■161 宇宙人の事情
「釣れぬ……」
僕は拠点である【星降る島】の桟橋で、釣り糸を朝からずっと垂らしていた。
【猫精族】のクロからの頼みごとは、『七色鮎』こと『セブンフィッシュ』を手に入れること。
てっきり一匹だけかと思っていたら、最低十匹は欲しいとのことだった。
ちょっと多いなとは思ったけれど、釣れない数ではないだろうと判断してクエストを引き受けたのはいいが、さっきからずっと釣れない。
なんとか一匹は釣れた。だがそこから全く釣れないのだ。
正確にいうと釣れてはいる。だけどそれは『セブンフィッシュ』ではなく、別の魚だった。いわゆる外道ってやつだ。
「おっ!」
アタリがきたのでリールを巻きながらグイッと竿を引く。
やがて桟橋まで引き寄せた魚を見て、ガッカリしながらタモで掬う。
【ハリボンボン】 魚類
■全身棘だらけの小型魚
肉は硬くて食用に向かない
皮は装甲として使える
釣り糸に垂れ下がっているのは野球ボールほどのパンパンに膨らんだトゲトゲの魚である。まるでハリセンボンだ。
こいつは食べられない上に、素材としてもイマイチなのだ。鎧や装甲の素材として使えはするが、小さいため使用できる部分が少なく、継ぎ合わせて使うのでそれだけ数がいる。
ハリボンボンで作られた鎧はそこまで耐久性が高いわけでもなく、手間だけかかって性能は低いというなんとも残念な鎧だった。
さっきからこいつばかり針にかかる。売ったところで大したお金にはならないけど、何かに使えるかもしれないので一応インベントリには入れておく。
花とか虫とか魚とかはアイテム扱いなので、『馬小屋』などの特殊な道具を使わなくても生きていたってインベントリに入るのだ。
針に餌をつけて再びキャスト。んで、再びくいくいと動かしながら魚を誘う。
ちょっと思ったんだが、これってゲームなんだからリアルな釣りの真似してもあまり関係ないのか……?
いい性能の竿とか釣りに関するスキルを付けた方が釣れるのかも……?
【月見兎】のみんなにはあの店のことを話したが、みんなは行くことができなかった。
あの狭い道を通り抜けることができなかったのだ。
入ったところに戻ってしまうらしい。どうやら最初はあの白猫に導かれないと入れないっぽい。
というわけで、僕以外のみんなはカグラの町で猫探しをしている。スキル昇格の店なんて逃せないもんな。
【スターライト】やクランのみんなにもあの店の情報を公開した方がいいかな? と相談するとウェンディさんからストップがかかった。
今までの【猫精族】のシークレットエリアのことを思うと、あまり噂を広げすぎるとその場所から撤退してしまう可能性があると。
言われて確かに、と納得してしまった。掲示板や情報サイトに書かれている【猫精族】たちは、プレイヤーが押し寄せることを嫌い、消えてしまった例が多い。
猫は気まぐれ、というが、それは【猫精族】にも当てはまりそうで、このことは僕らの間で秘密にすることに決めた。
引きが来たので手繰り寄せるとまた『ハリボンボン』だった……。お前はもういいっての。
「ポイントを変えようかな……」
島で釣る時はこの桟橋でずっと釣っていたが、別の場所に移動してみるのもいいかもしれない。
僕はタモの入ったバケツを持って、桟橋から移動することにした。
海岸線をぐるりと回り、反対側の砂浜から再び釣りを開始する。
「これは一日で終わるクエストじゃないかもな……」
そこから何匹か外道が釣れて、やっと二匹目の『セブンフィッシュ』が釣れた。
その日一日を僕は釣りに費やしたが、結局釣れたのは全部で四匹だけだった。
◇ ◇ ◇
「結局釣れなかったなあ……。いや、釣れてはいるんだけども」
VRドライブから立ち上がり、大きく身体を伸ばす。長時間座っていたからか、身体からポキポキという音がした。
窓の外を見ればすっかり夕暮れになっている。休日とはいえちょっと入りすぎたか。
すっかり陽が落ちるのが早くなってきたよな。もう秋を通り越して冬になりそうだ。
さて、晩御飯を用意しないと。今日は何にするか……秋っぽく秋刀魚の塩焼きとか……。
……いや、魚はいいや。今日はもう見たくもない。
しからば肉か。豚の生姜焼きなんかで……あれ?
キッチンに向かおうと廊下を歩いていた僕の鼻に、その生姜焼きの匂いが漂ってくる。
足早にキッチンに向かい、中を覗くと赤い髪のメイドさんが手際よくフライパンを使い、豚肉を焼いているところだった。
「え? なんで真紅さんが?」
正確には帝国旗艦である真紅さんの動かす端末のひとつ、女性型機械人形のメイドさんである。
そのメイドさんが何故にうちで料理をしているのか。
「殿下、お邪魔しております。御夕食はすでにできておりますので、どうぞお席に」
言われて食堂のテーブルを見ると、すっかり酒で出来上がった様子のミヤビさんと、一心不乱に料理を掻っ込む双子の姿があった。あ、なんかわかった気がする……。
「おお、シロ。ようやっと出てきたか。ほら、冷めぬうちに食べるがよい」
「また来たんですか……」
最近ちょいちょいこっちに降りてくるな……。なんだ? 帝国皇帝ってのは暇なのか?
まあ、【連合】と【同盟】とは違って、【帝国】は縄張り争いをしているわけじゃないからなあ。
ただ、それは地球のことに関してだけであって、【帝国】自体の仕事はあるんじゃないの?
「ほとんどの仕事はじいがやっておるからな。わらわが出るとすれば星間戦争くらいじゃろ。君臨すれども統治せず、というやつじゃな」
そんな疑問をぶつけたらなんともな言葉が返ってきた。いや、それたぶん意味違うと思う……。
「じいやさん苦労してんな……」
僕はマルチーズの顔をしたじいやさんに同情の念を禁じ得なかった。うちのご先祖様がご迷惑をおかけいたしております……。
席に着き、テーブルに並べられている豪勢な料理に目をやる。
生姜焼きの他にも、ステーキやらハンバーグやら唐揚げやらが所狭しと並べられている。……なんか肉料理がやたら多くない?
「地球の肉料理が陛下のリクエストでしたので」
「ああ、なるほど……」
狐って肉食だっけ? 雑食? まあ、それは当てはまらんか……。宇宙人だし酒飲んでるし……。
ハンバーグを切り分けて一口食べる。相変わらず美味い。けど、これ地球の肉かな……? 前と同じく培養肉か……?
「今回は地球で手に入れたちゃんとした肉です。殿下は培養肉はお苦手のようでしたので」
僕の心を読んだかのように真紅さんが求めていた答えを教えてくれる。え、そんな苦手な顔してたかな? 料理自体は美味しかったから、普通に食べたつもりだったけども。
「培養肉の説明をしたとき、心拍数や脈拍がわずかに上がりましたので、そうではないかと」
「ああそう……」
完全にモニターされてたのか……。まあ、戦艦の中だったからな……。真紅さんの体内にいるようなものだし、当たり前か。
ま、謎肉でなければ安心して食べられる。肉ばかりってのがちょっとバランス悪いけども。
「あ、ちょっと聞きたいんだけど……」
「ん? なんじゃ?」
「『DWO』での【猫精族】って、似たような種族がログインしてるの?」
『DWO』にはNPCは基本的におらず、宇宙人がログインして現地の人間のようにプレイしている。
地球人がどういう種族なのか、その調査をするための協力者がNPCであり、その舞台が『デモンズワールド・オンライン』なのだ。
この事実は地球人のプレイヤーは誰も知らない。
いや、『DWO』を管理・運営している、レンフィル・コーポレーションはその事実を知っているはずだ。
レン……レンシアは知らないようだが、社長であるお父さんは知ってるんじゃないかな……。
【連合】も【同盟】も地球人に協力者はいるようだし。
「【猫精族】か……。確かチュウル星のニャール族だったか?」
「はい。カリカリ星系の種族ですね。気まぐれで気分屋な種族です」
なんともなネーミングだが、これってばミヤビさんたちの翻訳システムが僕にわかりやすいような言葉に変えているんだとか。地球人だと聞き取りも発音もできない言葉があるかららしい。
おそらく、だが。『チュウル』とか『カリカリ』ってのは、向こうでの食べ物っぽい言葉なんじゃないだろうか。
まあ、意思が通じれば名称なんてなんでもいいと思うけども。
「【同盟】側の種族じゃな。『DWO』の中でも気ままにやっとるらしいが……」
「【同盟】側なのか……。近づかない方がいいかな?」
「問題はないと思いますよ。【同盟】所属の種族が全て地球人を危険視しているわけではないので。殿下が【帝国】側と知れたらその限りではありませんが」
「いや、僕は別に【帝国】側じゃないからね?」
どっちかというと【地球】側だから。
でも【帝国】側と見られても仕方ない立ち位置だよな……。【帝国】の現女皇帝の子孫で、種族の王権の証である『龍眼』を持っているんだから。
「僕の情報って漏れてないよね?」
「今のところは、な。まあ漏れたとしても、特に問題はないじゃろ。手を出すような馬鹿はおらんと思うし、出したとしても、そんな馬鹿は潰すからの」
その『潰す』ってのは物理的に……? 物騒な考えが頭をよぎったが、それを口にする勇気はなく、僕は切り分けたステーキを黙って食べた。
「御命を狙う馬鹿は出なくとも、取り入ろうとする馬鹿は出るかも知れませんね。殿下の寵愛を受ければ、将来は安泰ですし」
「僕自身にはなんの力もないけど……?」
「陛下の子孫、親族というだけでそういった馬鹿には魅力なのですよ。おそらく男は側近の、女は妻の座を得ようと有象無象の輩が寄ってきますね」
うわあ、嫌な未来だわあ……。
「安心せい。側近も妻もわらわの目にかなったやつしか許さんからな」
「違う。心配しているのはそこじゃない」
側近も奥さんも欲しくないっつーの。
「宇宙人のいざこざに巻き込まないでほしいんだよなあ……」
「かかか。今さら無理じゃな。シロの立場がバレるバレない以前に、すでに地球人類は宇宙人のいざこざに巻き込まれておる。『DWO』の中でもいろいろと【審判】が行われているようじゃし」
「【審判】?」
ミヤビさんの言葉に僕はフォークを止めて、そちらへと視線を向けた。
「シロもやられたじゃろ。『監視者』がやっている地球人たちの調査じゃ」
『監視者』。
僕が会ったのは天使のような翼を持った金髪の女性。サラとか言ったか。
ミヤビさんの話によると、彼女たち『監視者』は、地球人に試練を与え、その行動を観察し、種族としての本質を推し量ろうとしているらしい。
『監視者』に観察されたプレイヤーは記憶を消されてしまうため、その存在が知られることはない。
その試練が【審判】か。まるで入学試験の面接官気取りだな。
「人間というものはゲームという中にその者の本質が滲み出ることが多いようじゃ。本来の自分ではない、現実のことではない、という状況が、その者が理性で押し込めている本性が前面に出てくる。NPCとやらに扮している我らの態度を見ればわかるじゃろ?」
確かにミヤビさんの言う通り、ゲームの中だと本性が出るというのはあると思う。
NPCへの態度だって、AIだと思っているプレイヤーは態度がそっけなかったり、酷いのになると道具のように命令しようとする者もいる。
プレイヤー同士だって、おそらく普段では言わないような酷い言葉を投げたりする者もいる。
匿名性があり、自分への利害関係が全くない世界では、その人の本性がある程度出てくるのは仕方がないのかもしれない。
僕自身、ゲームの中では少し好戦的になっているな、と自覚することもあるしな。
『DWO』の中では大なり小なり違う自分を演じている部分はあるけど、人の本質はそう変わらないからな……。『監視者』が人類を判断するには絶好の場所だってことか。
だけど、NPCに友好的な態度を取っているプレイヤーだって少なくはないはずだ。僕の場合、『中の人がいる』と知ってしまったから、横暴な態度なんてとれやしないんだけれども。や、とる気はないけどね?
「どのみち一つの星の中で争っている以上、地球人はまだ外宇宙には出られないと思うがな。まずは統一政府を樹立せんと。わらわなら『地球人同士で争っている場合ではない』とわからせるためにも、ちょいと脅しをかけてやるがのう』
なんかミヤビさんが物騒な事を言い出した。それってどんなインデペンデンス・デイ……?
「脅しってちなみにどんな……?」
「他の星では大陸を一つ消し飛ばしたことがあるな。すぐにその惑星種族が一つにまとまり、支配下に置いてくれと懇願してきたわ。この星にもほとんど誰も住んでいない大陸が一つあるじゃろ?」
それってひょっとして南極大陸ですかね……? そりゃ南極大陸を消し飛ばしたら、地球人同士で争っている場合じゃないってなるとは思うけど……。
確か南極の氷が全部溶けたら、海面が六十メートルくらい上昇するとかテレビで見たような……。世界中のいろんなところが沈没するんじゃないだろうか。
……いや、『消し飛ばす』って言ったな。それって氷も大陸も全て消すってこと? 逆に海面が下降する……?
どっちにしろ地球にとって壊滅的なことになりそうだ。
【帝国】が地球に干渉しないでいてホントによかったよ……。
「あれ? ミヤビさんは地球に来るために【帝国】を建国したんですよね?」
「そうじゃな。星間法を改定するのにかなりの議席数が必要じゃったからの。支配下に置いていくのが一番早かった」
「そこまでして地球に来たかったのは『龍眼』を探し出すため?」
僕は首にぶら下がっている御守り袋に入ったままの『龍眼』を取り出した。もともとこれはミヤビさんが持っていた王権の証である。
これがないと自分の種族に王として認められない、とか?
「確かに『龍眼』を回収するという理由もあったが……。もう一度この星に降り立ってみたかった。あやつと一緒に過ごしたこの星にの。地球人の一生は短い。もはや会うことは叶わんのはわかってはいたが、それでも『帰ってきたぞ』と、あやつに伝えたかった……」
ミヤビさんの言う『あやつ』ってのは、僕のご先祖様、ミヤビさんの旦那さんのことだろう。
ミヤビさんにとって、この地球は思い出の地なんだと思う。それなりに愛着を持っているのかもしれない。
ならもうちょっと過激な言動は控えてもらいたいところだ。地球をどうこうしようという気はないっぽいけれども。いろいろと心臓に悪いんだよ……。
「【連合】・【同盟】の審査に落ちて、人類は外宇宙に進出する資格なし、となったら、地球はどうなるんだろ?」
「特にどうにもならんと思うぞ? たぶん放置されてそのままじゃな」
あ、なんだ。なら、今までと変わらずにいられるってわけか。ちょっと安心した。
「ですが、【連合】・【同盟】の庇護を失うわけですから、地球は異星人が好きに入り込む無法地帯になりますよ? さすがに表立っての侵略などはしないでしょうが、異星人が裏で暗躍し、傀儡国家の一つや二つはできそうな気はします」
え……? アカンやん……。まったく安心できんよ。
真紅さんの説明を聞いて、僕はこれは思ってたよりもヘビーな問題だと考えを改めた。
もはや地球は宇宙人と関わらずに過ごす段階を越えたのだ。
宇宙の先達の手を借りて外宇宙へと飛び立つか、密入国(星?)し放題の無法地帯になるか。
その鍵を『DWO』のプレイヤーたちが握っている。地球の運命を左右するこのことを公開しないで本当にいいのだろうか?
「公開して態度を改めても、【連合】・【同盟】側は納得しまい。うわっ面だけを見て真の仲間になんぞなれはせんよ。【帝国】なら殴り合うがの」
なにその、拳で語り合うみたいな交渉術……。地球のメイン審査担当が【帝国】じゃなくて本当によかったよ……。
「地球が無法地帯になってもさほど問題はあるまい。わらわの庇護を示せば、シロとその周りに手を出す愚か者はいなくなると思うぞ?」
「しかし馬鹿はどこにでもいますからね。陛下のお力を見たことのない馬鹿が調子に乗って、手を出す可能性も〇.一%未満ですがありますよ」
なんかもう、穏やかな生活を望めない感じになってきてるんだが……。この先どうなるんだろう、僕……。
「ふむ。ならば少し『龍眼』の力を引き出せるようになった方がよいかの」
「え?」
「真紅、母艦に転送じゃ」
「御意」
「えっ、ちょっと待っ……!」
止める間もなく目の前のうちのリビングが、以前見たことのある転送室へと切り替わる。またかよ!
「転送完了。お帰りなさいませ、皇帝陛下、皇太子殿下」
以前も会った転送主任らしい鷲頭の軍人さんが僕らを出迎える。確か、ライエンさん、だったか?
いつの間にか足下に靴が現れている。
「こっちじゃ」
スタスタと転送室を出ていくミヤビさんを追いかけて、靴を履いた僕もそれに続く。
途中、通路の窓から真っ暗な宇宙空間に星空が見えた。相変わらず現実離れしてるよなあ……。
通路を歩いていた人たちがまるで海を割るかのように左右に分かれて深々と首を垂れる。当然、ミヤビさんに頭を下げているのだけれど、これって僕に対しても下げられている?
恐縮しながらその中を歩き、やがて大きな扉の前に着くと、その扉が自動でパタパタと折り畳まれるように内側に開いていった。
ミヤビさんたちとその中へ入ると、折り畳まれた扉が再び元に戻って閉じていく。
その部屋は小さな十畳ほどの部屋だった。外壁はつるんとした光沢のある光を放っていて、正面にはさらに大きな扉があり、その左右にはチカチカと光るセンサーやパネルなどが見えた。
「どの星がいいかの?」
「アルテナ星系の惑星ツェレルがよろしいかと」
「ではそこにするか。大気と重力は地球と同じ設定でな」
「御意」
真紅さんが軽く頭を下げると、扉の横にあったセンサーパネルがピピッと小さく鳴り響き、目の前の大きな金属製のエアロックのような扉が、ガゴン、と音を立てて左右に分かれていく。
「え……?」
僕は扉の中にあった光景に一瞬言葉を失う。
扉の中に見えたのは、緑の森と美しい湖、その奥に連なる雪化粧をした高い山々。そしてどこまでも広がる青い空。
まるでアルプスの高原のような景色が広がっていたのだ。
呆然と佇んでいると、扉をくぐり、ミヤビさんたちが先に中へと入る。
「皇太子殿下、どうぞ中へ」
「あ、はい……」
真紅さんに促されるまま、僕も中へと入る。
一歩踏み出すと、その足に土と草の感触を覚えた。頬に爽やかな風が当たる。遠くから鳥の鳴き声が聞こえてきた。
いったいここはどこなんだ? いくらなんでも船内にしては広過ぎやしないか?
僕がそんなことを考えているうちに真紅さんも中へと入ると、その後ろにあった扉が再び閉まり、フッ、と消えてしまった。あっ、なんか不安になる……。
「地球のどっかに転送されたんですか?」
「違う。ここはホロデッキの中じゃ。仮想世界を体験できる部屋での、ここにあるものはすべて幻よ」
「仮想世界?」
僕は足下に咲いていた花を触り、一輪千切って匂いを嗅いだ。まるで本物だけど……これが幻?
「正確にはその花は幻ではありません。殿下が触ろうとした瞬間、レプリケーターによって本物が一瞬にして形成されています。部屋の外へ持ち出すことも可能です」
え!? これは本物なの……? いったいどういう技術が使われているのかさっぱりわからん……。
「VRドライブと同じようなものなのかな……?」
「似て非なるものですが、まあ、そう考えてもよろしいかと。ただし、VRとは違い、こちらは現実ですのでご注意を」
うん、よくわからないけど、深く考えるのはやめよう。でなきゃやってられんよ。もう……。
【DWO無関係 ちょこっと解説】
■インデペンデンス・デイ
1996年制作のSF映画(アメリカ)。監督はローランド・エメリッヒ、主演、ウィル・スミス。簡単に言うと、地球を侵略しに来た宇宙人と、それに抗う地球人との戦いを描いたお話。一応、続編に『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』がある。