■152 雷と雨
「うひゃっ!?」
ドーン! という落雷の音で誰かが変な声を漏らした。
ザァザァと降る雨の中、さっきからピカッと稲光が見えたかと思うと、間を開けて、ドーン! と雷鳴が轟く。
すでに何度も聞いたが慣れる気がしない。今のところなにも被害はないが……。
「金属装備がなければ雷には当たらないんですよね?」
「正確には『金属装備を身につけていると、必ず落雷する』なんだけどね。だから、金属装備がないから落雷しない、というわけじゃない。当たる時は当たるよ」
レンの不安そうな質問に、横を歩いていたピカ……ゲフンゲフン、あー、黄色いネズミの着ぐるみを着たレーヴェさんが答えた。
レーヴェさんのいう通り、金属装備がないから落雷を受けないというわけじゃない。プレイヤー本人に落ちなくても、その近くに落ちる可能性だってある。
そのこともあり、僕らクラン【白銀】のみんなは、十人ほどのグループでまとまり、少し離れながらまばらになって移動していた。
ここの雷は落ちると周囲にいる者にも落雷のダメージがいくらしい。
ひとかたまりになって移動していると、もしも落雷があった場合、大人数がダメージを受けることになるからな。
「それにしても視界が悪いな……」
降りしきる雨のせいでなんとも視界が悪い。さらに言うなら雨音のせいで周囲の状況も掴みにくい。こうもザァザァと降られると……。
「っ!?」
僕を含め、数人が立ち止まり武器を抜き放つ。それを見て周りのプレイヤーたちも同じように武器を構えて周囲を警戒し始めた。
立ち止まった人たちは、僕と同じく【気配察知】を持つプレイヤーだろう。
モンスターが僕らに近づいている。それは間違いないんだが……。
「姿が見えない……? どういうことだ……?」
僕が首を捻っていると、同じく【気配察知】を持つ【スターライト】のメイリンさんが辺りを警戒しながら注意を促した。
「間違いなく近くにいる……! それも数が多いよ! 気をつけて!」
「気をつけてって言われてもよ……! どこにいんだよ……!」
同じ【スターライト】のガルガドさんが、大剣を構えながらキョロキョロと視線を動かす。
「ぐあっ!?」
後方から悲鳴が聞こえ、振り向くと一人のプレイヤーが腕を押さえてうずくまっている。攻撃された? だけどモンスターの姿は見えない。遠距離攻撃か!?
「どうした!? どこから攻撃された!?」
「み、水が……!」
水? 水属性の攻撃なのか? こんな雨の中、水属性の攻撃はわかりにくい……っ!?
僕は条件反射で、背後から飛びかかってきた物体に後ろ回し蹴りを放った。
バシャッ! という音とともに、液体の姿をしたそれは、柔らかいゴム鞠のような弾力を僕の足に与えて蹴られた弾みで吹っ飛んていく。
あれは……!
「スライムだ! 水のような無色透明なスライムが水溜りに紛れている!」
「なんだって!?」
僕の声にみんなが地面に視線を集中させる。よく見ると不自然な水の流れがいくつかあった。一部分だけ雨の弾け方が違う。そこか!?
僕は見計らってその部分の水溜まりを【蹴撃】で蹴飛ばした。
やはりゴム毬のような感触のものがバウンドして吹っ飛ばされていく。
「【鑑定】できた! 『ウォータースライム』! 水に紛れて攻撃してくる。水魔法の【アクアブレット】を使ってくるぞ! 斬撃系の耐性があるから気をつけろ!」
どこからかそんな情報が飛んでくる。スライムか! ちょっと厄介だな……!
斬撃系の耐性があるスライムは双剣だと戦いにくい。刺突系に切り替えるべきなんだろうけども、あいにくと持っている刺突系の武器は金属装備だ。
【蹴撃】で蹴っ飛ばしながら、ダメージが低くてもこの双骨刀でちまちま削っていくしかない。
「【ファイアバースト】!」
誰かが火魔法を放ったようだが、この雨のフィールドでは効果は半減、一撃では倒せなかったようだ。
「【インパクト】」
リンカさんの持つ大木槌が水飛沫を上げてウォータースライムに炸裂する。スライムには打撃系がよく効く。一発で倒したようだ。
うーむ、横から見ていると水溜まりを叩いているようにしか見えないな……。叩いた後に光の粒が弾けてるから、倒してはいるんだろうけれども。
「うおっと!?」
突然飛んできた野球ボールほどの水の球を【心眼】でギリギリに躱す。くそっ、やっぱり見づらいな!
再び僕は攻撃してきたスライムを蹴り飛ばし、スライムサッカーを始めることになった。こりゃ【蹴撃】の熟練度が上がりそうだ……。
◇ ◇ ◇
「……大丈夫か? もういねぇか?」
「大丈夫。気配は感じない」
メイリンさんや他の【気配察知】プレイヤーの言葉を聞いて、クランメンバーがようやく警戒を解く。
やれやれ、やっと終わったか。蹴ってばっかだったな……。あんまり倒せなかったし……。
ドロップアイテムは『ウォータースライムの核』に『スライム水』……? スライム水ってなに……? なんか気持ち悪いんですけど……。
「余計な時間をくっちまったぜ」
「こういった特殊フィールド下では、フィールド特化のモンスターが多く出てきそうな気がしますね」
ガルガドさんとセイルロットさんがそんな会話をしながら再び歩き始めた。相変わらず雷は鳴り続けている。うるさい。
だがそれは雷鳴の起こる中心に、段々と近くなっているということだ。
ちなみに雷と言えば。
ソロモンスキル【フルフルの雷球】を持つ、『雷帝』ことユウであるが、今回は不参加だ。
なんでもリアルの方で用事があるんだとか。どのみち雷撃系の攻撃をメインとするユウだと、あまり雷獣にはダメージを与えられない気がする。最悪、相手に雷撃を加えると、その雷撃を吸収してHP回復、なんて可能性もあるしな。
ミヤコさんも不参加。どうしても雨の降るフィールドでは、ミヤコさんの持つ焔刀『千歳桜』の威力は半減する。それ以前に雷が落ちるので武器を変えないといけないのだが、『千歳桜』をめちゃくちゃ気に入っているミヤコさんはそれを嫌がっての不参加だ。ま、仕方ない。
どうしてもこういった大人数でのイベントとなると、予定が合わない人たちも出てくる。
なるべく休日やその前日なんかを選んではいるのだろうが、休日こそ稼ぎ時、という仕事をしている人もいるだろうし。僕らみたいな学生は大丈夫だけどね。
逆に普通の日の昼間なんかは学校があるからまったくログインできないけどさ。
普通の日も昼間からずっとログインしてるプレイヤーもいるけど、いつ仕事してるんだろ?
「あまりそこは触れてやるな……」
「世の中には自宅警備員って仕事もあるんですよ……」
僕の素朴な疑問にガルガドさんとセイルロットさんが遠い目をしながらそう返してきた。自宅警備員?
「それってニー……」
言いかけた僕の言葉を打ち消すように、稲光が閃き、今までで一番大きな雷鳴が轟く。
うおっ!? 近い! 今のは危なかったろ!? 誰か当たったりしてないよな?
「シロさん、あそこ!」
「え?」
レンの指し示す先、ザァザァと降る雨の中に何か輝くものが見える。
「やっと出やがったか……!」
「ずいぶんと派手な登場だね……!」
ガルガドさんとアレンさんが武器を構える。
降りしきる雨で見づらいが、その姿は犬とも狐とも見えるが、足が六本ある。尻尾は太く、三つに分かれていた。大きな牙を持ち、全身の毛が逆立っているようにも見える。
全身にバチバチという雷光を纏っているため、薄暗い雨の中で光り輝いている。
ぐっ、と雷獣が低く身を構えた。
「来るぞっ……なっ!」
アレンさんがそう叫んだ瞬間、横にいたガルガドさんが吹っ飛ばされた。
まるで光の矢が放たれたように、一瞬にしてガルガドさんの前に雷獣が移動し、その横っ面をひっ叩いたのだ。
「くっ!」
すぐに反応したアレンさんが長剣を横薙ぎに振るうが、その場からまたしても雷獣が一瞬にして消える。
「ぐはっ!?」
今度は別のところにいたプレイヤーの誰かが吹っ飛んだ。速い!
まるで稲妻のように光が移動するたびにプレイヤーが吹き飛ばされていく。幸いにも即死にはなってないようで、回復職がHPを回復してくれていた。
「とんでもねえ速さだな……!」
「盾職! 円陣を組んでくれ!」
誰かの声に盾職のプレイヤーがぐるりと360度、それぞれの方向へ向けて盾を構える。中には後衛の遠距離攻撃職と回復職が守られるように陣取った。
その盾職の一人に雷獣の攻撃が当たる。今度は吹っ飛ばされたりせず、攻撃を受け止めることができた。盾職の必須スキル、【不動】の効果だろう。
動きを止めた雷獣に、後方から矢の雨が飛ぶ。しかし雷獣は素早く真横に移動して、いとも簡単にそれを躱した。
なんてスピードだ。だけどスピード勝負なら負けないぞ!
「【加速】!」
僕は【加速】を発動し、雷獣へと斬りかかる。
雷獣はそれを察知し、横へと素早く跳ぶが、わずかに僕の双骨刀が肩口を斬り裂いた。
追撃しようと雷獣へ踏み出した瞬間、雷獣の尻尾の一つが天へ向けてピィンと立った。
咄嗟に感じた嫌な予感に、僕は強引に横に転がって大きく軌道を変えた。
次の瞬間、ドゴォォォンッ! という轟音とともに、天から落ちた稲妻が僕のいた場所を撃ち抜く。
危っぶな……!
当たり前といえば当たり前だけど、やっぱり雷を操るんだな……。雷獣の名は伊達じゃないってか。
雷獣を見ると三本の尻尾のうち、一つが光を失っている。いや、根本からゆっくりと光が回復しているな。尻尾に蓄えたエネルギーを使って、天雷を撃つのか?
だとすれば三発撃てばしばらくはアレは撃てないってことだ。それなら……。
「うおっ!?」
なんてことを考えてたら、バチバチッとした体毛から集まった雷撃がこっちに飛んできた。そんなのもあるのか!
【心眼】でギリギリ避けるが、二発、三発とサンダーアローのような稲妻が飛んでくる。
く……! これ完全に僕がヘイトを集めてるな……! まあ、まだ僕以外誰も攻撃が当たってないからそりゃそうなるか……!
雷獣に狙われているなら好都合、僕は【加速】を使い、みんなから離れる。
雷獣が逃がすかとばかりに同じような速さで追ってきた。しばらく走り、みんなからある程度距離を取ったところで反転、戦技を発動させる。雷獣にも首はある。たぶんいけると思う。
「【首狩り】」
ひょっとしての賭けだったが、やっぱり失敗した。やはり雷獣の方が僕よりレベルが高いか、確率による失敗だろう。両面宿儺のように、人型なら少しは確率が上がったのかもしれないが。
まあ、90%失敗する戦技だしな……。初手の運試しさ。
大幅にMPとSTを失ってしまったので、【加速】で逃げながら毒撒菱をバラバラと撒く。
『ガッ!?』
雷獣が異変を感じてその場に止まる。よし! 【猛毒】状態になった!
【猛毒】状態を示す紫のアイコンが雷獣の頭上で回転を始める。
「動きが鈍った! 今だ!」
誰かの声に合わせ、後衛部隊から矢と魔法の雨が降り注ぐ。
【猛毒】状態でも雷獣は素早く、いくつかくらいながらもそれを避けていった。
くそ、【猛毒】状態ではあるが、それほど減りが大きくない。ひょっとして毒に対する耐性を持っているのか?
そんなことを思いつつ、この間にマナポーションとスタミナポーションを一気飲みする。うっ……相変わらず不味い。気持ち悪ぅ……。
あっ、【猛毒】状態から回復しやがった。ちくしょう、あいつ絶対に【毒耐性】持ってるぞ。治るのが速過ぎる!
「どりゃああ!」
【カクテル】のギルマスであるギムレットさんが、雷獣の頭上に向けてなにか球のようなものを投げつけた。なんだ? 炸裂弾か?
「カシス!」
「まかせて!」
同じく【カクテル】のギルメンである弓使いカシスさんが、投げられた球に向けて弓を引き絞り、一本の矢を放った。
降りしきる雨の中、流星のように飛んだ矢は過たず雷獣の頭上にあった球に命中する。
次の瞬間、矢に破壊された球から、ブワッと広範囲に蜘蛛の巣のようなものが広がった。
蜘蛛の巣は下にいた雷獣に雨と共に絡みつく。
『ガロ、ガッ!?』
まとわりつく蜘蛛の巣を振り払おうとする雷獣だが、まるでトリモチのようにひっつき、体の自由を奪われる。
「スティッキークローラーの体液を使った粘着網だ。そう簡単には取れないぜ!」
【カクテル】の錬金術師、キールさんがドヤ顔で叫んでいる。ははあ、キールさんが作ったんだな、あれ。
「今がチャンスだ! 前衛組、突撃!」
『うおおぉぉぉぉぉ!』
バシャバシャと水飛沫を立てて、武器を持った前衛組が雷獣へと群がる。
粘着質な網に絡みつかれながらも電撃を放つ雷獣。
いくつもの稲妻が飛び、プレイヤーが大きなダメージを受けて蹲った。幸い死に戻ったプレイヤーはいないようだ。
「【フルスイング】!」
骨の斧で戦技を放ったプレイヤーの攻撃を雷獣が躱す。その動きに先ほどまでの素早さはない。
「【二段突き】!」
「【パワースラッシュ】!」
複数のプレイヤーからの連続攻撃に、さすがの雷獣もダメージを受け、そのHPが減り始めた。
訪れたチャンスに畳みかけんとプレイヤーたちがさらに戦技を放とうと雷獣に近づく。
ビッ! と雷獣の尻尾の一つが天に向けてそそり立つ。
「ヤバい! 離れ……!」
僕の声を掻き消すような轟音が鳴り響き、天から落ちた大きな落雷が雷獣本人を直撃した。
その余波で周囲にいたプレイヤーたちも電撃と衝撃波を浴びて、大きなダメージを負って吹き飛ぶ。
雷撃により粘着網が蒸発し、雷獣が自由を取り戻す。再び、高速移動による攻撃が始まった。
プレイヤーたちが次々とダメージを受けて倒れていく。くそっ、あの攻撃は重くはないが避けるのが難しい。一方的にやらせてしまうぞ。
僕がそんな焦りを感じていると、後方から揃えた声が飛んできた。
『せーの、【アースウォール】!』
雷獣が駆け出したタイミングで、複数の魔法職プレイヤーから土属性の魔法が放たれた。
ズオッ! と高さ四メートルはある石壁がいくつも雷獣の周りにそびえ立ち、その進路を塞ぐ。
駆け出そうとしていた雷獣はその場に止まり、囲まれたことを理解すると、壁を飛び越えようと大きくジャンプする。
すると再び魔法職のプレイヤーたちが次の魔法を唱え始めた。
『せーの、【ストーンレイン】!』
ソフトボールほどの石の雨が、本当の雨と一緒に雷獣に降り注ぐ。
跳んでいた雷獣は避けることもできずにまともにそれを背中にくらい、地面へと叩き落とされた。
すごい連携プレーだな……。あれってエミーリアさんのとこのギルド、【ザナドゥ】のギルメンか? よっぽど練習したんだろうな。
っと、感心している場合じゃない。このチャンスを逃すわけにはいかないぞ。
「【分身】!」
八人に分かれた僕は、【アースウォール】の壁際に倒れている雷獣へ向けて【加速】で肉薄する。
雷獣は立ち上がり、稲妻を飛ばしてきたが、【心眼】によりギリギリでそれを躱した。
よし、射程距離内だ。僕の最大火力を喰らえ。
「【双星斬】!」
『ガッ、グァッ!?』
左右合わせて十連撃の八人分を雷獣へと叩き込む。【ストーンレイン】で与えたダメージとほぼ同じくらいのダメージを与えることができた。
さらに追撃しようとした時、雷獣の尻尾がピクリと動く。……ヤバい!
瞬時に僕は【分身】を解除、【加速】全開で、雷獣から離れる。
すぐに背中から、ドォン! という雷鳴と光が閃き、僕は衝撃波で前につんのめり、泥の上を転がることになった。ちくしょう。
「【アイスバインド】!」
【スターライト】のジェシカさんが放った氷魔法が、雷獣の足元を凍りつかせる。
水のあるフィールドでの氷魔法は発動が速くなるというメリットがある。
水魔法ならそれに加えて消費MPが少ないとか、威力が高くなるなんてものもあるらしい。
ただ、【アクアカッター】以外の水魔法は速度が遅く、雷獣のような素早い敵には向かない。
速度が速い【アクアカッター】も、どちらかというと当たり判定が狭いので、よほど狙わないと上手く当たらないみたいだ。
氷魔法も似たようなものだが、バインド系なら関係ない。足下に水がいくらでもあるからな。
足が凍りついた雷獣が大きく左右に身を揺らし、氷の束縛から逃げようとする。ピキリ、と氷にヒビが入った。
「逃さない。【スタンインパクト】」
リンカさんがいつもの『魔王の鉄鎚』ならぬ、大木槌で雷獣の横腹を叩きつける。続けて黄色いネズ……もとい、着ぐるみのレーヴェさんも反対側の横腹に攻撃を仕掛けた。
「【螺旋掌】」
『ガッ!?』
レーヴェさんの捻りを加えた掌底が雷獣の横腹に炸裂した。さらに空中に飛び上がった【スターライト】のメイリンさんと、うちのミウラが頭上からの攻撃を加える。
「【流星脚】!」
「【兜割り】!」
二人の攻撃が雷獣にヒットするかと思った時、雷獣の尻尾がまたしても天に向けて立っているのに気付く。
三度、ドォン! という轟音と閃光、稲妻と衝撃波を受けて、ミウラたちに続けとばかりに群がっていたプレイヤー数人がまとめて吹っ飛んだ。
ミウラも大きく吹き飛ばされ、空を舞っている。あれ? こっちに来るな……。
ここで受け止めないと後で文句を言われそうだ。ブーツを買ってきてもらった恩もあるしな。
「おっと、っと」
ボスン、と僕の腕の中に落ちてくるミウラ。我ながらナイスキャッチだ。
「大丈夫か?」
「ありがと! くそ〜、もうちょっと速かったら決まってたのになー!」
戦技が決まらなかったことを悔しがるミウラ。大企業のお嬢様が汚い言葉を使っちゃいけません。
まあしかし、さっきの大きな雷はこれでもうしばらくは撃てないだろう。三本の尻尾は全部輝きを失っている。
アレが完全に回復する前に、少しでも多くのダメージを与えたいところだ。
「【サウザンドレイン】!」
後方にいたレンが弓の戦技を放ち、何本もの矢の雨が降り注ぐ。素早い敵には範囲攻撃。セオリー通りの戦い方だ。
負けじと向こうからはリゼルの【テンペストエッジ】が。風の刃が雷獣に確実なダメージを与えていく。
HPは三分の一ほど減ったか……? ブレイドウルフみたいに回復能力とかないよな?
僕がそんな不安を感じていたとき、雷獣がこちらに背を向けて走り出した。え、逃げるのか?
そう思っていると、遠く離れた雷獣は急に反転、その大きな口をガパッと僕らへ向けて開いた。
バチバチバチ、と、雷獣の毛がスパークすると同時に、その口の中にバチバチとした雷の渦が見えた。
「っ、いけない! みんな散開しろ!」
アレンさんがそう叫んだ次の瞬間、雷獣の口からまばゆい雷光が、まるでアニメのビームのように撃ち出された。
咄嗟に逃げたプレイヤー以外、動きの遅い者数十名が雷撃砲の渦に巻き込まれる。
何人かのプレイヤーが死に戻った。冗談じゃないぞ、あんなの食らったら僕なんかも一撃で死んでしまう。
「おいおい、荷電粒子砲かよ……」
「いや、サンダーブレスだろ……」
戦々恐々とした声があちらこちらから聞こえてくる。蒸発した雨が煙となって立ち上り、それもすぐ雨に消されていく。
ふと前を見ると、雷獣の放つ光が弱くなっている。とんでもない技だが、消耗が激しいらしいな。今のうちに────。
攻撃を、と思った僕の目と耳に、今日何度も見聞きした閃光と轟音。
落雷がまたしても雷獣を襲う。尻尾が回復したのか!?
いや、これは雷獣が呼び出した雷じゃない。普通に落ちたフィールドの雷だ。しかもそれを浴びた雷獣はチャージ完了とばかりに全身光り輝き、バチバチと稲妻を帯びている。
三本の尻尾も全て光を取り戻していた。
だから回復するのはやめろと……!
幸いHPは回復していない。電力? が回復しただけのようだ。いや、それだけでもものすごい厄介なのだが……。
「仕切り直しか」
僕は雨で滑りそうになる双骨刀を握り直した。
【DWO無関係 ちょこっと解説】
■荷電粒子砲
荷電粒子(電子、陽子、重イオンなど)を砲弾とし、粒子加速器によって加速して発射する兵器。光を増幅させ、集束して放つレーザーとは似ているが違うものである。SFやアニメなど、原理や特性が作品によって変わるものの、主に粒子を撃ち出すビーム兵器として広く登場する。