■114 いろんな事情
■『VRMMOはウサギマフラーとともに。』1巻、本日発売です。
『異世界はスマートフォンとともに。』19巻も同時発売です。よろしくお願い致します。
「きいぃぃっ! なんで私が総合5位なのよ! あんなにいっぱいサハギン倒したのにっ!」
地団駄を踏んで悔しがるゴールディ。なんだろう、ここまで露骨に悔しがられると、いっそ清々しいな。芸能人ってオーバーリアクションの人が多いっていうけど本当なんだな。
「嬢ちゃん、サハギンキング討伐にはあまり関わってへんやろ? それでやないか?」
こういったイベントだと、ボス相手に与えたダメージが高いと貢献度が上がるが、それ以外にも貢献度の高い行動はいくらでもある。例えば住民の避難誘導とかな。総合貢献度とはそれらも含めた順位なのだ。
噂に過ぎないが、総合被害度というものもあって、町を壊したり、不用意に住民を傷つけたりすると貢献度と相殺されるとかいう話もある。
「サハギンキングになら私だって【トールハンマー】を一発かましたわよ!」
「ああ、あの僕が吹っ飛ばされた、アレか。酷い目にあったけど、あれは助かった。ありがとうな」
「なっ!? べ、別にあんたが危なそうだからやったわけじゃないから! ぐ、偶然だから! 勘違いしないでよねっ!」
「……なんやこのツンデレ」
トーラスさんが珍獣を見るような目でゴールディを眺める。いやいや、ツンデレか? ツンツンしっぱなしだけども。
「だっ、誰がツンデレよ! 別にこいつなんか意識してないわよ! バッカじゃないの! バッカじゃないの!」
「せやけど、顔が真っ赤やで? VRでもここまで赤くなるんやなあ~」
「赤くない!」
と、ゴールディが叫ぶが確かに真っ赤だ。というかこれは怒って真っ赤になってるのでは? その後もトーラスさんがからかうものだから、ゴールディは本気でイライラしてきたようだ。
「もういいわ! 今日のところはこれくらいにしといてあげる! じゃあねっ!」
「うん、またな」
「…………ふんっ!」
ぷりぷり怒りながらゴールディは行ってしまった。なんなんだろ、あの子……。根っから悪い子じゃあないような気もするが。
「オモロい嬢ちゃんやな。アレがイジられキャラってやつかいな」
「あんまりからかうのはよした方がいいですよ。親衛隊みたいな奴らがいるから」
後半、わかっててからかってたろ、トーラスさん。
結局、ユウ以外のみんなは間に合わなかったなあ。用事があったり、遠かったり、向こうも戦闘中だったりするからな。
さて、新たな戦技『夜兎鋏』を試してみたいが、こればっかりはPvPで試すのもな。相手の武器を破壊してしまうわけだし。
リンカさんあたりに安い武器を売ってもらって試してみるか。
ユウとトーラスさんの二人と別れてポータルエリアから僕らのギルドホーム『星降る島』へと転移する。
「えーっと……あれ? 誰もいないのか」
ログインリストを見ると、何人かログインしているようだが、『星降る島』にはいない。
みんなで狩りにでも行っているのかなと思ったが、みんなバラバラのところだな。レンとウェンディさん、ミウラとシズカは一緒のとこみたいだけど。
『DWO』では相手が通知をオンにしていれば、他のギルドメンバーがどこにいるかわかるようになっている。レンとウェンディさんは第二エリアの町・ブルーメンに、ミウラとシズカは第三エリアの平原にいる。リンカさんは第三エリアの共同工房にいるな。リゼルはログインしてないみたいだ。
「スノウもいないのか。レンたちに付いて行ったのかな」
うーむ、どうするか。たまには僕もソロで狩りにいくか、あるいは少なくなってきたポーション作りに勤しむか。
あ、そうだ。『奥義書』ですっかり忘れてたけど、貢献度二位の褒賞として、ゴールドチケット二枚ももらったんだった。
ゴールドならガチャを六回引ける。今なら周りに誰もいないし、僕の運を吸収されることもないのでは?
「よし、やってやるか!」
ビリッ、とゴールドチケットを千切ると、いつものごとくデモ子さんがギルドホームの中庭にポンッ、と現れた。
『チケットをお使いいただきありがとうですの! さあ、【アイテム】【武器・防具】【スキル】のうち、どれかを選んで下さいですの!』
うむむ、どれにすべきか。【武器・防具】も【スキル】も、使えないものが当たる可能性が高いからなぁ……。斧とか金属鎧とか当たってもな。売るしかなくなる。まだスキルの方がマシだけど、それも魔法とか当たっても僕には必要ないし。
「よし、じゃあ【アイテム】で」
『了解ですの! 【アイテム】ガチャ、しょ~か~ん!』
目の前に巨大なカプセルトイの機械が現れる。ハンドルを握り、祈りを込めて僕はそれをガチャリ、ガチャリと一回転させた。
取り出し口からコロンと大きなカプセルが転がってきて、パカッと自動で開く。頼む……! レアなアイテムを……!
【最高級ベッド】 AAランク
■職人がこだわり抜いて作り上げた至高の逸品。
□家具アイテム/ベッド
品質:F(最高品質)
「違う……。違う違う、そうじゃ……そうじゃない……」
確かに激レアだけれども。AAランクの家具なんて初めて見るし。
けれど僕が欲しかったのはこーいうのじゃなくてさぁ……。
ま、まだ五回ある。いざ、ネクストチャレンジ!
ガチャガチャリ。コロン。
【ロッキングチェア】 Aランク
■身体の負担が少ない優美な揺り椅子。
□家具アイテム/椅子
品質:F(最高品質)
ガチャリ、ガチャリ。コロン。
【ウォールナットキャビネット】 Aランク
■ウォールナットを用いた木目の美しい高級棚。
□家具アイテム/棚
品質:F(最高品質)
ガチャ……リ、ガチャリ。コロン。
【高級デスク】 Aランク
■機能性の高い高級机。
□家具アイテム/机
品質:F(最高品質)
ガチャ……リ、ガチャ……リ。コロン……。
【ムーンライトスタンド】 Aランク
■月の形をした球体スタンドランプ。
□家具アイテム/ランプ
品質:F(最高品質)
なぜだ……。なぜ家具しか出ない!? 全部Aランク以上で最高品質だけれども! そうじゃないだろ!
これは運がいいのか、悪いのか? 全部置いたら部屋のグレードは上がりそうだけれどさぁ!
ラスト一回。全ての運をかけて僕はハンドルを握る。頼む。頼むよ、ゲームの神様。
ガチャガチャリ。
「あ、シロさん! ただいまです!」
「え?」
僕がちょうどハンドルを回したタイミングで、中庭にあるポータルエリアからレンとウェンディさんが現れた。
コロン、とカプセルが落ちる。
【動物ぬいぐるみ(特大)】 Aランク
■超ビッグサイズのぬいぐるみ。種類は選択可能。
□人形/ぬいぐるみ
品質:F(最高品質)
……家具じゃない、けど。これってレンの欲しいアイテムじゃないの? ……また吸収された? おい、ゲームの神様、どういうことだよ。一度、腹を割って話そう。
「あ、ガチャやってたんですか? なにかいいもの当たりました?」
レンがそう尋ねてくるが、僕は無言で当たったぬいぐるみをうさぎのやつに変えてインベントリから取り出した。耳まで入れれば僕の身長よりデカい白うさぎのぬいぐるみだ。
「わ! かわいい!」
「……あげる」
「え!? いいんですか!? わあ! ありがとうございます!」
地面に座る巨大なぬいぐるみに満面の笑みを浮かべたレンが抱きつく。もふっ、と白い毛の中に小さな身体が埋まった。
「よかったですね、お嬢様」
「大切にします!」
喜んでくれてなによりだ。……うん。悔いはない。ないったらない。
僕はギルドホーム内の自室に戻り、手に入れた家具をインベントリから取り出して、部屋に配置した。おお、ゴージャス。殺風景な部屋がオシャレな部屋に早変わりだ。
そのまま最高級ベッドに倒れ込み、今日はもうログアウトすることにした。
あー、ふかふか。確かにこれは最高級のベッドだ。なんか悔しいけど。
くそう。なんで家具ばっかりでるかなぁ……。
僕はフテ寝するようにそのままログアウトした。
◇ ◇ ◇
「オムライスです!」
「オムライスなの!」
テーブルに並べたオムライスに二人が色めき立つ。こういうところは年相応に見えるんだがな。
「食べる前に手を洗ってきなさい」
「「はーい!」」
元気よくノドカとマドカが洗面所へと駆けていく。その間に僕はスプーンとケチャップを二つずつ用意して同じくテーブルの上に置いた。二人はオムライスにケチャップで絵を描きたがるのだ。
やがて洗面所から慌ただしく戻ってきたノドカとマドカがケチャップを取り、それぞれのオムライスにうにうにと絵を描き始めた。なんか歪んでいるが、猫と犬の絵を……犬、だよな? なんか異様に舌が長いけど……。
「それ、なんて動物?」
「ティンダロスの犬です!」
ティンダロス? 聞いたことのない名前だが、犬の種類か?
「ミヤビ様が滅ぼした星の犬です! 昔、ちょっとだけ飼ってたです!」
「ああ、そう……」
まともな犬じゃなかった。あえて深くは聞くまい。その気になったら数秒で地球を焦土と化すことができる人が飼ってた犬など、普通なわけがない。
ふとテレビを見ると、なにかの歌番組がやっていた。知らない男性グループが歌い終わり、ステージから去る。
最近忙し過ぎてテレビもろくに見ないから、新人の歌手とかよくわからないよな。流行曲は移り変わりが早いしさ。どれもこれも同じ歌に聞こえたりするし。
まあいいや。僕は自分のオムライスにケチャップをかけて食べ始めた。うん、美味い。
『次は金城つきひさんの新曲「プリズマレインボウ」です』
「え?」
聞き覚えのある名前に視線をテレビに向けると、いかにもアイドルといった、フリルのついた制服のような衣装に身を包んだ小柄な少女が歌っていた。
髪色は黒だが、姿はゴールディそのままだった。あいつ容姿いじってないのか。大丈夫なのか? 『DWO』内でのストーカーとか。
『DWO』でもセクハラやストーカー行為は、一発でアカウント停止事項だしな。
複アカウントを作れない『DWO』において、アカウント停止とは二度とゲームをすることができないということだ。
また、個人での虹彩情報登録がされているため、そういったことをしでかした奴のデータは記録として残る。その気になれば訴えることもできるし、ゲーム会社の方でも要注意人物として今後規制を厳しくする可能性だってあるのだ。
そこまでしてストーカーをする奴の気持ちがよくわからん。他人に迷惑かけんなって話だよな。
歌い終わるとぺこりと頭を小さく下げるゴールディ……いや金城つきひ。そのままテレビはCMに入った。
よくわからないけど、まあ悪くない歌だったかな。今度会ったら感想のひとつでも言おうか。
「ごちそうさまです!」
「ごちそうさまなの!」
「相変わらず食べるの早いな!?」
僕はまだ半分も食べてないのに。胃袋にブラックホールとか入ってないよな?
「デザートはないです?」
「デザートはないの?」
「あのな……」
毎回毎回デザートがあると思うなよ? あるけども……。
二人の食費という名目でミヤビさんからお金をもらっているからなあ。どっちかというと、僕が二人のおこぼれをもらっている気になってしまう。
冷蔵庫からよく冷えた梨を二つ取り出して、果物ナイフで皮を剥き、食べやすいように小さくカットしていく。最後に爪楊枝を二つプスリ、と。
「シャリシャリです!」
「甘々なの!」
ぱくぱくと梨を平らげていく二人。そりゃよかったね。
「そういや二人は今日『DWO』でなにしてたんだ?」
「ノドカたちは『天社』に来たお客さんのお世話をしてたです!」
「お菓子とかお茶とか出してたの!」
え? それってプレイヤーか? ミヤビさんのいる『天社』はシークレットエリアだ。プレイヤーが入ることはほぼ不可能だと聞いていたけど、誰か僕みたいに【セーレの翼】を手に入れたプレイヤーが迷い込んだとか?
「違うです。『れんごー』と『どうめー』の人です」
梨をシャリシャリと食べながらノドカが教えてくれた。れんごーとどうめー……ああ、『連合』と『同盟』か。
惑星連合と宇宙同盟。これにミヤビさんの属する……というか統治する、銀河帝国がこの地球を含む宇宙域における三大勢力なんだとか。
つまりはお偉いさんたちで話し合いをしていた……ということなのだろうか?
「向こうは別にそんなに偉くはないのです。『監視者』の人たちですから。『監視者』は地球に住んでるから、ミヤビ様が聞きたいことがあったです」
げ。『監視者』って地球に住んでいるのかよ。なら、僕らにオルトロスをけしかけた、あのサラとかいう嫌味な天使も地球で暮らしているのか? んもー、宇宙人来まくりじゃないか。地球防衛軍とかないのかね?
僕もオムライスを食べ終えて、シャリシャリと梨を食べながらそんなことを考えていた。
「地球は本当に大丈夫なんだろうか……」
「この星はミヤビ様が気に入っているからたぶん大丈夫なのです」
「大丈夫なの」
それって気に入ってなかったら消滅させられてたってこと? 想像するだけで怖いんですけど。
「昔、ミヤビ様はこの星でちょっとだけ暮らしていたことがあるそうです。だから気に入っているんです」
ふうん。どうりでウィスキーとか、地球の嗜好品に詳しいと思った。住んでたことがあるなら納得だ。
というか、よく滅びなかったよな、地球……。一触即発の爆弾を抱え込むようなもんだろうに。
まあ、銀河最強(凶?)の女皇帝が気に入ってくれているのなら、他の宇宙人もおいそれとは手を出せまい。その点は助かっているのか。まさか『気に入ったから征服じゃー!』なんてことにならないよな?
すでに地球はかなり危ない状況になっているのではないだろうか。
いや危ないもなにも、地球の科学力じゃどうせ太刀打ちできないのか。
「ノドカたちも地球の食べ物は美味しいから気に入っているです」
「他の惑星の食べ物は合わないの。うにゅ〜ってなるの」
なんでもミヤビさんの支配する惑星は、ゲル状の食べ物か、錠剤のようなカプセル、あるいは生のまま、という食事形態が多いのだそうだ。
まあ、その星によって食べるものは変わってくるだろうけど、ちょっとそれは地球人には厳しいかなあ。
リーゼの所属する惑星連合などでは比較的まともな食事か多いらしい。しかしフードディスペンサーなる分子を材料に食べ物をコピーするもので作られるため、味気ないものであるとか。
寸分違わぬ全く同じものができるため、例えば焼き魚ならいつも同じ味、形、色、焦げ具合のものを食べることになる。少し甘い、とか、少し苦い、などの曖昧さはない。全く同じ味なのだ。故に飽きるのも早いという。
ご飯なども少し硬い、少し柔らかいなどがなく、いつも同じ硬さのものばかりなんだろうか。便利なような、確かに味気ないような……。ファジィ機能はないのかね?
「ミヤコちゃんも地球の食べ物が好きって言ってましたです」
「そういえばミヤコさんも宇宙人なんだな。……ひょっとしてミヤコさんも強い?」
僕は闘技場で出会った猫の【獣人族】であるミヤコさんを思い出した。リーゼ曰く、『伝説の暴君』と呼ばれるほどのミヤビさんの妹さんだ。こっちもリアルでとんでもない強さな気がする。
「ミヤコちゃんはあんまり人前に出たがらないので、よく単独で惑星を制圧してます」
「単独で制圧ね……」
想像以上にお強いらしい。というか、ミヤビさんとかミヤコさんとかがいる帝国に、他の二大勢力はどうやって対抗しているんだろうか。科学力がとてつもないとか? 同盟はロボットとか使ってたしな。
そういやこの子らも実はすごく強いんだよな……。まったくそうは見えないんだけども。
「ごちそうさまです!」
「ごちそうさまなの!」
僕の考えを打ち切るように、梨を食べ終えたノドカとマドカが元気に手を合わせる。地球の習慣にも慣れてきたようだ。
まあ、考えたって仕方がない。僕にどうこうできるものでもないし。
僕はそう結論付けて、食べ終えた皿の後片付けを始めた。
◇ ◇ ◇
「ふむ……。無駄骨か」
バサッと無造作にテーブルの上に集められた資料を投げ捨てる女皇帝。
それを側に控えていた老齢の男が拾い集めて手の中で一瞬にして灰にする。灰は塵と化し、全てこの世から消え失せた。
「万が一ということもあるゆえ、探させてみたがやはり見つからんか」
帝国の女皇帝は眼前に広がる星の海を眺めながら、酒が注がれたグラスを傾ける。
この酒は白兎の家から強引にせしめたものだったが、なかなかに気に入っていた。
「なぜ地球人はこうも短命なのかの。生まれたと思ったら、あっという間に死んでいく……。何かを為す暇もないじゃろうに」
「短命だからこそ輝くものもありますれば」
「ふん……。あいつもそんなことを抜かしておったの。まったく腹の立つ。自分勝手な奴じゃ。残されたわらわの気持ちも知らんで……」
くいっと不満げに女皇帝はグラスを煽る。
「じい。引き続き探索を続けよ。必ずこの星にあるはずじゃ。草の根分けても探し出せ」
「御意」
老齢の男は霧散するようにその場から消えた。部屋には狐耳の女皇帝一人が残される。
星の海をいく戦闘母艦の、一番眺めのいいその部屋からは、青い星が一際大きく輝いて見えた。
「ふん……。わらわは約束通り帰ってきたぞ。千年くらい待てなんだか、馬鹿者め」
誰に言うでもなく、女皇帝の口からそんな呟きが漏れた。
【DWO無関係 ちょこっと解説】
■ティンダロスの犬について
正しくは『ティンダロスの猟犬』。作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが生み出したクトゥルフ神話における一作品に登場する生物。長く鋭く伸びた針のような舌を持ち、執念深く、獲物を知覚すると時間と次元を超えてどこまでも追いかけるという不浄の存在。犬とは全く違う生物。銀河帝国の女皇帝が嫌になるほど、とても臭い。