあると思いますが……」
「ええー……?」
マジか。宇宙人だけじゃなく、わけのわからない奴らにまで狙われるなんて冗談じゃないぞ。
サングラスをした黒スーツの男たちなんかに追われたりしないよな……? って、あれは宇宙人を捕まえる方か。……いや、僕も宇宙人の子孫だから捕まえられるか……?
「まあ、護衛の双子と私の監視システムを破るような輩は地球人にはいないと思いますけどね」
おお……。頼もしいような、おっかないような……。いやもう本当に、平穏な生活を返して下さい……。
「皇帝陛下に頼めばすぐにでも平穏な生活になると思いますが」
「それ絶対、物理的な解決方法ですよね?」
徹底的な殲滅、どっかの国が消え去るとか、そんなレベルの解決方法だよね? きっと。さすがにそれはどうかと思う……。
「結局は地球の動向次第なのですが。地球人が星の海へ進出、あるいはこの惑星に束縛されると決まってしまえば、皇帝陛下も動きやすくなりますから」
「地球の所属が『連合』か『同盟』に決まるか、見放されて放置されるかすれば、ってこと?」
「そうです。前者ならば『連合』『同盟』に殿下の安全を掛け合えばいいですし、後者であればこの国ごと星を支配してしまえばいいのです」
「そっちも物騒だな!?」
『連合』『同盟』が見放した地球を『帝国』がもらっちゃおう、ってこと!?
「『連合』も『同盟』も、地球人には宇宙に新しい風を吹き込む可能性があると思われているから手を差し伸べているわけです。その可能性がないと判断されたなら、『連合』も『同盟』も『帝国』がなにをしようと文句を言ってはきませんよ」
うわー……。なんという手のひら返し。使えない奴だとわかったら、後はもうどうなっても知らないってことなのかい?
「でもそれだったら『帝国』としては地球人の宇宙進出反対派の方に回った方がよかったんじゃ……」
「そもそも皇帝陛下はともかく、『帝国』自体は地球人になんの興味もありませんでしたから。殿下の存在がわかって初めて目を向けるようになったくらいですし。先ほどこの星を支配、と申しましたが、殿下がお嫌だと一言おっしゃれば、陛下はお聞き下さると思いますよ」
ううん……。地球を支配するってのは僕の安全確保のためなんだろうけど……さすがにやり過ぎ。
とはいえ、わけわからん奴らに狙われるのもな。結局は自己防衛しかないんだろうなあ。
真紅さんの言う通り、惑星上空からの監視システムに加え、ノドカマドカの双子の護衛がいれば安全なんだろうけどさ。
「どちらかというと、馬鹿な行動を起こしそうなのは地球人の方かと思います」
「え……? な、なんで?」
「皇帝陛下の怖さを知らないからです。自分のこめかみに銃口を当てて、間違いなく死ぬとわかっているのに、引き金を引く者がいますか? それでも引く馬鹿は、自殺願望者か銃がなにかを知らない者です」
と、真紅さんは言ったが、僕もそう思う……。僕もミヤビさんの本当の怖さを知らないからなんともいえないけど、あの人は敵に回った者に容赦はしないと思う。どう逆立ちしたって地球人が敵う相手じゃない。そんな相手に自分から敵対するって、『殺して下さい』って言っているようなものだよなあ……。
「地球と宇宙の窓口が開き、陛下が皇太子殿下の存在を公表すれば、地球人自体がそんな馬鹿を自ら制止するようになると思いますが……」
「身バレはちょっと……」
「でしょうね」
安全を確保したけりゃ自分という存在を世に知らせなくてはならない。今の平穏な生活のためには身バレはなんとしても防がなければならない。
どうしようもなくなったら、公に存在をバラした方が安全なんだろうけど。
まあ『帝国』の皇帝旗艦と、頼りになる二人のボディガードがいるんだから、大丈夫だろ。……たぶん。
【DWO無関係 ちょこっと解説】
■鬼ヶ島
鬼ヶ島というと『桃太郎』の鬼ヶ島が有名だが、その他の昔話でもいくつか登場している。基本的にはどれも鬼が住む要塞と化した島で、様々な財宝があるとされる。日本各地には鬼ヶ島のモデルとなったいう地がいくつかあり、郷土伝説の観光地などとして親しまれている。