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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第一章:DWO:第一エリア
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■015 新たな仲間




『シロさん、ちょっと紹介したい人がいるので中央広場まで来てもらえますか?』


 ログインすると、レンから個人チャットが飛んできた。

 昨日の日曜は封切りされた映画を観に行って、その帰り道にばったり霧宮兄妹とその家族に出会い、親戚だからと誘われるままに夕食をご馳走になった。

 入った中華レストランで、とにかく食べろ食べろの攻勢を受け、家に帰ったら動けないほどの状態だったため、そのまま寝てしまったのだ。おかげで昨日はDWOデモンズにログインできなかった。

 その遅れを取り戻そうとしてる矢先にレンからの呼び出しだ。紹介したい人って誰だろう?

 とにかく宿を出て中央広場へ急ぐ。

 相変わらずの噴水前に、レンとウェンディさんが立っていた。

 お、ウェンディさんの装備が変わってる。リンカさんに作ってもらったんだな。

 二人の横に見知らぬ少女が立っている。額の小さな二本角と、オレンジの髪に少し赤銅色の肌。【鬼神族オーガ】の女性アバターだな。

 【鬼神族オーガ】の男性体は一回り身体つきが大きくなるのだが、女性体はそういった身体的変化はない。が、目の前の少女は逆に背丈がレンと同じくらいしかなかった。


「お待たせ」

「こんにちは、シロさん。紹介しますね、この子はミウラちゃん。私のリアルでの友だちです」

「こんちは。ミウラだよ。よろしくね!」


 元気いっぱいに挨拶をしてくるミウラ。

 レンの友だちか。ということはこの子も小学生か。世話役のウェンディさんも大変だなあ。


「ミウラちゃんもDWOデモンズをやりたいっていうんで、誘ったんです。昨日から始めてるんですよ」

「あたしも興味はあったんだけど、いろいろと敷居が高くてさ。年齢制限とか。レンがそれなら一緒にやろうって」

「ああ、13歳以下は20歳以上の同伴者が必要、ってやつか」


 この場合、レンもミウラもウェンディさんの同伴者として登録されているのだろう。ウェンディさんがログアウトすると、二人とも強制的に同じくログアウトされるわけだ。確か三人までは登録できるとか聞いたけど。


「大変ですね、ウェンディさんも」

「一人も二人もさして変わりありません。お嬢様のお友達をおもてなしするのも、メイドの務めでございます」


 さいですか。相変わらずの仕事ぶりですな。

 それはそうと、ちょっと気になることがあったので、ミウラに話しかける。


「レンの友だちっていうと、ひょっとして同じ学校?」

「そうだよ。クラスメイト」


 それを確認して、今度はウェンディさんにこそっと聞いてみる。


「……ってことはミウラもどこかのご令嬢だったり?」

「そのとおりでございます。以前、ミウラ様はヨーロッパにおりましたので、その時からのお付き合いでございます」

 

 ああ、やっぱり。レンの通っている学校って、私立のお嬢様学校って言ってたもんなあ。

 ミウラの家を詳しく聞いてみると、僕も知っている有名な企業の名が出てきた。現在手に入りにくいはずのDWOデモンズを入手できたのもなんとなく頷ける……あまり気にしないようにしよう。

 そんな金持ちならウェンディさんみたいにお付きの人をつけりゃいいのにと思ったが、いろいろと理由があるらしい。


「ミウラは【鬼神族オーガ】か。武器は?」

「剣だよ。スキルは【筋力UP(小)】【耐久力UP(小)】【HP最大値UP(小)】とか取ってる。シロ兄ちゃんは?」

「僕は素早さ重視の短剣使いだ。【調合】とかもあるけど、今のところあまり使ってないかな」


 ミウラはガチガチのパワーファイターってところか。レベルは4だけど、【鬼神族オーガ】なので、種族スキル【狂化】が使える。

 このスキルは一定時間、防御力を大幅に低下させる代わりに、攻撃力を上昇させるという諸刃の剣だ。しかも使用後、一定時間のクールダウンが必要になる。

 その間、攻撃力はすぐ元の低い値に戻るのに、防御力はじわじわとしか回復しない。使いどころが難しいスキルなのである。

 しかしその効果は絶大で、【狂化】状態なら(武器の攻撃力を含めなければ)すでにミウラは僕の攻撃力を超えてしまうだろう。ま、もともと僕の基本攻撃力が低いってのもあるんだが……。


「ミウラって本名じゃないよね?」

「違うよー。苗字と名前から取って足したんだよ」

「ああ、なるほど」


 「ミウラ」という名前から「三浦」という苗字が真っ先に浮かんでしまったが、先ほどウェンディさんから聞いた企業名を思い出し、すぐに彼女のフルネームが浮かんだ。

 確かランドーグループなら「蘭堂」だ。すると本名は「蘭堂ミウ」かな。ミウの漢字がわからないが。まあミウ子とかミウ美とかの可能性もあるけど。


「ミウラちゃんもレベル上げして、今週末あたりにはエリアボスに行こうかと思うんですけど」

「ミウラは【鬼神族オーガ】だから、レベルが低くてもある程度の攻撃力と防御力を備えてはいるだろうけど……ウェンディさんたちは今レベルいくつでしたっけ?」

わたくしが12、お嬢様が11でございます」


 そして僕が9か。ま、大丈夫かね。


「じゃあみんなで狩って、レベルと熟練度を上げるとするか」

「うん! 行こう!」

「はい。【北の森】の奥に行きましょう。ミウラちゃんには手頃ですし、フォレストスパイダーの素材も欲しいので」


 ずいぶんと必要なんだな。生産に失敗してるのかな?

 四人でパーティを組む。前衛は防御メインのウェンディさんと攻撃メインのミウラだ。僕は遊撃といった位置だけど、こうなると遠距離でもなにか攻撃方法が欲しいところだな。

 魔法スキルでも取るかねえ。でもINT(知力)低いからあまり威力に期待はできないよな。レンと同じ弓をサブウェポンにするって手もあるが……。

 ポータルエリアに向かいながら、僕はそんなことを考えていた。





「えいやっ!」

「ギャウッ!」


 力いっぱい振り下ろしたミウラの剣が、灰色狼にとどめを刺した。

 やはり【鬼神族オーガ】の一撃は絶大だな。魔法はほとんど使いこなせないらしいが、近距離なら問題なく戦える。たまーに空振りするのは、まだDEX(器用度)や【剣の心得】の熟練度が低いからだろうか。


「早く【剣の心得】をMAXにして、【大剣術】を取りたいな」

「なるほど、ミウラはそっちへ育てるのか」


 【大剣術】は、【剣の心得】スキルがMAXになると、選べる上位スキルのひとつだ。大剣をうまく扱えるようになる。前に会った【鬼神族オーガ】のガルガドさんが大剣を装備していたっけ。

 僕の持っている【短剣の心得】もMAXになれば、【短剣術】とか【小剣術】にできる。【小剣術】はショートソードの二刀流とかだけど。確か【小太刀術】ってのにも進めたはずだ。

 【大剣術】がなくても能力値が満たされていれば、大剣は装備できる。だが、ミウラは筋力値が少しだけ足りないらしい。まだレベル4だしな。

 まあ、今装備できても、大剣を扱うには器用度も少ないので、さらに空振りが増えるだろうけど。


「もう少し奥に行くか。森蜘蛛も狩っておきたいし」


 さすがに四人パーティなので、この森ではよほどのことがなければ死んだりはしないと思う。

 基本的に今日はミウラの熟練度上げなので、彼女がメインで狩り、その次にレベルが低い僕がサポートという感じで立ち回っている。レンは回復と弓矢で援護射撃、ウェンディさんはいざという時の盾役か。

 二時間ほど狩るとミウラのレベルが5になった。

 一緒に戦ってみるとわかるが、この子の戦い方は危なっかしいな。あと、やたら【狂化】を使うのはいただけない。

 とどめを刺せればいいが、しくじると一転してピンチになる。何度かレンの回復魔法に助けられた場面もあった。

 そこんところを注意すると、素直にわかったと答えてくれた。意外とものわかりのいい性格のようだ。

 森蜘蛛が出現するエリアでしばらく狩っていると、【気配察知】がなんとなく不思議な存在を感じ取った。

 姿が見えず存在感が希薄だが、確実に僕らに何かが近づいてきている。

 敵か? 姿を隠蔽する種かもしれない。僕は勘だけを頼りに、気配がする辺りを不意打ちで一閃した。


「ウギュルルルル!」

「うわっ! キモッ!」


 僕に斬りつけられて、そこに姿を現したのは、半透明に透けて見えるガラスのような芋虫だった。蚕の幼虫のようにも見える。そいつが気配を消して僕らを襲おうとしていたのだ。


「ギュアッ!」

「おっと!」


 口から粘着性のある糸を吐き、僕らの動きを封じようとする。虫系のモンスターには火炎魔法が効くのだが、僕らのパーティに魔法使いはいない。糸は酸も含んでいるようで、触れた木が煙を上げていた。


「こいつっ!」


 ミウラの剣が振り下ろされる。しかしガラスの芋虫は器用に体をくねらせて、それを回避した。

 その隙に僕はそいつの側面へ回り込み、「紫電一閃」を突き入れる。深々と透明感のある体に僕の短剣が突き刺さり、緑色した体液が流れ出した。


「ギュルルルル!」


 こちらへ顔を向けて、大きな顎で噛み付いてくるが、それをひらりと躱し、バックステップで距離をとる。そのタイミングで、突然火炎放射器のような炎が蚕を包んだ。

 あ、そうか。ウェンディさんの【ブレス】があったか。

 炎に焼かれ、動きが鈍くなっていたそいつに、今度こそミウラの剣がヒットする。僕もそのチャンスを逃さずに【スラッシュ】を放った。


「ギュアラララ!」


 四方八方に糸を吐き出した芋虫に、レンの放った矢が刺さる。糸の直撃を盾で防ぐウェンディさんの陰から僕は飛び出し、「紫電一閃」と「電光石火」を続けざまに斬りつけ、最後に【蹴撃】による蹴りを喰らわせた。


「やあっ!」


 そこへ【狂化】したミウラの一撃が芋虫の頭部へと直撃し、それが決め手となって、ガラスの芋虫は光の粒になって消えていった。


「やったあっ!」


 とどめを刺したミウラが喜びの声を上げる。


「けっこうタフなやつだったなあ。ネームプレート見損なったけど、ウェンディさん知ってる?」

「確かステルスシルクワームだったかと。姿を消して接近し、酸性の糸で絡め取ったあと、首を落とす習性のある虫です」


 ステルスシルクワームか。長いからガラス虫でいいや。


「わあ! 『上質な絹糸』と『ステルスシルクの霊糸』が落ちました!」

「あたしも『ステルスシルクの霊糸』と『上質な絹糸』が二つ」

わたくしも『上質な絹糸』と『ステルスシルクの体液』ですね」

「僕は……『上質な絹糸』と、スキルオーブか」


 【unknown】になっていたので、インベントリから取り出して、【鑑定】をしてみる。


「【投擲】か。残念、★無しの初期スキルだな」


 まあ、僕としては遠距離攻撃が欲しかったので、当たりといえば当たりだが、みんなのドロップと比べるといささか見劣りするな。

 【投擲】はあまり使い勝手がいいスキルではない。なぜなら投げたものは消費アイテム扱いになるからだ。コストがけっこうかかるのである。

 安いとはいえ、毎回ナイフなどを投げていたら金欠になる。弓使いの矢よりお金がかかってしまうからな。

 なので、普通の戦闘では大概投げるものはそこらの石だ。これならお金がかからず、熟練度が上がる。大事な戦闘の時はちゃんとナイフを投げればいい。

 レン以外は使い道がないので、糸系のドロップは全員レンに売り渡した。僕も『上質な絹糸』をレンに渡す。

 お、レベルが10になったな。とうとう二桁になったぞ。ミウラも6に上がったようだ。

 一旦ここで狩りを終わらせて、僕らはフライハイトへ戻ることにした。

 【投擲】もそれなりに熟練度を上げとこうかな。一応、町でリンカさんあたりから投擲用のナイフを何本か買っておくか。














DWOデモンズ ちょこっと解説】


■スキルについて①

スキルには熟練度があり、そのスキルを適切な状況で使用すればするだけ上がる。スキルの熟練度がMAXになると【☆調理】のように、☆マークがつく。☆マークがつくと、上級スキルを取得できるものもある。


例【☆絵画】があると【精密描写】を取得できる。

例【☆剣の心得】があると【剣術】【大剣術】【細剣術】【刀術】を取得できる。


熟練度は数値ではなく、スキル下のゲージで表される。緑色のゲージが100%黄色になればMAXとなり、☆マークがつく。

これはスキルによって上がりやすかったり、上がりにくかったりする。






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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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