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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第五章:DWO:第五エリア
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■157 魔王の王笏





 リンカさんが言うには、手にしている『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』が、わずかにだが一定の方向に向けると引き寄せられるような反応があるという。


「おっきな磁石でも埋まってるのかな?」

「それでしたらわたくしの薙刀や、ミウラさんの大剣も引き寄せられているはずですわ」

「とりあえず行ってみましょうか?」

「ん。え、と……こっち」


 僕らは『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』をダウジングロッドのようにして歩くリンカさんの後についていく。

 ゴロゴロと大きな岩が転がる斜面の上を、僕らは誘導されるがままに進んでいく。

 時折りモンスターが現れたりしたが、なんとか倒しながら山を登って進んでいくと、やがて大きな岩のところに辿り着いた。


「うわー、でっかい岩だなー」


 ミウラが呑気そうな声で岩を見上げる。

 大きさとしては高さ五メートルはあるだろうか。一つの岩としてはかなりでかい。

 その大きな岩の周りを『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』を手にしたリンカさんがぐるぐると回る。


「間違いない。この岩が『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』を引っ張っている」

「なんの変哲もない岩に見えるけど……」


 リゼルが岩をペタペタと触る。たぶん岩は普通の岩だと思う。おそらくは中に……。

 リンカさんが『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』のハンマー部をくいっと上に向ける。


「……上の方?」


 あ、上か。

 ここからじゃ高すぎてまったく見えないな。つるんとした岩じゃないし、デコボコしたところを掴んでいけば登れるか?


「ちょっと登ってみるよ」

「気をつけて下さいね」


 レンから注意を受けつつ、登る手がかり足がかりになりそうなところを探して、少しずつ岩を登っていく。


「あれ?」


 五メートルほどだからそれほど苦労もせずに岩を登り切ると、特になにもない岩肌のてっぺんが見えた。

 なにもない? いや、そんなはずは……。

 注意深く見てみると岩から十センチほど、なにかが飛び出している。なにか棒のような……これは剣が岩に埋まっているのか?

 柄のような部分は錆びや埃で汚れている。手にして引っ張ってみるが、まったく抜けない。力一杯引いてみるがやはり抜けない。


「これは掘るしかないか……」

「なにかありましたかー?」


 下からレンの声が聞こえてくる。


「武器っぽいのが岩に埋まってる。ちょっと掘るから休憩しててくれ」


 インベントリからパワーピッケルを取り出し、周りの岩を削っていく。時間がかかりそうなので【分身】を使い、多人数でガッツンガッツンとスピードアップを図る。

 これ、剣かと思ったけど、鍔というかガード部分がないな……。槍か? だとしたらものすごく掘らないと取れないんじゃ……。

 ちょっと面倒だな、と思いつつ掘り進めていると、岩を登ってリンカさんがやってきた。どうにも何を見つけたのか気になったらしい。


「これは?」

「たぶん、リンカさんの持つ『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』と同じ、魔王シリーズの武器なんじゃないかと……」

「手伝う!」


 リンカさんが鼻息荒くインベントリからパワーピッケルを取り出して、猛然と岩を掘り出す。リンカさんも【採掘】を持っている上、熟練度も高いから掘るのが速いな……。

 やがて僕らがその先端まで掘り返すと、その棒状のものがゴトン、と僕らが掘った穴の中に斜めに倒れた。


「槍じゃない? これは……棒? 棍棒……。戦棍メイス、か?」

「違う。これは杖」

「杖? ってことは魔法使い用の武器か? って重っ!?」


 穴の中にあるその杖を取り出そうとしたが、重くて持ち上がらない。『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』との時と同じだ。間違いなくこれは魔王シリーズに違いない。

 持ち上げられないので、前と同じくインベントリに入れて岩の下で待つみんなのところへと戻る。

 再びインベントリから錆と土のついた杖を出し、リンカさんに【鑑定】の上位スキル、【解析】で調べてもらった。



魔王の王笏ベルフェゴールセプター】 Xランク


 ATK(攻撃力)+0

 耐久性100/100


■太古より封印されし魔王の王笏

 扱えるのは特定の称号を持つ者のみ

【状態】封印中 無登録


□装備アイテム/杖

□複数効果なし/

品質:LQ(低品質ロークオリティ)

■特殊効果:

 魔法を吸収し、蓄積することができる

 

【鑑定済】



 『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』……やっぱり魔王シリーズのひとつか。やっぱり封印状態なんだな。

 これが『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』の時と同じだとすれば……。


「ねっ、ねっ、これって!?」


 リゼルがワクテカした目でこちらを見てくる。まぁ、うちで杖装備するの彼女くらいだからなぁ……。職業ジョブ的にも必然的に使い手が決まってしまうわな。


「……どうぞ」

「やった!」


 リゼルが嬉々としてボロボロの杖を手にすると、以前の『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』の時と同じく、杖からまばゆいばかりの光が放たれた。

 錆や石片がボロボロと剥がれていき、その下から現れたのは、銀と白金で彩られ、先端に涙滴型の水晶が嵌め込まれた、まさに王笏と呼ばれるに相応しい杖であった。

 長さは一メートルちょいほどか。あれほど重かったのに、リゼルは軽々と振り回している。やはりこれも『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』と同じだな。


「【解析】……。あ、やっぱりステータスが変わってる」


 リンカさんがリゼルの持つ『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』を【解析】する。どれどれ?

 



魔王の王笏ベルフェゴールセプター】 Xランク


 ATK(攻撃力)+0

 (レベルと魔法攻撃力に依存)

 INT(知力)+0

 (基本INT×2)

 MND(精神力)+0

 (基本MND×2)

 耐久性 10000/10000


■太古より封印されし魔王の王笏

 扱えるのは特定の称号を持つ者のみ

【状態】【魔術師】封印解除 無登録


□装備アイテム/魔神笏

□複数効果なし/

品質:F(最高品質フローレス

■特殊効果:

 全ての魔法効果が熟練度に応じて増加する

 魔法攻撃力を物理攻撃力に変えることができる

 魔法を吸収し、蓄積することができる

 自由に浮遊し、操ることができる

 

【鑑定済】



 おいおい、なんかとんでもないことが表示されてるけど……。

 INT(知力)とMND(精神力)の二倍ってなんだ? 基本値が二倍になるってこと? それだけでもすごいのに、特殊効果がまたとんでもない……。


「この『魔法攻撃力を物理攻撃力に変える』ってのはどういうことなんだろう?」

「……おそらくですが、たとえば【ファイアボール】で与えるのと同じダメージを、殴ることで物理的に与えることができるのではないかと」


 僕が疑問に思っていると、ウェンディさんがそんな説明をしてくれた。

 【ファイアボール】と同じダメージを物理的に?

 それって魔法を敵にぶつけるのと変わりないんじゃないの? 

 100のダメージを魔法を飛ばして与えるのと、殴って与えるかの違いでしょ? なんなら安全に遠距離攻撃できるぶん、【ファイアボール】の方がいいんじゃないか?


「魔法に耐性のあるモンスターもいますし、接近された時に使えると思います。盾職タンクとしてはそのような状況にはさせないつもりですが」


 確かに魔法が効きにくいモンスターでも攻撃手段があるのはありがたい……か?


「この魔法を吸収、蓄積というのは、おそらく相手の魔法を吸収してMPまりょくにしてしまうのでしょうね。そのような能力を持つモンスターが【嫉妬】の領域にいると聞きました」


 シズカの説明を聞いて、僕は目を見張る。それって相手からMPを貰えちゃうってこと? 魔法使いにとってMP切れが無くなるってのは、ものすごいメリットなのではないだろうか。

 あ、でも相手が運良く魔法を使ってくるモンスターじゃないとダメなのか。だとすると、使えるけど使いどころが限定されるな……。

 でも【PvP】なんかで魔法使い相手なら絶対負けないんじゃないか、これ……。

 相手の魔法は吸収して自分のMPに変えてしまうし、魔法攻撃力を物理攻撃力に変換できるし。相手が魔法使い系なら紙装甲だろうから、一発殴れば勝てる気がする。


「この『自由に浮遊し、操ることができる』ってのは……」

「え、と……こうかな?」


 リゼルが『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』から手を離し、そのままその手を翳すと、杖は倒れずにゆらゆらと回転していた。まるでコマが倒れる直前のような動きだ。

 やがてバランスを崩して杖が横倒しになったと思ったら地面スレスレのところでピタリと止まった。

 そこからスーッと杖が横になったまま浮いてくる。


「浮いた!」

「浮いてますわね」


 ミウラとシズカが杖の周りの空間を、手を横に振りながら何もないことを確認している。いや、まさか釣り糸で吊っているわけでもあるまい。

 杖に手を翳して左右に動かすリゼルを見ていたレンが尋ねる。


「これって浮かせるのにMPを消費するんですか?」

「少しだけ。持続消費だからたぶん今の私のMPなら十分もしたら切れるね」

「延々と飛ばせるわけじゃないんですね」


 MPの持続消費か。僕の【加速】なんかと同じわけだ。

 十分も持つということは、減り方は【加速】より緩やかなのか? いや、魔法使い職のリゼルの最大MPと、僕の最大MPを比べること自体が間違っているか。

 右に左に杖を移動させていたリゼルだったが、そのうちミウラがふざけて杖にぶら下がり始めた。

 しかし杖は落ちることなく、それどころかリゼルの操作でさらに上昇していく。


「わわわ!?」


 上昇に慌てたミウラが杖から手を離し、飛び降りる。

 

「これってリゼル自身も乗れるのか?」

「どうだろ……? やってみる」


 リゼルは下降してきた杖に自転車のように跨ごうとしたが、思い直して横に座った。魔女のホウキのように飛ぼうとしたのかもしれないけど、うん、スカートだしね……。

 リゼルが横座りした杖がふわりと浮く。いきなり高くは怖かったのか、1メートルほど浮いてスイーッと前進する。少し重心を傾けるようにして右にくいっと曲がり、そのままぐるーっと回ってきた。

 やがて慣れてきたのか走るくらいのスピードで飛び始める。


「これくらいが最高速かなあ。あんまりスピードは出せないみたい……あっ!?」


 きゅっ、と止めた杖に対応できず、リゼルだけがスポーン! と前に飛んでいって地面に落下した。おお、慣性の法則を見た。


「いたたた……」

「嘘つけ。VRなのにあれくらいで痛みが出るもんか」

「気持ち的に! どうしても焦るでしょ!」


 それはまあわからんでもないが。


「シートベルトがあるわけでもないので、安全性に不安がありますね」

「実際にこれで怪我をすることはないんだから、別にいいんじゃない? リゼル姉ちゃん、次、あたしも乗せて!」


 危険性を問うウェンディさんと、まったく気にしないミウラ。ま、落ちてもHPが減るだけだしな。

 ミウラはさっきリゼルがやめた、ホウキに跨がるようにして杖に乗った。

 リゼルが操作して杖をついーっと飛ばし、その上でミウラが楽しそうにはしゃいでいると、バランスを崩してクルンと手と足でぶら下がるように体勢が変化してしまった。まるで木にぶら下がるナマケモノだ。


「落ちる〜」

「座るには安定感がありませんね」

「椅子でもつける?」

「戦うとき邪魔だよ」


 ぶら下がったまま、ぐるーっと回ってミウラが帰還した。楽しいか? それ……。


「椅子は無理だけど、ベルトくらいはつけようかな……。それを手に持って乗れば、落ちることもないんじゃない?」

「なるほど。ベルトか」


 それならアリかもしれない。杖にベルトをつけて犬のリードのようにすればいいのか。あまり長いと邪魔だから、短めにして。それにベルトなら腰にぶら下げることもできるしな。


「よっし! じゃあ山探索に行ってみようか!」

「テンション高いなあ……」


 自分専用のレア武器を手に入れたリゼルはご機嫌だ。ここんところいろんなことがあって、だいぶ疲れてるだろうから、これくらいのご褒美はあってもいいのかもしれない。

 ウキウキとしているリゼルに苦笑しつつ、僕らは【銀皇山】を登る。

 途中、採掘ポイントを見つけては、僕とリンカさんがピッケルでコツコツと採掘していく。

 ほとんどがAランク鉱石。たまにBランクも。やっぱりそう簡単にはSランク鉱石は出ないか……。


「あっ、モンスター発見」


 ミウラの声に振り向くと、岩の鎧を纏ったようなトカゲがこちらへ向かってやってくるところだった。

 明らかに防御力の硬そうな相手だな。ここはリンカさんの『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』で……。


「はいはいはい! 私あれ倒したい!」


 岩トカゲを見るや否や、リゼルが勢いよく手を挙げて倒したい宣言をする。おそらく、いや間違いなく手に入れた『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』を使ってみたいんだろう。

 相手は動きが鈍い上に一匹だし、大丈夫かな? 一応、何かあった時のためにカバーに入れるようにしておく。


「よーし、じゃあやってみるよ! 【ファイアランス】!」


 リゼルが魔法を唱えるが、杖の先からは【ファイアランス】が飛び出さない。代わりに杖の先に嵌められた涙滴型の透明な水晶部分が赤く変化していく。まるでルビーのような輝きだ。


「えいっ!」


 さすがに近づいて殴るのは躊躇したのか、リゼルはまるで槍のように杖を突き出して岩トカゲを攻撃した。

 リゼルも僕に負けず紙装甲だからな。直接物理攻撃を食らったら大ダメージを受けるし、および腰になるのも仕方な……。


『ガブァァァァ!?』

「え?」


 顔の側面に杖の先がぶつかった岩トカゲが弾かれるように横へ吹っ飛び、大岩に当たって止まった。

 一撃で岩トカゲのHPはレッドゾーンへと突入している。おいおい、なんて威力だよ……! 【狂化】を使ったミウラと同じくらいの破壊力があるんじゃないのか!?

 

「リゼルさん、とどめを!」

「あ、そ、そっか。えっと、じゃあ今度は普通に魔法を……【ファイアアロー】! え……?」


 リゼルの杖の先から炎の矢が飛び出す。しかしそれはいつも戦闘で見る【ファイアアロー】より、ひとまわりも太く大きい炎の矢であった。

 燃え盛る炎の矢が轟音とともに岩トカゲを吹き飛ばす。明らかにオーバーキルだ。


『ギョワァァァァァ……!』


 岩トカゲ君はあっさりと光の粒になって消滅する。なんというか、ハンパないな……。


「な、なんかものすごい威力なんだけど……」

「魔法効果が増加する、ってその杖の特殊効果なんだろうけど……。すごいな、これは……」

「ここまですごい効果だと、何かしらのデメリットがありそうですが……」


 ウェンディさんがそんなことを口にするが、これといってデメリットはないような気がするけど……。


「デメリット……。うーん……」


 ウェンディさんの言葉が気になったのか、リゼルが先ほどの戦闘記録ログを表示して細かくチェックしている。【解析】スキルでもわからない隠しパラメータや特殊効果があるかもしれないからな。

 僕らもそれを横から覗いて確認するが、これといって問題はないような……。


「あの、ちょっと気になったのですけど……」

「ん? なに?」


 レンがおずおずと小さく手を挙げてリゼルに問いかける。なにか小さなことでも気がついたなら教えてほしい。


「先ほどの岩トカゲからなにかドロップしましたか?」

「え?」


 レンの言葉にリゼルの顔がサーッと青くなっていく。ちょっと待て、まさか……。

 嫌な予感がした僕らの元に、もう一匹の岩トカゲ君がのそりと現れた。

 友達の仇だ! と言わんばかりにリゼルへ向けて突進する岩トカゲ君。どうやらさっきの戦いの時にも遠くにいたらしいな。ヘイトがリゼルに向かってるんだ。


「今度は僕らも攻撃する。リゼルはトドメだけを」

「わ、わかったよ」


 流石に岩で覆われているので、僕やミウラ、シズカやウェンディさんのような斬撃系の武器はあまり効果がない。まあ『攻撃した』という事実が必要なだけで、トドメはリゼルに刺してもらうのだが。


「【ファイアアロー】!」

『ギョワァ!?』


 リゼルの炎の矢が貫き、岩トカゲ君は友達の後を追った。南無。

 僕がドロップウィンドウを確認すると、『岩蜥蜴の爪』と『岩蜥蜴の尻尾』が複数ドロップしていた。


「僕は爪と尻尾が二つずつドロップした。みんなは?」

「私は牙と骨が二つずつです」

「あたしは皮だけ。四つ」

「私は肝が一つと皮が二つですね」


 みんなそれなりにドロップしているようだ。で、問題のリゼルはというと……。


「爪が一つ……」


 おっ、ドロップしたか。いやー、全くドロップしないのかと思ったけど、ドロップするだけまだマシだな。しかし他のみんなが平均四つドロップしているのに対してリゼルは一つだけか。


「明らかにリゼルさんのドロップ率だけ低くなってますね」

「これって『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』の効果なの?」

「鑑定した時には書いてなかったけど……やっぱり隠し効果なのかも」


 ともかく検証しようということで、それから僕らはそこにいた岩トカゲを乱獲しまくった。

 結果、やはり『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』で戦うとドロップ率が低くなるということがわかった。

 戦闘中に武器を変えてもダメらしい。一回でもその戦闘で『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』を使ってしまうとアウトっぽい。


「これボス戦では使うのに勇気がいるよ……」

 

 貴重なボスドロップのアイテムを取り損なう恐れがあるからなあ……。でも楽にボスを倒せるなら、使うってのも考慮の余地はあるかもしれない。悩ましいところだ。

 結局リゼルは『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』を常用装備にはせず、サブウェポンとすることにした。

 装備するとドロップ率が下がるが、アイテム扱いとし、空飛ぶ杖として使うならそのデメリット効果はないとわかったのだ。

 『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』で浮かび、上から普通の杖で魔法を放つスタイルだな。いざとなったら『魔王の王笏ベルフェゴールセプター』を装備して強力な魔法をブッ飛ばす、と。


「いらないアイテムを落とすモンスターなら容赦なく使えるし、レアアイテムが落ちないわけでもないし……。まあ許容範囲内かな……」


 それを補って余りあるメリットがあるからなぁ。ドロップ率が下がるといっても、検証した感じでは半分くらいは落ちるみたいだし。

 僕らの場合、四つのアイテムをドロップするとしたら、リゼルは二つか一つ。

 さらにいうなら、ドロップ数が減るだけで、レア度は関係ないっぽい。僕が価値の低いアイテムを四つドロップしたのに対し、リゼルはレアなアイテムを二つってのもあったし。

 いいアイテムが落ちるかどうかは完全に幸運度ラックになる。ドロップ数が減るということはその可能性が下がるということだが、レアなアイテムがドロップしないわけじゃない。落ちる時は落ちるし、落ちない時は落ちない。もうそれはリアルラックの問題だ。


「……ちょっと思ったんですけど。この杖って物理攻撃ができる状態でも飛ばせます?」

「え? 飛ばせると思うけど……」


 レンの質問の意図が分からない感じで首を捻ったリゼルが、それでもすいーっと誰も乗っていない魔王の王笏ベルフェゴールセプターを飛ばす。


「その状態で敵にぶつければ、接近しないで物理攻撃を叩きつけられるのでは?」

「あ」


 僕はレンの言わんとしていることがわかった。つまり、リゼルは魔法・物理、どっちでも遠距離で攻撃できるようになったわけだ。

 杖を飛ばしてぶつける……王笏セプターミサイルとでもいうのか。魔法の効かない相手でも遠くから倒せるってのはかなりの強みだと思うが。

 一旦インベントリに収納して再び取り出せば、手元にすぐ戻せるし。


「ドロップ率が下がらなきゃね……」

「まあ、そこは仕様だと割り切るしか」


 リンカさんの『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』に比べるとデメリットが大きく見えるだけでさ。


「『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』もちょっとしたデメリットはある」

「え? そんなのあった?」


 意外にもリンカさんからそんな声が。


「生産・加工で得られる熟練度が少ない。だから私は基本、仕上げの時しか『魔王の鉄鎚(ルシファーズハンマー)』は使ってない。鍛錬や造込つくりこみは普通のハンマーでやってる」


 貰える生産熟練度が低いのか。まあ、楽に作って腕が上がるかといえば違うのだろうけど……ゲームだというのに細かいなあ。

 だけどどちらもそれを補って余りある性能だと思う。

 『魔王の双剣』ってのもどこかにないだろうか……。いや、あるかもしれないけど。他の領国に。

 こうして僕らは魔王シリーズの二つ目を手に入れ、本来の目的である中ボス探しに戻ることとなった。

 でもここって銀竜の住処だから、おそらく中ボスはいないと思う。

 それを知りつつ、僕はみんなに合わせて探すふりをした。

 うーむ、適当に切り上げたい……。








DWOデモンズ無関係 ちょこっと解説】


■ベルフェゴール

七つの大罪において【怠惰】を司るといわれる悪魔。発明を手助けする堕天使とも。便利な発明品は人間を堕落させ、怠け者にする、ということらしい。女性に不信感を持つ人間嫌いの悪魔で、『幸せな結婚はあるのか?』という議論に対し、様々な結婚生活を観察した結果、『そんなものはない』と結論を出した。


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です!! 第2の『魔王装備』。 正直其れくらいの『デメリット』が無いと、本当の『ブッ壊れ性能』ですな。 まだまだ先の話ですが、早くシロちゃんの『魔王装備』が見たいw [一言] …
[一言] 魔王シリーズを独占して他に存在を知られないようにしよう(笑)
[気になる点] 魔王シリーズの存在が公表されたら、シロ達【傲慢】の領国のプレイヤーから逆恨みされそうw
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