■012 新たなる武器
「【スラッシュ】!」
「ギュアッ!」
短い断末魔の悲鳴を上げてフォレストスパイダー、通称・森蜘蛛が光の粒となって消える。
とうとう【短剣の心得】の熟練度が10%になって、戦技を覚えたのだ。どうやら刃系の最初の戦技は全て【スラッシュ】のようだった。
これによりだいぶ狩りが楽になってきた。レベルも8になったし。
「やりましたね、シロさん」
「お見事です」
森をかき分けてレンとウェンディさんがやってくる。
「『蜘蛛の白糸』がドロップしたけど、いる?」
「はい。じゃあいつもの金額で」
トレードウィンドウを開き、レンに『蜘蛛の白糸』を売却する。レンは【裁縫】と【機織】のスキルを持っていて、そちらの方も伸ばそうとしている。
それらのドロップ品は僕は必要ないので、全部レンに売っているわけだ。
「しかしそんなに糸が必要なのか。衣料系の生産スキルも大変だな」
「ちゃんと生産しようとしたら、素材はいくらあっても困りませんからね。上質な素材で作れば技術経験値も熟練度も上がりますし」
なるほど。じゃあ僕も【調合】の熟練度を上げるためには、『ハイポーション』とかにチャレンジした方がいいのかな? ……いや、普通のポーションでさえも成功率が低いのに、ハイポーションなんか成功しそうもないよな……。まずはポーションを確実に作れるようにならないと。
ピロリン、とメールの着信音が届く。開いてみると、リンカさんからだった。
『完成。受け取りに来られたし』
なんとも簡潔なメールだな……。らしいっちゃらしいが。
「どうしました?」
「頼んでおいた武器ができたみたい。受け取りに来いって」
「ああ、例の。お知り合いになったっていう鍛冶師の方からですか?」
「うん。二人も来ないか? 紹介しときたいし」
特にウェンディさんは鎧や盾が必要なスキル構成だ。鍛冶師であるリンカさんには何かとお世話になると思う。
二人を連れてフライハイトへと戻り、町の共同工房へと向かう。
「どうも、リンカさん」
「ん。よく来た」
リンカさんのいた個別炉の前には先客が来ていた。全身鎧の騎士様だ。
「アレンさんも来てたんですね」
「ああ、リンカからメールを貰ってね。飛んできたよ。そちらの二人は?」
「パーティを組んでいるレンとウェンディさんです。二人とも、こちらがアレンさんで、こちらがリンカさん」
お互いに自己紹介が終わると、さっそくリンカさんが、自分のインベントリから例の鉱石で作った新しい作品を取り出した。
「まずはアレンの剣と鎧、あと盾。『輝剣ハレリオン』と『ガレリアスメイル』『ハインシールド』」
「これは……すごいね」
「自信作」
アレンさんの言葉にフンスと胸を張るリンカさん。取り出したその装備は、いかにも正統な騎士の装備と言わんばかりに白銀に煌き、輝いている。いま装備している鎧や剣も立派なものだが、それよりも一段階グレードが高いのは素人の僕にもわかった。
武器防具にも『慣れ』という隠しパラメータがあるらしく、慣れていない武器とかだとあまりスキルの熟練度が上がらなかったりするそうだ。
新品でも馴染んでいけば上がりやすくなっていくが、使い慣れた武器の方がクリティカルヒットが出やすいとかいう噂もある。
そういったことを考えると、新しい武器防具にするタイミングってのは難しいな。
「で、こっちがシロちゃんの双剣。双雷剣『紫電一閃』と『電光石火』」
「片刃の剣なんですね」
その名前から匕首のような短刀を想像したが、分厚い刀身とその形状はやはり短剣のそれであった。幅広で反りが入った二振りの片刃の短剣は、滑らかなフォルムを描きつつも、重厚な力強さを感じる。刃の根元には雷を表すかのような意匠が施されていた。
手にしてみると、思ったほど重くない。ククリナイフと同じ……いや、僅かに軽いくらいだ。
【鑑定】してみたが、やはり「unknown」となり失敗する。そこでリンカさんにこの武器を【鑑定】してもらい、『鑑定済』としてもらった。
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【双雷剣・紫電一閃】 Xランク
ATK(攻撃力)+58
耐久性18/18
■雷の力を宿した片刃の短剣。
□装備アイテム/短剣
□複数効果あり/二本まで
品質:S(標準品質)
■特殊効果:
5%の確率で雷撃による麻痺効果。
【鑑定済】
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【双雷剣・電光石火】 Xランク
ATK(攻撃力)+58
耐久性18/18
■雷の力を宿した片刃の短剣。
□装備アイテム/短剣
□複数効果あり/二本まで
品質:S(標準品質)
■特殊効果:
5%の確率で雷撃による麻痺効果。
【鑑定済】
──────────────────
なんか麻痺の効果とか付いてる!? これがリンカさんがサービスで付けてくれた付与宝珠の特殊効果なんだろう。
「『X』ランクってどういうことですか? 低いってわけじゃないですよね?」
「プレイヤーがオリジナルで作ったアイテムなんかはランク対象外とされて『Xランク』になる。ある意味ワンオフ物のレアアイテム」
リンカさんオリジナルの武器か……今使ってるのFランクなんだけど。身分不相応な武器だぞ、これ……。
「それで、おいくらですか?」
「二本セットで42000G。次も素材持ち込みならその分は安くする」
今回は鉱石をきちんと買い取ってもらってからの製作依頼だからな。その分高いのは仕方ない。次もまた鉱石を持ち込み、その分を製作料から差し引いて作ってくれるなら安くすむか。
まあ、しばらくはこれで持つと思うけど。
僕はリンカさんに代金を払い、双雷剣「紫電一閃」と「電光石火」を手に入れた。
さっそく装備してみる。うん、悪くない。
横を見てみると、アレンさんも買った剣と盾、そして鎧を満足そうに装備していた。ぬう。一段とカッコ良くなったなあ。ウラヤマスイ……。
「この装備なら第二エリアのボスを倒せるかもしれない。第三の町へ行けるかもね」
「エリアボスってのを倒さないと次のエリアに行けないんですよね?」
「そうだよ。ここ【怠惰】の領国における第一のエリアボスはここから南東にある洞窟にいる『ガイアベア』だ。そいつを倒すと第二エリアの町、【ブルーメン】に行けるようになる。僕らは次の第三エリアに行くために、第二エリアのボス『ブレイドウルフ』を倒そうとしてるんだよ。一回挑んで負けているけどね」
アレンさんたちでも負けたのか……。どんだけ強いんだよ、そのブレイドウルフってのは……。
「アレンさんは攻略組なのですね」
「アレンは『怠惰』ではトッププレイヤーの一人。第一のエリアボスを最初に倒したのもアレンのパーティ」
ウェンディさんの声に答えたのは、なぜかリンカさんだった。なるほど、どうりで強いわけだ。
「私たちも第一エリアのボスを倒して、早く第二の町へ行きたいですねっ」
レンが握り拳を両手で作って、むんっ、と決意を表明する。微笑ましい姿に和んだ雰囲気の中、アレンさんが第一エリアのボスについて教えてくれた。
「『ガイアベア』はパーティ次第だけど、だいたい目安としてはレベル12、3くらいで倒せるかな? あいつは一撃が重いけど、動きは見極めやすい。盾役がしっかりしていれば、大丈夫なはずだよ」
それを聞き、ウェンディさんがこくりと頷く。ウェンディさんはレベル11、レンは10、そして僕は8。あと少しで射程圏内かな。レベルが高い=強い、じゃないけど、こういう時は目安になる。
そう言えば、アレンさんのパーティメンバーであるジェシカさんが、ソロモンスキルを手に入れたのは第一エリアのボスだって言ってたな。
やはりボスだけあって、いいものがドロップするのかね。
「失礼ですが、リンカさん。私にアレンさんのような鎧と盾、できれば剣も作ってもらうことは可能ですか?」
ウェンディさんがリンカさんにそう話しかけると、リンカさんは首を小さく横に振った。
「素材である鉱石がもう無い。不可能」
「素材があれば?」
「こっちは熟練度と技術経験値が大幅に上がるし、ありがたく作らせてもらう。素材があれば」
あ、この流れは。二人の視線がこちらに向く。ぬぬぬ、知り合いじゃなかったら断るんだけどなあ。
「……わかりました。取ってきますよ。こっちにも大きなメリットはありますし」
「お願いします。お金はきちんと払いますので」
ウェンディさんからお金を取るのは気が引けたが、こういうことはちゃんとしといた方がいいと言われた。まあ、そうか。
この際だから【隠密】【採掘】【気配察知】の熟練度上げに精を出すか。あの赤牛に見つからないように、こっそりと隠れて採掘しまくってやる!
……なんか違うゲームをやっている気がしてきた。
新しい武器を買ったのに、それを使うこともできず、ひたすら採掘、採掘、身を隠す。躱して逃げて、躱して逃げて、採掘、採掘、身を隠す。
「なんか熟練度が偏ってきたな……。明らかにこれって犯罪者向けの育ち方じゃないのか? 称号も『逃げ回る者』とかになってるし」
幸い称号は付け替えることができるので、最初の『駆け出しの若者』に替えておく。『逃げ回る者』じゃ、賞金首みたいじゃないか。
このゲームには賞金首がいる。つまり重い犯罪を行ったプレイヤーだ。もちろんNPCにも賞金首はいるが。
ゲームでも無銭飲食や強盗、殺人などを行えば罪になる。罪を重ねていけば、やがて賞金首となり、様々なペナルティを受けることになるのだ。
そんな奴らと一緒にしてもらいたくはないからな。
ちなみにDWOではプレイヤーがプレイヤーを殺す、いわゆるPKと呼ばれる行為は、やっても旨味がなく、ペナルティもかなり重いため、あまりする者たちはいない。それでも一部の者たちは好んでそういったプレイをしているようだが。
それと13歳以下のプレイヤーにはPKできないので、僕らのパーティだとレンは被害を受けることはない。
個人同士で戦える【PvP】という決闘システムもあるが、そちらなら相手を殺してもペナルティを受けないように設定できるらしい。逆にペナルティを重くすることもできるようだが。
さて、そんな犯罪者チックな能力を活かして鉱石を掘っていたら、かなりの量になった。これだけあれば充分だろう。
そろそろ帰ろうとポータルエリアへ向かって警戒しながら進んでいると、ふと、地面に妙な物が落ちていることに気付いた。これはなんだ? 白くて太い、骨のような……って骨だろ、これは。
注意深く見てみると岩陰に骨が散らばっていて、中には露骨な頭蓋骨まであった。露骨な頭蓋骨って変な表現だな……。
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【ブラッドホーンの骨】 Cランク
■unknown
□??アイテム/素材
品質:LQ(低品質)
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【鑑定】してみたが、やはり詳細は「unknown」のままだ。【鑑定】の熟練度を上げるには、いろんな物を鑑定する必要があるってリンカさんが言ってたなあ。
あと、知識系のスキルがあると成功しやすいとか。【鉱物学】とか【植物学】とかだな。この場合、【魔獣学】があれば鑑定できたのかもしれない。
ま、とにかく拾っておこう。何かの素材になるかもしれないし。っていうか、これ、絶対あの赤牛の骨だろ。あいつ「ブラッドホーン」っていうのか。今までずっとモンスター名を見損なってたからなあ。
持ち帰った骨はトーラスさんが買い取ってくれた。なんでも加工して鏃に使うらしい。
なるほどなあ。いろんな使い道があるもんだ。
【DWO ちょこっと解説】
■年齢制限について
VRドライブに登録された13歳未満のプレイヤーには様々な制限がつく。飲酒、喫煙の禁止(これは20未満のプレイヤーも同じだが)、残酷描写の軽減、PK不可、等々。
また、13歳以下のプレイヤーがDMOをプレイするには20歳以上の保護者による同伴が必要になる。20歳以上の保護者一人につき、13歳以下三人まで登録できる。
DWOのプレイヤー登録は10歳からである。