■131 報酬と打ち上げ
「えっと、【首狩り】……自分よりレベルの低い敵を10%の確率で即死させる。相手がレッドゾーン突入状態であるなら100%の確率で即死させることができる……ってまたとんでもないな……」
これはアレだ、即死スキルだ。自分よりレベルの低い敵にしか効果はないようだが……あ、いや、HPがレッドゾーンに突入した敵ならレベル関係なく即死させることができるのか。
これってボスにも効くんだろうか。効くなら今回みたいなレッドゾーン突入のパワーアップも防げるんだけれども。
この確率10%ってのはLUK(幸運値)を上げれば変わってくるのかな? 僕は【魔人族】なので、LUK(幸運値)は良くも悪くもなく平均的なのだが。……リアルラックは別にして。
「あ、追加項目がある。『人型には熟練度によってさらに確率が上乗せされる』……って、どれくらいされるんだよ。そこが大事なところだろ!」
人型ってのはゴブリンとかオークとか、そういうモンスターのことだよな。
ひょっとして【首狩り】の名の通り、首のあるモンスターには成功確率が高くなる……? 逆にスライムとかロウソクモンスターのキャンドラーみたいな首のないやつらには確率が低くなるとか。
しかしこの【首狩り】、熟練度があるのか。狩れば狩るほど確率が上がる……?
10%の確率が、11、12%と上がるのか、それとも一度首を狩ったモンスターだけ狩りやすくなるのかよくわからないな。
要検証だな。とりあえず問題なさそうだし、この奥義は取得しとこう。
「シロ兄ちゃん、なんかいいのドロップした?」
ミウラが満面の笑みで近寄ってくる。なにかいい物がドロップしたのだろう。
「ああ、【奥義書】が一つな」
「シロ兄ちゃんも!? あたしも【奥義書】が出たんだ! 【双烈斬】ってやつ!」
ミウラが手に入れた【双烈斬】という奥義は単純な二回攻撃らしい。
威力の高い【大剣使い《ブレイダー》】がその奥義を使うと、ただでさえ大ダメージなのが二倍になるわけだ。そりゃ嬉しいはずだよなぁ。
「STが結構減るし、クールタイムがけっこうかかるから連発はできないけど、大剣の奥義が欲しかったから嬉しい!」
【奥義書】は戦技の別枠なわけだが、装備武器によっては使えない【奥義書】もある。おそらくミウラが手に入れた【双烈斬】も、『斬』と技名に入るところから見て、斬撃系の武器以外は発動しない類のものだろう。
まあ、使えない【奥義書】同士でトレードとかもできるし、売れば今ならかなりの金額になると思うからまったくの無駄ではないと思うが。
ドロップアイテムの他にスキルスロットの空きが増えたし、レベルも44になった。
つまりレベル44以下のモンスターに【首狩り】を使えば、10%の確率で即死させられる、と。
ミウラの【双烈斬】と同じく【首狩り】もSTをかなり消費する。満タン状態で使えて三回かな……。いや、三回使うとSTがレッドゾーンに入っちゃうから二回か。
ううーん……。敵が一体だけなら試してもいいけど、複数なら普通に戦った方がいいかも……。ボスにも効くならチャレンジするけど。
第一エリアのガイアベアあたりで試してみるか。
ふと横に目をやると、【スターライト】のメイリンさんが洞窟の壁を叩きながら回っていた。向こうでも【六花】の【斥候】であるスミレさんが壁を調べている。あれ? これってばひょっとして……。
「隠し部屋を探してるんですか?」
「あ、シロちゃん。うん、サウザンドウルフとアイススコーピオンの場所にもあったでしょ? あれって初討伐の報酬みたいなんだよ」
そういえばフロストジャイアントの初討伐なのにゴールドチケットとかなかったな。人数が多いからかと思ってたけど。隠し部屋がその代わりなのか?
「たぶんそうだと思うんだけど。だったらここにもあるんじゃないかって……あっ?」
向こうにいたスミレさんの前にあった氷の壁がゴゴゴ……、と音を立てて開いていく。
その音にフロストジャイアントを倒して盛り上がっていたプレイヤーたちの声が消える。
が、すぐにそれは歓声となって洞窟内に響き渡った。
「隠し部屋だ!」
「見て! 宝箱がいっぱいよ!」
「ボーナスステージキタコレ!」
一斉にプレイヤーのみんなが隠し部屋へと雪崩れ込む。
僕らもその部屋を覗いてみると、かなりの数の宝箱が無造作に山となって積まれていた。どうやら生き残ったプレイヤーの数だけあるらしい。前と同じだな。
プレイヤーたちが我先にと宝箱を手に取って開けると、アイテムが飛び出して宝箱が消える。
皆が次々と宝箱を手にしていく中、【スターライト】や【六花】、【月見兎】のみんなは余裕ある目で、一喜一憂するプレイヤーたちを眺めていた。
「選ばないんですか? あ、残り物には福がある、パターンで?」
僕が尋ねるとアレンさんが、ふっ、と笑った。
「いや、速く取ろうが遅く取ろうが、この場合どれを選んでも同じだと思うよ。リアルとは違ってこの瞬間、宝箱の中には何もない。開けたときにランダムで決まるんだから。なにが出るか、結局はリアルラックなわけさ」
「そう。そしてこっちには秘密兵器がある……!」
ふっふっふ、と不敵に笑い、僕の肩を叩くメイリンさん。ちょっと待って、またかよ……!
まだ何人かのプレイヤーがどの宝箱にするか悩んでいる中、みんなはそれぞれ適当に一つずつ選んで、それを僕の前に並べた。
どの宝箱を選ぶのかは重要ではなくて、開けるのが誰かが重要だと言う。
「厳密に言うとシロに開けてもらっても当たり外れがあるんだよな」
「そうですね。自分にピタリと合う物なら『当たり』、ギルドメンバーの誰かに合う物なら『まあまあ当たり』、誰も使えないけど高く売れる物が『ハズレ』ですかね」
【スターライト】のガルガドさんとセイルロットさんが勝手なことをのたまう。高く売れるならいいじゃないか。僕にとっちゃ全部ハズレですけど?
まずはメイリンさんが並んだ宝箱から一つを選び、僕の前に持ってきた。
「じゃあシロちゃん、あたしのから、」
「ちょっと待って下さい。まず、僕のから開けてもいいですか?」
僕の推測でしかないのだが、どうもみんなの宝箱を開けると僕の運が抜けていっているような気がしてならないのだ。
結果、最後に開けると必ず微妙な物が出る。ならば運を吸い取られる前、一番最初に開ければそれなりのものが出るんじゃないかと思ったわけで。
みんなが別に構わないと言うので自分で宝箱を選び、目の前に置く。まあ別にみんなに許可をもらう必要はないんだけれども。
深呼吸をひとつ。
頼むぞ、僕に運があるならば、どうかレアなやつが出てくれ!
願いを託し、宝箱を開ける。
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【ボードゲームセット】 Xランク
■世界的にヒットしたボードゲームの詰め合わせ
絶版作も含む
□収集アイテム/コレクション
品質:F(最高品質フローレス)
【鑑定済】
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……いや、ボードゲームって。ゲームの中でゲームをやってどうする……。
「また微妙なものを……」
「これって当たりなの? ハズレなの?」
「うう〜ん……。Xランクですから、量産品ではないでしょうし、それなりに価値はあるかと……」
後ろからみんなのヒソヒソ声が聞こえてくる。当たりなのかハズレなのか僕にもわからん。少なくとも僕自身があまり嬉しくない以上、ハズレではなかろうかと思う。
うん、今日の僕はツイてないらしい。渇いた笑いを浮かべながら、メイリンさんの差し出してきた宝箱を受け取る。
このまま、ハズレっぽいのが出て宝箱開封業から転職させてもらえるといいんだが……。
ため息をひとつついてメイリンさんの宝箱を開ける。
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【メイルブレイカー】 AAランク
ATK(攻撃力)+189
AGI(敏捷度)+26
DEF(防御力)+35
耐久性 81/81
■貫通力に特化した打撃用ガントレット。
□装備アイテム/籠手
□複数効果なし/
品質:F(最高品質)
■特殊効果:
鎧・盾を装備する相手に対し、攻撃力が1.5倍。
鎧・盾の耐久性を通常時の2倍削ることができる。
【鑑定済】
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「っしゃ────っ! 今日も幸運の白ウサギは絶好調────っ!」
メイリンさんが手に入れたガントレットを高く掲げながら大きく飛び上がった。しかしすぐにそれをセイルロットさんが押さえつける。
「しっ! 大袈裟に喜ばないように! 目立ってシロ君の秘密がバレたらどうするんですか!」
「おっと、いけない、いけない……」
洞窟の隅でひそひそと話し込む二人。別に秘密でもないですけど?
「おいおい、何だこりゃ……! 防具破壊特化かよ……!」
「メイリン、それ付けての【PvP】はお断りだからね……」
ガントレットのステータスにガルガドさんが若干引き、アレンさんが嫌そうに顔を歪める。
防具の耐久性を二倍削るっての何気にエグいな……。鎧と盾に限定されるとはいえ、手数の多い【拳闘士】からそんな攻撃を受けたら、あっという間に装備がボロボロになるんじゃなかろうか。
モンスターにも鎧や盾を装備している輩は多い。デュラハンとかリビングアーマーとか。充分、対モンスターとしても活用できると思う。
「シロ兄ちゃん、次、あたし!」
今度はミウラがにこにこと宝箱を持ってきた。ああ、またこれを繰り返すのか……。
そこから半ばヤケっぱちに僕は宝箱を開け続けた。歓喜する者、微妙な顔をする者と二つに分かれたが、がっかりするような顔はなかった。
みんなが笑顔の中、僕だけがどんよりとしている気がするよ……。
全部の宝箱を開けて黄昏ていると、不意に肩をポンと叩かれた。
振り向くと【雷帝】こと、ユウが宝箱を手にして、なにか期待する目をこちらへと向けている。
「あの……?」
「見てた。ボクのも開けて」
「はい……」
ほら、みんなが騒ぐからバレたじゃないか……。別に宝箱を開けるだけだからいいんだけどさ……。
ユウから宝箱を受け取り、ぱかりと開ける。
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【シルバーフォックスのぬいぐるみ】 Xランク
■シルバーフォックスのぬいぐるみ。
モンスターぬいぐるみシリーズの一つ。
□収集アイテム/コレクション
品質:F(最高品質)
【鑑定済】
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珍しく微妙なのが当たったな……。ブレイドウルフのフィギュアみたいに激レアというわけでもないし、ただのぬいぐるみだ。最高品質ではあるけれども。これはハズレかな……。
「うわあ、うわあ! シルバーフォックスだ! これ、ずっと欲しかったの! ありがとう、お兄さん!」
僕の考えに反して、ユウがいつものローテンションからいきなりのハイテンションに切り替わる。
そういえば前もコボルトのぬいぐるみを渡したら嬉しそうにしてたっけ。
ユウにとってはこれはレアなアイテムだったということか。
そこにレアなアイテムを手にしてホクホク顔のアレンさんがやってくる。
「大変だったけど、これで次のエリアに進めるね」
「【スターライト】はどっちに行くんですか? 【怠惰】の第五エリアか、【嫉妬】の第五エリアか……」
【怠惰】の第五エリアへの門は【エルドラド】が見つけた。そのうち【嫉妬】の第五エリアの門も見つかるだろう。どちらに進むか悩みどころではある。
「それなんだけど、しばらく様子を見ようかって話も出てる。僕としては【怠惰】の第五エリアに一番乗りをしたいところだけど、【嫉妬】の第五エリアもどういうところなのか気になるしね」
うーん、と腕を組んで悩むポーズをするアレンさん。
確かにここからは難しいところだ。当然ながら、【嫉妬】の第五エリアに行けば【嫉妬】の第四エリアをクリアしたプレイヤーたちが、【怠惰】の第五エリアに行けば【暴食】の第四エリアをクリアし、こちらにやってきたプレイヤーとかち合う。
さらに攻略が進めば全ての領国のプレイヤーたちが自由に行き来できるようになるだろう。第五エリアにはそれぞれ隣の領国の第四エリアと繋がっているのだから。
そろそろ【セーレの翼】のランダム転移による恩恵も無くなってくるな。ま、いずれこうなることはわかっていたけどさ。
【月見兎】はどうするかねえ。そろそろ話し合いをしないといけないかもな。
僕としては他の領国にいくよりは、このまま【怠惰】の第五エリアへと進みたいところだが。
僕には【セーレの翼】があったので、そこまで他の領国に興味が湧かないってのもあるんだけども。
まだ【嫉妬】の第五エリアに繋がる門も見つかっていないし、それが見つかってからでもいいかなとも思う。
一番乗りはちょっとしたいかもだけれども、ここにいるプレイヤーたちのうち、明日、いや、今日にでも【怠惰】の第五エリアへ向かうパーティもいるんじゃないかな。それに張り合ってもなあ……。一番乗りしたところで特典や報酬はないし。
どちらかと言うと一番乗りは初見殺しにあう、みたいなところがあるしね。
アレンさんたちも第四エリアに来た時は極寒のエリアだとは思わなかったから、一旦逃げ帰ったらしいし。
僕の【セーレの翼】でも【怠惰】エリアに転移することってあんまりないんだよね。そういう仕様なのかもしれないけどさ。
なので【怠惰】の第五エリアがどういうところなのか予想もつかない。
極寒エリアの次は灼熱エリアに決まってる、なんてネットの噂もあるけど、どうなんだろう?
◇ ◇ ◇
「それでは、レイドボスの討伐成功を祝って────」
『かんぱーい!』
レイド戦リーダーだったアレンさんの音頭でみんながグラスを打ち鳴らす。
ここは第三エリア、湾岸都市フレデリカにある【スターライト】の本拠地である。
実は初めて来たんだけど、【スターライト】の本拠地はとんでもないお屋敷だった。
広い庭にでかい屋敷。一体いくらつぎ込んだんだろう。いいなあ、すごいや。
そんな話を【スターライト】のみんなに話したら全員に微妙な目を向けられた。
「島一つ手に入れた人に言われてもねぇ……」
メイリンさんにそんな風に返された。そういやそうか……。
でも【星降る島】は土地を購入したわけじゃなく、ミヤビさんから借りたものだからなあ。厳密に言うと【月見兎】のものではない。
ミヤビさんの妹のミヤコさんなんかは、城を一つ持ってるしな……。あれって運営から【銀河帝国】関連への忖度なのかね?
ちなみにミヤコさんはこの打ち上げパーティーには不参加だ。さすがに人見知りにはキツいらしい。同じ理由で【ゾディアック】のピスケさんも辞退している。
【雷帝】ことユウも面倒くさいと不参加。そして【月見兎】のお嬢様方とその保護者のウェンディさんも不参加。飲み会みたいになるだろうから、教育上よろしくないということで。
騒ぎたいミウラは『ちぇー』と、不満そうに漏らしていたが。
他のギルド、【六花】、【カクテル】、【ザナドゥ】、【ゾディアック】、そして参加したソロプレイヤーたちは賑やかに騒いでいる。
第四エリアのレイドボスを初討伐したんだから無理もない。生き残った全員に【巨人殺し】って称号がついたしね。
残念ながら死に戻ったプレイヤーには鍵は手に入らなかった。しかしパーティを組んでいるならそのギルドと一緒に行けば問題ない。
問題なのはソロで参加して死に戻ったプレイヤーたちだ。彼らはまたフロストジャイアント戦に挑まねばならない。
まあ一度戦っているので、次は死なないように立ち回れると思う。スキルやアイテムも何が必要なのかわかるしな。
やはりあのフロストジャイアント戦は、ギルドメインのレイドボス戦なんだなと思う。
「おっ、シロちゃん! おつかれ! おつかれやで!」
僕がジュース片手に壁の花になっていると酔ったような感じでトーラスさんが話しかけてきた。どうやら【ほろ酔い】スキルをセットしているようだ。
会場の隅では【カクテル】のダイキリさんが即席のバーカウンターを作って酒を振る舞っている。
【カクテル】の本拠地はバーだからお手の物だよな。
酔うことのできる【ほろ酔い】スキルはそれなりに流通しているので取得しているプレイヤーは多い。ま、二十歳未満の僕らは入手できないけどね。こういった場では必須のスキルなのだろう。
「最後のシロちゃん、カッコ良かったで! フロストジャイアントの斧を粉々にした時! ようやったなぁ」
「いや、あれは一か八かの賭けでしたよ。うまくいってよかったです」
実際あれが決まらなかったら間違いなく死に戻っていた。いけるという根拠のない直感はあったような気もするけど。
「またこれで注目されるんやないか? すっかり有名プレイヤーの仲間入りやな」
「そっちはあんまり嬉しくないんですけどね……」
今回のレイドボス討伐も、参加したプレイヤーの誰かによって動画がアップされるだろう。
これらは後に続く他のプレイヤーの参考にもなるため、秘匿されるということはあまりない。
自分以外のプレイヤーには目線やらモザイクやらの加工をしなければならないが、特定するのはそれほど難しくはないのだ。特に量産品ではない、Xランクの装備をしてたりすると。
変なプレイヤーに絡まれる前に、第五エリアに行ってしまうってのもありなんだが。
さてどうするか……。
【DWO無関係 ちょこっと解説】
■ボードゲームについて
ボードゲームの歴史は古く、紀元前3000年以前のエジプトまで遡る。なろうでよく転生主人公に作られる『オセロ』、『リバーシ』もボードゲームのひとつである。『オセロ』が商標登録されているため、『リバーシ』という名で他社が類似品を出した……つまり『オセロ』が先、と思われているが実は逆で、『リバーシ』というゲームがもともと19世紀のイギリスに存在していた。つまり『リバーシ』が先であり、それを元にルールを細かく決めたものが『オセロ』なのである。『リバーシ』と『オセロ』は名前が違うだけの同じゲームと思われがちだが、本来はルールが違う別物のゲームである。




