表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第五章:DWO:第五エリア
162/181

■159 オデッセイ





 ゴールディの【ザナドゥ】加入は大きな衝撃を与えた。主に【エルドラド】の面々に。

 『信じられない』と嘆く者もいれば、『裏切りだ』と怒る者もいた。非難囂々とあったが、【エルドラド】がしでかした一プレイヤーとしてのゴールディに対する行為は看過できるものではなく、事務所を通してその真実がプレイヤーたちに伝えられた。

 たとえゲーム内であったとしても、盗撮や無断での映像使用、肖像権の侵害などは許される行為ではない。

 それが伝わるや、プレイヤーたちの非難は【エルドラド】へと傾いた。ゴールディが辞めるのもさもありなん、と。

 やらかした【エルドラド】の幹部たちとは、ゴールディの仲裁もあり、事務所とは示談となったようだが、詳しくは知らない。

 とはいえ、【エルドラド】はこの上ないダメージを受け、脱退者が続出した。みんな問題を起こしたギルドに所属しているのは肩身が狭かったのだろう。

 結果、【エルドラド】はあっさりと解散となってしまった。かつて【怠惰】一の大きさを誇ったギルドが簡単に瓦解してしまったのである。

 もともとゴールディ──金城つきひのファンギルドであったわけだし、その象徴ともいうべき存在が抜けた時点でこうなることは予想できたのかもしれないが……。

 面倒だったのは解散した後の元【エルドラド】のプレイヤーたちである。

 やはりというかなんというか、図々しくも【ザナドゥ】に入ろうとしてきた輩が何十人もいたらしい。

 当然ながらエミーリアさんはこれを拒否。ゴールディ以外の元【エルドラド】のメンバーは加入を認めず、と言い放った。

 『DWOデモンズ』ではステータスに『ギルド履歴』という項目があって、どこにどれくらい所属していたか、辞めた理由が『脱退』か『追放』かがわかるようになっている。

 これは問題あるプレイヤーをギルドが抱え込むリスクを抑えるためのものだ。

 この機能があるため、問題を起こした大半のプレイヤーは追放される前に自分から脱退する。次のギルドに入るとき『追放』では印象が悪くなるからな。

 元【エルドラド】のメンバーかどうかはギルド履歴を見ればすぐわかる。これにより元【エルドラド】のメンバーは【ザナドゥ】に入る望みを断たれた。

 ところが【ザナドゥ】に入れないとなった彼らは、今度は同クランのギルドに入ろうとし始めたのだ。

 同クランであれば、ゴールディと接触する機会もあると考えたんだろうな……。もうストーカーと変わらんのじゃないだろうか。

 ちなみに【月見兎うち】にも何人か来た。そんなヤバい奴らをうちの保護者ウェンディさんが認めるはずもなく、ギルマスに交渉さえも許されることなく門前払いにされた。

 【ザナドゥ】からの通達もあり、他のギルドでも元【エルドラド】メンバーは加入を許されなかった。

 そりゃあ、必ず問題を起こすとわかっている者を入れたくはないよな。

 結果、どこにもいけなかった【エルドラド】の元メンバーは新たなギルドを設立。【エデン】と名を変えて、その中身はほぼ【エルドラド】という新しいギルドが誕生した。

 人数はさらに三分の一ほど減って、七十人ほどというけれど、それでも大人数のギルドだ。奇しくも【ザナドゥ】と同じくらいか?

 ちなみに【エデン】というのは金城つきひのファーストアルバムにある曲名なんだそうだ。そういうとこがさぁ……。


「『DWOデモンズ』外のファンの反応はどうなんだ?」

「ん……何人か【エルドラド】と同じ反応を見せたのがいたけど、アレって【エルドラド】のギルメンの中の人じゃないかと思ってる。それ以外は特に大きな動きはないわ。変に炎上しなかっただけマシだったと思う」


 晴れて【ザナドゥ】のメンバーになったゴールディが、クラン【白銀しろがね】の拠点、白銀城の休憩所でお茶を飲んでいる。

 【ザナドゥ】に加入したということは、彼女もクランメンバーに入るわけで、その施設を利用しても問題はない。仮にも現役アイドルであるため、注目されるのはどうしようもないが。


「【ザナドゥ】の仲間たちとはうまくやっていけてるのか?」

「……ちょっとなに? アンタは私のお父さんなの? ……それなりにうまくやっているわよ。エミーリアやクローネたちも気を使ってくれてるし」


 いや、こうなったきっかけが僕にもあるから気になるだろ。また変にギクシャクしても困るし。

 【エルドラド】が瓦解したことで、【怠惰】一の大手ギルドは【オデッセイ】ということになった。

 メンバーも増え、百五十人ほどになっているらしい。最盛期の【エルドラド】が二百人越えくらいだけど、じきにそこまで届きそうだな。

 『DWOデモンズ』のソフト本体も再販が決まってるし、これからさらに新たなプレイヤーも新規加入してくる。

 初期のプレイヤーたちは試行錯誤の連続で、クリアまでいろいろと手間や時間がかかるが、後発のプレイヤーたちはその先達の集めた知識や技を利用できる。

 つまり成長するのが楽なのだ。失敗を恐れることなくスキルを取得して育てることができる。

 ま、あくまでそれは効率のいいスキルの使い方や、失敗しないための情報だったりするので、そこそこは強くなれるだろうが、それ以上にはなれなかったりするのだが。

 やはり自分で考え、悩み、試行錯誤した方が、他の人とは違ったスタイルを生み出せる。

 みんながみんな効率がいいからって、同じスキル、同じ武器、同じ道具を使っていては面白みがないと思うんだ。

 ゲームの攻略を一から百まで全部わかってしまったら、それは自分でやる意味があるのか?

 だから僕は極力攻略サイトは見ないし、掲示板も見ない。動画をちょっと見るくらいかな。テイムしたモンスター動画とか。面白武器とか。

 まあなんにしろ、新規プレイヤーが大手ギルドに所属したがるのはよくあることだから、【オデッセイ】もすぐに【エルドラド】並の大所帯になりそうだ。


「それでエミーリアたちも話していたけど、このクランは『八魔将』を探してるのよね?」


 八魔将。いつの間にか、八岐大蛇ヤマタノオロチの出現条件である、倒すべき八体の中ボスモンスターがそんな名前になっていた。

 そもそも全部倒したら出現する、と確定しているわけでもないんだが。疑わしいってだけでさ。

 が、例のタペストリーのことも【オデッセイ】の方から公開されてしまったので、ほとんどのプレイヤーたちはそう考えている。

 『両面宿儺りょうめんすくな』、『雷獣らいじゅう』、『鉄鼠てっそ』は討伐され、残りは『酒呑童子しゅてんどうじ』、『火車かしゃ』、『白沢はくたく』、『大天狗だいてんぐ』、『土蜘蛛つちぐも』の五体。

 今のところこれといった情報もなく、手詰まりの状態だ。


「クランとしてはその八魔将? を倒す方針らしいけど、【月見兎ぼくら】はそこまで躍起になって探しているわけじゃないよ」

「なによ、【オデッセイ】に負けてもいいわけ?」

「こういうのは勝ち負けじゃないと思うんだけどなあ……」


 僕らはそれほど第六エリア一番乗りに執着しているわけじゃないからな。

 第六エリアは最後のエリアだから、とてつもない秘密が隠されている。いや、魔界から天界へ渡るための秘密の入口がある。なんて噂もあるけど……。どこまで本当なんだか。

 さらに第六エリアに一番乗りした領国には大きな特典がある、なんてのまであるからな。

 どうせどこかのプレイヤーがふざけ半分に話した作り話なんだろうと思うけど、ひょっとしたら運営側が広めた噂なのかもしれない。

 新しい大陸ってのはあるかもしれないと思ってはいるけど、すぐ行けるわけじゃなくて、たとえば他の領国の第六エリアのボス全てを倒さないと行けない、とかなんじゃないかと思うんだが。

 まだ行ってない場所は山ほどあるからな。


「どのみち全く情報が入ってこないこの状況じゃどうしようもないだろ。そんなことより自分の心配をしとけって。未だに元【エルドラド】メンバーが絡んでくるんだろ?」


 さすがにこの『白銀城』の中までは入ってこられないから安全だろうけど、出待ちしてないとも限らないからな。


「何人かに絡まれたけれど、これ以上はGMコールするって言ったら下がっていったわ。もう同じギルメンでもないし、そうなったらもうストーカーと変わらないから」

「なかなかに厳しいな……」

「こっちも後がないからね。これ以上問題になると事務所から『DWOデモンズ禁止令』が出るわ。少なくともこのアバターでの活動は禁止になる。新しく『金城つきひ』とは全く違う容姿のアバターで、レベル1から始めなきゃいけなくなるのよ。冗談じゃないわ」


 なるほど。『金城つきひ』の外見じゃなければ、プライベートでゲームをしてるだけだから自由ってことか。でも全部リセットからのスタートはキツイよな。

 『DWOデモンズ』にはサブアバターというものはない。

 そのため、俗に『転生』と言われる、アバターリセットをする際には、ギルドハウスの方に武器や防具、アイテム、お金などを共有財産として預け、転生後に受け取る、という手順が必要になる。

 一旦持っているものの所有権を放棄しないと、アバター消滅と同時にそれらも消えてしまうからである。

 これがソロだったりすると、ギルドハウスが使えず、預けることができずに全部捨てることになる。

 その時だけどこかのギルメンになるって手もあるが、下手すれば全部奪われるからな……。実際、そういうトラブルもあるらしいし。

 アバターリセットをする理由は人それぞれいろいろあるだろうが、やはりデメリットが多いので、あまりする人は少ない。特に初期からやっているプレイヤーは。

 ジョブやスキルなど、育て方を失敗した、いうのもあるだろうが、取り返せないわけではないし、それでも続けた方が無駄にならない。

 たとえば僕がこの時点で、『魔法職になりたい』と思ったとしても、時間はかかるがなれないことはないのだ。

 確かにアバターリセットした方がすぐに魔法使いにはなれる。

 ただ、アバターリセットして魔法職になっても、それは普通の魔法使いだが、このまま魔法職になれば、AGIすばやさ特化の魔法使いになれるわけで。

 まあ、ものすごく時間はかかるし、そのままAGIすばやさ特化の双剣使いで極めた方が強くなれると思うけど。

 とりあえずゴールディと別れ、白銀城を後にしてカグラの町へとポータルエリアで転移した。

 明日、久々にみんな揃って狩りに行くのでちょっとした買い出しだ。特殊なモンスターを狩るのでそれに使うアイテムを準備しておきたい。

 相変わらず和洋折衷の町は人々で賑わっていた。日々、後続のプレイヤーたちが第四エリアをクリアして、この町へとやって来る。

 今もおのぼりさんみたいなプレイヤーがはしゃぎながらキョロキョロと町を見回していた。

 おそらく初めてこの町に来たのだろう。ということは、今日フロストジャイアントを倒したのかもしれないな。

 おっと、視線が合ってしまった。あまりジロジロと見るのは失礼だな。

 と、思っていたら、向こうのほうからズンズンとこちらへとやってきた。あれっ? あんまり見ていたからなにか因縁をつけてるのかと勘違いされたか?


「あのっ! ウサギマフラーさんですよね!」

「……違います、シロです」


 キラキラした目でそんなことを言われた僕は思わず訂正していた。

 ウサギマフラーは装備しているけど、それは僕の通り名ではない。ないったらない。


「動画見ました! PKとの決闘とか、霧骸城での攻城戦とか! すごいですね! 尊敬します!」

「ああ、そりゃどうも……」


 早口で捲し立てるそのプレイヤーは【夜魔族ヴァンパイア】の双剣使いだった。

 革鎧とホットパンツを着込んだ軽装スタイルだ。歳は僕より少し下っぽい。男の子……っぽいけど女の子……だよな? 栗色の長い髪は三つ編みに纏められている。やっぱり女の子だと思う。


「私も双剣使いで、ウサマフさんと同じAGI(すばやさ)メインのステ振りなんですよ! だからウサマフさんの戦い方がすごく参考になってます!」


やっぱりか。この子も僕と同じ戦闘スタイルのようだ。あとウサマフさんとか略すな。っていうかウサギマフラーでもないわ。

 【夜魔族ヴァンパイア】は【獣人族セリアンスロープ】に次いでAGIが高い種族だ。その代わり防御力が低いのだが、回避特化にすればそこは補える。

 器用さも高いのでうちのレンのように弓矢を扱うこともできる。たぶん【投擲】あたりも取ってるんじゃないかな。


「いつかウサマフさんと戦ってみたいと思ってたんですよ! 私と【PvP】してくれませんか!?」

「え……ヤだけど……」


 今までニコニコだった顔がすごくショックを受けたような顔になっている。

 いやだって、初対面の相手といきなり【PvP】とか嫌だよ。のっぴきならない理由があるならともかく。


「なんでですか!? ウサマフさんは来るもの拒まず、いついかなる者の挑戦も受ける、真の強者つわものじゃないんですか!?」

「それは僕じゃない知らん奴だね」


 なんだそのバトルマニアなウサマフさんは。そんなに戦いたきゃコロッセオに行ってきなよ。強い奴いっぱいいるから!


「お願いします! 私と【PvP】をして下さい!」


 目の前に【PvP】承認ウィンドウが開く。もちろん即【NO】を押した。


「なんでですか!?」

「面倒そうだから!」


 あかん。こいつ見た目は普通だけど、中身はドウメキと同じ人種だ。戦闘狂バトルジャンキーだ。


「して下さい! お願いします! なんでもしますから! ウサマフさんじゃないとダメなんです!」

「ちょっ、言い方ァ!?」


 周りの皆さんに誤解を与えるでしょお!? 『DWOデモンズ』では直接的なセクハラはできないけど、似たような行為はできないわけじゃない。

 本当にセクハラならGMコールしてやるところだ! 周りの人たちの視線が痛い! 


「なにを騒いでいる?」

「うお……!」


 その人だかりの中からズイッ、と出てきたのは一人の【鬼神族オーガ】の男性。

 歳の頃は三十手前といったところだろうが、驚いたのはその身長である。

 デカっ!?

 軽く二メートル半は超えているんじゃないか? 種族特性により、【鬼神族オーガ】を選択すると、男性はひと回り体格が大きくなるのだが、それにしたってこれは大きすぎる。たぶん実際の身長がデカいんだな……。

 【スターライト】の【鬼神族オーガ】であるガルガドさんだって二メートルちょい超えくらいだぞ?

 その体格にふさわしいでっかい盾を背負っているので、盾職タンクかな……? 妖怪ぬりかべみたいな盾職タンクだろ、この人……。


「シエル、騒ぎは起こすなと言ったぞ?」

「ガイア兄さん! だってウサマフさんだよ!? 戦ってみたいじゃん!」


 ガイア兄さん? 兄妹か、この二人?

 ガイアと呼ばれた【鬼神族オーガ】の男性が僕の方に視線を向ける。

 【鬼神族オーガ】の男性は一歩前へ出ると、僕に対して軽く頭を下げた。


「すまない。妹が迷惑をかけたようだ。久しぶりに『DWOデモンズ』に入れたもので、ちょっと浮かれているんだ。どうにもこいつは落ち着きがなくてな……」

「はあ……」

「ちょっと! 落ち着きがないってなにさ!」


 ガイアさんの後ろで反論しているシエルの姿がほとんど見えない。やっぱデカいわ、この人……。


「俺はガイア。【オデッセイ】のギルマスをしている。こいつは妹のシエルだ」

「【オデッセイ】……!」


 ガイアさんが口にしたその言葉に目を見張る。この人が現在【怠惰】の領国で一番の規模を誇るギルド、【オデッセイ】のギルマスか!


「僕は……」

「知っている。【月見兎】のウサギマフラーだろう? 活躍はよく耳にしている」

「違います。ウサギマフラーじゃなくてシロです」


 自己紹介しようとしたらコレだよ……。耳にしているって、たぶんその情報、妹さんからだよね!?

 わかりやすくするために、僕は普段は切っているネームプレートのポップを【ON】にした。

 頭上にこれでもか、とばかりにネームプレートがポップする。


「シロ、か。そうか、二つ名だったか。どうりで珍しいキャラネームだな、と……」


 二つ名でもないやい。『DWOデモンズ』はアバターが一つしか作れないし、基本的に名前の変更もできない。

 さらに言うなら世界観にそぐわない不適切な名前は弾かれる。なのであまり変な名前はつけられないはずだ。つけられないことはないかもしれないけど、誰が『ウサギマフラー』なんて馬鹿な名前をつけるか。


「そんなことよりも! 【PvP】! 【PvP】ですよ! 【PvP】しましょうよ!」

「すまん、こいつは君に憧れていてな。一度でいいから相手をしてやってくれないか」

「はあ……」


 小さく頭を下げるガイアさんの大きな身体の後で、シエルがぴょこぴょこと左右から顔を出す。まさに妹に振り回される兄、って感じだな。

 これからも会うたびに【PvP】をせがまれたら面倒だな……。

 一回だけやってそれで終わりにするか……。


「わかりました。一度だけなら……」

「すまん」

「やった! んじゃさっそく!」


 僕の目の前に【PvP】の承認ウィンドウが再び開く。



──────────────────────

【シエル】から決闘デュエルの申請があります。


時間:無制限

モード:ダイイング

スキル:使用可

戦技:使用可

アイテム:使用不可


勝利条件:相手プレイヤーの死亡


参加プレイヤー

【シエル】


受託しますか?

──────────────────────



 試合形式はダイイングモードか。これは死亡状態になってもHPが0にはならず、HPが1になったその時点で勝負が決する一般的な試合形式だ。

 負けてもペナルティはなにもない。外のフィールドであれば、試合後にモンスターに襲われる可能性があるため危険だが、町中なら問題ない。PKもできないしな。

 【YES】をタッチすると、審判役の『DWOデモンズ』のマスコット、デモ子さんがポンッと現れる。


『【PvP】が成立しましたですの。カウントダウンを始めますの』


 デモ子さんの頭上に、試合開始までのカウントダウンが流れ始めた。周囲の人たちが僕らから離れ、対峙する僕とシエルが同じように双剣を抜く。

 同じタイプの相手と戦うのはなにげに初めてだな。AGIが高い相手というのなら、【スターライト】の『拳闘士グラップラー』、メイリンさんなんかとは戦ったことがあるけども。

 どちらもAGIが高いとなると、どっちが先手を取れるかってことに勝負が左右されるな。

 そこは【加速】がある僕の方が有利か? AGIが高いってことは、攻撃が当てにくいということでもあるけど、【分身】による包囲攻撃なら問題はない。

 やっぱりいつものように初手から全力攻撃といくか。


決闘開始デュエルスタート!』


 デモ子さんの試合開始の合図と同時に【分身】を発動、七人全員で【加速】をしながらシエルに向かっていく。


「そうくると思ってましたよ……! 【震脚】!」


 シエルが右足を地面に叩きつける。地面に波紋のようなエフェクトが広がり、さざなみのようになって僕と僕の分身の足下を通過していく。

 っ!? 身体が動かない!? 瞬間硬直か!


「もらいました! 【一文字斬り】!」


 一番近くにいた分身体にシエルが戦技をしかける。マズい! 僕のHPは七人に分身したことにより、六十四分の一になっている。この状態で一撃でも喰らえば間違いなくKOされてしまう。


「【分身】解除!」


 【一文字斬り】を喰らうギリギリで、僕は分身体を消すことに成功、シエルの攻撃は空振りに終わる。

 その隙を突いて僕はシエルとの距離を【加速】で一気に詰めた。もうHPはレッドゾーンギリギリなんだ。守ったところで仕方がない。ならとことん攻める!

 走りながら双銃剣ディアボロスの引き金を引く。銃口から放たれた魔法に反応して、それを素早く避けるシエル。


「それが魔法を撃てる銃ってのも知ってますよ!」


 だろうな! 両面宿儺との戦いを見たなら知っていてもおかしくはない。だけどさ、ディアボロスは『初級魔法ならなんでもチャージできる』っていうのまでは知ってたか!?

 シエルが避けた魔法弾が突然目も眩むほどの閃光を放った。


「うにゃっ!?」


 光属性の初級魔法【フラッシュ】。その光に攻撃力は全くないが、三秒間、見た者に【失明】の付与を与える。

 この魔法は今日、【ザナドゥ】の魔法使いプレイヤーに頼んで入れてもらったものだ。明日狩りに行こうと思っていた闇属性のモンスター対策にな。

 まさかその前に使うことになるとは思わなかったが……。また入れてもらいに頼みにいかんと。

 【失明】状態になっているシエルに接近、さらに再び【分身】を使い、分身体がシエルをぞろっと取り囲む。

 もはや僕のHPは完全にレッドゾーンに突入し、ほとんどその場から動けなくなる。しかし、戦技の発動はオートモーションなので関係ない。

 レッドゾーンに突入寸前だったHPがさらに六十四分の一になっているが、それでもまだ1にはなっていない。本当にギリギリだ。

 外せば間違いなく負けだが、この距離で包囲して相手は【失明】状態、外すほうが難しい。


「【金剛】!」

「っ!? 【アクセルエッジ】!」


 突然黄金の輝きを放ったシエルに、左右四連撃を分身の数だけ叩き込む。AGI重視の双剣使いなら、紙装甲に違いない。これだけダメージを与えれば間違いなくHPを削れると思ったのだが……こいつ、耐えやがった……!

 いや、耐えたどころじゃない。ノーダメージだと……!?

 

「どうです! 【金剛】は、すべての抵抗値が一時的に大幅に下がる代わりに、どんなダメージも1にしてしまうスキルなんですよ!」


 自慢げに自分のスキルを語るシエルに、僕は()()()()()()()

 ノーダメージではないようだ。確かに少しだけ削れている。1でも手数分ダメージが入ったなら()()()()()

 さらにいうなら抵抗値が下がるって……。残念だったな。僕のディアボロスとそのスキルは相性が悪すぎる。

 ドゥン! というデバフ音とともに、シエルの頭上に複数のアイコンがピロリロリロリロ、と連続で浮かび上がる。

 【猛毒】【発狂】【石化】【昏睡】【沈黙】【凍結】【燃焼】【恐怖】【洗脳】【気絶】【失明】そして【即死】。


「うそぉぉぉぉぉォォォォ!?」


 おお、『双銃剣ディアボロス』の特殊効果【呪い】は五パーセントの発動率なのに、ものすごく乗ったな。シエルの【金剛】はかなり抵抗値が下がるらしい。

 一瞬にしてシエルのHPはレッドゾーンに突入し、1を残して止まった。ダイイングモードだと、【即死】でも1残るんだな。


「い、いったいなにが……?」


 ガクッとシエルが四つん這いに膝を折ると同時に、デモ子さんがサッと右手を上げる。


『決着! 勝利プレイヤー【シロ】!』

 








DWOデモンズ ちょこっと解説】


■アバターリセットについて

DWOデモンズ』では一人のプレイヤーにつき、一体のアバターしか作れない。新しいアバターを作るには、現在のアバターを消去して作るしかない。引き継ぎ足しはなく、アイテム、所持金、レベル、経験値、全てがリセットされる。リセット前にギルドホームなどに預けて(実際には譲渡)新しいアバターで受け取ることは可能。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  アバターリセットをする理由は人それぞれいろいろあるだろうが、やはりデメリットが多いので、あまりする人は少ない。 [一言] 「あまりする人は少ない」ではなく「あまり多くない」の方が良い…
[良い点] 勝利プレイヤー【シロ】やっぱ主人公だな。主人公は強くなくちゃね。 [気になる点] あまりする人は少ない。「あまり」と「少ない」はダブってるんじゃない?単に「する人は少ない。」でいいんじゃな…
[一言] デバフのオンパレードで草
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ